函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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半年以上あいて、漸くの完成となりました17話、反動のせいか5,000文字オーバーで過去最長の記録を一気に更新しました(隙あらば自分語り)

と、そんなことは置いといて、
申し訳ありませんでした(震)

それでは前置きもこの辺にして、本編をどうぞ


第十七話 不穏な影 -1-

「妖精さんの習性からして、この話は違和感しかないよね」

 

「妖精さんの執着は凄いからなぁ……」

 

例の密談もとい伊藤総長からの無茶振りを受けてから、寒川は函根へと舞い戻っていた。既に夕方だったが、執務室に暫く籠って、書類と睨めっこをしながら唸っていたが拉致が開かず、結局時雨を呼び出した。

 

「ちょっと手伝って貰える?」

「分かったけど、1つ質問いいかな?」

「どうした?」

「どうして僕を呼んだのかな?」

「……妖精さんに詳しそうだから?」

「あぁ……疑問形なんだそこ」

 

そんな会話を思い出しながら、時雨に1つ1つ情報を教えていく。そしてその日に、時雨と共通した結論を出すに至った。それが冒頭の発言である。

 

ん、と呟いた直後、時雨はあくびをして現実に意識の矛先を戻す。

 

「……眠いね。……って、もう2100じゃないか!」

 

「あ゛ー、完全に時間忘れてた……」

 

「提督。今いらっしゃいますか?」

 

「あぁ、大淀。うん、今いるけど?」

 

ドアをノックする音が響いたあと、大淀がドア越しに尋ねてくる。寒川が応えると、恐る恐る戸を開けて大淀が入ってくる。

 

「夕食の時間になってもいらっしゃらないので待ってたんですが、一向に来る気配が無かったので……」

 

「スマン」

 

「今日の午前中に、大本営に伺われたことと関係が……?時雨さんもいらっしゃいますし」

 

「実はかくかくしかじかで……」

 

説明する寒川。大淀は話の折々で驚いたような表情を浮かべながらも、その説明を聞く。

 

「この重要性となると……極秘案件ですね」

 

「担当部署は硬直状態で、その上防諜の為情報的に封鎖されてるという話だったしなぁ……」

 

「それで非公開のウチに回って来た……と?」

 

どこかで聞き覚えのある会話で確認をする大淀。

 

「まぁその通りで……デジャヴかなぁ……

 

そして気付いた寒川は小声で呟く。

 

そういえば、と切り出した大淀にかき消され、誰の耳に届くことも無かったが。

 

「……少し前に加速度的に妖精さんが増え始めたんですよね」

 

「えっ」

 

「妖精さんの総数を確認していた資料がどこかに……」

 

その言葉と共に執務室の隣の資料庫へ足を踏み出す大淀。それ先に言ってよ、と呟くのも聞こえていない風情で引き戸を開き、壁の向こうへ吸い込まれるように消えてゆく。

 

それを見届けた寒川と時雨は思わず目を合わせ、寒川の『知ってたか?』という問いかけを滲ませた視線に対し時雨は否定を示すように首を横に振る。

 

それも束の間、寒川が時雨に聞こうと口を開いた途端、ガラガラと音を立てた引き戸が喉まで上がった言葉を呑み込ませた。

 

「ありました」

 

「え、いつの間に?」

 

「プリンターのフッターで記された日付は4月16日の土曜日、1803ですね」

 

寒川が書類をのぞき込む。

 

「ホントだ……」

 

「えぇ……提督初耳です」

 

「提督、僕も初耳だし一人称がおかしいよ?」

 

「あぁ、うん」

 

生返事を返す寒川に、やれやれと諦めたように首を振る時雨。大淀の怪訝な表情をよそに、寒川は次々と書類の束をめくっていく。

 

「これ、原因調査は完了しなくてもいいんですかね……?」

 

「命令書の内容は『可能な限り原因の究明に努めよ』ですね」

 

「たぶん、ウチは繋ぎなんだろう」

 

『あーそういう』

 

時雨と大淀の2人が声をそろえて呟く。つまり、函根鎮守府ですべき仕事は、担当部署が復旧するまでに、妖精さんらを見つけ出し、事情を聴取すること、となる。

 

「面倒……ですね」

 

「全くだ」

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「うーん……」

 

唸り声をあげて固まる寒川。その手にはメモ帳とシャーペンが握られている。

 

「まぁ、無機物から有機物の艦娘が現れたり、戦闘後に急に現れたり、特に時雨は急に日本近海に現れたり、ぱっと見ただの人間と大して変わらないのに艤装を扱う膂力を持ってるし、妖精さんとかいう謎生命体連れてたり会話出来たり、艦娘に関してはオカルト染みた事がまかり通ってるから今更なんも言うことは無いけど、ここまでくると霊だとか日本神道だか仏教だかの宗教染みた何かを感じるな……ちょっと月刊◯ー買ってくる」

 

「待ってよ提督」

 

捨て台詞を残して現実から逃げ出そうとした寒川の行く手を、時雨が阻む。

 

「行かせてくれぇ!龍脈だとか霊的空間ポテンシャルとかなんかよぉ分からんのやさぁ!」

 

「飛騨弁って、提督あの入れ替わり映画見て感化されたの!?」

 

無理やり飛び出そうとする寒川と、体を引っ張って止める時雨。

 

「龍脈っていうのは断層のことだよ提督!」

 

時雨のカミングアウトに行動が停止する寒川。

 

「え、うそん……マジで?」

 

「あと霊的空間ポテンシャルっていうのは、魔法ゲームとかのマナみたいな?」

 

「あ、そうなんだ……断層とマナだったんだ……」

 

なんか宗教的なものに真正面からケンカを売ってるようなカミングアウトを経て、時雨と寒川は状況の整理に入っていた。

 

「大本営ドックには構造上の欠陥があったわけではなく……」

 

「龍脈の真上に存在しなかったが故の、霊的な無理があって……」

 

「霊的空間ポテンシャルをリソースに形を保っていたのが、限界を迎えて自壊した……ってことになるのか?」

 

「妖精さんの話をそのまま引っ張り出すとそうなるね」

 

「ウチのドック、大丈夫だよな?」

 

「日本は断層大国だよ?断層が無い場所なんて、数少ない例外を除いては一切ないよ」

 

「それもそうか、これだけ地震が起きてるわけだし……」

 

そう寒川が言った直後、僅かな振動が足を伝わって寒川の体を揺らす。

 

「今のはちょっと大きかったか?」

 

「震度2……くらいかな?」

 

「いつもは1だけど……」

 

と言いながらリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を入れる寒川。

 

《……ニュースの途中ですが、地震情報をお伝えします。本日17時43分、岐阜県各務原市を震源とする……》

「あれ、あそこらへんに断層なんてあったのか」

「セカンドインパクト……だっけ?で、全地球規模の激震が地殻を貫いたんだから、新たに地盤に亀裂が入っててもおかしくないよね」

「まぁ、光速の95%もの速度で落下した上、55,000tもの質量をもっていたとなれば、マグニチュード13相当のエネルギーを開放して全地球規模でダメージを与える、か……」

《各地域の震度は、岐阜県各務原市、関市、岐阜市、瑞浪市、多治見市、愛知県瀬戸市、春日井市、犬山市、小牧市、一宮市、他11の市町村が震度4……》

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「提督、妖精さんからの聴取、まとめた書類書きあがりました」

 

「悪いな大淀、……しかし、落ち着いてるな」

 

「何がですか?」

 

翌日になり、記録として書類の作成に取り掛かった大淀に、寒川が声をかける。

 

「大本営ドック……つまりは大淀を仮にも建造した施設が崩壊したってのに……」

 

「他にも大本営ドック出身の子は多いですから」

 

どこか物悲し気な視線で苦笑しながら、大淀が答える。

 

「それよりも、案外解決が早かったですね」

「大淀」

 

思わず零した、という口調で大淀が発した言葉を、寒川は諫めるように遮る。いえ、すみません、と呟いた大淀は、その瞬間だけ感情を移さない濁った眼になった寒川に視線を合わせることなく、自身の作業卓へ向かう。

その時、寒川の懐のスマホが振動を伝える。

胸ポケットから取り出したスマホの画面には、『伊藤博文大将-軍令部-』と表示されている。将官同士の連絡に使われる専用秘匿回線だった。

 

《寒川、上層部の意向で調査団が送り込まれることになった》

 

「はい?」

 

《調査団だ、調査団》

 

およそ将官同士の会話とは思えない口調で、*1もし盗聴している者がいたならば拍子抜けするだろう。まぁ、一方は特例的に将官の片隅に置かれたような、およそ釣り合わない人間ではあったが。

 

「いえ、そこではなくて……」

 

《何が不満なんだ?》

 

()()()()()()()()()()()()()という単語が腑に落ちないというか……」

 

《軍令部が軍の最高決定機関でないことは承知しているだろう》

 

「中央戦略指令室、ですか」

 

《そうだ、陸海軍を統括するのは軍務省だが、意思決定の最高機関は陸軍が戦略師団指揮部、海軍は軍令部……大本営*2の最上層で、それぞれ独立している。そしてそれを取りまとめる機関は軍令部内に存在せず、内閣府の一下局としての中央戦略指令室がそれにあたる》

 

「えぇ、知ってますが……」

 

《調査団は情報漏洩を避けるために海軍部内の()()()から派遣される》

 

「了解しました……なぜ電話で連絡を?」

 

《人選に関わったメンバーの中に外務省内務局長の鹿田という人物がいるんだが……》

 

そこまで言ったところで唐突に電話が切れる。その直後に合成音声が流れだす。

 

《この会話は、盗聴されている恐れがあります……》

 

一回目のアナウンスが言い終わらないうちに通話終了ボタンを押した寒川は、いつの間にか大淀が退室していたので一人になった執務室で毒づく。

 

「盗聴してんのはそっちじゃねぇか……」

 

「提督?」

 

一息ついてお茶でも淹れようかと思い立った寒川を、扉の向こうの時雨の声が止める。

 

「入っていいぞ……どうした?」

 

時雨が後ろ手に扉を閉めると同時に質問を浴びせる寒川。

 

「提督、今日の出撃業務も中止の方がいいのかな」

 

「そうだなぁ……ここ2日間何もしてないし……かといって次の海域に進出できるほど時間的な余裕があるわけでもないし」

 

「じゃあどうする?」

 

「九十九里方面って深海棲艦の動きあったか?」

 

「ちょっと分かんないね……」

 

そう言うと、時雨が海岸警戒観測隊からの情報が入ったUSBメモリーを差し出す。

 

「これによると、深海棲艦が活発に攻撃してきてるわけじゃない、ってことぐらいしか分からないかな」

 

「あれ、それって確か自分の机の引き出しに……」

 

「あ、ごめん提督。ちょっと拝借しちゃった」

 

「全く……本来公文書としてきちんと管理されるべきものなんだが……漏洩したら自分一人の責任では済まないからな?」

 

「う、うん」

 

寒川の視線を受け止めた時雨が、思わずたじろぐ。

 

「ただ、観測隊の情報が示すのはそこには深海棲艦がいないってことであって、通信が途絶した観測隊が示すのはそこに深海棲艦がいるってこと。つまりたかだか0と1の1ビットの情報しか持たない」

 

「提督、そんなこと言ってるとそのうちどっかの情報機関に消されるよ?」

 

「実体を持たず形骸化して、そのくせ人員施設の維持費で国税を食い潰してる。今の海軍は野党の批判の矛先だよ、今までも、これからも……」

 

寒川の目が急に黒い邪気を孕みだす。

 

「提督?でも、僕らの存在が公になれば……」

 

「もしこの世界から深海棲艦を駆逐できたとして、その次に待つのは何だと思う?」

 

唐突な話題の転換に時雨が固まる。

 

「えっ……」

 

「各国政治家の手元には、対深海棲艦戦争の置き土産として艦娘という存在が残る。現代兵器が効果を成さない人智を超えた存在であり、高速修復材ですぐに回復して延々と戦い続けることができ、無機物を原料に無尽蔵に生産され、そしてこれが一番重要なことだが、人類を助ける存在として現れた艦娘は人間の意志に逆らうことができない。こんな()()()()()を手にした人間が、それを放置すると思うか?」

 

「……」

 

「自分の見立てが間違いなければ、戦争が起こる。艦娘同士で、終わることのない戦いが延々と続く。それを避けるには、終戦と同時に艦娘をすべて解体……艤装解除だな、その肉体に宿る(いくさぶね)の魂を艤装のそれと切り離し、ただの少女になる。そうしてすべての艦娘を少女にしたうえで、艦娘建造のための設備をすべて破壊し、破棄する。研究資料も含めてすべて闇に葬る必要がある」

 

「提督……」

 

涙目でこちらを見上げる時雨。しかしそれを無視して、寒川は続ける。ここで意見の一致が出来なければ、今後大きな齟齬を内に孕んだまま函根鎮守府は歩むことになる、その予感が寒川にはあった。

 

「だがそれを成すには、一介の少女となった後の艦娘たちが、社会で生活できるようにする必要がある。つまり新たに、解放される人数分の戸籍を作る必要がある。だが、艦娘という戦力を闇に葬るこの計画に、政治家が首を縦に振るはずがない。十中八九、協力は得られないだろう。だとすれば、艦娘同士の戦争を未然に防ぐにはすべてが公になる前に隠密に終わらせる必要がある」

 

「でもそれじゃ、海域解放の説明が……」

 

「新兵器の開発に成功しました、とでも言わせておけばいい」

 

「でもそれだとやっぱり……」

 

「艦娘が世間に解放されるための戸籍の新規作成は、無理やりにでも呑ませる。このシナリオなら、艦娘運用ノウハウはこの函根鎮守府だけが有することになる。さっきの場合は諸外国艦娘が総がかりで押し寄せればウチは壊滅必至だが、こっちなら十分交渉のカードになる」

 

「でもそうするとその後に提督が……」

 

「自分一人の命と、数十に及ぶ艦娘の命なら、圧倒的に後者が重い。そのためならば、喜んで国だって裏切る」

 

「提督のバカ……」

 

最後に残ったのは、怒りに任せて自分の意見を押し切ってしまった寒川のちょっとした後悔と、寒川が抱える心の闇を垣間見てしまったが故に、心の折り合いのつけ方に迷っている時雨だった。

*1
そんなことはありえないが

*2
旧陸軍の悪習を断つため、陸軍はその傘下への併合を拒否したので、現大本営は海軍のみを統括する




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