Fate/Apocrypha/Quantum   作:うおぬま

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Ⅳ - 秘密

 ロンドン カナウの家

 

「話があるんだけど」

 

 恐ろしく冷たい声がカナウに向かって放たれる。

 振り返るとカナウとセイバーの前に、シャルロットとアーチャーが立っている。

 作り笑いのような表情に問い詰めるような声。

 

『まるで浮気を追い詰める女房だな』

「お黙りアーチャー」

『おっと……マジギレだったか』

 

 相手が皇帝だろうがお構いなしに黙らせることで彼女の圧力は桁を増す。

 

「……お茶の一つでも出してくれるかしら? あなたの "家" で、 "5人分" ね」

「もう夜も遅いですよ、マドモアゼル」

「ふざけないで!」

 

 この期に及んでとぼけようとするカナウにとうとうシャルロットも我慢の限界が来たらしい。

 以前までのポーカーフェイスはとうに消え去り、怒りに身を任せた少女が両肩に力を込めたまま、ズカズカと詰め寄った。

 

「……!?」

 

 振り上げた拳がカナウに直撃することはなかった。

 健気にも割って入ろうとしたセイバーは体をよろめかせる。

 そのセイバーを支えるようにシャルロットが抱きとめた。

 そのまま手負いのセイバーに手を伸ばしたシャルロットは一度わずかに怒りを沈めて、セイバーを見た。

 

「セイバーも怪我してるじゃない……アサシンかしら。はじめから私達に言ってくれれば……」

「残念だけど完全な解毒は私にも無理だわ。というよりはこれは呪いに近い」

「ものすごい執念を感じるけれど、呪いならかえって解決方法は単純だわ、術者を倒せばいいのだから」

「見ただけでそこまでわかるのか?」

「あら、それほどの相手を目の前にしているってこと、ようやく分かってもらえたのかしら」

 

 続いてカナウに向けられたシャルロットの視線は再びあの恐ろしいものに戻っていた。

 

「家に上がらせてもらうわよ。話はそこで聞く」

「安心しなさい、殺したりしないわ。今のところは」

「……わかった」

 

 バツの悪そうにカナウは答えた。

 

 

 

***

 

 

 

 ロンドン某所

 

「フォルティッシモ!」

 

バーサーカーの指揮棒の一振り、音が質量を持つかのようにアーチャーを殴りつける。

アーチャーがそれを手にした大砲でガードし、今度は反撃とばかりに砲口をバーサーカーに向けた。

派手な砲撃音が周囲にこだまする。しかし砲弾はバーサーカーに当たることはなかった。

 

「まさか、狂化がこれほどのものとはな……いや、そもそも攻撃が当たらないのは何故なんだ?」

「 "運命" が私にささやく、まだお互いに倒れるべきでないとな」

「 "運命" か、好きだなその言葉」

 

――因果に何らかの影響を与えていることは間違いない。おそらくベートーヴェンの過去にまつわるスキルのことを言っているのだろう。

――攻撃の未来予知というより、 "砲弾が勝手に逸れていく" と表現したほうが当たっているか?

 

およそ戦いが始まってから数十分が経過したが、両者ともに決定打を与えられず時間が経過していた。

ナポレオンはその間にもこのバーサーカーの得意とする戦いを冷静に分析していた。

 

――だとすればこの戦い、こちらが不利だ。

 

「どうにも埒が明かないな。なあ、ここはひとつ引き分けにしないか?」

「……珍しく意見が一致するな」

 

互いに降ろされる腕、砲塔と指揮棒。

 

――勝てない戦はするものじゃない。忌々しいが、こいつの力量を甘く見ていた俺に敗因はある。

――それでも負けっぱなしでは、終わらせないがな。

 

「お、おいバーサーカー! 勝手に戦闘を止めるな!」

「お前も見ていたであろう。相手に私に対する決定打がないことは明らかだが、それはこちらも同じ」

「朝日を拝むことになっても、戦いが終わることはない。 "運命" がそう囁いている」

「互いに "宝具" でも使わない限りはな」

 

バーサーカーは不敵に笑う。

アーチャーはそれを挑発と捉える。

 

――そうだ、今は互いに宝具を使用していない。

 

 

「出し惜しみなんかしなくたっていいんだぜ?」

「……そちらこそ、私のことをただの老人と見ずに、本気を出してもよいのだぞ?」

 

 静かな闘志に満ちるベートーヴェンを前にして、アーチャーもまた再び動き出そうとしたその時、

 

「誰だ?」

 

 アーチャーとバーサーカーの間に割って立つように、一人の影が音も立てずに舞い降りた。

 無言で着地すると、一言も発すること無くそこに佇んだ。

 

 四方にプロペラの付いた平たくて白い機械だ。 

 

「ドローン?」

「ドローンとは何だ、エハッド?」

「プロペラを使って飛ばすことのできる現代の機械だ……カメラをつけて撮影したりできるんだが」

 

「爆発物とかじゃないでしょうね……」

「下がっていろマスター」

 

 警戒するシャルロットの前に立つように、アーチャーが慎重にドローンに近づく。

 

 次の瞬間、

 

『ドカーン!』

「!?」

「んなっ……!」

 

 稚拙な "爆発音" があたりに響いた。

 

『――なーんちゃって!』

 

 そしてドローンから女性の姿をしたホログラムが現れた。

 

『ごきげんよう、お初にお目にかかります』

 

 ホログラムの女性がゆっくりとお辞儀する。

 優雅な女性だった。

 白いドレスに白い帽子の貴婦人。

 

「……おい、まさかこのためだけに俺たちの邪魔をしたわけではないだろうな?」

 

 なおもアーチャーはイライラした様子で問う。

 

「……何者だ、珍妙な使い魔をもつご婦人」

 

 と、これはバーサーカー。

 

――魔術というより科学だがな。

 

 エハッドはこころの中で訂正した。

 

『訳合ってこのようなお姿で失礼いたします。お二人が争っている様子が見えたので、止めようかと』

 

 ホログラムの女性はにこやかに続ける。

 

「申し遅れました。私アサシンのマスターをしております、ミランダ・ウォルフォークと申します」

「アサシンのマスター!?」

 

 シャルロット、エハッドの両名がその言葉を聞いて驚愕する。

 エハッドは近くにサーヴァントの気配を探そうと首を回し、やがて無駄であったことを悟る。

 

「気配遮断か……? まったくわからなかった」

 

 ゾッとした様子でエハッドが言葉を漏らす。

 

「気配遮断じゃないわ」

 

 エハッドを遮るようにしてシャルロットは答える。

 彼女がふと思い出したかのようにドローンに話しかけた。

 

「ミランダ・ウォルフォーク。 "量子の魔術師" 、あなたも聖杯戦争に参加していたとはね」

『まあ、ご存知でしたか。若いのに大した女の子ね』

「"量子の魔術師"?」

 

 ホログラムのミランダは今度はエハッドの方へ向き直し一礼する。

 

「魔術師の中でも異質な経歴を持つ一族……魔術による因果を計算として捉える数秘術の一門で、その中でもミランダは天才的な頭脳を持ちあわせており、現在は冠位に最も近い魔術師のひとりとされるけれど……」

「冠位!? そんなのがどうして……」

 

――けれど、とシャルロットは続ける。

 

「誰も彼女の本当の姿を知らない。いつも見られるのは同じ格好。百年以上形は変われどずっと同じ姿をしている」

「最近じゃ "AI" じゃないかなんて噂も立っていて、実在しているのかどうかも怪しい」

『まあ、実在なら今こうしてこの場にいることがその証明になるのではありませんか?』

「高度に発達した科学は魔術との見分けがつかない……あなたは科学的には生きているのかもしれないけど、魔術師としては怪しいものね」

『残念ですわ。今どきの若い子はこういうものが大好きだと聞いていたのですが、やはり時計塔の古株は発想が凝り固まっておられるご様子』

 

 時計塔における階位、冠位はその中でも最上級に位置しているが、この階位にたどり着く魔術師は殆どおらず、幻とも言われている。

 

 

「思い出した。量子の魔術師、実在したのか……」

 

 ドローンを眺めながらエハッドはため息を漏らす。

 

「で、俺たちに一体何のようだ? サーヴァントも引き連れていないのか」

『皆様にひとつ、情報提供をしようかと思いまして』

「情報提供?」

 

『ええ、 "たまたま私がロンドン全域を監視していた" ときに見つけたんですけどね?』

 

 

 

***

 

 

 

 カナウの家 カナウの部屋

 

 カナウは読書家である。子どもの頃から本を読む、ジャンルは様々ある。

 そして彼の部屋には当然のように本が敷き詰められていて、その全ては何度も読んだあとでページがよれていたり日に焼けている。

 その本棚に囲まれるように、カナウの部屋の中でもぞもぞと動く人影があった。

 

 お構いなしにシャルロットが部屋に上がると部屋の電気をつけた。

 人影の姿が顕になる。

 質素な部屋着に身を包んだ少女が怯えるように部屋の方の隅へと這って逃げようとする。

 病的なまでに色白で、紫色の髪をした少女が震えながら縮こまる。

 

 カナウはひとことこの少女に「大丈夫だよ」とでも声をかけたかったが、隣に立つシャルロットの殺気を感じてとてもじゃないがそんなことを言える雰囲気でないことを察する。

 

――本当に目の前で、殺されたりしないよな?

 

「あの錬金術師にそっくり。間違いない」

 

 ホムンクルスを見てつぶやく。続いてカナウの方へ振り返る。

 

「あなた、ホムンクルスを "匿って" いたわね」

「……どうして分かったんだ?」

 

 カナウのその問いは、もはや認めているも同然である。

 

「……アサシンのマスターからタレコミがあってね。彼女はこのロンドン全域を監視できるから」

「聖杯戦争が始まる少し前、彼女はあなたがホムンクルスを発見して匿ったことを目撃していたのよ」

 

「逃げ場はないってことか」

「どこまでも甘いわね、おめでたいことよ」

 

――ロンドン全域を監視できるのか。さすがにそれはキツイな。

 

「ようやく合点がいったわ。なんでもないただの人間がなぜサーヴァントを召喚したのもね」

「聖杯との縁があったから、あなたの身を守るようにして、セイバーは召喚されたのね」

 

 次にセイバーを見て、ため息交じりにシャルロットはつぶやく。

 

「……」

「知らなかったんだ、彼女が『アトラス院から脱走したホムンクルス』だったなんて」

「確かにちょっと普通じゃない感じはしたけど。まさかそんなことになっていたなんて……」

 

 堰を切ったようにカナウが言う。

 

「時計塔で魔術師たちが話しているのが聞こえたんだ、ホムンクルスが狙われているって」

「あいつら、まるで実験動物みたいにこの子を利用しようと考えているんだろ?」

「それで、打ち明けるわけにもいかなかったんだ」

 

「気持ちはわからなくはないわ。そもそも聖杯の器にわざわざ人間を選ぶことだって趣味が悪いことよ」

「それでも、すぐに打ち明けてくれなかったのは残念だけど」

 

 いつしかシャルロットの怒りは、だんだんと悲しみがこもり始める。

 

「魔術師にだって色々いる。でも私はそこまで人の心を失ったりしていない」

「あなたがもっと早く打ち明けてくれていたら、私とアーチャーで……」

 

――私とアーチャーで、何?

――助ける?

――なんで?

 

「……とにかく、あなたは私を信用せず、私はあなたを信用していなかったてことね」

「……ごめん」

 

――ここで手負いのセイバーを倒してしまえば、ホムンクルスは私のものになる。

――この聖杯戦争に優位に立てるかもしれない。

 

「うるさい」

「え?」

「……いえ、なんでもないわ。それより、気になったことがあるわ。どうにかしてそのホムンクルスと会話がしたいのだけど……」

 

 シャルロットが再び部屋の隅で縮こまるホムンクルスを眺める。

 

「どうも聞いていたのと事情が違うのよね。 "盗まれた" ってあの錬金術師からは聞いたけど、あなたにそんな芸当できるはずないし」

「アサシンのマスターの情報からして、あなたはただ匿っただけ……どうしてなの?」

「イザイ・エルトナムは嘘をついている。ホムンクルスが盗まれたと偽ってロンドンで聖杯戦争を……うーん」

 

 思考を巡らせるシャルロット。そこへしばらく黙っていたアーチャーが助言する。

 

「アトラス院はそこで作られたものを外へ持ち出すことを禁じられているはずだったな。だからこそ、 "盗まれた" と表現するしかなかったんじゃないか?」

「そうか、それならある意味ルールを破って外へ持ち出すことができる……狂言誘拐ってやつ?」

「自作自演ってことだな。でも何のために?」

「聖杯戦争を起こして、自分が勝者となるため……」

「……イザイ・エルトナムもこの聖杯戦争に参加している?」

 

 

 

「このホムンクルスが嘘をついている可能性は?」

 

 今も部屋の隅でうずくまるホムンクルスを指差してアーチャーが問う。

 

「なんとかして、話を聞けないかしら?」

「……やってみる」

 

 カナウがゆっくりとホムンクルスの少女に近づく。

 

「大丈夫だ、この人達は悪い人たちじゃないから…」静かな声でカナウは声をかける。

「悪い人になるかどうかはあなた達の態度次第だけどね」

「シャルロット!」

「冗談よ」

「わかりにくい!」

 

 カナウの説得もあり、恐る恐るホムンクルスは立ち上がり、二人の前まで歩いてくる。

 

「ずっとこんな調子で、普段は地下階に隠れてるんだが」

「……あなた、このロンドンまでどうやって来たのか覚えている?」

「……」

 

 ホムンクルスは一言も声を発さず、ただ首を横に振った。

 

「あなたは誰かに誘拐されてここへ来た?」

「……」

 

 首を横に振った。

 

「なにか覚えていることはない?」

「……水の中」

 

「水の中?」

「フラスコ……調整槽のようなものかしら」

 

「あなたを取り戻そうと魔術師たちが動いていることは知っている?」

 

 シャルロットが問うと、ホムンクルスは突然震え上がるようにして声を絞り出し、怯えだす。

 

「い、いやだ……生きたい、生きたい……」

「生への執着はあるのね……」

 

 

 

***

 

 

 

「……だめね。有益な情報は得られないか。こりゃいよいよイザイ・エルトナム本人に聞くしか……」

「なんとか、この子を逃がすことはできないのか? どこか魔術師の手の届かないところへ」

「無理ね」

 

 すでに時計の針を頂上を越える。

 いくつかの問答を終えてシャルロットはきっぱりと答えた。

 

「時計塔の魔術師がイギリスから出る船、飛行機を見張っている。今まで見つからなかったのでさえ奇蹟に等しいのよ」

 

――それに、とシャルロットは続ける。

 

「仮に脱出できたとして、ホムンクルスの寿命は短命なの。そもそも何か用途があって創られる存在というのは長生きしても仕方のないことだから……」

 

「どうしてそんな残酷なことが言えるんだ君は…!」

「こんなことで残酷と言っていたらこの先やっていけないわよ、あなた」

 

 不意にシャルロットが腕を振り上げると、カナウ・アルバーンの胸ぐらに掴みかかる。

 

「よく聞きなさい! そこにいるのは人間じゃないわ、魔術師の目的のために創られ、捨てられていく存在なの! 道具なのよ!」

「違う! だって……人間の姿をしているじゃないか」

「目を覚ませ! 正義の味方を気取るのは本の中だけにしなさい! 本当に死ぬわよ!」

 

――どうして自ら地獄へ向かおうとするのか。

 

「ねぇ、どうしてなの!? 数日前に匿っただけの、ただのホムンクルスのためにどうしてそこまで意地になるの!」

「困っている人を助けたいと思うのは当然のことだろ!」

 

 怒号の応酬が続く。

 その様子をハラハラしながらアーチャーは眺めていて、セイバーは目を閉じる。

 

「セイバー?」

「……」

 

 傷を抱えたままのセイバーを見つめるアーチャーは同時に彼女に違和感を覚える。

 セイバーはなおも傷口を自身の腕で抑えていたが、こころなしか先程よりもその顔色が明るくなっていた。

 

――昼間は身を挺してかばいに入っていたはずなんだが。

――傷のせいか……? いや、それにしては……なんだ、この違和感は。

 

 そうこうする間にも、喧嘩は苛烈を極める。

 

「そのせいで死ぬかもしれないのよ! あなたは! 救う必要のないもののために自棄になって命を落とすのよ!」

「救う必要のない人なんていない!」

 

――ただの人間が。

――なんでもないひとりの人間が、どうしてそこまで命を張れる?

 

 彼女は怒っている。

 

――言うことを聞かないで、勝手なことばかりするから?

――本当にこの男のことを心配しているから?

――ただ自分の言うことを聞かないから?

 

 何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。

 

 プツンという音がした。

 次に自分が何をするべきかは不思議とすぐに分かった。

 

 

 

「アーチャー……」

 

 カナウの胸ぐらを放って、シャルロットはつぶやいた。

 

「いいのか、マスター?」

「このままこの男のもとにおいておいて、万一聖堂教会や他の手勢に奪われたら時計塔のメンツは丸つぶれよ」

 

 シャルロットが堂々と宣言する。

 

 

 

「ホムンクルスをぶっ壊す」

 

 その宣言の後、セイバーの目が見開かれた。

 

 

 

***

 

 

 

 シャルロットの宣言から間髪入れずして、冷酷にもその砲塔はホムンクルスに向けていた。

 彼にはわかりきっていたことである。

 目的達成のために手段を問わない、それがシャルロット・ロジェだ。

 だから彼女の合図にいち早く応えるのが筋だと考えていた。

 召喚されて間もない時間ではあったが、マスターの行動方針は把握していた。

 

 たとえそれが見た目では少女にしか見えないほどのソレを撃ち殺すことになろうとも。

 

――自分に悪属性という柵があってよかった。

――この俺が、この地で悪者でよかったと心底思った。

――でなければ俺は戸惑っていただろう。戦争はいくらでもやったが、一方的な虐殺はそれとは一線を画す。

 

 そして何より、アーチャーは予感していた。

 必ずこのサーヴァントが何かをしでかすと。

 "千里眼" だなんて大層なことは言わない、こういう勘は人間誰しもが持つものだ。

 

 砲塔から爆音が響くよりも前に、目にも留まらぬ速さでセイバーが剣を抜くとアーチャーが振り上げた砲塔を床に押さえつけたのだ。

 遅れて金属の鈍い音が反響し、続いて命を狙われたことを悟ったカナウが反射的にホムンクルスの腕を掴む。

 

「……!」

「こっちだ!」

 

 部屋の窓ガラスに体当たりをする。

 派手な音ともにガラスが割れると同時に二人は外へと飛び出す。

 

「……ったくよぉ次から次へと、まともに戦わせてくれる英霊がいないってのは腹が立つんだよなぁ!」

「くっ!」

 

 構うものかと、アーチャーが砲塔でセイバーを押し返す。

 

――敏捷では負けているものの、筋力では俺に分がある!

 

「アーチャー!」

「こっちは任せろ! セイバーのマスターを追え!」

「頼んだ!」

 

 

 

 しのぎを削りながら互いににらみ合う両者。

 余裕があるのかアーチャーが体を震わせながらも、セイバーに問うた。

 

「ずいぶん大人しいと思ったら、いっちょ前にタマがついているみたいだなぁ、アンタ!」

「……その汚い口を閉じろ!」

「ハッ! 手負いの分際で生意気言いやがる。 状況がわかってるのか!」

「ぐぅ……!」

「ここで脱落させるには惜しいが仕方ねぇ、悪いが一気にカタをつけさせてもらう……」

 

 そしてアーチャーの背後から砲塔が一台浮かび上がる。

 

「ラ・マルセイ……」

「やむを得まい……!」

 

 アーチャーの砲塔を抑えていたセイバーの剣が光り輝く。

 叫ぶようにその宝具を叫ぶ。

 

「クラウ・ソラス!」

「なにぃ!?」

 

 まばゆい光が暗い部屋の中を突き抜け周囲を照らし続ける。

 視界を奪われたアーチャーは立ちつくすしか無い。

 

 

 

「……くそっ、逃げられたか!」

 

 

 

 地団駄を踏むアーチャー。そして思考を再開する。

 

「今の宝具……だが、あいつは真名が……どういうことだ?」

 

 暗い部屋、割れた窓ガラスを呆然と眺めひとり取り残されたアーチャーは未だ閃光に混濁する意識を正そうと頭を振る。

 

「何がどうなってやがる……セイバー、お前は一体何者なんだ」

 

 

 

***

 

 

 

 ロンドン 某所

 

『状況はどうだい、キャスター?』

「君の推測通り、彼は動き出した。おそらく聖堂教会のところだろう」

『アバーラインは彼を受け入れるだろうか?』

「受け入れるしかないだろう、あいつは監督役なんだ。脱落者を保護する責務がある」

 

 念話を通して何者かと会話をするサーヴァントが立っている。

 キャスターのサーヴァントは笑みを浮かべながら走り去るふたりとひとりの姿を見送る。

 

「もっとも脱落したからと言って助かるとは限らないけどね。それを教えてくれないなんて、あのアバーラインという男も趣味が悪いよ」

『まあそう言うな。やり手なのさ、彼は。何事もにも妥協しないのが取り柄でね』

『こちらも先程ミランダ・ウォルフォークから連絡が入った。カナウ・アルバーンがホムンクルスを保護していると、ランサー、バーサーカー陣営にも情報をリークしたらしい。これから荒れるぞ』

「楽しげに言ってくれるじゃないか……私の仕事は増えるばかりだよ。その上宝具を使うなと言うんだからね」

『それは奥の手なんだ。私の計算では彼らだけの力ではグリムドッグはまず御せないからね』

『君なら大丈夫だ。なにせ君は、あの花の魔術師と同等の "冠位" を持つべきサーヴァントなんだからね』

「買いかぶりは迷惑だ」

 

 そう言いながらもキャスターの口調は明るい。

「さて、それじゃあ小童共の相手をするとしよう。ランサーとアーチャー、どちらも相手にとって不足なし。グリムドッグ戦前の軽い肩慣らしとしよう」

 

 抱えた杖を持ってコツンと地面をつく。

 キャスターを中心に魔力が広がる。高次元の陣地作成が行使されていく。

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