防御側から転じて侵略側へ、カプレンの勝利で公国軍は、周辺の治安維持及びリュクサンジュール候側の村落統治のためにナチス軍事顧問団300を残して、リュクサンジュール候領領都マルロンへ進軍を決定。さらに、リュクサンジュール候ルロンとその妻子の身柄を抑えるために、航空魔導士部隊を先行させた。公国軍とナチス軍事顧問団の地上戦力は増援部隊との合流のために一時待機となった。
少しでも早く進軍したいリクセンブルク公爵フィアリアは、周囲の村々に臨時徴兵を掛けた。
周囲の村々からは、徴兵された妖精たちと、少数の人間たち。そして、もう一種類、私達妖精族より一回り小さい50~80サント、緑色の肌に醜い容姿。簡素な革もしくは麻布の衣服を着込み、布の袋が腰に下げられている。広義においてゴブリンと呼ばれるこの種族は一般的に繁殖力が高く、人間を襲う邪悪な小鬼と言う認識が広く知られている。人間の認識はこのようなものである。
しかし、私達妖精は彼らに対してはかなり掘り下げた認識を持っている。なにせ、彼らは私たち妖精の奉仕種族なのだ。人間の想像通りの野蛮なゴブリンは、ゴブリンと総じて呼称している。そこまでは人間と一緒である。ただ、リクセンブルク公国のゴブリンはホブゴブリンと呼ばれる家畜化したゴブリンなのである。家畜化し従順なホブゴブリンは、ゴブリンより若干知能が高く、簡単な計算なら出来て店番程度なら可能。国内の重要な労働力となっていた。
そんな彼らは、簡素なレザーアーマーやチェインメイルを着込み槍や剣、もしくは弓を持って徴兵士官や貴族領の士官妖精達に命令されて隊列を組んでいる。
「旅次行軍隊列!組め!!」
ちなみに、私達妖精の容姿は幼いよりの美少女美少年、身長は80~120サント。貴族階級者は絹の服、平民階級は木綿の服を主として、一部が毛織物の服を着ている。これは普段着の話で、今は別の服装をしている。
公国直轄軍は近代化が進んでいるので、兵卒はナチスの武装親衛隊に影響を受けたケピ帽に規格野戦帽や略式野戦帽にシュタームヘルム。服装はナチス武装親衛隊の支給野戦服を見本に作られたオリーブグレイの野戦服。前線士官はオリーブグレイの制帽を被っている。
騎乗兵はこれに加えて、オリーブグレイのオーバーコートを着用し、戦帽の選択肢にピッケルハウベが加わる。
私の周りに控えている後方士官や将校たちの服装は、男性はナチス親衛隊の黒服とよく似た服装であり、女性はナチスの意向を大きく受けた白いブラウスとオリーブグレイの背広にミニスカートもしくはミディスカートを履いている。
直轄軍だけでも、服装の統一が済んでいない。これに諸侯軍が加わるとさらにぐちゃぐちゃだ。直轄軍から払い下げられた胸甲やプレートアーマーがそのまま使用されている。現在の諸侯軍において、今まではチェインメイルだった下級騎士も胸甲やプレートアーマーを支給され見た目はかなり華やかであった。
そんな様子を、私は傍目で見て一言。
「すばらしく、統一感がありませんね。」
ミュラー大将さんは、微妙な顔でこれに答える。
「直轄軍ですら服装の統一ができていませんのでね。この戦いが終われば統一も進むのではないでしょうか?」
私の周りにいる後方士官や将校、諸侯軍士官を見て統一感のなさを感じてしまう。
ワーゲンとサイドカーと騎兵の軍馬が隊列を組み、銃と剣と槍と弓が同じ戦列に並んでいた。後方の公都の予備戦力としてナチス武装親衛隊の戦車と駐退機復座機が付いた砲、青銅製のカノン砲を装備した陸亀や馬に牽引させた物が混成されていた。
「公主様、シュビムが用意できましたのでどうぞお移りください。」
御付きの近衛妖精士官が私を迎えに来た。
「ミュラー大将。」
私はミュラー大将さんの方を見る。
「はい、私も同乗させて頂きます。」
「そうしてください。」
片づけ畳まれたテントと陣幕をトラックや荷馬車に兵士達が積み込んでいるのを横目にしつつ、私の両サイドで手を斜め上に突き出した士官達に、私は軽く手を挙げて応える。
軍事顧問と近代化した近衛軍が、すでに先発していた。
なので、私の周りは公国親衛隊(近衛軍の精鋭)とミュラー大将の護衛部隊、それ以外は諸侯軍の胸甲騎兵と重装騎兵が護衛に付いている。ちなみに騎兵だが一般的には馬であるが、妖精やホブゴブリンの体格が小柄であるため妖精犬であるクー・シーに騎乗している。犬と名乗っているが、見た目は狼に近いため他国からは狼騎兵(ウルフライダー)と呼ばれている。公国親衛隊はヘルハウンドを使用している。一応、馬や幻獣などもいるが馬は荷運びが主体で騎兵運用としては2~3人乗り、幻獣に関しては主流6種類ドラゴン、グリフォン、ヒポグリフ、マンティコア、ペガサス、ユニコーンだが、そのどれも我が国にはいない。ペガサスやドラゴンが航空部隊の補助戦力に上がっているが検討段階である。
ワーゲンとサイドカーとオートバイ、そして狼騎兵と馬騎兵がゆっくりと移動を開始する。
そんな中、オートバイに乗ったナチス軍事顧問団の兵士が、私達のワーゲンに並走してくる。
「公主様、ハインリッヒ大将!別動隊の航空魔導士団が敵領都を陥落させました!侯爵一家は捕虜として手中に収めております!」
それを聞いた私たちは、まさに笑いが止まらない状況でした。
「大変結構!航空魔導士団の指揮官は誰だったか?」
「たしか、ナチス軍事教導顧問団のターニャ・デグレチャフ准将かと存じ上げますが・・・。」
ミュラー大将さんの言葉に、助手席に座る公国親衛隊副官の眼鏡をかけた妖精の子が答えました。
彼女は元々公国の近衛騎士で組織改編の折に、私の副官として付いている騎士爵の子です。
確か名前は、トリエル・フィオリンと言ったかな。
なかなか頭の回転が速い優秀な子だ。これで武芸にも秀でているのだから、流石は我が親衛隊と言ったところですね。
「公主様、彼女への叙勲の件。ご検討ください。」
「えぇ、彼女の働きは目を見張る者。人間であるのが残念なくらいです。」
「女性ならば、不老長寿はうらやむものなのだろうな。」
私の言葉を聞いたミュラー大将さんは、苦笑いで返してきました。
「国家権力者なら不老不死を望むところでしょうか?」
「無理だと解っていらっしゃるのに、御冗談を。」
車中では、敵領都陥落を受け緩んだ空気が流れていた。軽い冗談が出たのがいい証拠だろう。
リクセンブルク公国公都リクセンブルクの公城では、公主フィアリアより一時的に権力を預けられたアドルフ・ヒトラーが四卿を招集。公国臨時運営会議を開催する。
無線通信でいち早く、リュクサンジュール候領の領都陥落と侯爵一家の身柄の確保を知ったヒトラーは、次なる一手を打とうと動き出していた。
ヒトラーが公城の会議室に入った時には四卿は御付きの役人たちと共に、すでに席についており、一部がヒトラーに対して非難の視線を送っていた。
「ヒトラー殿!軍がリュクサンジュール候領に侵攻したとはどういうことだ!トリステイン王国が出てきたらどうなると思っている!」
外務卿ヨーク・グリーナ伯爵が食って掛かる。
「国内では、トリステインが攻めてくると不安を抱くものが少なくありません。」
内務卿メアリー・パールもヨーク外務卿程ではないものの批判的な言葉を紡ぐ。
ヨークとメアリーが非難の言葉をヒトラーに向けるが、彼はどこ吹く風と言った感じで気にした様子はない。むしろ、何かもったいぶって「まぁまぁ」と宥めに入るほどの余裕があった。
軍部とナチスが蜜月なのは周知の事実であったゆえに、軍務卿プディング・カスター伯爵がヒトラーの側に立った発言をする。
「近代化を進める我が軍は、周辺国より格段に高い軍事力を持っていますので、トリステイン王国を超長期に渡り抑えることが可能であると言っておきましょう。」
そんな様子に、メアリー内務卿が不満そうな顔をして意見を述べる。
「軍は可能でしょう。で、予算はどうなのです?戦争するには金が要るのですよ?」
「そうだ!金はどうするつもりだ!」
メアリーの言葉にヨークも同調する。
すると、今まで沈黙を保っていた財務卿エリザベス・パブリーナ伯爵が面倒そうに御付きの役人から資料を受け取り読みながら発言する。
「トリステイン王国が出てきた場合、戦費は想定を軽く超え書面上は数日で赤字になるのですが・・・・・・。おそらく、トリステイン王国参戦はないのではないでしょうかね。」
エリザベスは財務資料を周囲の卿に見せびらかすように掲げて見せる。
「我が国の基幹産業の一つ繊維産業、国家工場の初期出資者の欄・・・、よく見てください。ほら、あった。トリステイン王国の大公爵の二人、エスターシュとクルデンホルフの名前があります。出資の条件にですね。大公爵それぞれに、我が国の繊維産業利益の1割が振り込まれる契約となっておられましてね。トリステイン王国が我が国を攻め落とすとそれが0になるわけですねぇ~。ありえないと言う言葉はありえないと言いますが、トリステイン王国参戦は、まぁ・・・、ありえないでしょう。」
エリザベスの説明を受けた二卿は黙って着席する。
「これで、ご納得頂けたであろう。」
そして、ヒトラーは会議室が静かになったところで改めて意見を述べる。
「トリステイン王国は動かない。それ以外の大国も苦言は呈するだろうが、直接何かされているわけでもないので動くことはない。とは言えこれ以上トリステインを挑発するのはやりすぎだ。であれば・・・!」
ヒトラーは壁面に張られた地図をバシンッと握りこぶしで叩く。
「大国に属さない周辺の独立諸侯を刈り取るのだ!!第一の目標はプルゼニド伯国!ズデデーン地方へ進軍を開始する!」