―ナポレオン・ボナパルト、英雄よ。
―ヨーロッパの征服者、フランス皇帝。
―私の憧れだった存在。
あらゆる苦悩をものともしない戦の天才。
革命児、民衆の英雄(エロイカ)よ。
―なぜだ。
―結局は彼も俗物に過ぎなかったというわけか。
―やつが戦っていたのは人のためではなかったのか。
―人々の願いに応え、不可能を可能にする…そのような英雄ではなかったのか。
そしてベートーヴェンは、「ボナパルト」と描かれたそれを破り捨てた。
「友よ拍手よを。喜劇は終わった!」
振り払われる死の闇。死神犬の固有結界 "告死十字" は崩壊した。
ロンギヌスがまばゆい光で闇をかき消し、そこにはナポレオンが宝具で打ち出した "虹" がかかる。
―なんと美しい光景だろうか。
崩壊する固有結界の中で、ベートーヴェンは虹に魅了されていた。
"運命は斯く扉を叩く" はバーサーカーであるベートーヴェンが保有する "対心宝具" である。
シェイクスピアやダ・ヴィンチといった作家、芸術家が、時にサーヴァントとして召喚されることがまれにある。
戦いに関する逸話を持たない彼らがサーヴァントとしてどのように力を持つのか。
彼らは自身の創り上げたものを宝具として昇華され、その身に宿すことがある。
ベートーヴェンが保有するものもまさしくそれである。
対象の持つ歴史、過去を音楽魔術として再現し。力を与え、鼓舞する。
単体としての性能はそれだけのことである。
しかしながらこの宝具が与えるのは栄華だけではない、時にそれは "挫折" を相手にフラッシュバックさせ、"心を折る" ことにも用いられる。
古今東西様々な栄華、逸話、葛藤、挫折、絶望を持った英雄たちがいる。
ベートーヴェンはそれらすべてを蘇らせる。
宝具の発動を通して、ベートーヴェンはナポレオンの中に可能性を見た。
生前は和解することのなかったこの俗物皇帝だが、なんであれ人々の願いに答えようとする無限の彩色を見た。
―この男の持つものをすべて知りたい。
―もう一度この男を試してみたい。
憧憬の念でもってその後ろ姿を見送る。
そしてアーチャー、ランサー、バーサーカーの3人は再び元いた墓地に戻ってきた。
***
「固有結界が……崩壊する」
「アーチャー……無事よね?」
「……」
リャオ・ファン、シャルロット、エハッドが固唾を呑んで見守る。
闇が完全に払われると、そこからは4つの影。
死神犬は全身の毛皮を力なくたれながらも、四肢でもって未だに立っている。
固有結界の維持もできないほどに体力を消耗し、黒い毛皮にべっとりと血がまとわりついている。
「許さんぞ…許さんぞ…クソ魔術師共がぁ!!」
咆哮にもかつての勢いはなかった。
しかし満身創痍になりながらも死神犬は復讐の炎をなおもたぎらせる。
「おいおい、まだやる気かよ」
「固有結界などなくとも、ここはあいつのテリトリーだ。死神のためのエネルギーなんて掘り出せばいくらでもでてくるんだろ」
膝をつくアーチャー。
宝具の開放でこちらも魔力を消耗しているようだ。
ランサーもまたロンギヌスをしまうと、息の上がった様子で、死神犬を睨みつけていた。
「ランサー! 大丈夫か…?」
「ああ、宝具を使ったからな……ま、今更真名がどうのこうのって場合でもないだろ?」
「そうか、ロンギヌスで固有結界を……」
「ああ、バーサーカーのおかげで……隙ができた」
魔力をほぼ使い切り、息を切らせたランサーだが、表情は穏やかだ。
「バーサーカーが?」
「話はあとだ。それより……やっこさん、まだやる気みたいだぜ?」
アーチャーが力なく笑う。
―死の運命からは逃れられない?
―そうかもな。だが。
「俺たちの役目は終わりだ。あとは……」
アーチャーが目をやる。彼らの前に立つ騎士が一人。
「……」
「セイバー?」
セイバーが死神犬の前に立ちはだかる。
ランサーが動揺のあまり叫ぶ。
「おい、冗談だろ? お前一人で何ができるっていうんだ」
「ベイリン卿、あとは私に任せてください」
「ああ?」
ベイリンは不意に違和感を感じた。
―"ベイリン卿" とセイバーは今自分を呼んだのだ。
―俺をそう呼ぶのは……。
「なんだ……今の違和感は」
「無茶よセイバー! 宝具も使えないのに、グリムドッグ相手に……」
「……」
シャルロットの制止も聞かず、セイバーは何も言わずにアーチャーとランサーを守るように立つと、静かに剣を構えた。
「セイバー……?」
カナウは恐る恐る言葉をかける。
セイバーの表情はこわばっており、どこか悲壮感の漂うものだった。
「私の、最後の願いを聞いてくださいますか、カナウ!」
突然セイバーが声を上げる。
「令呪を使うのです。この私に "宝具を解除しろ"と」
「……えっ?」
―宝具の解除?それってつまり…。
動揺するカナウをよそに、死神犬の反撃が始まる。
恐るべき膂力であっという間にセイバーとの距離を詰めると、口にくわえた大鎌で一振り。
鈍い音がしてセイバーが衝撃で吹き飛ぶ。
かろうじて刃の斬撃は剣で不正だが、力量差は明らかである。
「……ぐぅっ!」
死神犬は何も言わず、獣の咆哮を上げる。
目を赤くたぎらせ。捕食者の表情にかつての人間の面影はもはやない。
「完全に意識を飲まれたようだ。死神の権能を制御する理性ももう……」
バーラインが冷や汗を浮かべてショットガンを構え直す。
―セイバーがやられれば次はアーチャー、ランサー、キャスター、そして自分か……。
「キャスター、ここまで来て何もしないというのはさすがの私も……」
「大丈夫だよ、アバーライン。セイバーの秘策が見られるようだ」
「秘策だと?」
―あの状況から何をするつもりなんだ?
「セイバー!? どういうことなんだ?」
カナウの困惑をよそに、死神犬の猛攻は続く。
大鎌の一振り、爪の一撃は苛烈に、凄烈にセイバーを追い詰める。
「……っ! カナウ! セイバーの言うとおりに!」
「エハッド?」
何かに気づいたのか、エハッドがカナウに叫ぶ。
「サーヴァントを信じて! 君の召喚に応じたセイバーだ! きっと何か策があるんだ!」
「……!」
―セイバー、真名を思い出したということなのか?
―それとも。
「令呪を持って命じる!」
そしてカナウの手の甲から赤い光が剥がれるように宙に広がり、帯となってセイバーを包み込む。
「宝具を解除せよ!」
「そう、それでいい。カナウ」
***
理性を失った死神の大鎌が再び迫る。
再び斬撃はセイバーの剣に阻まれる。
しかし今度はセイバーの体が吹き飛ばされることはなかった。
令呪の輝きを得たセイバーが、堂々とした立ち振舞で攻撃を受け流す。
赤い光に包まれた剣は、次第に青い光に輝きだす。
剣は形を変えると、金装飾がまばゆい、洗練された姿の青い聖剣に変わり果てた。
「何が起きている?」
「あの光……まるで」
アーチャーは訝しげにセイバーを見つめる。
ランサーは動揺のあまりに開いた口が塞がらない。
「湖の光! あの剣はまさか!」
「アロンダイト! なんで!?」
ハッとするシャルロット。
シャルロットが見たセイバーのステータスが、以前に見たものとは変わり果てている。
「いや、ステータスが変わっというより、書き換えられている…?」
「宝具でランスロットの力を呼び起こしたとでもいうの!」
「ランサー、どういうことなんだ! あのセイバーは一体?」
「いや……あいつは、円卓の騎士とも、王様の部下とも違う。でもアレは確かにアロンダイト……」
「輝きは水面の如く。爛々と燃え盛れ我が聖剣!」
周囲の同様など構うはずもなく、騎士は立つ。
セイバーが詠唱すると、青の輝きはさらに増す。
まるで湖面に差す光のように。
死神犬が最後の突撃をしかける。
牙が、鎌が、爪が、死がそこまで来ている。
「"縛鎖全断・過重湖光"!」
そして湖の輝きが墓地を青く照らした。
***
湖の輝きは死神犬の体を大きく切りつけた。
体に切りつけられた傷から美しい青い輝きが広がり、魔力が拡散していく。
「グルルルル……!!」
巨大なエネルギーの斬撃にあてられた死神犬が断末魔を上げる。
爆発が起こり、周囲の景色を吹き飛ばす。
爆風が収まったところに、死神犬がなおもよろめかせながら立ち尽くしていた。
「セイバーの宝具、すごい……」
「しかし……死神犬はまだ生きている」
エハッドが目を見開いて、戦況を見守る。
バーサーカーはいたって冷静で、死神犬の耐久力に畏怖する。
「ハァ……ハァ……」
セルデン・オースティンはすでに限界を迎えていた。
とっくに立ち上がる力はないが、、執念とも呼ぶべきそれが彼の体をそうせていた。
―こんなところで。
―こんなところで、くたばってたまるか!
―俺の復讐が、こんなもので……!
「……む? な、待て!! どこへ行く気だ!」
最初に異変に気づいたのはアバーラインだった。
あとを追いかけようとショットガンを数発打ち込むが、セルデンには届かなかった。
セルデンは最後の気力を振り絞ると、踵を返して、サーヴァントたちから背中を向けて逃亡を始めた。
「逃げられる! どこへ行く気だ! サーヴァントたちよ、追うのだ! ここでしとめないと…」
「心配するなアバーライン。あれはもう霊核を破壊されている。森から出られずに消滅していくだろう……」
「……」
そういって体をひきずって逃げ出すアヴェンジャーの後ろ足を指差すキャスター。
体を維持できない部分が金色の粒子となって戻るかのように天に消えていくようだった。
死の運命はひとまず振り払われた。
***
剣を片手に立ち尽くすセイバー。
いつの間にか握っていたアロンダイトはもとの姿に戻っていた。
恐る恐るカナウがセイバーに近づく。
「セイバー……大丈夫か?」
「……マスター」
振り返るセイバー。
「あなたに謝らなければならないことがある」
悲痛な表情を浮かべて、セイバーは打ち明けた。
「私は真名を思い出せないのではありません。 "言いたくなかったのです"」
「だから、宝具を使っている素振りも、その真名も隠していたのです」
「あなたに、失望されると思っていたから」
***
"アロンソ・キハーノ" それこそが私の本当の名前である。
本名を言われても、この人類史でおそらくピンとこない人間のほうが多いだろう。
しかしこう言えばわかるだろうか。
"ラ・マンチャの騎士" ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。
己を遍歴の騎士と自称した騎士。
しかしながら構えた槍はボロボロ、乗っているのは馬ではなくロバ。
騎士と呼ぶにはあまりにもみすぼらしい、ただの気狂いの老人である。
「ただ己が騎士である」という思い込み、狂気にも近いその信念で世界を旅したという喜劇の騎士。
しかしながらあらゆる騎士道文学を読みふけり、その伝説に触れ、ときに友人であるかのように吹聴し振る舞うその姿を、英霊の座が "騎士道の探求者"として解釈したものである。
アロンソ・キハーノは召喚され、その名が喜劇として現代で語り継がれていることを知った。
みすぼらしい老人で、みっともない醜態を晒して周囲の人間を笑いに誘う道化のような存在。
彼女は己の存在を恥じた。
自分には英霊としての資格がないのではないかと落ち込み、悩んだ。
命のやり取りが行われる聖杯戦争。
そんな中で世間の笑いものでもある自分が召喚されたらマスターはどう思うのだろうか?
「私は怖かった。あなたに失望されることが」
うつむきながらセイバーが重たい口を開く。
「私には私自身の力などなにもない。この宝具は私の知る騎士道の英雄たちが持つ聖剣を一度のみ"再現"するだけ」
「私にできるのは過去の英霊の力を借りて、戦うだけ」
「私は英雄などではない。私はまともな騎士ではない」
「私はただの偽物の英霊、気狂いの老人なんだ……マスター」
私はどうしたらいい?
許しを請えばいいのだろうか?
―カナウは私はどう思っているのだろうか?
***
「ドン・キホーテ……なるほどそういうことか」
「バーサーカー、ドン・キホーテってあの?」
「スペインを起源とする遍歴の騎士。騎士道文学の読み過ぎで自らを騎士と自称するようになった女か」
「ドン・キホーテって女だったのか?」
驚いた様子でエハッドがつぶやく。
「彼女は遍歴の旅の途中で様々な "屈辱" も受けたという。文学にするにあたって、 "女性のそのような姿" を描写することを避けるために、現代では男として書かれているようだがな」
「ああ、そういえば……結構ひどいのもあったよな」
それにしてもドン・キホーテがセイバーのサーヴァントときたか。
確かに広義で言えば、彼女も騎士と言えるだろうか……?
「いや、しかし。喜劇の主人公がまさか、聖剣使いたい放題のトンデモサーヴァントになってるなんて誰が予想できる?」
「アロンダイト……ランスロットの聖剣を、一度きりとはいえ使ったのか」
ランサーもまたじっとセイバーのサーヴァントを見据える。
「ランサー、あのセイバーは危険だ。はやいところ僕らで……」
「いや、だとしても俺達の敵ではない。手負いの死神犬も倒せないほどのランクにまで下がってる」
―おそらく "再現" するにしても、ランクは数段下がっている。
―本物の湖の聖剣の力はこの程度ではすまない。
「しかし、聖剣を再現か……いや、さっき認識阻害の宝具を解除してからアロンダイトを使用していた。ということは再現できるのは聖剣だけでなく逸話もだ」
「前提としてアロンダイトの使用には "宝具の封印" が必要となる。宝具解除後にセイバーのステータスが変化したということは、セイバーは情報を隠蔽するスキルで、ずっと正体を隠していたということだ。俺のこの兜のようにな」
―もっとも、この聖杯戦争じゃ、情報隠蔽のスキルは対して役に立ちそうもないがな。
「だが、マスターにすらそれを隠していたとは……サーヴァントとしては三流もいいところだ」
「まず間違いなくハズレのサーヴァントだ。聖杯戦争で生き残る可能性は低いだろう」
「どうでる……セイバーのマスター」
***
「セイバー」
カナウが声をかける。
「もっと早く言ってくれたら……」
「申し訳ありません、マスター」
うつむいたままアロンソ・キハーノは謝罪する。
「どうして謝るんだ、アロンソ・キハーノ」
「私はあなたを騙していたのです。騎士としてこのような」
「何も恥ずかしいことじゃないさ、セイバー」
カナウは続ける。
「君がいなかったら、死神犬は倒せなかった。君は騎士としての役目を果たしたじゃないか、今ここで!」
「カナウ……しかしそれは」
「俺は確かに今、ここで君の騎士道を見届けた。そこに何の疑いもない」
「君は騎士道を見せてくれたんだ。もう自称の騎士なんかじゃない!」
「誰がなんと言おうとセイバー、君が俺のヒーローなんだ」
「もっと夢を見ていいんだ。夢を見ることが君の力なんだと思う」
セイバーは目をみ開いてカナウを見つめる。
カナウもまた真っ直ぐセイバーを見て、答える。
「こんな私でもサーヴァントとしてそばにお仕えすることを許してくれるのですか?」
「あたりまえだろ!」
―私はこのマスターのことを心の底から信頼できていなかったのかも知れません。
―しかし彼になら、彼こそが私の。
「カナウ……では私は、これからも貴方をお守りする騎士として、ともに歩きましょう」
膝をつくアロンソ・キハーノ。頭を深々と下げて、そして忠誠の誓いをたてた。
周囲のサーヴァントは、セイバーの "進化" を感じ取り、様々な思惑で二人を見ていた。
***
「まったく無茶をしたわね、アーチャー。魔力もこんなに消費するなんて…」
「バーサーカーの宝具がなければ、あいつに一撃食らわせることは不可能だっただろう」
―イギリスで、征服者として召喚された俺が、まさか "人々の願い" なんてものに感化されるとはな。
一人苦笑いするナポレオン。
墓地で小さな鍋を広げるシャルロット。薬草魔術、ウィッチクラフトは彼女の得意分野の一つである。
「細菌による感染症の心配は無さそうね、さすがはサーヴァントだわ」
煮汁を染み込ませた包帯をアーチャーの肩に当てる。
「おお、こりゃいいな。お前にこんな特技があったとは」
「バックアップなら万全よ。あなたはこの後のことでも考えてなさい」
「この後のこと?」
「死神犬は倒した……ということは私達はまた敵同士。アバーラインの進言で今日のところは休戦ってことだけど、正直アサシンとかキャスターとか怪しさマックスよ。あいつらがどう出てくるのかまるでわからない」
―それにランサーとリャオ・ファン。彼とは個人的に決着をつけたくはあるわね。
「バーサーカー、ベートーヴェンはどうなんだ? あいつもなかなか厄介そうだが」
アーチャーが固有結界の中で来たことをシャルロットと共有する。
「悪辣な精神攻撃宝具ってことね……嫌らしい」
「ところが、使いようによっては他者を鼓舞することもできるらしい。真名を掴まされてる俺達には悪用されたら厄介だな」
「あなたが宝具を使われるとしたら、敗戦の記憶とかかしら?」
「いや」
アーチャーは自信ありげに答える。
「女にフラレた時の方がもっと辛い」
***
アバーラインはコートからスマートフォンを取り出すと、どこかの番号へかける。
「……ライダーの討伐戦は無事完了した。消滅を確認したわけではないが霊核は破壊した。そのうち消滅するだろう」
「ああ……これから聖堂教会の方に戻る。ヤードへの対応も私が……ああ、了解した」
電話を終えると、今度はタバコを取り抱いて一服する。
―サーヴァント戦闘をこんなに間近で見られるとはな。
監督役という職務上、こういった機会も訪れるのではと内心期待していたアバーライン。
人智の及ばぬ力を使いこなす英霊たちに驚嘆の息を漏らす。
まだ明けない夜の中、遠くを眺めてぼんやりしていると、後ろから機械の羽音が近づく。
「魔術師とは思えない珍妙な手だな、ミランダ・ウォルフォーク」
「ここはカメラがありませんし、使い魔のゴーレムはかえって怪しまれます」
「知っていますか、アバーライン? 高度に発展した科学は魔術と見分けがつかなくなるのだとか」
「……フン」
「それで、当面の脅威であったライダー……もといアヴェンジャーもいなくなったことですし、ホムンクルスをアトラス院に返還するべきでは?」
「後日改めてカナウ・アルバーンを尋ねる予定で、そこで引き渡し、アトラス院に返還となる」
「のんびりしてらっしゃいますわねぇ」
「カナウ・アルバーンは非魔術師の青年だ。彼にも心の整理をつける時間が必要だろう」
「まあ、神父様。なんてロマンティックなのでしょう」
スピーカー越しにミランダの声が響く。
「でも職務怠慢も考えものですよ。でないと私のアサシンがまた勝手に動き出してしまいますから」
「アサシンは何を企んでいる? 討伐司令にも参加しないとは……」
「ふふふ、さあて、ね。でももう関係のないことですわ」
「なんだと?」
スピーカー越しにわかるほどミランダの声が低く、不気味になる。
「明日のニュースを楽しみにしておいてくださいね、Mr.アバーライン」
その声を最後に、ガタガタという音を立てて、ドローンは動かなくなった。
「……」
―嫌な予感がする。
ランサーのマスター、リャオ・ファン。
アーチャーのマスター、シャルロット・ロジェ。
バーサーカーのマスター、エハッド・ティーレマン。
セイバーのマスター、カナウ・アルバーン。
四人のマスターはまだ若い、そしてこの聖杯戦争での立ち位置についてはアバーラインもようやく把握仕掛けてきたところだ。
―しかしながら、残るはミランダと、キャスターのマスター。
―アトラス院の錬金術師にして、自らの奪われたホムンクルスを探すというイザイ・エルトナム。
「彼らの思惑は一体……」
表立った動きがないだけに、彼にとってはこの二人こそが悩みの種であった。
「何を企んでいる、イザイ・エルトナム……」
聖杯戦争の開始からおよそ一週間が経とうとしていた。
ランサーのベイリン、アーチャーのナポレオン、セイバーのアロンソ・キハーノ。
ようやく主要キャラ3人の立ち位置が確立されました。
Fateといえばやはり三騎士ですからね。今後も掘り下げていきますよ。
そしてライダー討伐編は一旦終わり、次回からはいよいよアサシン、キャスターにもスポットライトを当てていく所存。
ちなみに聖杯戦争の七騎は完全に趣味で選びました。
投稿に2年以上かけてるせいかナポレオンが実装されたりバーゲストやらオベロンが実装されたり、ロンギヌスがパーシヴァルの宝具で登場したり時代の流れを感じる…。