もがみんがんばる。あと重巡つよい
「しっかし……これは予想外だな」
西日が窓の外を照らしているが、生憎窓は採光を優先して南向きで、部屋は赤く染まるが明かりは入ってこない。その眺望を眺めるためには廊下に出て、突き当たりの、南北に通っている、西向きに窓がある廊下まで出なければならない。
赤い光で文字が霞んでいるが、寒川の目はしっかりと書類の上の文字を睨んでいた。
・第三艦隊編成枠確保に足る要件として、川内型軽巡洋艦3隻の邂逅を前提条件とする。
・上に並び、第四艦隊編成枠確保に足る要件として、妙高型重巡洋艦4隻の邂逅を前提条件とする。
そして時雨が横から覗き込む。あぁ、と一声発し、
「これは提督、完全に睨まれちゃったね」
「ちょっとはっちゃけ過ぎちゃったかな……」
思わず苦笑いで返す寒川。
「向こうのご好意に涙がちょちょ切れそうデスわ」
「それ建前だよね?」
「それは言わないお約束」
突っ込む時雨と切り返す寒川。しかし確定している命令な上に、先日寒川が大本営艦隊編成を蹴った為に、函根が所属する派閥である軍令部派も表立って行動できない。その為、どうしてもこればかりは不可避の内容らしい。
「どうすれば1隻邂逅したからって残りの姉妹艦もいると決めつけられるんだろうな?」
「でも駆逐艦みたいに大量に居るわけじゃないでしょ?」
「それでもだなぁ……何故か艦娘が出現しているのは日本だけらしいんだよねぇ……アメリカのフレッチャー級とかギアリング級なんて来た日にゃ目も当てられない。準同型艦まとめて100隻軽く超えてるぞ……」
「それはそれで良かった……のかな?」
「まぁ……そうなるな」
外光を失った部屋の、天井の照明が白く輝き室内を照らす。机の上に乗った照明スタンドのLEDに光が灯り、机の上に並べられた書類の文字を鮮明に浮き立たせる。
その後は沈黙が続き、書類が片付いたのは満月が稜線の淵を洗い始めた1940。宿舎の各個人部屋がある2階から上の窓には光が無い。代わりに1階の幅広い窓は溢れんばかりの光を湛えている。
◆◇◆◇◆◇◆
ジャズ風味の軽快なBGMが流れる室内から、賑やかな声も溢れてくる。
宿舎の1階は、個室が並ぶ2階から上と異なり、広い空間に所狭しと長机、丸椅子が並べられて、入口側に近い壁には厨房と繋ぐカウンターが大きな口を開けている。
着任する際予備知識を与えられていたが、実際に足を踏み入れたのはこれが最初になる。
しかし聞いていたよりも雑多な雰囲気が漂っている。メニューの札が彼方此方に掛けられており、いろんな種類の食べ物の香りが漂ってくる。
「あっ、提督!来てくださったんですね」
明るい古鷹の声に迎えられたと思った途端、引きずりこまれて気付けば場の人集りの中心に据えられていた寒川は、一晩の時間を対価に心の距離が詰まればいいのだが……と特に深く考えず流れに身を任せる事にした。
◆◇◆◇◆◇◆
「あれ……これダメなやつだ……」
「うぅ……ヘ、ヘルプミー……」
酒も飲んでいないのにジュースで艦娘が酔っ払うという謎が沸き起こった机の下から、寒川が唯一酔い潰れなかった時雨に引き摺り出される。これ食えこれ食えと延々と押し付けられ続けた寒川の胃が限界を迎えたあたりで遂に全員揃って酔い潰れた際、寒川は巻き込まれては堪らないと逃げようとしたが、後ろは既に「えへへ……」とふやけた
「んー……君タチって肝臓弱かったりする?」
「どうなんだろうね?」
「そっかぁ……分かん無いんだぁ……」
最近、素が(というか諦め)が出始めつつある寒川は苦虫を噛み潰したような顔で、ピクリとも動かない艦娘たちを引っ張り出していた。
しかしここで衝撃の事実が発覚する。
「ンッ!重っ!」
複数名が重なり合った一番下にいる最上を引き出そうとしたところ、のし掛かっている重みと摩擦でビクともしない。(半ば忘れ去られているが、)天性のヒョロ助である寒川にはオーバーワーク過ぎた。
「なんだか18tハーフトラックでケーニヒスティーガーを回収してるみたいだね」
「それ陸がらみの軍事オタクならともかく一般人には理解できないでしょ……比喩表現が回り回って分かりづらくなってない?」
軽口を叩き合いながら摩擦と格闘する寒川の脇では、いとも簡単にヒョイと羽黒を抱えた時雨が軽い足取りで奥の座敷コーナーへ運んでゆく。
「まさか、ここまで(基礎性能に差がある)とはな……」
「ほら提督、そっちの方が伝わる人少ないかもよ」
「いやいや、18t
某見た目は子供、頭脳は大人な名探偵に登場するFBIから真っ黒な組織に潜入して殺されたと思われていた名前に赤が入る人(説明が長い)のセリフを吐く寒川と、常識が少しずれてしまった時雨の、意味があるようで無いような気もしないがやっぱり無いだろと言いたくなるような会話は輸送任務MVPの時雨の勝利によって終わったという。
◆◇◆◇◆◇◆
「右舷砲戦、行くわよっ!」
伊勢の構える35.6cm連装砲が火を吹き、鉄の暴力を吐き出す。狙われたリ級も、所詮は重巡。戦艦の大口径主砲の至近弾の水柱で、行き足を大きく妨げられる。姿勢を崩した直後、熊野の砲撃が更に行動可能範囲を削ぐ。
「当たって!」
羽黒の砲撃が頭部を直撃し、首から上が千切れ飛び、操る主を失った躯は水面へ崩れ落ちる。並んだ2隻のリ級が最上へと照準を合わせて、大量の砲撃を送り込む。
「いったたた……」
辛うじて甲板で弾いた最上だが、一部の砲弾が艤装の予備浮力と兵装の一部を削る。しかし射程距離一杯で放たれた中口径砲弾は超軽巡として設計され、CNC鋼板を用いた強力な防御装甲(もちろんの話だが史実基準)を貫くには至らず、小破させるに留まる。
「ボクを怒らせたね!」
更にお互いの距離が詰まる頃にはお互いの戦艦・重巡が数回斉射を繰り返した後で、リ級1隻中破・1隻小破未満、ヘ級1小破、イ級2共に小破。対して此方は、伊勢小破未満、熊野無傷、羽黒小破、最上小破、神通小破未満、時雨無傷。
しかし四日市沖でのこの戦闘は未だ道中戦で、海域の首魁たるル級含む艦隊とは邂逅できていない。出来れば中破以上の損害を受けない内に撃破してしまいたい。
《ヘ級の投射量は脅威だ。最上の射程ギリギリで粘ってくれ》
「了解」
再び通信機を切り、伊勢は遥か彼方に米粒ほどに見える黒い粒を睨む。2隻のリ級は交互に弾幕を張り、此方に砲撃させる暇を与えない。ヘ級の投射量が大きいので、迂闊に艦隊で接近すれば後方の神通や時雨が危険に晒される。そのため容易に近付けず、砲撃の精度にも限界が生じる。お互いに決め手を欠く中、背面航行で主砲を2基ずつ撃ちながら、伊勢は逡巡する。
このまま撃ち合っていても無駄な損害を増やし、有限の弾薬を消耗するだけ。かといって無理やり突っ切るにも背後に
「私は此処から単艦で突撃するわ!援護して!」
心を決めて一息に声に出す伊勢。
「危険ですわ!幾ら伊勢さんが戦艦だとはいえ、リ級1、ヘ級1、イ級2の雷撃を受けるのはリスクが大き過ぎますわ!」
副艦として伊勢の装填している合間に砲撃を放ち牽制していた熊野が制止する。
「私が突撃すれば既に混乱に陥っている敵は必ず隙が生まれる!その間に、重巡2、軽巡2の火力があればイ級を2隻とも仕留めてヘ級を中破以上まで持ち込むのは簡単なはず!」
そうして会話をする間に、伊勢は既に艦隊から飛び出して吶喊を掛けている。
「仕方有りませんわ!皆さん、伊勢さんに砲撃が集まり始めたら全速力で接近。軽巡の主砲有効射程圏内に捉えたところで砲撃しますわよ」
「は、はいっ!」
「いつでも!」
「致し方有りませんね……!」
「えっと……僕はどうすればいいのかな……?」
「時雨さんは後ろに着いてきて下さい。どのみち駆逐艦の主砲では有効な打撃は与えられませんわ。装甲も薄いですし」
淀みなく応える熊野。そして時雨も決意をする。
「うん。分かったよ」
「それでは……行きますわよ!」
会話を終えたタイミングで、丁度伊勢に砲撃が集中し始めている。重い艤装を背負い、それに比して非力な機関を限界まで回して限界まで速度を上げる。駆逐・軽巡の弾幕は躱すのは困難なので砲塔などの装甲の分厚い部分で耐え、砲撃頻度の低い重巡の砲弾は砲塔などに浅く当てて弾くか、躯を艤装ごと捻って無理やり躱す。
「近付いてるわね……」
さっきまでは砲身が背後の砲塔に潰れて見えなかったが、この距離まで迫れば砲身の判別も可能だった。(とはいえ艦娘の超人的な視力基準なので相当距離だが)
そして、伊勢の背後から大量の砲弾が敵艦隊へ飛び込んで行く。伊勢に執着していた敵艦隊は、あっさりと混乱の極みに陥る。結果として、たったの2斉射でリ級1大破1中破、ヘ級1中破、イ級1撃沈1大破まで追い込む。
「主砲六基十二門、一斉射!」
その隙を突かんと、間髪いれずに、轟音を轟かせながら、伊勢の主砲から大口径の主砲弾が吐き出される。艤装の損傷は小破に限りなく近い小破未満だが、漸く成立した自身の作戦と、一気に優勢に立った援軍に、顔には喜色がありありと浮かんでいる。
「さぁ……ここからが
勇ましい掛け声と共に主砲に次発を装填しながら、伊勢は敵艦隊へと駆けてゆく。
・こちらでも注意は払っておりますが、誤字脱字等発見された方は、お手数ですがご報告頂ければ幸いです。
・ご意見・ご質問などある方は、感想欄までお気軽にどうぞ。