函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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前回のあらすじ
モガミンが15.5cm積みながら重巡だと言い張る。そんなお話


第十話 建造(其の二)

引き続き第二艦隊の編成を考えようとした寒川は、第一艦隊の編成が変われば、第二艦隊の編成も()()()()()()に変わる。しかし第一艦隊のメンバーが確定しない事にはどうしようもないな、という方程式が頭の中で成り立ち、再び無意識に窓の外を見やる。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「超弩級戦艦、伊勢型の1番艦、伊勢。参ります!」

 

これまでに邂逅したことのある艦娘とはまるで違う、とても大きく無骨な艤装が目を引く、伊勢がドックの中から現れ、着任の挨拶をする。巨大な艤装に気圧された寒川は思わず2歩ほど下がって、後ろの段差に気付かず転びそうになる。

 

「お、おう……ウオッ!」

 

崩れ落ちるヒョロ助の体躯。しかし横の時雨が支えに入り、何とか倒れずに済む。

 

「提督。危ないよ」

「大丈夫だったの!?」

 

「スマン。大丈夫……デス」

 

着任早々放つ言葉では無いのだが、横から突き刺さる時雨の視線にたじろぎ、語尾が荒ぶる。他の艦は3時間ほど前に既に着任を済ませているので、これで最後である。

 

「他には誰か居ないの?もしかして私が最初の戦艦だったりしちゃう?」

 

「えっと、はい。その通りです」

 

「そっか~じゃぁよろしくねっ!」

 

先の最上共々史実において航空火力艦(最上は航空巡洋艦、伊勢は航空戦艦)に改装されて最上は1944年10月のレイテ沖海戦スリガオ海峡沖夜戦、伊勢・日向は1945年の呉軍港空襲まで戦い続けた武勲艦である。ただ悲しいかな、伊勢型に関しては「改装しない方が良かったのではないか」などと言われる結果になった。

もともと35.6cmで打撃力としては低めで、速力的にも機動部隊への追従はほぼ不可能だった上に、6基12門だったその砲が4基8門まで減らされた。そうまでしてわざわざ設置した飛行甲板は短く、専用に改修された(カタパルト射出に備え主脚の強度を強化した)彗星二二型と、水上機しか扱えず、数としても2隻合わせて漸く空母1隻の航空隊に並ぶかどうかの搭載数である。その上甲板が短いのが災いして着艦は不可能。その分は戦闘で搭載機を消耗するであろう味方空母に着艦させるという離れ業である。

いくらミッドウェー海戦で一挙に主力4空母を失ったからといって博打的すぎやしないだろうか日本海軍。

おまけに搭乗員の錬成はおろか、搭載機の生産・配備や、練習用の機体の生産さえ間に合わず、結局最後まで搭載せず終いだった。しかしその分、空いた格納庫に食糧・物資・燃料などを満載して敵制空権下を強行輸送したり、対空機銃をだだっ広い飛行甲板に大量に並べて防空戦闘を行ったりと、本来の目的を見失いそうな活躍の仕方をしている。

 

そしてそれに対して特に文句も言われなかった航空巡洋艦。そもそも巡洋艦の任務とは、(あくまでも理想論ではあるが)搭載する水上機、又は基地航空隊と連携して哨戒網を構築することも含まれている。もともと必要な能力を拡張して誰も文句はないだろう、という理屈である。それよりも、そもそもの話が航空戦力の補強目的では無いので、そこまでガチムチな性能要求というかぶっちゃけ搭載機数が多いから瑞雲優先して積んで攻撃させるとかいいよね、という感じの発想である。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

閑話休題

 

「これなら、行けそうだよね」

 

「本当に……そう、か?」

 

鎮守府執務室、寒川と時雨は1枚の紙を前に、険しい表情を顔に浮かべちょっとした議論を繰り返している。まぁ話の内容はだいたい決まり切っているようなものだが。

 

「これだったら行けるよ、うん」

 

「本当に、か?」

 

2人が見つめる紙には、手書きの、特に特徴も無いのが特徴といわれても納得してしまいそうな程にふつーな、良く言えばクセの無い文字で、いろいろと書き込まれている。「艦隊再編成案」それがこの紙のタイトルである。

 

第一艦隊 主力艦隊

・旗艦 最上(重巡)→伊勢(戦艦)

・2番艦 神通(軽巡)→最上(重巡)

・3番艦 龍田(軽巡)→熊野(重巡)

・4番艦 時雨(駆逐)→羽黒(重巡)

・5番艦 綾波(駆逐)→神通(軽巡)

・6番艦 夕立(駆逐)→時雨(駆逐)

・交代用員 なし→古鷹(重巡) 綾波(駆逐) 朝潮(駆逐)

 

第二艦隊 遠征艦隊

・旗艦 吹雪(駆逐)→龍田(軽巡)

・2番艦 白雪(駆逐)

・3番艦 深雪(駆逐)

・4番艦 敷波(駆逐)

・5番艦 暁(駆逐)

・6番艦 響(駆逐)

・交代用員 なし→吹雪(駆逐) 夕立(駆逐) 涼風(駆逐) 満潮(駆逐)

 

今回戦艦レシピで建造された残り3隻は、羽黒、熊野、古鷹である。合計で戦艦1、重巡4、軽巡2、駆逐12となり、容易くいかずとも、1-3であれば十分突破可能な戦力は整った。

 

「ん?なんだこれ」

 

寒川が事務書類の山に目をやると、積み上げられた塔の上にある紙が目に入る。そこにはこう書いてあった。

 

『鎮守府直轄支援戦隊の編成に伴う指揮系統統一に関する要件(3)』

 

寒川は頭を捻らせる。まずそもそも『鎮守府直轄支援戦隊』なる部隊の編成をした覚えはない。そして『指揮系統統一』という途轍もない地雷臭の漂う単語。恐らく艦隊本部が横槍でも入れてきたのだろうが、字面が途方もなく胡散臭い。そして『(3)』との文字。

 

「んんん?」

 

更に頭を捻り、脳細胞をフル加速させる寒川。そもそも編成した覚えのない部隊と、それに関して艦隊本部がいれてきたのだろう胡散臭すぎる字面の横槍。そしてこの活字の意味を考えると導き出されるのはこの手の事項に関わる書類が最低でも4枚以上あることが確定している状況である。

 

物事には何かしら必ず形式というものが存在する。そうして基本を決めておくことで、それ以後の混乱を避けることでも有利に立てる。また、特に規律を重んずる組織・部署であれば、この場合に於いて、形式が付き纏うことがほぼ約束されている様なものである。海軍に於いてもそれは顕著であり、通達・調整が必要な内容の書類の場合では、要項を纏めたページが最低でも1枚、場合によっては2枚以上同時に、ステープラーで綴じられて回されることになっている。それに対しては対応する必要はないが、ごく稀に毛根にダメージを与える内容の場合がある。

 

この海軍においては、艦隊指揮権に関わる調整は艦隊本部に一任されているが、寒川が嘗て所属した部署は派閥的に見れば(函根鎮守府に移った今もそうだが)軍令部総長の下に属している。そして軍令部筋は、艦隊本部と対立派閥であり、折り合いが悪い。つまり艦隊指揮権絡みの内容が送られてくる場合は、艦隊本部からの、横槍に近い内容になるのは決まり切った話でもある。

 

「また七面倒くせぇ……やってくれやがってあのクソ供……」

 

キレる寸前の寒川がとった行動は、机に置かれた電話を内線でとある番号に叩くのみ。直談判である。

 

「軍令部の伊藤さんいる?……え?誰かって?やだなぁ、内線番号で分かってるくせにぃ……え?姓名を名乗れ?函根の寒川だけど……うん、そうそう、その寒川。それで伊藤さんに繋いでくれる?もしかして今外出中?え?違う?どこに……って、ああ、今会議中なんだぁ……へぇ……大変デスネ…………そっかぁ……そうなんだぁ……うん」

 

蒼白の顔面で受話器を置く寒川。雨に打たれた子犬の様にプルプルと震えている。自身の身に降りかかった火の粉を振り払うことが不可能であると現実が寒川に知らしめた瞬間だった。深海棲艦による火の粉であれば振り払うこともできる。しかし軍上部からの火の粉となれば安易に振り払おうとすればいろんな意味で生命が危うい。函根鎮守府提督という席さえ失いかねない。ただ嫌がらせを真っ正面から受けるしか寒川に残された道は無い。

 

「時雨……ちょっと古鷹と吹雪……あと朝潮を呼んでくれる?」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「鎮守府直轄支援戦隊……ですか?」

 

およそ15分後、場所は同じく執務棟執務室。その場に召集された古鷹が、説明を受けたのちに発した一言目がこれである。吹雪、朝潮も同じく頭の上に「?」を3つ浮かべて話を聞いていた。寒川自身、そんな物の存在自体初耳だったのだが、15分掛けて時雨と共にいろいろ調べた結果、やっぱりよくわからないという結論に至った。

 

要項を流し読みして分かったことはある。纏めると、函根鎮守府から数名の部隊を編成し、艦隊本部の指揮下に置く。その上で実用評価試験、平たく言えば戦闘のデータを取る目的に、函根鎮守府艦隊に対する優越権を保有する。つまりは、艦隊本部が函根鎮守府の頭を押さえ込むという宣戦布告とも言える内容である。到底許容する訳にはいかない。特に対深海棲艦戦闘の最前線である鎮守府の独立性が損なわれたとなれば、重大案件だ。軍令部筋も徹底抗戦の構えを示している。

 

「まぁ、こちらの動きを封じたいんだろう。こんな時に何を呑気に結束が要求される軍で争ってるんだと言いたいところだが、此方と向こう(艦隊本部)の話が纏まるまでこの件は凍結される事になった。大丈夫だと思うが、自分も会議に参加することになった。君たち自身の意思を最大限尊重して、会議に参加してもらうことになるが、構わないか?」

 

「はい!提督の為です!」

「司令官の為に力になります!」

「この朝潮、例え地獄の果てでも司令官に付いていきます!」

 

「頼もしい限りだな……」

 

艦娘は、ヒトに呼ばれて受肉した存在である。その存在の基準をヒトに置くため、ヒトからの命令を拒むことはできない。それが故に精神構造は歪なものとなり、しかしそれを支えられる存在は、()()以外に無い。だからこそ、彼女たちの生きたいように生きる道を用意するのもまた、提督の責務だと寒川は考え、会議において舌戦を展開するのだが、語られることは無かったという。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

後ほど書類を見た大淀によると、書類の山からとある内容のページが15枚ほど無くなっていたらしい。そして、一度も使用されていない筈のシュレッダーには、紙の屑が数枚分溜まっていたという話もあるが、それも真偽の程は確かではない。




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