函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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お待たせ致しました。第十一話です!

前回のあらすじ
函根の愉快な仲魔たち、お代わり(倍プッシュ)


第十一話 重巡洋艦、抜錨

戦艦の維持運用

それは軍艦の中でも特に大型で、費用がかかり、たとえ強大国家でも、安易に建造さえ困難な代物でもある。嘗ての戦争において、戦艦を保有している事は、大きな抑止力ともなりうる、戦略的・戦術的な艦艇として列強はこぞって開発、建造を行っていた。

 

大きなコストの反面、大きな力を得ることになる。それが、戦艦という艦種である。

 

戦艦を動かすということは、資源に大きく負担をかける。1-2は巡洋艦を中心に、1-3は伊勢を投入するべきだろう。寒川の思考は戦艦の運用を躊躇する方向へ傾きかけていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

最上、熊野、羽黒、古鷹、神通、時雨が、単縦陣を組み、沖縄諸島の東方を一直線に南下してゆく。既に軽巡、雷巡などが旗艦の水雷戦隊と2回戦闘をこなし、熊野・羽黒が小破、古鷹が中破。時雨が至近弾で、小破には至らないが僅かに損害を負う。練度が低い重巡に被害が集中している。特にその中でも、軽巡譲りの小柄な (詰まるところ防御・耐久性能が低い) 船体が災いして、中破に追い込まれている。

 

しかし、2戦目が終わり、次へ進もうとした途端、()()()()()()()に問題が発生し、およそ2時間ほど、足止めをくらっていた。

 

「うーん、羅針盤、壊れてるのかなぁ……」

 

最上がぼやく。異変が発生したのは何時だったのだろう。思い返すが、戦闘が終わった直後に確認した時には既に狂っていて、つまりは戦闘中の、意識していなかった時に狂ったと考えられる。従って何時だったのかさえ、はっきりとは分からない。

 

《最上、状況はどんな感じだ?改善の兆候は?》

 

通信機から寒川の声が漏れ出る。こうしているうちにも時間は過ぎ、敵に発見されるリスクが高まる。1400ごろには着いていたのだが、現在時刻は1621。もう40分もすれば日の入りで、夜になる。

 

表情には出していないが、内心最上は焦っていた。最上が史実において沈んだスリガオ海峡沖夜戦は、レイテ沖海戦の中の戦いの内の一つだが、そのせいで最上には夜への恐怖が付きまとっていた。なるべく早く終わらせ、帰投しなければ。

その念に頭がいっぱいになり、肩に乗った妖精さんに頬をペチペチと叩かれるまで、原因究明を頼んでいた妖精さんの報告に気付かなかった。

 

「あっ、ゴメンゴメン」

 

そして妖精さんの話に耳を傾ける。その間にも時間は進み、夜戦の時間が近づく。

主砲の残弾も、魚雷の次発もまだ残っているが、既に古鷹は中破。誘爆を避けるため魚雷は投棄しており、雷撃は行えない上に、下手をすれば戦闘不能(大破)に追い込まれかねない。

 

「提督。妖精さんが、確認してみたけど何らかの異常な力がはたらいていて、()()()()()()直らないかもしれない。って言ってるんだけど……」

 

()()()()()()という単語が寒川の思考へ入り込み、違和感を与える。

 

《このまま、妖精さんはそう言ったのか?》

 

「うん。そうだけど……」

 

《それじゃぁ、解決策自体はあるんだな?》

 

思わず面食らう最上。夜戦への恐怖でまともな思考が出来ていなかったことに気付かされ、妖精さんへ再び尋ねる。

 

「……えっと、羅針盤を回せ、って言ってるのかな?」

 

《……は?》

 

今度は寒川が面食らう番だった。理解は追いついているが、思考がついていかない。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「羅針盤を、……回すぅ?」

 

寒川の珍妙な声が発令所の空気を揺らす。妖精さん謹製のマイクが音を拾い、最上たちへ伝わる。

 

《んっと、提督、そうみたいだね》

 

一瞬の沈黙の後に、時雨が通信を代わる。最上の妖精さんが言わんとすることを理解するのに、最上が付きっきりになって会話する必要があった。傍から見ている時雨たちにも、その妖精さんは()()()()()()と言っているように見えているのだから、間違いはないのだろう。

特に時雨は、最初に現れた妖精さんたちと人類の橋渡し役をこなし、妖精さんの曖昧な言葉であっても、だいぶ精度の高い通訳がこなせる。そのおかげがあった建造ドックは、時雨の補助なくしては完成しなかったろう。

 

その時雨までもが、羅針盤を回せと翻訳している。ほぼ事実として間違いではないのだろう。

 

「それで直るんだな?」

 

聞き返す寒川。発令所では某ゲン○ウポーズで固まっている。更に言えば、怪訝な目つきでモニターを見つめている。はっきりと意味深なオーラが周囲に撒き散らされ、空気は完全に凍りついている。

 

《なんだかそう言ってると思うよ?》

 

妖精さんとの会話を終えた最上が再び通信を代わる。まるでもって意味がわからないが、妖精さんがそう言っているならそうなのだろう。

 

彼女たち(ヒトの形をしていない者も多少いるらしいが)の、深海棲艦に対する知識・技術・艤装運用能力は、人類が10年以上かけて調べ上げた事実を、遥かに上回っている。人類の常識は通用しないし、する方がおかしいという見方もある。

その代わり、人類には理解不能な、身振り手振りのボディコミュニケーションでしか伝えることでしか、情報を外部へ発信する手段を持たない。もっとも、翻訳は艦娘たちがしてくれるのだが。

そして時折、突拍子もないことを言い出すのだが、これがまた成功することが何度も。突拍子もなくモノを作り上げることもあるらしい。函根に移ってからは特に大ごとは無いが。

 

「分かった。もう騙されたと思って思い切りやってくれ」

 

これで成功すれば、もう悩まされることは無いだろう。それよりも、これ以上悩んでいたら身が持たない。もうどうにでもなれ、という勢いで指示を出す。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「それじゃぁ、それっ!」

 

思い切り回せと言われたので、最上は針を思い切り、ピンと弾く。高速で回転していたが、暫く経つと動きが止まり、ある方向を指す。

 

この世界での羅針盤は、史実の物とは違い、近くの深海棲艦の艦隊の方角を指し示す。最上は失念していた。今からボスとの戦闘となれば、夜戦に入るのは必至である。

 

最上が恐れていた、()()が、大きな口を開けて待ち構えていた。

 

SW-South West-

南西を指し示した羅針盤に従い、艦隊は速度を上げて移動を始める。

 

会敵可能性の高い地点に差し掛かったと妖精さんが報告する。艦隊は単縦陣に陣形を再編し、進んでゆく。

最大火力の熊野を先頭に、神通が続き、その次には旗艦の最上。更に、中破し、庇うべき対象の古鷹はほぼ中央の4番目。羽黒が後ろに付き、時雨が殿を務める。

 

目を凝らしながら進む熊野が、針の穴ほど小さな黒点を見つける。日は傾き、西から眩しい光が差す。朱に染まりかけた空と海の中で、異様な空気を漂わせ、()()()()を作り出している。深海棲艦が発する邪気が周囲を飲み込み、此方へ近づいてくる。

 

「敵艦隊を発見……一捻りで黙らせてやりますわ!」

 

なかなか物騒なことをお嬢様口調で吐く熊野。最上もこれには流石に苦笑いしながら続く。大射程を持つ重巡の20.3cm連装砲から、鉄の塊が吐き出され、火を引いて放物線状の軌跡を描きながら飛び、従えていた駆逐ハ級を切り裂く。弾頭の塗料は3番艦を表す黄色。

 

初弾命中を得たのは羽黒だったが。

 

「砲雷撃戦って、これでいいんですよね!」

 

笑顔で次の斉射を始める。

 

古鷹も2基残っただけの20.3cm主砲から砲撃を放つ。カタカタと不規則に艤装が震え、手元は微かにブレるが、狙い澄まされた一撃は雷巡チ級に直撃し、魚雷を誘爆させ大破に追い込む。

 

「やった!」

 

中破していても重巡は重巡。20.3cmの破壊力は雷巡の装甲程度であれば容易く突き破る。動きが鈍り、砲撃の回避もままならないチ級は、神通の弾幕と時雨のピンポイントの砲撃で撃沈される。

 

ヘ級の砲撃も此方を捉え始め、先頭を行く熊野に被弾が集中。中破判定を受けてしまう。

 

「わたくしに、このような格好をさせるとは、……あ、ありえませんわ!」

 

上着(ブレザー)が所々破け、頬はよく見れば煤こけている。夕焼けの紅がますます濃くなり、最上は速度を上げて先頭へ躍り出る。

艤装に備え付けられた、神通の14cm砲の数を上回る15門の15.5cm砲が一斉に火を吹き、着弾の水柱が散らばる。その散らばった範囲は確実にデスゾーンが出来上がっている。何者もの侵入を赦さない、死の空間である。

 

羽黒、最上の砲撃は繰り返され、頻度を増し、二つのデスゾーンにうっかり迷い込んでしまった一隻のチ級は、直撃をマトモに喰らい、一撃で撃沈される。お互いの細かな砲身の動きさえくっきり見える距離まで近づいていたが(艦娘の視力基準だが)、間もなく日没。

 

夜戦に入る。

 

最後の時雨の砲撃は弾かれ、ヘ級1、ハ級1が共に小破に至らず残存。此方は熊野・古鷹中破、羽黒・時雨小破で、最上は僅かに被弾。神通は無傷で突入していた。もはや戦いの趨勢は決していたが、それでも最期に牙を剥き爪痕を残さんと突き進んでくる敵艦隊。

 

中破に至っていない4隻が一斉に魚雷を放つ。藍の様な漆黒に染まりつつある海面に、微かに白い航跡を引きながら進んでゆく魚雷。しかし、相手側からも複数の雷跡が迫り来る。

 

距離がやや離れていたのが災いし、雷撃は回避される。しかし雷巡は全滅しているので、此方に迫り来る魚雷も数は少なく回避は容易かった。

 

「よーし、ボクも突撃するぞー!」

 

震えそうになる足下を押さえつけ、恐怖を吹き飛ばそうと空元気を奮う。自分が旗艦だ、と心身共に奮い立たせ、目を凝らして敵を睨めつける。

 

「来るなら来い!」

 

再び一気に砲弾を撃ち出す。軽量級のそれは短時間で装填され、至近距離であれば一瞬で到達する。雷撃も到達し、幾重にも攻撃が直撃し、ハ級を一瞬で撃沈する。

 

刹那、ヘ級の主砲群が一斉に火を吹き、時雨へ向かう。唐突に大量の砲弾が懐近くへ飛び込んで来た時雨は、身構えていたが、進む向きに対して直角に右足を着水させる。機関の推力で、小柄な体躯は身体の外部にある点を中心に独楽のように回転。勢いそのまま、進行方向を直角に変化させた時雨の、僅かに後ろの空間に砲弾が突き刺さり、髪を掠めてゆく。

 

その時点で熊野は残った主砲から20.3cm砲弾を吐き出し、そのまま離脱してゆく。直後に羽黒が至近まで迫り、砲撃を叩き込む。畳み掛ける様に雷撃が一斉に突き刺さり、沈める。

 

「危なかったですね……」

 

横から古鷹が近付き、時雨に声をかける。

 

「うん。あんなに綺麗に決まるとは僕も思ってなかったよ」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「クマー。よろしくだクマ」

 

「……(球磨)?」

 

鎮守府執務室、時刻は1920。戦闘で邂逅した軽巡「球磨」の着任の挨拶が行われていた。

 

「球磨だクマ。熊じゃないクマよ」

 

寒川の発言を訂正する球磨。というか球磨クマ熊球磨と君たちしつこいのだが。文字を打つ此方の身にもなってくれ。いちいち変換が面倒なのだが。

 

しかし此方の思惑を無視して球磨クマ談義は進み、夜は更けてゆく。

 

〜その内容は書くのが面倒らしく、今後語られることは有ったとか無かったとか~




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