Fate/Apocrypha/Quantum   作:うおぬま

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第四章 - 量子の魔術師
Ⅰ - 乾杯


 ロンドン東部 病院

 

「……犯人の行方はいまだ掴めておらず……」

「市内の大学で薬品の爆発事故が……」

 

 どこからか聞こえるニュース番組の音。

 病院の玄関ホールの壁に取り付けられた巨大ディスプレイに浮かび上がるのは、仇の顔だった。

 

 ロバート・アバーライン刑事の不愛想な顔写真が画面に表示され、コメンテータたちはこぞって彼の経歴について様々なコメントを出している。

 

 時計塔での抗争から二日が経過した。

 その間、聖杯戦争のマスターたちの間に大きな動きはなかった。 

 

 これまでの苛烈な戦いが嘘であるかのように、生き残っているマスター全員がまるで示し合わせたかのように動きを見せず、不気味な膠着状態が続いていた。

 

 

 

 右腕を切断され、令呪ごとアーチャーを奪われたシャルロット・ロジェ。

 彼女は聖堂教会の管理するロンドン東部の病院へと搬送されていた。

 今日になってようやく面会が許可されるようになったので、セイバーのマスターであるカナウ・アルバーンがここを訪れていた。

 

「ここだよな……」

 

 この病院では聖杯戦争に巻き込まれた負傷者たちの治療や記憶の処理を施している。

 普通の病院では診られない魔術や呪いによる病状。様々な事情で怪我を負った魔術師たちの治療を行う。

 ロンドンでの聖杯戦争にあたって、聖堂協会は魔術協会と協力して「神秘の秘匿」に尽力している。

 人口の多いロンドンにとって、いかに民間人に悟られず儀式を遂行するかは彼らにとって最大の課題である。

 今しがたテレビで流れているニュースの数々も、聖堂教会が事件の真実を隠蔽し、代わりとなるシナリオを用意したものだ。

 これまでロンドンでの魔術師による騒動は、ロンドン警視庁とも顔なじみであるアバーラインによって処理されていたのだという。

 しかしそのアバーラインが聖堂教会から離反した今、教会の方でも大混乱が起きていることだろう。

 結果としてアバーラインは聖堂教会と魔術協会どちらの側からも狙われる立場となり、今もその居場所について議論が交わされている。

 

 受付を済ませると、病室の番号を教えてもらい、カナウはエレベーターに乗り込んだ。

 上階に上るエレベーターからテムズ川周辺の景色が一望できる。

 外側から見たロンドンの時計塔は、いつも見ていたあの景色と何ら変わらない。

 しかし、そのテクスチャを一度はがしてしまえば、中は魔術師たちの世界。

 

 そんな時計塔のすぐ近くで、民間人たち、おそらく観光客と思しき集団が今日もやってきていて、時計塔をバックに写真を撮ったりと大賑わいだ。

 

 エレベーターが目的の階への到着を告げるベルが鳴る。

 エレベーターを出て、カナウは目的の部屋を目指す。

 

 ふと、カナウは顔を上げる。

 シャルロットの病室から二人の男女が出ていき、廊下ですれ違う。

 風貌にはどことなくシャルロットに似た影がある。

 

 女性のほうはハンカチで目を覆い、男性のほうはそれを支えるようにして歩き、今しがた彼が乗ってきたエレベーターに乗って下の階へ降りて行った。

 

―シャルロットの両親だろうか?

 

 カナウはそんなことを考えながら、目的の病室にたどり着く。

 ネームプレートは「シャルロット・ロジェ」の文字が書かれている。

 

 ノックして入ると、広い個室の隅に置かれたベッドの上で上体だけ起こしたシャルロットが左手で起用に紙の束を整理しているのが見えた。

 右肩の上腕から先が無く、包帯が巻かれているだけの様子は痛々しいものだったが、シャルロットは気にも留めてない様子で、資料に目を通していた。

 

「シャルロット」

「あら、もう来たのね」

 

 シャルロットはカナウを見るとニッコリしながら部屋の奥にある丸椅子を指さした。

 

―シャルロットのこんな顔、初めて見た。

 そんなことを思いながら、カナウも安心したように笑い、腰を下ろした。

 

「何読んでたんだ?」

「リャオ・ファンと、ミランダ・ウォルフォークの資料。ロード・エルメロイの……妹さん?にお願いして、調査してもらったの」

「なんでそこでクエスチョンマーク?」

「複雑な事情があるのよ」

 

「というかあなた……」

 

 シャルロットが目を細めてカナウをにらみつける。

 

「こんな状況に、サーヴァントもつれずに歩いているってどういうこと?」

「あ、ああ。セイバーはセシリアの方についてもらってる」

「本当に信じられない……」

 

―知らないわよ。きちんとしたお別れもできずにセイバーが消えちゃったりしても。

 

 そう言いかけて、さすがに今の自分が言うとシャレにならないのではと思い、言いよどんだ。

 

「まあいいわ。ここ聖堂教会の管轄だし、まさかアバーラインも乗り込んできたりはしないでしょ」

「私ももう、サーヴァントを失ったわけだし、聖杯戦争に敗北したマスターってことになるわけだし」

「でも、まだ諦めてないんでしょ?」

「当たり前じゃない」

 

 シャルロットは力強く答えた。

 

「迎えに行くって、約束したから。セントヘレナだろうがどこだろうが」

「……その意気だよ、シャルロット」

 

 彼女の自信に当てられて、カナウも調子を取り戻す。

 

 

 

「それにしても不思議だわ」

 

 シャルロットはここまでの戦いを振り返りながらぼやく。

 

「あれだけ警告しておいてなんだけど、あなたがここまで生き残ってるなんて」

「アハハ……皆様のおかげでなんとか」

「本当にね。たまにはセイバーのことも労ってあげなさいよ」

「そうだな……なにか考えるか」

 

 カナウが何かを考えていると、シャルロットが不意にカナウを顎で指す。

 

「そこの戸棚開けてみて」

「戸棚?」

 

 シャルロットに言われて戸棚を開けると、ワイングラスと赤色のボトルが出てくる。

 

「えっ……シャルロット、君まだ……」

「私の家のワインなの。子どものころから飲んでたわ」

 

 カナウは目を丸くするが、シャルロットは平然と返す。

 イギリスではお酒は二十歳からだとか、病院に堂々とアルコールをボトルで持ちこんでることとか、いろいろカナウには言いたいこともある。

 

「もしかして、飲んだことない?」

「お酒はほとんど飲まない。ワインなんかとても……」

 

―一応養ってもらってる身だし、贅沢はそれほどできない。

 

「一杯でいいから、付き合ってよ」

 

 彼女が穏やかな顔でカナウに提案する。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて……」

 

 静かな病室の中、テーブルの上にワイングラスに入った赤色のワイン。

 周囲の白色が余計に、ワインの赤色を引き立たせる。

 カナウは緊張と、その色の美しさに喉を鳴らす。

 

 恐る恐る、慣れない手つきでグラスの細い部分をつまんで持ち上げる。

 シャルロットのほうは慣れた手つきでワイングラスを持ち上げる。

 

「作法とか気にしなくてもいいわよ。アーチャーにも飲んでもらったけど、あの人もかなり適当だったし」

「アーチャーともワインを飲んだのか?」

 

(人が人ならフランス皇帝とワインで乾杯なんてした日には嬉しすぎて気絶するんだろうな)

 

「ええ、すごくワインにうるさい男だったわ。でも私のワインはとても気に入ってくれたみたい」

「そうなんだ、すごいな……」

「ええ、一族の者として、私も鼻が高いわ」

 

「さて、それじゃ、乾杯!」

 

 ささやかにグラスを突き合わせる。

 口に入れた瞬間、じわじわと複雑な風味が混ざり合う。

 

「……うっ」

 

 強烈な苦みと渋みがカナウの下を襲う。

 後には炭酸の刺激が残り、口の中でしばらくの間はじける。

 なんとか飲み込むが、ぼんやりとした感覚が頭に残る。

 

「……これがワインの味か、すごく……個性的だね」

「ふふふ、まあ初めて飲むんだし、仕方ないわね」

 

 逆にシャルロットは慣れているという感じで、口の中で楽しんでいるようだ。

 

「ナポレオンはこうも言っていたわ。"ワイなくば兵士なし"」

「彼にとってワインとは兵士の士気を高め、戦争の残酷さ、戦友の死の悲しみから忘れさせてくれるもの」

「なんだか、慰められるような気分になるわ」

 

 そういって、グラスを傾けるシャルロットの姿は高貴なものだった。

 

「君たちは本当に、最高の相棒って感じだな」

 

 カナウがそういうと、シャルロットのグラスを傾ける手が止まる。

 

「ええ、召喚したのが彼で本当に良かった」

「ところで……話を戻すけど、カナウ」

 

 グラスを置いてシャルロットがいう。

 

「たまにはセイバーのことも労ってあげないとだめよ。なんならボトルもう一本あるから、持って行っていいわよ」

「い、いや。どうだろうワインは……」

「いいから持っていきなさいよ。飲めなくてもいいから付き合ってあげるの」

「それでいいのか?」

 

 カナウがポカンとした様子で尋ねる。

 

「一緒の時間を過ごすことこそが大事なの。一緒に過ごして、もっと話をしてあげて」

「セイバーのことだから、彼女もきっとあなたに遠慮してるんでしょう?」

「……」

 

 もう一度グラスを傾けて口に含む。

 一口目で強烈だった刺激も、二口目になると妙になじむ感じがした。

 ふわふわと浮かぶような高揚感が心地よい。

 

「"ワインなくば兵士なし"か……」

 

 時計塔戦争での傷など忘れたかのように、二人の間に優しい時間が流れた。

 

 

 

「やれやれ、入るタイミングを見失ったかなこりゃ」 

 

 病室の外、エハッド・ティーレマンとバーサーカーはポツンと立ち尽くしていた。

 

「もっと深刻な様子だと持っていたのに、強いなぁあの子たちは」

「うむ、運命にあらがうには、時に休息も必要だろう」

「それじゃ、空気の読めるエハッド・ティーレマン氏は、もう少し二人だけにさせてやるか」

 

 その一時間後、エハッド・ティーレマンが病室に入る。

 

 

 

***

 

 

 

「ブロンズリンク・マニピュレータ?」

「ああ、エルメロイ教室のカウレス・フォルヴェッジって青年、覚えてるか?」

「知ってるわ。ユグドミレニアの……」

「彼の姉が使っていた接続強化型礼装の派生でな、より小型にして制御が利くように彼が改良したものらしい、本来は動物の魂をインストールさせたりと手間のかかるものなんだが、カウレスのそれは電気エネルギーで代用できるらしい……」

 

 シャルロットの病室にエハッド、シャルロット、カナウの三人がそろう。

 シャルロットとエハッドは酒気が抜けきっておらず顔が少し紅潮していた。

 エハッドは大型のボストンバッグから今しがた取り出した鋼鉄の礼装を取り出して説明する。

 

 出てきたのは鋼鉄の腕を模した礼装だった。

 

「これ、義手ってこと?」

「ああ、魔術の行使もできるはずだ」

「よくこんなもの用意できたわね……」

 

 驚いてシャルロットがため息をつく。

 

「ああ、助けてくれた礼にと、フラット・エスカルドスと徹夜で製造までやってのけたらしい」

「いい友人を持ったじゃないか、シャルロット。俺たちを取り巻く環境は確実に変化している」

「絶対に、この聖杯戦争生き残ってやろうぜ」

 

 そういってガッツポーズをとるエハッド。

 

「さっそく装備していくかい?」

「包帯をはがさないといけないから、あとでね。それより……」

 

 シャルロットが左手で資料の束をかき集めてテーブルに広げる。

 

「リャオ・ファンとミランダのデータをまとめてもらったの」

「何か手掛かりになるものはあったか?」

「ええ、興味深いものがね。読んでみる?」

 

 エハッドが束を受け取ると、カナウにも聞こえるように声に出して読み始めた。

 

「……リャオ・ファン。東洋の魔術系統を汲むファン家の長男、次期当主か。かつてはロード候補を多く輩出した家系だが、現在は活躍も少ない……没落気味といった感じか」

「まあ東洋魔術って、西洋魔術に比べて先細りが激しいからな。時計塔みたいに本山と呼べるような大規模な魔術機関もないし」

「これまでの聖杯戦争でのやりとりを見て、マスターとしての力量はないと断言できるわ」

「お、おお……言い切ったな。でも、それは俺も同意見だ。マスターとしてのあいつはさほど脅威ではない」

 

 ―問題は。

 

「問題は……ランサーの方だな」

 

 腕を組みなおしてエハッドがつぶやく。

 

「あの宝具、ロンギヌスを抜かれたら対処のしようがない……時計塔の時はキャスターに助けられたが、まさかサーヴァント一体と引き換えとは」

「サーヴァントは元となった英雄の逸話が弱点となることがあるんだったか」

 

 カナウは確認する。

 

「そうよ。だから、通常の聖杯戦争ではいかに相手のサーヴァントの真名を把握して、逸話に即した弱点を用意できるかが鍵なの」

「弱点か……ベイリンの弱点なんか、あったか?」

「アーサー王伝説なら、一通り知られているだけの本は読んだことがあるけど……弱点ってほどのことは思いつかないよ」

 

 カナウはかつて手に取った本の一つのことを思い出す。

 ベイリンは円卓騎士結成前に王の配下だった騎士だ。

 

「アーサー王か……」

「セイバーが遍歴の騎士を名乗るきっかけのひとつでもあるわよね」

 

 シャルロットはつぶやく。

 

「それなら、セイバーの宝具でこっちも同等の武器を用意してやればいいんじゃないか? ロンゴミニアドとかどうだ?」

「いや、セイバーの宝具で再現した武装は本物よりランクが下がるはずだ。互角に渡り合うのはきついかもしれない」

「なら、バーサーカーの予知能力は?」

「あれは予知能力なんかじゃないって……それに、あれだけの広範囲攻撃を予知だけでかわすのは不可能だ」

 

 しばらくの沈黙。

 

「こうなったら、マスターを直接手にかけるしか……」

「そ、それはダメだ!」

 

 カナウが即座に反論する。

 

「でもアイツはシャルロットの腕をなんの躊躇もなく切ったんだぞ。魔術師たちにとって命よりも大事といえる魔術回路をダメにしたんだぞ……」

「それはわかってるけど……」

 

 言い淀み、カナウは下を向く。

 

「そうね。リャオ・ファンを殺害するというのも一つの手だと思うわ」

 

 シャルロットもうなずく。

 

―ただし、と続ける。

 

「でもそれは最終手段ね。セイバーとバーサーカーにランサーを倒せないと分かったら、その時はマスターを狙うわ。いいわねカナウ?」

「……わかった」

 

 

 

「ミランダ・ウォルフォークと……アバーラインと、アサシンはどうする?」

「アサシンはほとんど情報がないのが痛いな……気配遮断はそれほど高くないから、感知能力の高いバーサーカーでならなんとかなるとしても……切り札は欲しいな。せめてアサシンの真名がわかればバーサーカーの宝具を使えるんだが」

「ミランダはバーサーカーの対心宝具を警戒して、アサシンの真名につながる情報はほとんど伏せるように立ち回らせていたから……唯一の手掛かりといえば、あれかしら」

 

 シャルロットは顎で、病室の隅を指す。

 二人がその方向を見ると、隅に置かれた巨大なトランクケースがおかれていた。

 

「中開けてみて、直接触らないように慎重に開けて」

「? ああ、わかった……」

 

 カナウがトランクケースを慎重に開けると、中に入っていたのは黒く変色しつつある盾だった。

 

「こ、これベイリンの盾か?」

 

 驚いた様子でカナウが尋ねる。

 

「時計塔に落ちてたのを法政科が拾ったんだけど、ロードが私にってよこしてくれたの」

「その焦げ跡、アサシンによるものらしいわ」

「アサシンの?」

「ええ、西洋由来の存在に対する強い怨念を抱いているって」

「西洋由来……西洋に恨みを持ってそうな英霊なんていっぱいいるけど……だれかいたか?」

 

 エハッドは思慮を巡らせるが、思い当たるものが多すぎて断念する。

 

 

 

 ふと、エハッドが顎に手を当てて、何かを思い出す。

 

「この盾、使えるんじゃないか?」

「どういうこと?」

 

 シャルロットが尋ねる。

 

「あのベイリンの盾ともなれば、防御力は抜群だ」

「……いや、すまん。やっぱり忘れてくれ。というかこの盾、俺たちには使えないだろ?」

「そこなのよね……ロードの話では触っただけで呪いでひどいくらい手が痛むらしいし」

「……」

 

 ベイリンの盾を囲んで三人が考えあぐねていると、カナウが突然ベイリンの盾に手を伸ばす。

 

「あ、おい!」

「バカ、触ったら……」

 

 カナウは盾を触るが、特に痛む様子は感じられない。

 

「……やっぱりだ。少しピリピリするが、これなら平気だ」

「カナウ? どういうことだ?」

「あなたってもしかして痛いのが好きな変態?」

「ち、違うよ! そうじゃないんだ……」

 

 

 

 カナウは説明する。

 

「僕はミックスなんだ。アジア系の血も流れてる」

「うちの家系は人種が混じってるせいで宗教とかも適当で、特定の宗教を信仰していなかったらしい」

「ああ、家系が多国籍だとよくあるやつな、それでごちゃ混ぜになっちゃって信仰心自体が薄れるやつ……」

 

「カナウにはその盾が使えるってこと……?」

「まあ僕なんかが持ったところで、って感じだけど……」

 

 

 

―それって、もしかして。

 

 

 

「シャルロット、どうした?」

「……えっ?」

 

 シャルロットが突然ぼうっとし始めたので、エハッドとカナウが心配して彼女の顔を覗き込む。

 

「どうした? ぼうっとして」

「いえ、なんでも、何でもないわ。ちょっと考えすぎてアルコールが回ってきたみたい」

「今日はここまでにするか……?」

「待って、ミランダについてもう一つ重要な情報がある」

 

 エハッドが切り上げようとすると、シャルロットが引き留める。

 

「ミランダ・ウォルフォークの居場所が分かったの」

 

 改まって、シャルロットが説明する。

 

「本当か?」

「イザイ・エルトナムが教えてくれたの」

 

 資料の余白にペンで絵を描き始めるシャルロット。

 利き手でないが器用に描いたのは、時計塔の絵だ。

 

「アバーラインがアーチャーを連れ去るとき、ロンドンの地下世界って言ってたの覚えてる?」

「ああ、そういえばそんなことも言ってたか」

「あの言葉、言葉通り、ロンドンの地下世界なのよ」

「ええと……地下鉄駅ってことか?」

 

 シャルロットが時計塔の下に大きく丸を書いて斜線を引く。

 

「まさか……」

 

 合点がいったという様子でエハッドがつぶやく。

 

「時計塔の地下に広がる巨大迷宮……"霊墓アルビオン"」

「マギスフェアと呼ばれる、時計坑(クロックホール)の地下都市にいる」

 

 

 

***

 

 

 

「シャルロット、本気なのか?」

 

 陽が傾きだしたのでその日は解散となり、先にカナウがセイバーたちの様子を見に帰ることとなった。

 カナウを見送った後、エハッドにはもう少し時間があったので、細かい打ち合わせをもう少し練ることになった。

 

「その作戦、確かに効果的だと思うが……カナウが聞いたらなんて言うか」

 

 シャルロットが提案した作戦に、エハッドは声を低くしてつぶやく。

 

「カナウには絶対に言わないで……この罪業は私だけが背負う」

「罪業なんて言うなよ。俺たちは聖杯戦争の魔術師なんだ。こうなることはわかってたさ」

「……」

 

 シャルロットの目は、カナウたちと出会った頃のように、再び冷たいものとなった。

 エハッドは今しがたシャルロットの言い放った"秘策"に言いようのない不安を覚える。

 

「覚悟を決めたって感じだな。わかったよ」

「だが、その"秘策"は本当に最後の手段だ。俺たちはあくまでランサーとアサシンを正攻法で倒すことを諦めない」

「私だって、アーチャーを取り戻すのをあきらめてないわ」

「アーチャー……そうだな。アーチャーもいる。きっとなんとかなるさ」

 

 病室の窓から外の景色を見る。

 遠くから時計塔の鐘の音が聞こえてくる。

 今日もロンドンの街を、人々は何も知らず歩いている。

 

 街を見下ろすとふと見知った人物の姿をとらえる。

 地下鉄駅に入ろうとするカナウ・アルバーン。

 

―俺たちはやっぱり相いれないのだろうか?

 

 

 

 その日一日が終わるまで、エハッドはシャルロットの目つきが頭から離れなかった。

 

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