今回はファミレスからの友希那視点でお送りします
やってしまった、少なくともリサが戻って来てから話し掛けようとしなければこうはならなかった筈
「湊さん、今のは…」
立ち尽くしているとRoseliaのギター担当、氷川紗夜に声を掛けられてやっと我に返った。
「あの二人はどこに?」
「帰りました。あの二人と何かあったんですか?」
「首を掴まれてた方がリサの弟のカズよ」
「そういう事ではなく、何か因縁でもあるんですか?」
「詳しくは話せないけど…あるわ」
私が音楽活動を始めてから彼は露骨に態度が悪くなった。理由は…知ってはいるけれど
「お待たせ~…ってこれは…やらかした感じかな?」
リサがお手洗いから戻って来て今日は解散となり、帰り道は家が隣同士なので必然的にリサと一緒になった。
「友希那。やっぱりカズ本人から感想聞きたかったの?」
「…そうね、彼がライブに来るとは思わなかったから…」
「それでどうしてああなるかなぁ」
「彼は学校にも行かずに遊んでいるらしいわ、それを優先しなさいと言おうとしただけよ」
白状してしまえば異性として彼の事は好きだ。きっかけは今は置いとくとして、だからこそ逆に少し嬉しい事ではあるけれど、やはり学業は優先して欲しい物だわ
「あー…その噂、ねぇ。実際にそれについて話してみた?」
そう言われれば話していなかった事に気づいた、彼の前になると冷静さを欠いてしまうのは私の悪い癖ね
「…してなかったわね」
「やっぱりかぁ、私が明日バイト行ってる間に話してきなー、どうせ暇だろうし」
という事で、翌日に彼の家に話に行ったのだけど
「…砂糖とミルクが欲しいのだけど」
「生憎、今の今井家には砂糖もミルクもない」
「………そう」
私がブラックコーヒーが苦手なのは彼は知っている筈なのだけど、多分嫌がらせね…無論、彼から出された物なら飲むので問題ないわ
そこから時間を掛けてコーヒーを飲み干した私は話を切り出す事にした。
「私が音楽活動を始めてからよね、貴方がそういう態度を取るようになったのは」
「それが何か?」
「その理由は何なのかしら?」
「嫌です、自分の胸に聞いてください」
まだ答えてはくれそうにないわね…結果を急かしすぎたかもしれない
「……そう…貴方は変わってしまったわね」
「貴女が…それを言うのか!よりにもよってアンタが!」
「っ……そうね…私が言う事じゃなかったわね」
どうやら地雷を踏んでしまったらしい…私が変わったと言うと…恐らく--
「アンタらの音楽ごっこで周囲を振り回すな!迷惑なんだよ!」
この言葉を聞いた途端に冷静ではいられなくなってしまい彼の頬を叩いていた。
「たかが一度ライブを聞いただけで私はともかく他のメンバーを侮辱しないで!」
私の数年の努力を彼の一度で『ごっこ』扱いされたくはない
「一回聞いてわかるほどバンドになってないって言ってんだよ!」
今度は逆の頬を叩いた。リサは勿論紗夜やあこ、燐子の事まであんなどうでも良さそうな顔をしていた彼に否定されるのは許せなかった。
「もう一度、言ってみなさい…リサや他のメンバー全員の前でもう一度全部言ってみなさい!」
歌う以外で大声を出すのも瞳から熱い物が込み上げてくるのはいつ振りだろうか
「二人共!何やってるの!?」
「…っ失礼するわ!」
彼がリサが帰宅した事で気を取られた瞬間に私は今井家を飛び出していて気がついたら昔三人で遊んでいた公園のブランコに腰を掛けていた、多分みっともない顔をしていると思う。
「にゃーお…」
猫だ、昔からここに住み着いていてカズが拾おうとして母親に諦めろと言われていた野良で私がこの公園で見かけた時は世話をしている内の一匹だった。
「…アナタに出会ったのもここだったわね」
「んなーご」
ブランコから腰を上げて猫の下顎を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らした。
「友希那!こんな所に…探したよ」
息を上げたリサがやってきた。多分彼の事だからあの状況でリサと二人きりになるのを嫌ったのかもしれない
「ごめんなさい…私には無理だったわ」
「とりあえず、経緯を教えて」
私はリサに今回の事を全て話した。
「あー…今回はカズが悪いかもしれないね」
「私も私よ…」
「私からカズには自分で謝るようにさせるからそれで許してあげて?」
「…勿論よ」
「友希那、カズの事嫌いになった?」
何を分かり切ってる事を…でも意地悪な事をするのが彼女だ。
「……姉がそういう事を聞くものなの?」
「ほら、確認的な」
「…嫌いではないわ」
リサから顔を逸らして口にしたら別に好きと言ったわけでは無いのに体温が急上昇して行くのが分かる、彼女がそれを見てニヤニヤしていることも
「そっかぁ、カズにも春が来るかぁ」
「…何でそうなるのよ」
「そりゃ元々は仲良かった二人が仲違いしたままなんて嫌だもん」
「リサらしいわね」
それが彼がシスコンを拗らせる原因でなければ喜ばしいのだけど
「あっはっはーそれほどでも…そろそろ戻ろっか、カズも落ち着く頃だと思うし」
「そうね…私は自分の家に戻るわ、彼が落ち着いたのにまた怒らせたら悪いわ」
そう言って自宅までの帰り道は昨日と違ってリサは不機嫌そうで会話が無かった。
この日は現実に反比例して良い夢が見れた、そのおかげで調子は悪くない。
翌日の放課後、私はここ去年からの日課をこなす事にした。
「これ位で良いかしら」
NFOと言うゲームをカズがプレイしていると聞いて、もしも話を振られた時の為に私もプレイしている。と言っても彼が他人とプレイしてるのを見て遠回しに支援する位で、そもそも現実で彼とはあの様だ。多分このゲームの話はしないだろう
「まずはカジノね」
彼がよく足りないと言ってる物はカジノのギャンブルやミニゲームで溜まるコインと交換で手に入る物、らしいので私が稼いで彼の手に渡る様にしている。
「確かもうそろそろログインする頃ね」
彼のアバターがログインして私のアバター《イユ・マキナ》に近づいてきた。
イケナシエル『あ、また会いましたね』
イユ・マキナ『えぇ、この時間はいつも余裕があるの』
イケナシエル『まぁ俺も人の事言えないか…さてソロで素材集めるとしますか』
イユ・マキナ『待ちなさい、これを持って行きなさい。』
彼のアバターにアイテム交換機能でコインを必要な分渡す。
イケナシエル『またですか?何でそんなにこれくれるんですか?』
イユ・マキナ『私には無用の長物よ』
イケナシエル『じゃあ他のコンテンツやりましょうよ…』
イユ・マキナ『私はこれが好きなのよ』
イケナシエル『はぁ…ならありがたく貰いますけど』
「そもそもイケナシエルって何なのかしら…」
一度チャットで彼に聞いたもののはぐらかされた。
「もう少しやっておきましょう」
どうやら私は純粋にギャンブルが少し好きらしい
◇ ◇ ◇
前回のライブが終わってから初の練習があった。
「今日はここまでにしましょう」
「皆お疲れー、友希那今日は調子良かったけど良い事あった?」
「いつも通りよ」
「湊さんはいつもより歌声に感情が乗っていましたよ」
「今日の友希那さんいつもよりキラキラーって感じでした!」
「私も…今日の友希那さんはいつもより綺麗だと思いました…」
「…急に何よ、皆して」
リサに続き、紗夜、あこ、燐子にも言われてしまった。
「皆、友希那の事が心配だったって事!」
「そう…悪いわね、心配掛けて。私は心配ないわ」
「じゃああこ、この前の男の事聞きたい!」
「あ、あこちゃん、それは友希那さんに悪いよ…」
「私も気になります、何度か今井さんから聞いた事はありますけど湊さんから彼の事を聞いてみたいです」
「…良いわよ、新曲の演奏を初合わせであこがミスしなければだけど」
「何であこだけ!?」
「あこ責任重大だねー」
「リサ姉助けてー!」
結成当時に比べるとメンバー同士の会話も増えた随分増えた。
帰り道、リサは少し用事があると言って別行動になったので私1人になり、本屋に音楽関係の雑誌を買いに言った途中近所の女子校の生徒に声を掛けられた。
「あ、あの!Roseliaの友希那さんですよね?」
「そうだけど、貴女は?」
「あ、市ヶ谷有咲です…」
「そう、花女の生徒が何か用かしら?」
「イケナシエルについて話したい事があるんですけど」
「その、イケナシエルの事を私は知らないのだけど?」
勿論知っている。けどあくまで他人の振りをした。
「あー…本名は知らねーんだけど名前はリサさんの弟の事」
「詳しく聞かせて」
話を聞く以外に答えはない。
こうして新しいガールズバンド『Poppin'Party』のメンバーらしい、市ヶ谷さんと近くのカフェで話す事になった。
「それで、カズがどうしたの?」
「アイツの事何か勘違いしてるって聞いたんすけど…」
「その事ね、機会を作って…今度こそ話し合うわ」
「なら良いんですけど…」
そもそも彼女はイケナシエルとして知っているだけで何故そこまで彼を心配しているのだろう?それより今は聞きたい事がある。
「イケナシエルの名前って何が元なのかしら…?市ヶ谷さんは何か知っているかしら?」
「あー…あんまり良いもんじゃないですけど知ってますよ」
「是非教えて頂戴」
「え?あ、はい」
ずっと気になっていた事だ、勢い余って両手を取ってお願いしてしまった。
「まぁ…あいつシスコンなんでリサさんの名前を使ってるみたいで…」
ペーパーナプキンに何やら単語を書き始める市ヶ谷さん、イケナシエルのどこにもリサとは入らない筈なのだけど何なのかしら?
「まず、姉貴の事をネキと呼ぶネット用語がありまして、それでリサネキ。それをローマ字で分解して『Lisaneki』それを逆読みすると…」
「イケナシL、ね…何故Lがカタカナなのかしら」
「天使の名前にエルが付くからとか言ってましたよ、聞いた時は流石に引いた」
カズらしい…それよりここまで来ると彼を振り向かせられる自信が無くなる。私も人の事は言えないHNだけど
「成程…市ヶ谷さんありがとう、お代は払わせて貰うわ」
「そんな悪いっすよ!私から声掛けて先輩に奢らせるとか!」
「情報料よ」
「あんな気持ち悪い情報に払うつもりですか!」
説得されて会計はお互い半分ずつになった。
イユ・マキナの由来
イマイ・ユキナ→(交互にして)イユマキイナ→(まだそうではないので一文字抜かして)イユ・マキナ
☆9
百式機関短銃様
☆8
mocca様
評価ありがとうございます!
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