Fate/Apocrypha/Quantum   作:うおぬま

25 / 33
第三章 - 時計塔戦争
Ⅰ - 三帝問答


 ロンドン カナウの家

 

 セイバーのマスター、カナウ・アルバーンの家。

 その家のダイニングテーブルに、かつてのフランス皇帝ナポレオンが紅茶の淹れられたティーカップを片手に、ふんぞり返るように座っていた。

 この家で最も効果と思われる椅子をダイニングに抱えてくると、悪びれた様子もなくドカと置いたものだ。

 

 その偉そうな姿のアーチャーのすぐわきで、窮屈そうに彼のマスターであるシャルロット・ロジェが今しがたまで座っていたが、やはり暑苦しい男2人に板挟みにされて耐え切れなくなったのか席を外し、カナウと一緒にティーカップを手にしたまま後ろで立ち、この英霊3人の奇妙な同盟について思慮を巡らせた。

 

「それにしてもあのユーロとかいう紙幣にはたまげたものだよな」

「まさかヨーロッパの国中で連合ができてるなんて、だれが想像できるってんだ」

 

 そしてアーチャーの隣に座るのは壮年の風貌を残すバーサーカー。

 真名はベートーヴェン。こちらはマグカップに入ったコーヒーの香りを丁寧に楽しみながら、時折ズズズと熱い飲み物を啜るように音を立てて飲んでいる。

 

「それでいてなお、戦争も絶えないと聞く。やれ人間の未来を憂いたくもなる」

「まったくだ。武力でも、音楽でも結局俺たちの望む秩序ってのは得られないらしい」

(若者に愚痴をこぼすニュース番組のご意見番みたいなこと言ってる……)

 

 最後にそのふたりと向かい合うように座るのがセイバーのサーヴァント。

 今しがた判明した彼女の真名はアロンソ・キハーノ。

 またの名を"ドン・キホーテ"。

 飲み物がのどを通らない。

 

「人の家に上がり込んで、ずいぶんと好き放題やりますね、皇帝というのは」

「別にいいじゃねぇか。召喚されてからほぼずっと戦いっぱなしだったんだ」

 

「そういえばアーチャー、もうこれでキャスターとアサシン以外すべてのサーヴァントと一度戦っていることになるのかしら」

 

 ふとシャルロットが思い返して呟く。

 アーチャーの戦績はランサー、セイバー、ライダー、バーサーカー。

 どのサーヴァントとの戦闘でも引けを取らない戦いでここまで来ている。

 

(敵地イギリスでの召喚にもかかわらず、皇帝ナポレオンはここまで一定の戦果を収めている。サーヴァントとしての知名度、能力もそうだが、やはり聖杯戦争のマスター。シャルロット・ロジェの采配はすさまじいようだ)

 

 ティーカップ片手に指折り数えている20にも満たない少女を横目にエハッドは目の前のマスターの力量に目を覆う。

 

(いや普通に強いなこいつら……仮にこれが普通の聖杯戦争だとしたら一番の優勝候補かもしれない)

「っていうかこの状況は何なんです?」

 

 座り込む3人の英霊、そのそれぞれのマスターは後ろに立って事の成り行きを緊張した面持ちで見守っていた。

 耐えられず口を開いたのはカナウ・アルバーンだ。

 

 ライダーの討伐指令の翌日。

 バーサーカーのマスターであるエハッドから「同盟の誘い」が提案された。

 

「発案はバーサーカーなんだけど……確かに、ここまでの状況についてお互いに情報を整理する必要があるんじゃないか?」

 

 冷静にエハッドはそう発言した。

 

「それについては私も同意見ね」と、これはシャルロット。

 

「この聖杯戦争、ホムンクルスの正体、キャスターとアサシン……いまだ不穏分子が多いのは確かね」

「このままホムンクルスをアトラス院に引き渡して終わり……とはならないでしょうね」

「そもそも引き渡した後、サーヴァントたちはどうなるの? このまま消滅するのかしら」

「それは少し、不完全燃焼だな……せめてランサーとは命を懸けた殺し合いをだな……」

 

「順を追って情報を整理していこう」

 

 エハッドがノートパソコンを取り出してソフトウェアを立ち上げる。

 画面上にチェスボードのような盤面が映し出され、マウスで操作しながら盤上にいくつもの駒がおかれた。

 

 盤上の中心に、金色の聖杯の駒がおかれている。

 

「それじゃあまず、ここまでの経緯を振り返ろう」

 

 

 

「イザイ・エルトナム・アトラシア……まず彼女の通達により、このロンドンでアトラス院の兵器を奪った犯人がいるとして、ロンドン市内で犯人を包囲するべくマスターたちが選ばれた……」

「そうね。私はその場にいて、イザイやロード・エルメロイたちの話を聞いていた」

 

 当時のことを振り返るシャルロット。

 

「イザイが言うには、盗まれたのはホムンクルスで、それは聖杯戦争における聖杯のための器として製造されていたものだったと確かに彼女は言っていた」

「ああ、そのことなら僕も時計塔つてに聞いている」

「この状況は確かに聖杯戦争の形を成していると……言えるのかしら」

「聖杯の行方が聖堂教会にもわかっていないという点を除けば、概ねそうだといえるかもな、それで…」

 

 画面上のボードに浮かび上がる聖杯と、並べられる7基の駒。

 

「イザイの申し出により、時計塔とアトラス院の共同による、ホムンクルスの奪還作戦が組まれた。選ばれたのが七人のマスター……」

 

 『アーチャーのマスター、シャルロット・ロジェ。時計塔のマスターとして参戦』

 

「……ということでいいんだよな?」キーボードをたたきながら苦笑いでエハッドが尋ねる。

「監督役の話によると、ライダーのマスターは死亡したみたい。召喚時にトラブルがあったみたいで」

 

 

 

「私は確かに時計塔の魔術師としてこの作戦に参加しているわ、ひとまずはそのつもりよ」

「ひとまず、ねぇ……」

 

「アーチャーの召喚はロンドンで行ったわ、ホムンクルスの事件より後のことだから、盗んだのは私じゃないわよ」

「というか、ここにいるんだよな。あの子」

 

 ふとエハッドは部屋の外のドアを見た。

 カナウの家の一室、あのドアの向こうにマスターたちの探しているホムンクルスがいる。

 

「それで、エハッド・ティーレマン。あなたのことも聞きたいのだけど」

「俺も時計塔の魔術師としてこの作戦に参加している。そして、ホムンクルスは奪還してアトラス院に帰すべきだと確信している」

 

―かわいそうだとは思うけどね、と付け加えるエハッド。

 

「所詮はホムンクルス、魔術師の創造した道具のようなものだ。そんなものに憐みの感情を抱くほうが魔術師としてどうかしてる……俺はこれでもそれなりに力のある魔術師の一員であると自負している。そして功績をあげて名乗りを上げることも俺の代のつとめ、一大事業のようなものだとも思っている」

 

「だから、その時になれば俺は君たちと争うことになる」

 

 エハッドはそう言いながらセイバーたちを見る。

 重苦しい空気が再び色を濃くする。

 

「バーサーカー……本気ですか?」

 

 セイバーは神妙な面持ちで尋ねる。

 対してバーサーカーは沈黙を守った。

 

「……」

「……まあ、それは今は置いといて、だ」

 

 エハッドは再びキーボードをたたき始める。

 今度はセイバーとランサーの駒がボードで動き始める。

 

「俺も聖杯戦争の話を受けて、ここ、ロンドンでサーヴァントの召喚を試みた。アーチャーがロンドンに現れたのと同時期くらいだ」

「それを証明できる?」

「あぁ……一応証人なら」

 

 

 

「リャオ・ファン、ランサーのマスター……と出くわしてな」

「ああ……あなたのところにも来てたのね」

 

 あきれ顔でシャルロットがつぶやく。

 

「ちなみにカナウがセイバーを召還したのもその直後、証人は私とリャオ・ファンよ。私たちの目の前で召喚されたから」

「オーケー、わかりやすい」

 

『セイバーのマスター、カナウ・アルバーン。非魔術師のマスター。未知数』

 

「リャオ・ファンは、俺たちの中にサーヴァントを召喚してホムンクルスを強奪した犯人がいると考えている。それもかなり積極的に行動している。ふたりとも聖堂教会前での戦闘を覚えているか?」

「あいつ、時計塔の懲罰部隊まで借り出していた」

 

 リャオ・ファンが合図をすると、魔術礼装で武装した時計塔の魔術師が数人現れたのを覚えている。

 

「いくら精鋭だとしても人間の魔術師がサーヴァントに勝てるはずがない、おそらくけん制のつもりだったんだろうが……」

「キャスター……本当に自らをガンダルフと名乗ったのか?」

 

 エハッドの視線がカナウに集まる。

 

「あの銀の剣、魔術使いたちの武器を一度打っただけで粉々にしてしまった。"グラムドリンク"は切れ味こそ大したことないが、相手の武器を必ず打ち砕く性質がある最強の魔剣だ」

「白兵戦において最強の魔剣というわけか……厄介な」

「それにあの"指輪"も……」

 

―ガンダルフが取り出した指輪は確かにセイバーの傷を即座に回復させてしまった。「指輪物語」によれば"中つ国"のガンダルフはいくつかの魔力の込められた指輪を駆使して、エルフたちを導いたと本で読んだことがある。

 

「しかし、"灰色のガンダルフ"がまさかあんな女の子の姿で召喚されるとは思わなかったよ。というか彼はイスタリ(魔法使い)なんだろ……なんなら冠位の適正すらあるんじゃ……」

 

 エハッドはキーボードをたたく。

 

 『キャスター、灰色のガンダルフ。宝具多数、要注意、マスター不明』

 

 『ランサー、ベイリン。宝具「ロンギヌス」 要注意、マスター:リャオ・ファン』

 

「キャスターといえば……」カナウは続ける。

 

「キャスターが気になる言葉をいくつか残していた」

 

 

 

***

 

 

 

「……キャスターのマスターが?」

「セイバーたちに生き残ってもらいたい……ってどういうことだ?」

 

 アーチャーは怪訝な表情でカナウとセイバーを見る。

 

「まるで心当たりがないんだ……」

「その言い草だと、キャスターのマスターはホムンクルスのことを知っているように思えるが」

 

 バーサーカーは冷静に分析する。

 

「そういえばキャスターの召喚時期はまだわかっていない。そしてマスターも不明……」

 

「なあ、もしかしてキャスターのマスターはイザイ・エルトナムなんじゃないか?」

「ええ、イザイがキャスターのマスター?」

 

 意味が分からない、とシャルロットは反論する。

 

「イザイなら、ホムンクルスのことも知っているし、ホムンクルスが時計塔の手に渡らないようにカナウに協力するという筋書きは理にかなっていると思う」

 

 エハッドは相変わらずキーボードをたたき、確率を計算しようとする。

 

「そもそも、ホムンクルスを奪還するよう頼んだのはイザイじゃない。どうしてそんな回りくどい真似をする必要があるっていうのよ」

「……そもそもおかしいと思っていたんだ」

 

 エハッドは説明する。

 

「なぁ、普通に考えてアトラス院から無事に脱出なんてできるはずがないし……それほどの実力がありながら盗んだのはただのホムンクルスひとりだぞ? リターンがなさすぎる」

「でも、イザイが自らホムンクルスを脱走させたとなれば……」

 

―なるほど、一理あるわね。と、シャルロットはうなずく。

 

「狂言誘拐、みたいなものかしら。でもそうする目的は何?」

「わからない……」

 

 ため息をついてエハッドはうつむいた。

 

「だが、キャスターのマスターについて探りを入れるという手はありだと思う」

 

 紅茶を完食したアーチャーが腕を組みながらつぶやく。

 机に指をトントンとたたきながら持論を展開する。

 

「どちらにせよ、キャスターとアサシンはきな臭い部分が多い。あいつらには協力する姿勢が感じられないし、別の目的を持って動いているのはまず間違いないだろうからな」

「まずはキャスターのマスターだな……」

 

 エハッド、バーサーカー、シャルロット、アーチャー、の視線がカナウに集まる。

 

「は、はい」

「キャスターと接触を図ることはできるか?」

「わからない……連絡手段がないから」

「同盟といった割には、ずいぶんとほったらかしだな」

 

 やれやれといった様子でアーチャーはため息を漏らした。

 

「しかし相手は冠位適性もあるキャスターなのでしょう。こちらが会いたいと一声かければ向こうから姿を現してくれるのではないですか?」

 

 セイバーは提案する。

 

「何せガンダルフだからな……あながちありそうなのがまた怖い」

 

 コンピュータに打ち込まれていくデータ。

 

「ともあれ、今後の動きとして、我々はまずキャスターのほうに探りを入れるということでいいかな?」

 

 データを打ち終えてエハッドがモニターから顔を上げる。

 

「問題ないわ。キャスターのマスターたちには私とカナウの二人で調査する」

「え? 俺は?」

 

 困惑した表情でエハッドは自らを指さし尋ねる。

 

「あなたはアサシンのほうをお願い。聖堂教会の監督役なら何か知ってるかもしれない」

「監督役……アバーラインのことか」

 

 盤上に神父の姿をしたデフォルメのキャラクターデータが生成される。

 

『アバーライン、聖堂教会の監督役。強そう』

 

「なるほど、確かにアサシンのマスターと接触している可能性はあるな」

 

 

 

「アサシンのマスター、ミランダ・ウォルフォークなのよね?」

 

 三人は顔を見合わせる。

 

「アバーラインの話ではそうらしいが」

「ミランダ・ウォルフォーク……噂はいろいろ聞いているけど、所在は不明だ」

「彼女は特に用心深い性格だからなぁ。工房にこもりっぱなしなんだろう」

「サーヴァント、マスター、そろって厄介な相手だよ」

 

「彼女はどちらの味方だと思う?」

「正直キャスター以上に目的が分からないよな」

 

『ミランダ・ウォルフォーク、アサシンのマスター、所在不明、要注意』

 

「ライダー討伐戦にサーヴァントすら姿を見せなかった。ちょっと非協力的すぎないか?」

「明らかに怪しいわよね。私たちの争いから漁夫の利を狙っているのかも」

「アサシンの気配遮断スキルは厄介だ。いつ寝首を書かれるのかもわからない、恐ろしい連中だよ」

 

 狡猾で合理的な魔術師がアサシンのマスターになる、これほど恐ろしいことはない。

 

「監督役からなにか話が聞ければいいが……そっちは俺とバーサーカーが行くことにしよう」

「うむ、こちらは任せよ」

 

 

 

***

 

 

 

「さて、それでは我々の今後についてもひと段落したことだし……」

 

 ノートパソコンを閉じて、エハッドは大きく伸びをする。

 時刻は真夜中を回ろうとしていた。

 

「俺たちは一度帰るとするよ。これからよろしくな、二人とも」

「……」

 

 シャルロットとカナウは何も答えなかった。

 

「おいおい、何か言ってくれよ」

「あ、ああ。いや……」

「今は同盟だけど、私はやっぱりあなたたちとは最後には戦うことになるのだと思う。だから安易に仲良くするべきじゃないと思うの」

 

 シャルロットはいつもの冷たい調子で答える。

 

「……そんなこと、わかってるさ」

「だが、それでもお互いのことを今は信頼していかなきゃいけない」

 

―そうでなければ。

 

「そうでなければ、きっとこの戦い、誰も何も得られずに終わる。いや、得られずに終わるのならまだいい」

「これまでの亜種聖杯戦争がどのような終わり方をしたのか俺もすべては知らないよ、だけど……」

「こうして魔術師たちの歴史を振り返れば自ずと推測できることだ。この歴史に幾度となく発生の報告されている聖杯戦争で、成功を具体的に収めたことがわかる魔術師はごくわずかしかいないんだ」

 

―でも俺たちなら。

 

「でも俺たちならもしかして、まだ誰も見たことがない歴史を手に入れることだってできるんじゃないか?」

「その歴史が人間にとってどんな意味をもたらすのかはまだわからない……でも」

「俺は一族の名に懸けて、どんな結末になろうともそれらすべてを刻んで生きていく」

「この瞬間に俺は立ち合いたい。そのために生きてきたといってもいい」

「だから最後まで思った通りの道を突き進むよ」

 

 

 

「お前たちはどうなんだ?」

 

 エハッドは真剣な表情のまま、テーブルに集う英霊に問う。

 

「"アーチャー"ナポレオン、"バーサーカー"ベートーヴェン、"セイバー"アロンソ・キハーノ」

「人類史の英雄たち、お前たちはこの世界にとって何者で、何を遺す?」

 

「私は……」

 アロンソ・キハーノはうつむいて何も答えられなかった。

 

「……」

 ベートーヴェンは何も答えず目を閉じた。

 

「……フン」

 ナポレオンは気に入らないといった様子でただエハッドをにらみ返した。

 三人の態度がそれぞれの思惑からくる違いであることはこの場の誰もが理解した。

 

 

 

「私は偽物の英雄です。そのような私が、この世界に遺せるものなど大したものではありませんよ」

 ふいにセイバーが口を開いた。

 セイバーは自嘲気味に自らを卑下した。

 

「私が向かうところは、ただひとつ」

 胸に手を当ててセイバーは目を閉じて、しかし力強く答えた。

 

「マスターであるカナウと、彼女の助けに応じ、彼らを最期まで守り抜くこと、私を騎士として呼んでくれるすべての人々のために戦い抜くこと、それだけです」

「いうなれば私が遺すものは人々の……個々の思い……それだけだ」

 

―私という安い存在で、彼らの平和が得られるというのなら安いものです。

―もとより私などその程度の価値しかないサーヴァントなのだから。

 

「セイバー」

 

 カナウはセイバーを切なそうに見るだけだった。

 

 

 

「セイバーには悪いが、俺にはある。聖杯にかける望みってやつがな」

 

 次に答えたのはナポレオン。

 

「フランス皇帝となるという俺の選択は間違っていない。すべての人間に、それを証明する」

「それが侵略者たるこの俺の野望である」

「再びヨーロッパを手にする。俺が人々に与えるのは秩序だ」

 

 自ら指差し、力強くナポレオンは答えた。

 

「過去の英雄だろうと、歴史の遺物だろうが関係ない。力のあるやつだけが人を導く!」

「"力"だ。力は秩序を生み、秩序は平和をもたらす」

 

「俺は再びこの世に肉体を手に入れ、ヨーロッパ……いや、この世界すべての征服者となる」

 

「ほ、本気かナポレオン?」

 

 苦笑い気味にエハッドが茶化そうとして、シャルロットと目が合う。

 彼女の目は決して笑っていなかった。

 

「マジ?」

「大マジよ、このフランス皇帝」

 

「ハッハッハ、この俺がイギリスに召喚されたのもある意味じゃ運命なのかもな」

「すべての歴史を塗り替える偉業だ。ぬかりなくやらせてもらうからな」

 

 

 

「バカバカしい理想だ。ラ・ベル=アリアンスを忘れたのか、俗物め」

 

 腕を組みながら聞いていられないといった様子で、ベートーヴェンは口をはさむ。

 

「死者の力が未来に影響を及ぼすなど言語道断」

「この世界はこの時代を生きる者たちだけのものだ」

 

「なら、お前は英霊として、この世界に何を遺す?」

「"種"だ」

「種?」

 

―意外な答えだ。全員がベートーヴェンを見た。

 

「それらはただ存在するだけの木だ。力はない。だが……」

「木々は木陰をつくり、果実を実らせ、災害を防ぎ、人々を守る屋根や壁となる」

「私は死んでも、私というあり方そのものが人々のよりどころとなる」

「力で支配する必要などない。人間は自らで歩む生き物なのだからな」

 

「私はこの世界に種を残す。それをどうするかは、お前たち若い者の選択次第なのだ」

 

 

 

「さすがは……あの"合唱"交響曲を作曲したベートーヴェン」

「なんというか、一番説得力のある事言ったわね。本当にバーサーカー?」

 

 シャルロットとカナウは最も納得したという様子でベートーヴェンを尊敬のまなざしで見た。

 

「おい、マスター。お前は俺とベートーヴェン、どっちの味方なんだ?」

「わかってるわよ。私たちの野望だって崇高なものだわ」

「力でねじ伏せるなど、もっとも野蛮な行為です。騎士としてそれはたださせてもらいます」

「ふん、できるものならやってみろ、偽物の英雄ドン・キホーテ」

 

 机を挟んでセイバーとアーチャーがにらみ合っていると、突然ダイニングのドアが開いた。

 

 

 

***

 

 

 

「……」

「君は……」

 

 やせ細った紫色の髪の少女がドアを開けてダイニングに入ってくる。

 

「彼女が……アトラス院のホムンクルス?」

 

 エハッドがカナウに耳打ちして尋ねる。

 

「ああ、そうだ」

「……なんていうか、人間の姿をしているけど人間離れした雰囲気もあるな」

 

―いつもは人が来るとおとなしく隠れているのに、珍しいな。

 

 カナウは疑問に思いながらも、ホムンクルスの少女に近寄る。

 

「どうしたの?」

「英霊たち……人類の光、人類の遺産……空に輝く星々」

「あなたたちは何者なの……?」

「この子は何を言おうとしている?」

 

 カナウがふとホムンクルスの目を見た。

 目の奥で混沌とした色彩の、炎のような揺らめきが沸き上がるのを見た。

 体が輝き始め、そこだけ重力がなくなったかのように空気が彼女の周りにまとわれ浮かび上がる。

 

「なんだ、何が起きている?」

「わからない……ホムンクルスが……」

 

 ふとカナウは彼女の体が最初に見た時よりも成長していることに気づいた。

 

「体が大きくなっている……これもホムンクルスの力なのか?」

「いや、いくらホムンクルスでもこんな急成長することってあるか?」

 

 3人がかたずをのんで見守っていると、成長はある時突然止まった。

 

「……私は叶える。人類のすべての願いを」

「私は祝福する。人類のすべての在り方を」

 

 少女はつぶやいた。そして光がおさまったあと、そのまま床に倒れ伏す。

 

「それはいったいどういう……」

 

 エハッドが言葉の意味を咀嚼する。

 

「待って!」

 

 シャルロットが慌てて倒れた彼女に立ち寄る。

 手を当てて、ホムンクルスの少女の額に手を当てる。

 額に当てられた手はひどく冷たい。

 息遣いが荒く、苦しむようにせき込んだ。

 

 体中に張り巡らされたホムンクルスの魔術回路は弱弱しく光っている。

 

 

 

「エネルギーが付きかけている……このままじゃ彼女、活動停止する」




三章はじまります。
人々個々の意志を守ろうとする騎士、セイバー。
人々を力で支配し導こうとする皇帝、アーチャー。
世界そのものを維持し、人々を見守ろうとするバーサーカー。
そして未知数が多い、腹に何か抱えたランサー。

三章の軸となるのはこの4陣営。
そしていよいよホムンクルスの少女やこの聖杯戦争の秘密についても触れていくことになります。

ライダーも討伐したし!
ホムンクルスをアトラス院に返してこれで終わりかな?

そんなわけないでしょう!むしろここからなんですから。

遅筆なせいで気が付いたらFGOのほうでドン・キホーテがランサーで実装されてて笑いました。
これもしかしてベートーヴェンとかベイリンも来るんじゃないか?さすがに来ないか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。