公国臨時運営会議より数時間前。
ターニャ・デグレチャフ准将率いる、ナチス武装親衛隊と公国近衛軍の合同航空魔導士団はリュクサンジュール候領領都マルロンへと迫っていた。
「ふふっ・・・・・・」
「准将、どうして笑われているのですか?」
演説やその場の空気作り以外で笑うことなどない厳格な上司であるターニャが、珍しくも感情を漏らし笑っていたいた。長年の副官であったヴィーシャは、疑問を持って尋ねた。
ターニャはさらに感情を表に出して嗤う。
「これが笑わずにいられるか?航空魔道士の編成は大隊が36人・・・強化大隊が48人。我が第二〇三魔導大隊48人、他のSSから吸収した魔導士が20人、公国近衛軍が800人、合計868人!アハハハハッ!!868人だぞ!!セレヴリャコーフ大尉!!868人!!大隊が24個も作れる!1個小隊のおまけ付きでだ!!一個師団はだいたい15個大隊だったはず。残りの9個大隊と1個小隊で旅団として・・・。定員割れしてるが軍団を名乗ってもいいなぁ!!航空魔道軍団!!前の世界じゃ聞いたこともない言葉だよ!!これと言った明確な脅威がない戦場で、信じられない数の魔導士を率いて、ソフトスキン同然の中世の町を攻める。全く、これほど楽しい話はないじゃないか!!セレヴリャコーフ大尉!!」
今までの中で、最大のテンションと言っていい程の上官に、ヴィーシャは若干引き気味に「よかったですね。」と答えておく。本人は気が付いていない様だが、ヴァイス中佐は指揮の伝達に影響が出ない程度の、僅かな距離を取っている。
「ヴァイス中佐、僅かだが遅れているぞ?出撃前の訓示の際に、妖精さんと遠足と冗談で言ったが気を抜いていいとは言っていないぞ?」
「っは、申し訳ありません!油断しておりました。」
「軍人、死ぬときは死ぬのだ。あたしの部下から下らん理由で死ぬ奴が出た場合は、そいつに懲罰を下すからな。」
死んだ人間に懲罰を下すなんてできませんよと、心の中で思ったが、この人なら出来るかもしれないと思ってしまったヴィーシャ達であった。
そんな、彼らの心の機微など察しもせずにターシャは声を上げ、行軍隊形を解き陣形切り替えを命じる。
「ヴァイス中佐!公国中核集団をダイヤモンド隊形で展開!擲弾爆撃!ケーニッヒ准佐、ノイマン准佐はヴァイス中佐の前に出てデルタ隊形で前方警戒!それぞれ、左翼と右翼だ!あたしがトップに出るよ!ヴュステマン大尉は残余を率いて後方警戒!行くぞ!!」
「「「「「っは!!」」」」」
「それと、ヴァイス中佐。白燐弾も使えよ?せっかく、本部より頂けたのだ。もったいないからな。」
完全な奇襲の形であった。この世界基準の飛竜よりわずか上を飛んでいた。飛竜や幻獣ならまだしも、人間及び人間より小柄な妖精だ。地上からでは豆粒程度、鳥の群れにしか見えないかもしれない。
そして、ターニャ自身、相手を舐めた発言が目立ったが油断しているわけではない。その証拠に、攻撃開始時刻は夕方日没の時間帯。夕闇に紛れての奇襲攻撃であった。
「擲弾っ!投下ぁ!」
「「「擲弾投下!!」」」
ヴァイスの号令で彼に従うグランツ大尉と妖精士官らが復唱し、それに続く兵たちが手に持った擲弾の安全ピンを引き抜いてから擲弾を放す。
数百の擲弾が黒い雹のようにマルロンの街に降り注ぐ。
ある物は市場に降り注ぎ、片付けを始めていた商人や奉公人たちを吹き飛ばし、破片が周囲の人や物に突き刺さる。
スラムの藁屋根を貫通し、寒さに震える浮浪者に人生最後の暖を取らせた。
街路を進む馬車の前方に落下し、馬の前下半身が吹き飛び横転する。
数百の黒い雹は、マルロンを火の海に変えた。
商家の奉公人として勤めていたマルコムは、商家の旦那から言いつけられた酒の買い付けから戻るところであった。御者に馬車を任せて自分はこっそりと荷台で余分に買った酒を少しだけ頂いていた。
すると、馬の尋常ではない嘶きが聞こえたかと思うと馬車が大きく揺れ、マルコムはそのまま外に投げ出された。
頭を強く打ったのか。ひどく痛む、困った何が原因かわからんが馬が転んでしまった。この転び方だ。馬は足を折っているだろう。酒も結構な数が割れて流れ出ている。御者はクビだろうし、マルコム自身も大目玉だ。下手したらクビかもしれない。
「デップ!おい!何やってんだ!」
御者の名前を叫び、その場に俯いている御者の肩を大きく揺らす。
彼はそのまま、横にガクリと倒れる。
ビチャリと何か湿ったものが零れ落ちる。
ピンクと言うか赤っぽい何か。
「う、うわぁああああああ!!」
御者の内臓が地面に広がる。
「助けてくれ!」
傍を歩く人の腕を引いて助けてを求めると、彼はまた驚いた。
その人も頭から血を流し、茫然としていた。
彼の見ている方を見る。燃えている、市場が、家々が、店舗が、詰所がマルロンのありとあらゆる場所が燃えていた。
そして、彼の目の前に黒い何かが落ちてくる。そして、尋常ではない熱さと痛みが襲い彼の意識はそこで途切れた。
「総員!降下!各部隊、すみやかに目標の攻略に向かえ!!」
ターニャの号令で航空魔導士団868人は混乱するマルロンの街に降り立つ。
ヴァイス率いる中核部隊はマルロン市街を継続して攻撃を行い。マルロンの守備隊や自警団を引き付け続ける。と言うより一方的にも虐殺し続けている。
「爆裂術式!一斉射!」
公国の妖精士官の命令で兵士たちが、自警団詰め所に爆裂術式を一斉に放つ。
詰所はガス爆発でも起こったか様に大きな火柱が上がり、中の人間をローストし風圧でウェルダンのサイコロステーキがバラバラと飛び散った。そんな様子を見て妖精兵の一人が楽しそうに笑って言った。
「人間って、こんなに弱かったんだね!!」
ケーニッヒとノイマン率いる部隊が、候城の外苑部は封鎖した。
ターニャ率いる最精鋭が候城の正門を破り突入する。さらに雪崩を打って公国部隊が続く。
ターニャの最精鋭以外の部隊は略奪行為を始めているが、咎めるつもりはない。
何せ、この世界にそう言った類の国際法はない。上司のハインリヒ・ミュラー大将もリヒテンブルク公も刈り取り自由として、寧ろ推奨するくらいだ。戦況に影響が出ないのなら好きにすればいいだろう。
妖精士官がヴィーシャを介して報告を上げてくる。
「准将、候が地下宝物庫に立て籠もったとのことです。それと、息子ステファンと息女ステラの身柄を押さえたとのことです。」
「適当に縛って、どこかに閉じ込めとけ。候の代替品に用はない。早く、候を引きずり出せ。」
ターニャ達はほとんど制圧した候城を、地下室に向けて歩きながら、思案したり指示を出したりした。
「宝物庫に立て籠もるとは、下手に攻撃すると貴重品がダメになりそうだな。ガスでも使うか?」
「あの、准将・・・。」
ヴィーシャがターニャに答えようとすると、妖精士官の一人が意見具申をする。
「准将!子供を使ってはいかがでしょう?」
フランツ・ケイユと言う金髪のショタ妖精であった。
ターニャは彼の考えを瞬時に読み取り、手を叩いて関心する。
「そうだったな。ここには国際法はない、そういう方法の方が早く済んで合理的だな。」
「ケイユ中尉、貴官に任せる。」
地下室の前で並んで籠城戦の様子を眺めていると、後ろから候の子供たちが連れてこられる。
ケイユ中尉は候の子供たちをちらりと見ると何かを話すでもなく。いきなり拳銃でステファン少年の左膝を撃ち抜いた。
「あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙!!い゛だい゛ぃいいい!!助けでぇええ!!」
ステファン少年の叫び声が響く。扉の向こうにも聞こえているだろう。
「予想通りだな。貴族のボンボンは堪え性がない。」
ターニャは、特に感情のない平坦な口調で思ったことを口にした。
「そりゃそうです、甘やかされてますからね。」
ケイユ中尉は自分に向けられた言葉でないことを理解しつつ、返答し。
「出てきませんね。もう一発。」
今度は右膝を撃ち抜いた。
「あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙!!」
さらに、叫び声が大きくなる。
「准将、流石にこれは・・・。」
ヴィーシャが、ターニャに暗にやめるように促す。
ケイユ中尉は弑逆的な笑みを浮かべて、息女のステラの眉間に拳銃を押し当てる。
「ひぃいいいいい!!いや!いやぁ!パパ!ママ!!」
ステラの恐怖に震える声が聞こえる。
「セレヴリャコーフ大尉、別に殺しはせんよ。候も人の親、そろそろ。」
扉が開かれ、リュクサンジュール候ルロンとその妻ステファニーが並んで出て来る。
「ま、待て!!降伏する!!だから!!もう、やめてくれ!!」
「ご慈悲を!!」
ターニャが軽い調子で候の方に寄っていく。防殻はすでに薄く張っている。
「おや、やっと出てきてくださいましたか。」
部下に候と一緒に立て籠もっていた家臣たちを一か所に集めさせる。
ターニャはルロンの背を押して、客室へ向かおうと歩き出す。人質にしていた子供たちは衛生兵に治療させている。
「おっと、こいつらは要らなかったな。下手に残党化されても困る」
そう言って、家臣たちを集めた場所に手榴弾を軽く放り投げる。
ターニャの部下たちは一斉に防殻を張ったが、そんなことのできないルロンの家臣たちは、元家臣の挽肉を軽く炙ったものに変わった。
「さて、外の生き残りに終わりを告げてください。候」
こうして、リュクサンジュール候は降伏を宣言しマルロンの街は陥落したのであった。
リュクサンジュール候領領都マルロン陥落から1週間。
リュクサンジュール候領は、完全にリクセンブルク公国の手に落ちた。
周囲から援軍に来たリュクサンジュール候派の諸侯軍は、ナチス武装親衛隊と皇国近衛軍によって蹴散らされる。戦いの勝敗は決したのである。
リュクサンジュール候領陥落から2週間、ようやっとトリステイン王国の調停の使者が現れる。
黒髪を後ろに撫でつけた切れ長の目付きの悪い男だった。25歳ほどで、黒い僧服に身を包んだ姿は、まるで 聖職者を想起させるが、腰に下げた銀色の杖と、鋭い眼光が将軍のよう な雰囲気を漂わせていた。この男こそ、トリステイン王国宰相エスターシュであった。
豪華な馬車がリクサンジュール候城へと続く街道を進んでいく。
マルロンの街は、表面上落ち着きを取り戻していた。瓦礫の山ばかりであったが・・・。
また、侯爵一家や直臣達は徴発した商家の倉庫に軟禁されていた。
リクセンブルク公国の占領軍は、リュクサンジュール候城を統治府として活用し、公主フィアリアもこの城にいた。
エスターシュを乗せたトリステインの馬車が、旧リュクサンジュール候城の前に止まった。
公国親衛隊公主付き副官のトリエルがエスターシュを出迎える。
「トリステイン王国宰相エスターシュ様、お待ちしておりました。公主様達が御待ちですのでご案内します。」
同時期、ヒトラーは、公主フィアリアを介してプルゼニド伯国へ侵攻を開始。
プルゼニド伯国、ズデデーン地方はプルゼニド国境要塞線を構築していた。
アドルフは、リュクサンジュール候領侵攻の戦力として編成していた砲兵部隊をズデデーン地方へ差し向けたのであった。
「ファイエルッ!!!」
ナチス武装親衛隊の砲兵士官が手を前に突き出して全軍に砲撃開始命令を出した。
落雷や火山の噴火を思わせる轟音が、プルゼニド国境要塞線の各所から火柱が上がり、要塞の石壁が崩れ落ち、防護櫓が中央部から爆散し崩れ落ちる。
「隊列を崩すな!進め!」
瓦礫と化した、プルゼニド国境要塞線へ向けて周辺の村や街から徴兵された徴兵士官の妖精と兵卒のホブゴブリンが瓦礫の山に向かって、進軍を開始した。
プルセニド侵攻を皮切りに、リクセンブルク公国は独立諸侯の刈り取りを始めたのであった。