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裕司のデートから数週間位は特にこれと言った事も無く、いつもの如く市ヶ谷さんとゲームをしていた。
「なぁ、市ヶ谷さんって誰かを許せなくなったりどうしようもなく嫌いになったりとかある?」
「はぁ?お前急にどうした?」
「…いや、別に…」
「当ててやろうか?」
「姉貴の事じゃないからな」
そもそも、そんな姉貴に対してそうなる訳がない
「そりゃお前と話してればお前がお姉ちゃん大好きなのはわかるからそこは心配してない」
「…じゃあ何だと思ってんだよ」
「友希那さんの事だろ?」
「…何でそうなる」
「そもそもお前の人間関係なんてその位しか知らねー」
「…だろうな」
結局ポピパのライブに誘われた所で以前と関係は変わらないのだからお互いの事はあまり知らないのも当たり前だ。
「で、何だっけ?誰かを嫌いなったとかか?私はねーけどそういう時は話し合えば良いんじゃねーか?」
「話し合うのも嫌なんだよ」
「じゃあ諦めろ。そもそも相手が許せないなら許さなくて良いだろ」
「おっしゃる通りで」
ガキか、俺は。嫌だ嫌だと言うだけなら五歳のガキだってやれる事だ。
「何か悩んでんなら私じゃなくてもっと居るだろ、そもそも男友達居ただろ?ライブに連れてきた奴」
「アイツはなぁ、何だかんだ異性の扱いクソだからなぁ」
例の彼女とは何だかんだ上手く行っているらしい、最近その話ばかりされて飽き飽きしている位だ。
「それホントに大丈夫なのか…?」
有耶無耶になってしまったがこの間と一応相談に乗って貰ったお礼としてテキトーにクレーンゲームの景品を渡して今日は解散となった。
そして家に帰ると姉貴が少し落ち込んでいた。
「姉貴、最近いつもより帰ってくるの早くない?」
「んー…Roseliaでちょっとね…」
せっかく、姉貴がまた楽しそうにベースをやっていたと言うのに…最近落ち着いてきていた怒りが込み上げてきた。
「…俺、わざわざどうしたのとか聞かないから」
どうでも良い、あの女がそうやって自滅するならどうにでもなれ
「そう言わずにさぁ、少しで良いから聞いてよ」
だだをこねる子供みたいに姉貴が自室に籠ろうとした俺の背中にのし掛かってきた。
「姉貴、重い。普通に重い」
「聞いてよー聞いてくれたら何か奢るからさー」
これは…面倒臭いやつだ、どうせRoseliaで何かトラブルがあってそれをどうしようって話すだけだ。こういう時の姉貴が一番面倒臭いんだ。
「…聞くだけだから」
「そういうと思った。友希那がね…」
内容は友希那さんだけスカウトされたらしくそれを隠していたけど、それが原因で遅刻し、練習中に友希那さんと紗夜さんが揉め、スカウトされた所を見ていたあこと燐子さんがそれを暴露、そこでまた揉めて練習が中止になったらしい。
どうでも良い、わざわざ姉貴からあの人の話をされる時は心が死んでいくのがよくわかる。
「それで?姉貴はどうすんの?」
「…うーん、とりあえず友希那と一度色々話そうかと思ってる」
なら、こんなことやってるんじゃないよ…
「あっそ、そろそろ退いて。俺課題やんなきゃだから」
「あ、ごめん」
姉貴の腕を剥がして自室に戻る。
「はぁ……」
課題をやりながらRoseliaの曲が録音されたCDを再生する。何で持っているかと言うと姉貴が渡してきて感想を聞かれるせいで渋々聴いている。そもそもRoseliaが解散するかもしれないのに聴く必要があるかは疑問はあるが…
「感想なんて特にわかないけど…」
音楽に詳しい訳じゃないし、楽器はよくわかんないし、歌は…友希那さんの歌は昔から聞いてたから昔とどう違うかはわからなくはないけど…
「やる気出ねぇわ…NFOやるか」
サビの途中で何だか萎えてきたのでCDの再生を止めて、ゲームをやりだす。最近はこの前のイベントも特に無く、また素材集めをしてそれをイベントで吐き出す日々だ。そろそろ新しい職業に手を出すのもアリだなと思っている、素材と時間が足りないけど…
『リサはなんでいつもそうなの!なんで優しくするの!』
少し窓を開いたままゲームをプレイしていると友希那さんの声が聞こえてきた。
「…うるせ」
わざわざゲーム中にあの人の声を聴きたいと思う程物好きじゃないので窓を閉じようとすると
『バンドもフェスも…お父さんの事もカズの事だって!悪いのは全部私っ…!なのにリサは!』
そこから先は聞かない事にして、窓を閉めた。
「……だから嫌いなんだ」
誰に届く訳でもないけどそう言わざるを得なかった、嫌いな理由なんていくらでもある。
「…やめだ、考えて解決する事じゃないんだから」
NFOもログアウトして課題も終わってないけど母さんに飯はいらないと言って寝た。
◇ ◇ ◇
翌日、学校で妙なモヤモヤを抱えていた。
「カズ、お前なんか悩んでないか?」
「別に…悩んでない」
「そうか?まぁお前の悩みって言ってもどうせわかり切ってるけどなー」
「姉貴の事じゃないぞ」
そう言うと裕司が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。こいつが俺の事をどう考えてるかよくわかった。
「熱でもあるのか?大丈夫か?」
「あったら学校来てない」
「だよな…さては友希那さんの事か?」
「…どうしてそうなる」
確かに裕司には少しだけ友希那さんの事は話したけどそんな簡単に察する物なのか
「お前の事だからそうだと思っただけだよ、悩んでる時はリサさん本人の事かそれに関する事のどちらかだからなー」
「…それで?」
「直接はどうもしないよ、お前が話すなら聞いてお前のやりたい事を手伝ってやる位だよ」
これだからこいつは…ズルいよなぁ
「…相手の事をどうしても許せない時ってどうすれば良いんだろうな」
何で許せないかも許してもその後の事は何もわからないけど…友に話せば少しは何か変わるかもしれない
「単純な事だろ、言うのも馬鹿馬鹿しいね」
「お前、さっきの手伝う発言は何なんだよ?」
急に手のひらを返しやがって…
「悪いけど無しで、友人でもそこは自分で解決して欲しいな」
結局何一つ解は得られずに1日が過ぎて行った。週末なので帰りにレンタルDVDショップで映画を数本借りて家に帰った。
「ただいまっと…」
「おかえりー…」
「姉貴、今日は練習とか言ってなかった?」
「中止だって…今週以降の練習はまだ入れてなかったからもしかしたら解散しちゃうかもしれない…」
また姉貴が落ち込んでた、最早ため息すら出なかった。友希那さんが何がしたいのか、もう理解したくもない、少しでも話し合おうとか考えてる場合じゃなかった。
「姉貴…映画見よう」
気持ちを抑える為に借りてきた映画を見よう。
「え?またどうせホラー物だったりしない?」
「違う、今回の映画は《キング・アーサー 英雄転生》だよ!」
「…どっかで聞いた事があるタイトルなんだけど…」
気にしない!だってパク…元ネタとは似ても似つかないし!
「前みたいに変なグロ描写はないから姉貴でも大丈夫」
多分、と心の中で付け加えておく
「なら、良いけど…」
◇ ◇ ◇
視聴後に姉貴に耳を引っ張られた。どうやらお気に召さなかったらしい
「何最後のあの巨大ロボ?」
「メカモルガナ」
「最後のやりとりが無ければ聖剣を聖杯に戻して手当て出来たよね?」
「あの時は聖剣のエネルギー的な物がメカモルガナに吸われてたんじゃない?」
「好意的解釈過ぎる…というかツッコミ所はそれだけじゃないからね?」
「例えば?」
「モードレッドが対話で解決しようとしてたのにファッションセンスをバカにした一般人を殺しちゃう所とか」
「愛嬌じゃない?」
「そんな物騒な愛嬌はないから…」
うるさい姉だ、次の映画にDVDを変える。
「一応確認するけどホラーじゃないよね?」
「アクション映画だし変に怖い要素は無いけど?」
「タイトルは」
「ジェイソンX 13日の金曜日」
「うん?ジェイソン?あのジェイソン?」
リモコンをなるべく遠くにぶん投げた。
この後ジェイソンがひっそりと出てきて人の首を折るシーン辺りで滅茶苦茶怒られながら映画鑑賞は寝落ちするまで続き、翌朝姉貴に叩き起こされて某バーガーショップに連れて行かれた。
「ねみぃ」
「シャキっとしてよー、今日はテキトーにされると困るんだから」
何か嫌な予感しかしないんだけど
「そもそも何で俺は連れてこられた訳?」
「うーん、この前奢るって言ったのとちょっと会って貰いたい人が居るからかな」
確かにそう言ってたけど金使う趣味も今はやってないから奢られなくてもいいや位だったんだけどな
「それでその人は?」
「もうそろそろ来るよー、アタシはバイトだから抜けるけどね」
「えっ…?」
姉貴がコーヒーを飲み切ってどこかに行ってしまった。
「ホントに置いてかれた…」
「…貴方が今井さんの?」
呆けていると紗夜さんがこちらに向かってきた。この人面倒臭そうなんだよな…
「そうですけど…まさか姉貴の言ってた人って…」
「私です…今井さんに呼ばれたのですが」
「…本人がどっか行ったんですけど」
「…その様ですね」
「…」
「……」
沈黙、そりゃそうだ。向こうからしたら打ち上げ中に変な揉め事を起こした相手だし…俺からしても苦手なタイプなんだから会話が弾む訳もない。
「…貴方と湊さんの関係って一体なんです?」
「もしかして…今Roseliaが活動してない理由って俺も関係あります?」
「その通りです、彼女は貴方からの評価を気にしている節がありました」
「……何でそんな」
理由はわからないけどそうじゃなきゃ時間の無駄って言われて帰えられてそうだし、俺は何かしら今回の事で無関係な訳ないか…
「…お互いにお互いの事が嫌いなだけです、この前の打ち上げの時は…すみませんでした」
どう思われてるかは知らないけど頭を下げた。友希那さん関係で下げたりするのは死んでも御免だけど自分のせいで迷惑を掛けたなら関係者には謝らないと…
「それだけでああなるものかしら…」
「…きっかけ自体は四年前の事です」
思い出すだけでも吐き気がする、あの時も今もあの人が原因だ。
「…友希那さんの行動がせいで姉がベースを一度辞めたのが俺が彼女を嫌いになった理由の一つです」
「…それはつまり-」
「俺からはそれだけです。あの人からどう思われてるか、なんてもう今の彼女からは全くわかりませんよ。それよりも俺も話したい事があるんですけど」
何か良くない事を悟られそうだったので遮った。気になる事もあるし、話を変えよう
「妹さんの事なんですけど…もうちょっと話し合ってみては?」
「…貴方に私の何が分かると言うのかしら?」
一気に不機嫌になった紗夜さん。ただ姉が居る者同士として何となく日菜に対するフォローがしたいだけだ。それでいい
「いや…知らないから言うんですけどね…妹とか弟って姉とか兄大好きなんですよ。だから好きな物を共有したくて真似するんですよ、妹弟はそういう生き物なんです…」
俺には兄は居ないけど、多分そんなもんだと思う。昔ベースやろうとしたけど自分に合わなくて辞めてしまったけどそう思ったのは嘘ではないから。
「だから何?」
「…もうちょっと、ほんの少しで良いから我慢して話して向き合ってあげても良いと思います…妹さんも紗夜さんの事は好きだと思うんですよ」
「貴方も日菜の肩を持つのね…」
「そんなつもりが無いとは言いませんよ…だけど、せっかく双子の姉妹で同じ楽器をやれるなら…勿体無いと思いますよ」
言いたい事はこれだけ、三年前に俺もベースを触ってたらあんな事にならなかったか…なんて事はわからないけど、姉貴の事を少しは支えられたかもしれない。
「…言いたい事はそれだけ?」
「…はい、すみません。偉そうな事言って」
「…ところで、貴方は日菜とどういう経緯で知り合ったのかしら?」
何か急に謎の圧が発生した気がする。そもそもこの人さっきからポテト食べる手が止まってないんだけどどんだけポテト好きなの?真面目な話が終った途端にそういう事するの心臓に悪過ぎるんだけど!
「え…あー、中学の時の知り合いがバンドやってる妹弟って括りで集まろうって理由であこと妹さんと知り合ったんですけど…」
「私の事は何か言ってましたか?」
やっぱり気になるのか…それをさあ、本人の前で言おうよ…
「紗夜さんの事ばっか話してたんで本人から聞けば良いんじゃないですかね…」
「…練習に行きます」
ポテトを完食して彼女は店を出た。
「…あのポテトLサイズだったよな?」
まぁ、そこはどうでも良いかと思って自分の分を食べ切って散歩する事にした。
散歩と言ってもコースは適当で本屋で立ち読みして買った本を喫茶店で読む位で、実質商店街巡りみたいな物だ。
「次はどこに行くかな……ってアレは」
例の猫だ。ここまで人が多い所に来るなんて珍しい
「お前、ここまで来るなんてどうかしたか?」
「んにゃあ」
いつもの様に下顎を撫でようとしたら公園の方に走って行った。
「何だよ…連れないな」
何となくで追いかけると友希那さんが居て、またクソエンカウントを引かされたと思わざるを得なかった。
「…最近よく会うわね」
こっちからしたら会いたくも無いんだ、勘弁してくれ。姉貴の落ち込んでる顔を見た後に原因のアンタの顔なんて見たくも無いんだ。
「よくもまぁ、話し掛けられますね…四年前と今、何が違うんですか?」
喧嘩腰になってしまった。
「…そうね。私は何も変わってないわ」
「…自覚があるなら何で治そうとしないんですか!アンタのせいで!姉貴だけじゃなくて事情も知らない人も巻き込んで!何がしたいんだ!」
わからない、この人がどうしたいのか、父親の敵討ち以外で何で歌っているのか。それがわからない
「…貴方の言う通りよ、周りを振り回すだけの私はこれを機に歌うのを辞めるべきなのかもしれないわね」
彼女にも思う事はあるのだろうけどその言葉は逆に許せなかった。
「そこで辞めてどうするんですか…そこで辞めたら!姉貴の頑張りは!友希那さんの歌が好きだった俺は!何だったんですか!」
もう何を言ってるかもわからない位頭がぐちゃぐちゃするし頬に熱い液体が垂れてきてるし最悪だ。
「…貴方、今なんて──」
「っぅ…!?Roseliaでも何でも辞めれば良いでしょう!」
今言った事を彼女に指摘されたら何もかもが嫌になる気がして走って家に帰った。
──本当に何がしたくて、何が嫌いなんだ、俺は
いつも思う事なんですけど展開が強引過ぎたりしませんかね?大丈夫ですかね?
もう二、三話で第一章は終わる予定です
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