函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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前回のあらすじ
伸ばして伸ばして伸ばして引っ張った海戦が漸く終わった。疲れたでござる。
しかし戦後処理がまだだよォ!サァ続きだぁ!(吐血)


第十六話 諸々の解決(あとなんか)

寒川が立っていたのは、大本営 中央戦略棟地下 戦略会議室の下座。

 

待っていたのは、正面に存在感を放っている複数名からの、歪曲な皮肉やダークユーモアたっぷりの文字通りの皮肉、あとは責任の所在を追求する情け容赦無い言葉だった。

 

「君、戦艦の大破を防ぐことは可能だったのではないのか?」

「戦艦に完全に頼った戦術に問題があったのではないか?水雷戦隊相手に戦艦は過剰な戦力供給である筈だ」

「そもそも艦隊本部の作戦案では、第二艦隊は前路掃蕩の為に出撃許可を出したのだ。この通り敵戦力の漸減を図っていれば、今回のような事態は起きなかった。そう思わないかね?」

 

そもそもの事の発端は、寒川が損害報告を大本営に提出した時に起こった。その際、修理に必要な資材や戦闘の際の情報など、あの戦闘における損害を計上して送ったのだが、余計な資源の消耗を避けたい上層部は、鬱憤の溜まっていた艦隊本部を筆頭に寒川の揚げ足を取り始めた。

 

最初はテレビ会議の形で、1対1の対談が数回行われていたのだが、議論は平行線を辿り、当事者間での会議にもつれ込んでいた。

 

今朝は6時起きで鎮守府を電車で飛び出し、味気ない黒い壁(尤も、高速で移動しているので並んでいる蛍光灯が一本の線に見える以外何も無いのだが)を眺めながら7時半に第二新東京駅着。10分とかからず大本営へと入り、早々会議に引きずり出されたのだ。

 

会議も早々、始まってすぐに寒川に突きつけられたのが最初に挙げた3つの質問という事になる。

 

そして、鎮守府で顔を洗って頭爽快・意識明瞭な寒川は、戦意十分と言わんばかりに答えを返していく。

 

「最初の2つ……資材管理部の山崎中将と、三槍(みつやり)重工専務の松葉氏の質問ですが、先日の戦闘は帰投中の艦隊を敵が追撃した為に生起した、我が方の意志に()()()()()自衛の為の止むない戦闘であった事をお認め頂きたい」

 

現在、軍の戦力は備蓄資源に頼った状態である。結果として、嘗ては補給の為の閑職であった資材管理部は、大きな地位を手に入れた。また、この騒動の発端となった横槍もこの資材管理部からであるため、必然的に列席する事になった。

 

そんな彼らからすれば、新興勢力として、一介の名も知らぬような左官が大本営内の勢力図に新たに領域を広げていくのは面白くない状況だっただろう。その上、この規模の修理が繰り返されれば備蓄資材は底を付き、消費者に関わらず資材管理が杜撰だったと自分らが糾弾される事になる。また、急速に地位を失い、その長は失脚するだろう。

それを避けるため、新興勢力を叩き、自身の勢力を盤石なものとする目的を持って、山崎という男は寒川に対していた。

 

対する寒川は若干眉根を顰めながら、『()()()()()』の部分を僅かに強調して口に出す。気配に変化はないが、最初に質問した2名は黙り込み、寒川を睨みながら話を聞く。

 

「予期せぬ戦闘であった為、予め対策を行うという事は不可能で……」

「寒川中佐、構わないか?」

 

説明を遮ったのは、艦隊本部の南戸(みなみど)大将。これまでの函根鎮守府の活動を快く思っていない筆頭である勢力のトップであり、必然として悪印象を持ち合わせている。

 

「構いませんが、何か不味い事を申したでしょうか?」

 

「そんな事はないが、君は敵追撃部隊による戦闘だと言ったな?」

 

「はい。それは閣下にも提出した戦闘詳報の通りですが」

 

いまいち話の筋が掴めない外野に置かれた状態の2名は、押し黙って眺める事しか出来ない。

 

「これは私の最初の質問と被るが、何故第二艦隊を漸減に使わなかった?もし掃蕩が済んでいれば、追撃を受ける事も無かっただろう?」

 

1番痛い所を突いてくる、と苦々しい思いで、睨みそうになるのを堪えながら話を聞く。

しかし、それに対する対策は練ってある。事前の予測で、1番の問題がそこだったのだ。

 

「艦隊本部から下された作戦案に於いて、執拗な敵の追撃は想定されていませんでした。もし先方でその可能性が示されていたとして、我々にその程度の前提情報しか与えられていなかったというのであれば、それこそ私は独自に動かざるを得ません。()()()()()聡明な方ならば、それはご理解して頂けると私は思うのですが」

 

皮肉混じりの言葉に、思わず回答に詰まる南戸。目には嫌悪・非難の色がありありと浮かび、淡々と寒川の言葉を聞いていたが、ここに来て明確な敵意を寒川へ向ける。

 

「しかしだな……」

「寒川大佐。それでは私の質問に対する答えにはなっていないのではないか?」

 

ここで言葉を挟むのは松葉専務。確かに今までの寒川の発言では、先の『戦艦に頼った戦術』問題点について説明が成されていない。その敵意を孕んだ、濁り切った目で睨まれた寒川は、臆する事なく切り返していく。

 

「最初私は、あの戦闘は帰投中の戦闘であった、そう申し上げましたね?」

 

「無論だ。はっきりと覚えている」

 

何故に今更そんな事を掘り返すのか、と怪訝な表情になる松葉。そんな相手に、確実に意志を伝えるため、言葉を選んでから問い掛ける。

 

「それが分かっているのなら話は早い。貴方は質問の中で、『重巡相手に戦艦は過剰だったのではないか』、そう仰いましたね?」

 

「間違いない」

 

彼がその一言を発した直後、僅かな沈黙が部屋を支配し、空気が一瞬凍りつく。向こうに回した相手にとっては一瞬の、しかし次の言葉を準備していた寒川にとっては長く感じられる時間が過ぎ去ったあと、寒川は口を開く。

 

 

 

「であれば、貴方の質問は見当違いであると、私は言わざるを得ません」

 

 

 

その一言は、部屋の空気を震わせながら、わずかに壁で反響し、しかし大部分は壁に吸収されて消えていく。僅か数秒の言葉が部屋に与えた沈黙は計り知れないものだった。

 

「……それはどういう意味だ…………っ!」

 

沈黙が部屋を支配したあと、それを破るように口を開いた松葉は、相手の意図に気付き再び口を閉ざす。その目にははっきりと敵意が見えている。

 

「私は、敵ル級に対抗するため伊勢を艦隊に加えました。リ級の襲来は()()()()()()()()()予想外です。あとはお分かり頂けますね?」

 

最大限、反論の余地を与えないよう明確な拒絶を伝えた寒川。その空間に残ったのは、奮う先を失い、収めようにも事は始まっているためどうしようも無い、判然としない怒りと、追及を躱した寒川の勝利という事実であった。

 

「寒川大佐、しかしだな……」

()()()()()です、大将。我が艦隊は、こう言ってはやや大袈裟ですが、人類の存亡がかかっています。今こうしている間にも、敵は大規模な攻勢に出る機会を伺っているやもしれません。

しかしそれよりも問題なのは、そんな組織の実力を発揮するのに障害になる権利関係が分散しており、集中していないことです。これは非常時の対応に関して、迅速かつ流動的に動く必要があるのにそれが独断で出来ないというジレンマに陥る、本末転倒な状況になります」

 

苦し紛れに言い訳を続けようとする南戸。しかしそれを遮り、寒川は話を続ける。

 

責任の所在を問う筈だったこの会議は、寒川が反撃混じりに権利の拡張に対する意見を周囲に提唱する場と化していた。質問で集中的に責められということは、逆にいえば一挙手一投足に注目が集まるということだ。

それを逆手にとった寒川は、今まで不満だった事に対する自分の意見を、正論としてゴリ押しする形で相手に認めさせようと、徹底的なまでに自身の発言を正論で固め、相手の発言を突き崩そうと画策していた。

 


 

そしてそれは成功し、函根鎮守府は権限を拡大した。

寒川が言い終わり、扉から出ようとした時、南戸は負け犬の遠吠えとばかりに苦言を呈していたな、と寒川は思い返す。

 

「……だが、一介の佐官に大きな権限が与えられる事は問題だぞ」

 

その一言は、返す寒川もしばらく黙っていたため、空気に吸い込まれていく。僅かな空気の震えが最後消えると、寒川は振り向かずに一呼吸置いてから再び口を開いた。

 

「将官相当で釣り合う権限ならば、閣下が私を少将へと推薦すれば構わないでしょう。それこそあなたの権限があれば容易い事でしょうが」

 

我ながら言い過ぎたかとも思ったが、直後に軍令部の伊藤に呼び止められ、彼に割り当てられた部屋に連れて来られた。

 

「寒川。何をボケっとしている」

 

「すみません。少し考え事を……」

 

「さっき帰り際に喧嘩売った事だろう?」

 

見透かされていた。少し困惑している寒川を鷹の様な目で真っ正面から見据える。

 

「はい。……伊藤さんにはお分かりで?」

 

「見てれば分かる」

 

「はあ……で、自分は何故呼ばれたのでしょうか」

 

この人にはつくづく驚かされる、とまだ僅かに困惑しながら、次の回答を待つ。会議が終わった直後、「用がある」と呼び止められたのだ。

 

「本日付で少将へと昇進する事になる」

 

「…………はっ?」

 

驚きの混じった目で伊藤を見つめる。しかし向こうはどこもおかしい様子もなく見つめ返してくる。それどころか、封筒を手渡される。

 

「了解しました。寒川雪成、拝命致します」

 

「まぁそう早まるな。中身を見てみろ」

 

「はぁ……。…………これは?」

 

てっきり中身は人事関連の書類か、先の会議で寒川が要求した権限拡大に関する権利引き継ぎの書類かと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

 

 

 

『大本営ドック崩壊に係る原因調査指示書』

 

最初の一行目にはそう書いてあった。

 

「全部出しても?」

 

「ああ、構わない。というか、今ここで確認してくれ」

 

突然の内容に、再び混乱する寒川。

 

「……初耳です」

 

「当然だ。情報は軍機レベル、これを知っているのは担当部署と一部の高官に限られる」

 

その発言に眉を顰める寒川。この場で急に話を聞かされ、何とも言えない空気に陥る。

 

「だからといっても、実働部隊のトップにさえ情報を回さないとは、相当な念の入れようですね」

 

若干眉を顰めたまま続ける寒川。皮肉を込めて突っつく。

 

「敵を騙すならまず味方から、というだろう」

 

皮肉に気付かないほど鈍い男でもない。打てば響くように答えてくる。

 

「担当部署は今大混乱だ。重大事故なので、軍も表立って動くに動けない」

 

「で、現状民間には存在が公表されていないウチに仕事が回ってきたと……」

 

「理解が早くて助かる。鎮守府に持ち帰って情報を精査してくれ。妖精さんらの協力を仰いでも構わない」

 

「ハッ!」

 

指示を聞き終わってから、一つ疑問に思った寒川は質問をする。

 

「1つ……質問してもよろしいですか?」

 

「構わん。何だ?」

 

「大本営に棲み着いていた妖精さんたちはどうしたんです?」

 

「なかなか鋭いな。現在詳細は調査中だが、崩壊直後に6割が消えた。行方は不明。残りの4割も徐々に消えて、1週間前の段階で全員消えた」

 

「消えた!?」

 

思いもよらぬ言葉に驚きを隠せない寒川。声を張り上げて伊藤に向き直る。

 

「何だ。そんなに意外か?」

 

「えぇそりゃもう…………彼ら……彼女らは基本的に場所という概念に縛られてます。言い換えれば、一度棲み着いたら其処に留まり続けます。……離れるなんてあり得ない…………」

 

函根で生活して大まかな彼女らの生態は分かってきた。それを言葉にして、口に出す。

 

「そうか……なるほどな…………」

 

「行動パターンに変化が出てきた……自分としては驚きです」

 

「兎も角、鎮守府で情報を整理すれば、何かしら手掛かりが掴めるはずだ」

 

「了解致しました。只今より寒川雪成、任に就きます」

 

海軍式敬礼で伊藤に向き直り、復唱する寒川。

 


 

 

 

面倒事がまた1つ増えた。

 

 

 




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