函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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前回のあらすじ
戦闘描写がめっちゃクソ長い。けど戦艦TUEEてなるお話。

しかも今話は(単純な文字数では当シリーズにおける最長クラスの)4,400文字ちょいがフルで戦闘描写につぎ込まれてる。長い。しかも今話の終わりでもまだ帰投しない。長い(涙目)


第十四話 宵の月の下

「そろそろ日没……各艦、夜戦用意。行くよっ!」

 

主砲に次の徹甲弾を装填しながら指示を飛ばす。無線で応答が帰ってくる。中破した際、被害の拡大を防ぐため魚雷を発射管ごと投棄した神通を除いて、伊勢以外は全艦が雷撃可能だ。

 

それを確認すると、伊勢を先頭に単縦陣を組み直すように次の指示を出す。

 

1分も経たずに再び集合した艦隊は、魚雷の有効射程ギリギリまで肉薄しようとそれまでを上回る勢いで進撃する。その間にも砲撃戦は進むが、薄暮の霞む視界の中で狙いは安定しない。

 

大小様々な水柱の群れの中を縫うように進むと、ある一点で各々の艤装に備え付けられた魚雷が飛び出し、水中から敵へ一直線に進んでゆく。

 

「全艦、砲撃中断!回避運動!」

 

半ば黒に染まった海の中を、白い航跡を引きながら迫り来る魚雷を肉眼で捉えた伊勢は、回避運動をするよう僚艦に指示する。

 

砲撃を止め、更に速度を上げた艦隊は、其々が雷跡の隙間に身を滑り込ませる。それとほぼ同時に、お互いが同じ方へ舵を切ることで反航戦から同航戦に移行した敵艦隊周辺で、戦艦の着弾に勝るとも劣らない大きさ・勢いの水柱がそそり立つ。

 

「残念だった……ね」

 

「どうもその様ですわね」

 

大柄な体躯のロ級が、迂闊に射線上に入ってしまったため、時雨の雷撃を受けて一瞬にして鉄屑となる。

一方リ級も、巡洋艦3隻の射線が丁度干渉した地点で回避できずに被雷してしまう。結果として全身に魚雷の断片を浴びながら水面から落ちてゆく。

 

月齢15、満月の夜で、陽が沈んだ後も直ぐに登ってきた月が海面を照らす。

周囲に人工光の無い夜空には、陸地からはもう拝めないような輝きを溢れんばかりに溜め込んでいる星々が浮かんでいる。その下では炎を撒き散らしながら激戦が繰り広げられているというのに、そんな事にはお構いなしと静かに空で光っている。

 

「さぁ、行くわよっ!」

 

最後に言い放った伊勢は、更に距離を詰めた敵艦隊を睨んで主砲を斉射する。熱を持ち、赤黒く禍々しい鈍い光を微かに放つル級の艤装を目標に、影を見極める。

 

その砲撃はル級をしっかりと捉え、砲弾に詰められた火薬が爆炎と断片を周囲に撒き散らしながら艤装を叩き壊す。一瞬にして左側の艤装も砕け散り、生身の肉体も痛手を追う。一撃で大破まで追い込まれ、砲撃すら出来ずに次の熊野の砲撃に晒される事になる。

 

「夜戦は日本海軍の十八番でしてよ!」

 

急速次発装填装置を利用して再装填を終えた魚雷を斉射した後、砲撃を放つ。至近距離で放たれた砲撃は、魚雷共々殆どが必中といえる直撃に至り、止めを刺した。

 

深海棲艦の動力源は不明だが、艤装は(有機物的な生体部分と融合しているようにも見えるのに)重油を燃料にしているともいわれている。深海から出現することも併せれば、海底油田から直接得ているという説も現実味を帯びてくる。事実、北海油田として大規模な油田が確認されている欧州では、活発に深海棲艦が活動している。

南太平洋では更に活発だともいわれているが、大規模な油田は確認されておらず、信憑性の程は確かでは無い。人類の生活圏は深海棲艦の進出に同期して後退し、南太平洋は再び地球上最後の秘境となっている。

 

その重油が海面に流れ出し、炎を上げて敵艦隊を照らし、鮮やかに彩る。逆光の敵はこちらを見失い、ヘ級は弾幕を撒き散らす。暗闇では砲弾そのものを捉える事は至難の技で、迂闊に回避運動をしても散布界を逃れることはできない。散布界そのものが定まっていない上に、見立てを立てることも出来ないからだ。

 

小柄な水柱が最上を包み込み、海水で全身を濡らす。夜風と艤装の鋼の冷たさ、気化熱や恐怖により急に寒さを自覚させられ、最上は体を震わせる。

その前方では羽黒が扇状に雷撃を放ち、砲撃を仕掛けている。それに遅れてはならぬと、最上と時雨は魚雷を放つ。

 

揺らぐ炎に照らされたギリギリの距離感では砲撃は僅かに狂い、羽黒の砲撃はヘ級の後方に水柱を立てるのみに終わる。水飛沫が炎にかかり、一瞬光を弱める。

 

ヘ級はその瞬間見えた最上を逃さなかった。一瞬で指向された砲が一拍も置かずに火を噴き、半数近くが最上を捉えてしまう。

 

「うわっ!」

 

その叫びと共に艤装が爆炎を吐き、最上がよろける。至近距離の砲撃は、堅牢なことで名を馳せた最上の艤装の主装甲帯を貫き、大きなダメージを与える。弾薬庫に達した砲弾が周囲に熱と断片を噴き出し、誘爆させた。

爆風は誘導路を伝って艤装の喫水線下部を抜けて噴き出し、躯に傷を負わせることはない。しかし主砲塔とバーベットリングの継ぎ目から炎が漏れ始め、砲室の天井を吹き飛ばす。

幸いにして足元の機関部を担う艤装には火の手が回ることはなく、神通と共に第一戦速を維持して戦場を離脱するのに成功する。

 

時雨が魚雷の次発装填を終えた頃、魚雷がヘ級に到達する。しかし、火災の熱により信管が誤作動。ヘ級のはるか手前で巨大な水柱を上げて爆散する。

ヘ級の視界を遮っている数瞬間の間に、時雨は弾かれたように隊列を離れて回り込みながら接近をかける。伊勢、熊野、羽黒は悟らせてはならぬと集中砲火を加えて行動・視界を遮る。

 

炎に照らされた区域を抜けたヘ級は、度重なる至近弾で中破に追い込まれ、機動が鈍る。

 

「残念だったね」

 

時雨が背後を取ったのに気付いた時には時既に遅く、艤装がぐるりと一周する間に必中距離から放たれた魚雷が視界を()に染め上げる。最期には、ほぼゼロ距離射撃となった時雨の砲撃が艤装の最後の予備浮力を粉砕する。それと同期した伊勢らの砲撃が艤装を捉え、同時の着弾がヘ級を木っ端微塵にする。

 

「こちら時雨。ヘ級の轟沈並びに敵艦隊の無力化を確認」

 

無線機に時雨が呟く。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

《こちら第一艦隊、旗艦伊勢。敵艦隊の殲滅を確認。状況を終了します》

 

無線から流れてくる声を、疲労感を滲ませた顔で、喜んだように聞いていた艦娘たちがいた。

 

それは(おか)の上ではなく、海の上からだった。

 

「こちら第二艦隊、旗艦古鷹。提督より、残党掃討戦を終了後、必要であれば第一艦隊を援護せよと受命。水雷戦隊夜戦支援部隊の錬成も兼ねて現場海域後方、15海里地点で待機中。我々で掩護します」

 

古鷹とその隣の龍田を先頭に、それぞれの外側後方に駆逐艦が2隻ずつ並ぶ。左の古鷹の左斜め後ろには綾波、その更に左斜め後ろに満潮。対して右にいる龍田の右斜め後ろに夕立、その右斜め後ろに朝潮が続いている。

 

ちょうど鶴翼の陣を前後反転した形であり、鳥雲(ちょううん)の陣と呼ばれる陣形だ。

 

寒川は、支援部隊としての第二艦隊を前路掃蕩、航路打通部隊としてではなく、後方の安全を確保するための後詰めとして投入していた。

 

結果として寒川の危惧は杞憂に終わらず、ヘ級を旗艦に、チ級2隻、ロ級3隻といった重雷装の水雷戦隊が4度襲来し、夜間に大破艦1・中破艦1を抱えた状態で包囲されていれば轟沈艦を出していただろう。

 

《了解。現在、大破1、中破1の損害を受け、積極的戦闘参加は困難です。会合地点はもう10海里接近した地点を要請します》

 

「こちら古鷹。了解です!これより、会合地点に急行します」

 

そう言って無線を切ると、速力を上げて、黒い水面に白い三角波を幾重にも刻みながら風を切って進む。相互の相対距離は維持したまま、夜風に髪を靡かせている。

 

「合流後は第三警戒航行序列に移行。掩護して帰投します。周囲の警戒を厳として」

 

『了解!』

 

後ろから頼もしい返答が帰ってくるのを確認し、遥か前方の揺らぐ炎に目を凝らす。その周囲には極小の粒ながらも第一艦隊の面々が蠢いているのが見える。見上げた空には、戦闘終了前と同じく、満月が光っている。

 

前方の海面に視線を戻すと、点は6つが集まり、やや幅広く陣形を組んで此方に向かっている。陣形の中央に居る、熱を持って鈍く赤黒く光っている艤装からは、夜空の星々を塗りつぶすように黒煙が上がっている。

 

「あれじゃぁまるで、闇夜の提灯ですね……」

 

「そうねぇ……正面を集中して監視するわねぇ」

 

「お願いします」

 

古鷹と龍田が言葉少なに意思疎通して、艦隊は速力そのまま近付いていく。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「最上は危険だから輪形陣中央に。神通もその後ろに入って。時雨ちゃんは最後尾、先頭は私。右は熊野で左は羽黒ちゃんが入って!」

 

再集結した艦隊に、伊勢が淡々と指示を出す。足に不備は無いので、伊勢の最大戦速に合わせて踵を返して帰投する。黒い水面は昼間の鮮やかな水色を感じさせる事もなく、どこまでも鈍く落ち込んでいる。

 

「うーん……この部分も応急修理出来ない?……それじゃぁ投棄するしかないかぁ……」

 

妖精さんとやり取りをしていた最上がそう嘆くと、両腿に備え付けられている主砲を取り外す。爆発で無様に砲室を晒している状態のまま火薬を巻きつけ、放り投げる。空中をある程度進んだ場所で雷管が作動して爆発。辛うじて保っていた原形を留める事なく、無数の欠片になって水面に落ちていく。

 

「あれ、おかしいな?信管はもう0.9秒くらい遅くしたはずなんだけど……」

 

しかしその呟きは、時雨の叫びと、通信機から流れ出した古鷹の叫び、そして真横に立った水柱に掻き消される。

 

「後方、距離約2000(フタセン)に敵艦隊!」

《第一艦隊、聞こえてる!?後方に敵艦影!》

 

「応戦用意!最上と神通は全速で退避!第二艦隊と合流して!合流の為にすぐ近くまで来てるわ!」

 

急遽反転して一番後ろに戻る伊勢。時雨の横についた頃には時雨も既に判別を終えていた。散開して回避運動をしていた熊野と羽黒が戻ってくると、時雨は敵艦隊の編成を告げる。

 

「敵はリ級3、ヘ級1、チ級1、ロ級1!強襲水雷戦隊!」

 

「夜間で、尚且つこの数が不足してるタイミングで相手取るには、この上なく面倒な編成ね」

 

「でも、やるしかありませんわね」

「が、頑張ります!」

「君たちには失望したよ」

 

不意討ちともいえる中でも、落ち着いて反撃に移る第一艦隊。背後を睨んで背面航行しながら、左右に不規則に動いて、見えない敵弾を躱す。背面航行ながらも速力を一杯にあげ、引き撃ちの体勢に入る。

 

「残り弾薬は!?」

 

「主砲弾残り2割、魚雷はあと1斉射分ですわ!」

「主砲残弾が今3割を割った所です!すいません!魚雷はもうありません!」

「主砲残り4割だよ。魚雷はあと2斉射分……予備魚雷込みで2.5斉射分ってところかな」

 

着弾の水柱の周囲に広がる轟音の中、伊勢が叫ぶ。伊勢自身の主砲は、まだ4割ほど残っている。戦艦のペイロードは伊達では無いのだ。

 

至近距離での砲戦で、退避する最上・神通や、脆い駆逐艦の時雨を庇う様に立ち回り、被弾が嵩んでいる。戦艦の耐久と装甲で耐えてはいるが、12門の主砲の内、1門が砲身が歪んで腔発を避ける為に射撃不可。4番砲塔は片側のみで砲撃している。

 

「行きはよいよい帰りは怖い……よく言ったものね」

 

諺の意味をこんな形で体感させられると思っていなかった伊勢は、最大脅威のリ級を葬り去るべく主砲の狙いを定めた。




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