函根鎮守府~提督と艦娘たちの戦いと日常~   作:柱島低督

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前回のあらすじ 渦潮(陸上)→ういろうx2 を落としてしまいました

今回はメシテロ要素が発生します。その手のものがNo Problem !という菩薩のような方は読んでいただければ、ムリムリの無理!という提督方はブラウザバックしていただければ、幸いです。


第五話 北欧からの刺客

「鎮守府正面の侵攻・制圧作戦の成功を祝して、乾杯!」

 

『乾杯!!』

 

乾杯の音頭を取ると明るい声が返ってくる。寒川の声に集中して少し緊張していた空気が和み、一気に賑やかになる。

一つのテーブルを囲み左に大淀、右に時雨が座り、反対側には左から順に神通、綾波、夕立が料理を食べる。

 

「はぁ…癒されます…感謝ですね…」

玉子焼きを食べながら綾波が恍惚の表情を浮かべる。旧海軍の資料の料理に関する資料を纏めたものの中に駆逐艦綾波で出されていた栄養満点玉子焼きが載っていたので作ってみたが、案外効果があるようで次々と食べ進めてキラキラが増している。

 

神通と夕立は納豆の糸引き度合いを高めようとパックの中身を超ハイスピードでかき回している。

 

一方の時雨は味噌汁を啜りながら

「このお味噌汁、出汁が効いてるね。味噌の風味も引き立ってるよ」

と、冷静に(冷静に?)グルメリポートをしている。

 

左に目を遣ると大淀が無心でご飯を掻き込んでいる。余程美味しかったのだろうか。ありふれた炊飯器で炊いたありふれたお米なのだが…

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

『ご馳走様でした!』

「お粗末さまでした」

 

皆一頻り食べ終え、各々の食器を洗って部屋へ散っていく。

 

「……ふぅ」

 

「提督、こっちも終わったよ」

 

最後まで残って手伝ってくれたのは時雨だった。

 

「お疲れ様。悪いね、こんなに手伝わせちゃって」

 

「大丈夫だよ」

 

「もうゆっくり休んでくれ」

 

うん。と返した時雨も部屋へ帰り、一人寒川が調理場に残る。しかしすぐに自室へと戻って行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「……提督、提督?朝だよ。起きて、ほら」

 

「あと10分寝かせて……」

 

「提督さっきもそう言って20分経ってるよ」

 

時計の針は0620を指している。旧海軍からの伝統で総員起こしは0600に定められている。

 

「………」

 

「ほら、起きて?」

 

「…面目ない………」

 

カーテンは既に開かれている。昨日の夜は閉じていたから時雨が開けたのだろう。窓の外は雨が降っている。

 

「雨か…」

 

「今日はお休みだね」

 

シャワーを浴びにシャワー室に足を向ける。

 

 

「うっ…冷たっ!」

給湯機が温まって無いのか、出てくる水は氷のように冷たい。しかしそれも一瞬だった。すぐにお湯が降り注いでくる。一晩パイプに溜まっていた水が夜の間に冷えていた。

 

 

シャワーを浴びて二種軍服に着替えると朝食のために食堂へ向かう。

トン、トン、トン……

まな板に当たる包丁がリズムを(そしてネギを)刻む。

 

先に起きて先に来たのだろう。神通と大淀が既に朝食の準備をしている。と、思った瞬間包丁の音が止む。味噌汁も完成してもうあとネギを入れるだけなのだろう。

 

「あ、提督。おはようございます」

「おはようございます」

こちらに気付いた大淀と神通が挨拶する。

 

「ああ。悪いな」

 

すると後ろから足音が聞こえてくる。

 

「てーとくさん!おはようっぽい!」

「おはようございます。司令官」

夕立と綾波が入ってくる。神通と大淀は滑らかな手つきでエプロンを外している。

 

「全員揃ったな?」

 

『はい!』

 

配膳を済ませ全員がテーブルにつく。

 

『頂きます!』

 

食器に箸が当たる音が響く。その背後では情報番組が軽やかな効果音と共に始まる。

 

〔ニュースロクサンマルが今日のニュースをお伝えします。まずは今日の天気からです。お天気担当の松田さーん。

はーい。松田でーす。今日の天気は概ね荒れ模様で、東北から北は局所的に雷を伴った激しい雨が降る恐れがあります。そして関東から西の太平洋側の雨は昼前をピークに午後には晴れ間が見える場所もありそうで…

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「洋上は雨雲が発達して時化の状態…今日の出撃は中止だな」

 

神通がつくったという玉子焼きを箸でつまみながら、大本営から送られてきた情報を某かじり掛けのりんごなマークのタブレットで確認する。

 

「大本営から任務も出てますね。艦娘を4隻建造して戦力を拡張せよ、と」味噌汁をすすりながら大淀が話す。

 

「建造といえば大本営ドックはどうなってるんだ?」

 

函根鎮守府の施設と同型のものを大本営でも建設していたと噂に聞いていた寒川はそのことを思い出す。

 

「完成率は現在72%に達しているそうです。第三フェーズに移る寸前あたりと聞いています」

 

「そうか」

 

はい。とだけ大淀が返し再び沈黙が場を支配したがすぐに皆食べ終わり雑談が始まる。

 

時計で現在時刻を確認した寒川は席を立ち、

「始業は0700(マルナナマルマル)、時雨は秘書艦を頼む」

 

視線を送ると時雨が頷き返す。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

函根鎮守府工廠施設

大本営からの下命で艦娘を4隻建造することになった寒川は建造ドックの前に立っている。そして彼の目には自身の目前にそびえ立つ球形の物体が映っていた。

 

「時雨、今どれくらい資材があるんだ?」

 

「昨日の戦闘で燃料、弾薬、鋼材は消費したけど夜のうちに大本営から補填されて元通りのオール5000だね。開発資材は15個あるけど任務の後で報酬として5個貰えるからプラス1になるよ」

 

「なるほど…」

 

「妖精さん達は空母狙い、戦艦狙い、巡洋艦狙いのレシピが有るって言ってるけど…」

 

どれも資材の消費量が大きい。今は質よりも数を揃えるべきだろう。大本営からの資材で賄われているとは言え備蓄は底を着きかけているはずである。レシピがあると言っても確率が高いというだけであり、駆逐艦が出てくることもある。そして自分は生まれてこの方、幸運といったものに恵まれた覚えはない。脳内で様々な並列条件を出した寒川は一瞬の逡巡の後、答えを出した。

 

「3隻はオール30で建造。もう1隻は巡洋艦レシピでよろしく。」

 

寒川の言葉を時雨が妖精達に伝える。

 

4つのドックにそれぞれ備え付けられた文字盤に、デジタル数字が表示される。

入り口に近い側からそれぞれ、

00:22:00

00:20:00

00:20:00

00:22:00

と時間が表示され、一秒ごとに時間が減っていく。

 

「提督、お茶でも飲んで待ってようよ」

 

「それじゃ休憩しようか」

 

執務棟に戻りお茶を飲む。大淀、神通、夕立、綾波も入り浸っているのか、戻った時に執務室に居たので、周りでお茶を飲んでいる。

 

「お菓子は無いっぽい?」

 

「確か備品に飴が用意されていたような…」

 

記憶を頼りに戸棚を開ける。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「誰だこんなの用意した奴」

 

「これは?」

 

時雨が尋ねる。寒川の手には白黒のチェックの柄をした紙の箱が握られている。

 

「えっとね…これ、塩化アンモニウム…」

 

「えっ?」

 

時雨は理解が追いつかない。ただの飴だと思っていたものから化学(ばけがく)ちっくな単語が飛び出したので無理もないが。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

「それは何ですか?」

 

座敷コーナーに戻ってもやはりというべきか、神通が質問する。

 

「これね。サルミアッキ」

 

サルミアッキ。それは北欧の人々が好んで食すと言われるフィンランドが生み出した最終兵器。主成分は塩化アンモニウムであるg

神通と夕立が()()に手を伸ばす。

 

「ちょっと待って!?」

 

声を上げたが時既に遅し。2人とも口の中に放り込んだ後だった。

すぐさま顔に変化が現れた。

 

神通は勢いに乗って噛み砕いてしまったのが致命打になったようで、笑顔のまま固まっている。神通の味覚を蹂躙しただけでは飽き足らず、失神してしまったようだ。

 

その一方、夕立は口を手で押さえ雨に打たれた仔犬の様にプルプル震えだす。

 

その光景(武闘派筆頭2人が精神ダメージで轟沈寸前)に固まり沈黙してしまう。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

大本営麾下函根鎮守府の面々が北欧から突きつけられた凶器の威力をまざまざと実感した瞬間だった。

 

サルミアッキ。それは北欧の人々が好んで食すと言われるフィンランドが生み出した最終兵器。

 

主成分は塩化アンモニウムであるが、一般には化学肥料の原料や、亜鉛メッキの触媒、染料の定着剤として使用される。

 

これは天然では火山の噴火の際焼結され水晶体としてとして産出されるものである。

 

テイスティングという言葉は用法的に間違っていると思わざるを得ないが、あえてその通り表現するなら、人間のキャパを軽くオーバーキルする苦みと、一線を超えてしまった人曰く、多少の塩味がするという。

 

世界一まずい飴と評されるそれは、比喩ではなくワールドワイドで評価は一致しており、北欧人以外でこれを自ら口にする者は、恐らく命知らずの毒食品マニアか、何かの罰ゲームで無理やり口に放り込まれた不幸な(自ら口にはしていない)者だけだろう。

主に菓子(飴)として食されるが、常食している国ではあろう事かこの毒食品を調味料として料理に用いたり、砕いてウォッカにぶち込みゴクゴクと飲み干すという。

その威力は凄まじく、火を点ければ炎が上がるウォッカの風味を易々と吹き飛ばし、「口当たりが良くなるので幾らでも飲める」と称したクレイジーな人々を多数量産したという。

そしてそれに帰依するアルコール依存症発症者が増えるという懸念から、フィンランドでは一時販売規制もされた事がある()()()()でもある。

 

つまり神通を卒倒させ、夕立の精神を蹂躙している黒い菱形の飴は、火山の噴火の際産出される化学肥料ちっくな亜鉛メッキ触媒である。決してヒトが口にして良い物ではない。

 

「司令官。主成分これ塩化アンモニウムってあるんですけど…」

 

箱の裏側を見た綾波が恐る恐る質問する。

 

「それ劇薬じゃないですか」

 

大淀が少し恐れたような声色でその箱をじっと見つめる(睨みつける)。心なしか殺気を孕んでいる様にも見えるがそこを突っ込んでしまうと命が危険にさらされる。というか危険が危ないと察した寒川は今なお意識を手放したままの神通に近寄る。

 

後に函根鎮守府中の備品の飴を洗い出したところ、そのすべてがサルミアッキだということに驚愕するのはまた別の話だが、ついぞ語られることはなかったという。




・注意を払ってはおりますが、誤字脱字等発見された方は報告していただければ幸いです。
・なお、作中の「危険が危ない」という表現ですが意図しております故、誤字脱字等には含まれないので何卒ご理解ください。
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