……というか『平成最後のクリスマス』ってどんなパワーワードですか文化のごった煮が甚だし過ぎますよ。
前回のあらすじ
伊勢さんが無茶したけどさサスガ戦艦DAZE!HAHAHA!
「お出でなすったわね……
辛くも道中のリ級率いる水雷戦隊を撃破した第一艦隊は、潮岬沖に於いて海域の首魁であるル級を旗艦とする水上打撃部隊と相対していた。艦隊の現況は伊勢小破、熊野無傷、羽黒小破、最上小破、神通小破未満、時雨無傷と、矢面に立った伊勢が小破まで持ち込まれたものの、後方からの援護に徹した残りの損傷は変化していない。
その伊勢が肉眼で、砂粒よりも小さな黒点を睨み、艦隊に告げる。
「戦闘海域に突入。全艦、単縦陣を維持して全速前進!」
「目視ですが付近15浬以内に敵航空編隊並びに航空戦力は確認されず。砲撃戦に直ちに影響は無し、ですわ」
「りょーかい。それじゃサクッと行きますか!」
熊野の報告に、間の抜けたような声で返しながら後ろに続く僚艦に戦闘開始を伝える。敵はル級1、リ級2、ヘ級1、ロ級2の艦隊。戦艦は同数、重巡も同数、軽巡は此方が1多く、駆逐が1少ない。おまけに軽巡の内片方は最上だ。純粋な火力、雷装で上回るが、敵はこれまで従来艦の部隊を退け続けている日本近海で最も強力な部隊の1つである。多少の戦力差は問題にさえならないだろう。
一直線にル級目掛けて突っ込んでいく艦隊は、傾きつつある陽に向かい合っている。眩しさに目を細め、手を当てながら距離を見極め主砲の仰角を微調整していく。
「有効射程まであと30秒、警戒して!」
主砲に装填される砲弾の信管を調整した妖精さんが伝えて来るのを確認しつつ、最後に艦隊を〆る。主砲の薬室に初弾を装填し、覚悟を固めた伊勢は最後に照準を合わせる。
「主砲6基12門、一斉射!撃ち方始め!」
遂に戦いの火蓋が落とされた。伊勢が先頭に立ち、先陣を切って大口径主砲を放つ。後ろの重巡、軽巡、駆逐を庇うように左右に身を振り、間近に立ち上がる伊勢と同時に砲撃したル級の砲弾の水柱を躱し、自身の放った砲弾の着弾点を見極める。
敵艦隊の中でも特段大きなル級の艤装と比較しても、尚高くそびえ上がる水柱は僅かに目標を逸れ、水飛沫を掛けて敵を濡らすだけに留まる。此方の装填作業が半分終わろうかというタイミングで、ル級の艤装の片側半分が火を吹き、鋼の暴力を吐き出す。
「敵ル級、
後列に控える時雨、神通が真っ先に反応し、隊列から外れてお互いに反対の方向へ散ってゆく。敵を見据えて最上、羽黒、熊野も左右へ無秩序に動き始める。
大遠距離で放たれた砲弾は、高い放物線を描き、大落角で散布界に散らばる。すぐ脇を通り抜けた神通に海水が大量に降り掛かる。伊勢が装填を終え第二射を交互射撃で始める傍ら、ポツリと呟く。
「海水はやっぱりベトベトして……不快ですね」
その間にも毛先の海水を軽く絞りながら隊列へ戻るために舵を切る。
◆◇◆◇◆◇◆
「主砲、遠3近3、夾叉!主砲諸元そのまま、残り半数、一斉射!」
公算射撃で、遂にその散布界にル級を捉える。しかし、ル級が第七射目に夾叉を得ていたのに対し伊勢は第十二射目まで掛かった。
その為至近弾を受けた羽黒が被害が拡大して中破に近い状況まで持ち込まれている。服の袖は所々破け、砲塔天板は歪んでいる。しかし戦闘にほぼ支障は来たしていない。十分戦闘の続行は可能で、伊勢のすぐ後ろに縦に並んで追いかけている。
「敵艦隊までおよそ9浬。中射程砲戦、用意よし。主砲最大射程、試射。撃ち方始めっ!」
妖精さんに指示を出すのに寸分遅れず主砲が1基のみ火を吹く。主砲最大射程付近での砲撃戦での不安な命中率を、弾着観測で補うため、目を凝らして自身の放った砲弾と敵艦隊を追いかける。
しかし着弾の水柱は2つとも大きく右に立つ。水柱の正確な大きさが判別できないので距離までは分からない。
しかし、すぐに残りの主砲も左へ振って次の試射を行い、敵艦隊から目を逸らさず試射を重ねる。すると、2つの水柱が視界の中の敵艦隊を覆い隠す。
それに合わせて仰角を僅かに増やして、次の砲を発射する。間髪いれずに延々と砲弾が水面へ突き刺さる。しかしまだ誤差もあるようで一向に至近弾となる気配はない。
命中弾を得るのにはもう少し時間がかかりそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆
同法無線から不協和音が流れ出し、一瞬経ってそれがサイレンであると認識する町民たち。
和歌山県浦神町
海面上昇に伴い、嘗て本州最南端であった潮岬を擁する串本町は水没。結果として人間が定住する村落としては新たな本州最南端となった町である。もともと漁村であり、近大マグロで有名な近畿大学の水産研究所浦神実験場が置かれていた。尤も、近大マグロの養殖を成功させたのはまた別の白浜臨海研究所なのだが。
『只今、日本国、政府より、非常事態宣言が、発令、されました』
高音の中から、よく通る声がゆっくりと文章を読み上げる。時刻は昼過ぎ。
函根鎮守府から1-3打通に向けて主力艦隊が出撃したのとほぼ同時で、住民は不安な表情をする事なく粛々とシェルターへ移動してゆく。旧潮岬沖合は、一時期度々敵空母が進出し、(旧)名古屋方面・(旧)大阪方面・京都方面への空襲が行われる際、敵編隊が上空を通過する為に空襲警報・退避命令は幾度となく発令されている。恐れというよりも、『またか』という表情で防空シェルターの三重になっている耐爆扉を開き、次々と駆け込んでゆく。
一番外の防火扉を通り抜けてトンネルに入ると、外との明るさの違いで一瞬視界が完全に真っ暗になる。締まり切っていた瞳孔が緩むと、暗いトンネルのコンクリート製の壁面が目に飛び込んでくる。
耐爆ドア、耐爆ドア、そしてまた耐爆ドア。
三枚の扉を駆け抜けると、退避空間への長い階段が口を開けて待ち構えている。まるでロシアの(正確にはモスクワの)地下鉄駅(実際有事には核シェルターとして運用される事を見越している)の様だが、照明は必要最低限で、エスカレーターも存在せずただの階段である。
足の悪い高齢者の為にエレベーターも用意されているが、1基のみなので車椅子使用者がエレベーターホールへ集中している。
その長い階段を駆け降りた先の広い空間は、LEDパネルが天井に貼られていて明るく、今度は開き切った瞳孔が光を取り込んで視界が白飛びする。
『午後、0時、34分に、日本国政府より、中部・近畿太平洋岸、全域に、非常事態宣言、並びに、退避命令が、発令されました。該当地区に、お住まいの、皆様は、速やかに、指定された、シェルターへ、避難、してください』
◆◇◆◇◆◇◆
「熊野、行くよっ!」
「当然ですわ!」
最上が熊野を背に控えて砲撃を始める。伊勢、ル級共に決め手を欠く砲撃戦は、ダラダラと距離を縮め、重巡の有効射程・最上の15.5cm砲の最大射程までお互いは接近していた。
最大射程辺りから砲撃を始めていた羽黒は、その時点で伊勢と共同でロ級1隻を撃沈する事に成功している。また、伊勢の至近弾はリ級1隻を小破させている。しかし至近弾を受けた神通が中破、同じく時雨が小破と、被害も拡大を始めている。
熊野の砲撃は、有効射程圏内で行われた為、ほぼ誤差なく敵艦隊付近へ着弾する。最上の砲撃は有効射程圏外の最大射程ギリギリだったが、元々砲の性能が優秀だった事もあり、散布界に対する砲弾数、即ち着弾密度は、15門という投射量も併せて相当高いものになっている。
「右……かな」
「私は左でしたわ」
それでもいきなり初弾命中を得る事は難しく、僅かに左右にズレる。しかし、敵側も負けじとリ級が共に砲撃を始める。
「きゃっ!」
その複数の砲弾は伊勢の周辺にばら撒かれる。水柱に伊勢の姿が隠されるが、流石は戦艦。白い水壁を物ともせずに中から伊勢が現れる。
しかし、その後ろに続いていたはずの羽黒の姿は伊勢の背後には無い。神通が着弾点に目を遣ると、後進しながら現れる羽黒の姿があった。運良く砲弾の断片に襲われる事なく、被害の拡大は防いでいた。
「危なかったです」
「羽黒ちゃん!砲撃続行できる?」
間一髪躱した羽黒に、伊勢が呼びかける。その間も伊勢は交互撃ち方を続け、最上は熊野より早く再装填を終え、次の斉射を始める。神通も最大射程で主砲を放つ。
「ごめんなさい!大丈夫です!」
その言葉を裏付けるように主砲を斉射し、速力を戻してすぐに伊勢の後ろへ戻る。
その刹那、ル級がその羽黒を狙おうと照準を修正し、砲弾を放つ。
一瞬後には凶弾が羽黒に降り注いでいる。しかし羽黒に届く事はなく、水柱で姿を覆い隠すのみだった。仕返しとばかりに熊野が主砲を斉射し、無傷だった方のリ級を中破させる。
余りに一瞬の出来事に、ル級が振り返り、状況を確認しようとする。眩しく差す夕日に目を細め、艦隊の体勢を整えようとする。それが命取りだった。
「主砲6基12門、一斉射!」
伊勢が誤差修正を終え、斉射を始めたのだ。そのうちの2発がそれぞれ、艤装右半分と
「チッ」
完全に一撃撃破コースに乗っていた砲弾を阻まれた伊勢は舌打ちをし、次発を装填し始める。しかしその攻撃は無駄にはならず、中破していた方のリ級が砕けた艤装の欠片を浴び、動きが鈍る。その一瞬を熊野は逃さなかった。
「とおぉ(中略)ぉう!」
熊野提督ならご存知の、あの特徴的な奇妙な叫び声と共に斉射する。艤装に備えられた10門の主砲、その砲身の先端から炎と黒煙を噴き出しながら砲弾が飛び出す。
一瞬と掛からずにリ級へ砲弾が到達する。重巡主砲の有効射程圏内で放たれたそれは、凶弾とも呼べるだけの威力を持ってリ級を襲う。被弾して動きが鈍っていたのも重なり、撃沈に追い込む。
ル級1中破、リ級1撃沈、同1小破、ヘ級1小破、ロ級1撃沈、同1無傷。
対する函根鎮守府艦隊は、
伊勢小破、熊野無傷、羽黒小破、最上小破、神通中破、時雨小破。
時刻は1822。
日が沈み、夜になる。
夜戦が始まる。
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