Fate / battle of Berserker   作:JALBAS

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士郎とセイバー。
今回の聖杯戦争で最初に脱落した筈のこの二人が、その勝者を決める最終決戦に挑みます。
でも、戦いはそれで終わりません。
士郎は桜を救う事ができるのか?
士郎が大聖杯を破壊しようとする時、イリヤは……




《 最終話 》

大空洞内での最終バトル。

アサシンに襲われた凛を、三度ランサーが救う。そして凛は、そのランサーと契約を結ぶ。

「告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば我に従え!ならばこの命運、汝の剣に預けよう!」

「ああ、誓うぜ嬢ちゃん!あんたを俺の主と認めるぜ!」

二人の間に、オーラが繋がり、凛の右手に新たな令呪が三つ刻まれる。それと同時に、ランサーの体に魔力が満たされる。

「ははっ!力がみなぎりやがる……やっぱり、あんたの魔力は心地いいぜ!」

「ば……馬鹿っ!何言ってんのよっ!」

ランサーの魔力が戻った事で、戦いの優劣は逆転する。今度は、ランサーがアサシンを圧倒していく。高速で繰り出される突きを、アサシンは何とかナイフで弾こうとするが、完全には躱せず体を掠め始める。

「桜!」

「はい、お爺様……」

この状況を見た臓硯が、桜に何事か指示を出す。

すると、ランサーの足元に黒い影が湧き出して来る。

「ちっ!」

ランサーは、自分を絡め取ろうとする影を躱しながら戦う。その関係で、再び優劣が逆転する。アサシンと影の両方の攻撃を躱さなければならないため、ランサーは追い詰められていく。

「させないわ!」

イリヤが両手を前に突き出して魔力を放つ。それにより、黒い影の動きが鈍る。

それで優劣の差は無くなるが、数秒間ランサーの動きが制限されている間に、アサシンは右手を解放していた。

「ザバーニーヤ!」

オレンジに光る右手が異様な長さに伸びて、ランサーの胸に接触する。

しかし、そのためにアサシンはランサーの射程内に侵入していた。

「何か企んでるみてえだが、その前に決める!」

ランサーは、槍を深く構え魔力を高める。赤いオーラがランサーを包み込む。

一方、アサシンは右手を目の前に翳す。そこには、複製した心臓が握られている。

「お前の負けだ!」

勝ち誇るアサシン。

「リン!あの心臓を潰させちゃ駄目!」

「判ったわっ!」

イリヤの叫びに、凛が即座に反応する。左手の二本の指を立て、アサシンに向かってガンドを放つ。

「ゲイ……」

必殺の槍を放とうとするランサー。だが、タイミング的にはアサシンの方が早かった。

「何?!」

ところがその瞬間、リンのガンドがアサシンの右手を捕えた。ガンドに手首を弾かれ、アサシンは擬似心臓を離してしまう。

「……ボルク!!」

真名解放が成立し、必殺の槍が放たれる。

ランサーはアサシン目掛けて超高速で突進し、赤い槍がアサシンの心臓を貫く。

「がはああああっ!」

吐血し、硬直した後、アサシンはその場に崩れ落ちる。

「やった!」

凛は、歓喜の声を上げる。

「ちっ!」

対照的に臓硯は、舌打ちをする。

 

一方、士郎の方は劣勢を強いられていた。

セイバーの聖剣に対して、士郎は干渉・莫邪を投影して戦っている。

士郎はアーチャー同様、投影した剣の本来の担い手の技能を完全に模倣できる。今の士郎の能力は、本来の干渉・莫邪の担い手とほぼ同等だ。

「うおおおおおおおおっ!」

「はああああああああっ!」

しかし、剣戟においてセイバーの右に出る英霊は殆ど居ない。士郎がどんなに優れた剣士の技能を模倣しようと、セイバーの力はそれを遥かに上回っていた。

「トレース・オン!」

形勢が不利になると、士郎は無数の剣を投影してセイバーに向けて放つ。

だが、それでもセイバーには殆どダメージを与えられない。襲い来る剣の嵐を、セイバーは巧みに弾き返す。それにより士郎に斬り掛かる事は出来なくなるが、無理に前に出ようとはせず的確にいなしている。そして射出の間隙を縫って、また一気に間合いを詰めて来る。

固有結界を発動すればもっと有利に戦えるのだが、この場では使えなかった。セイバーと二人で固有結界に入れば、イリヤ達から離れてしまう。皆を引き込めば、戦闘に巻き込んでしまう危険性があるからだ。

 

そのような攻防を何度か続けた後、剣の射出で間合いが開いたところでセイバーが言う。

「どうやら、ここまでか?」

セイバーはこの戦いに見切りをつけ、距離を取ったまま聖剣を両手で持って上段に構える。

「はあああああああああああっ!」

セイバーの魔力が剣に集中し、天に向けた聖剣から黒い極光が柱のように立ち昇っていく。

「やべえ!」

ランサーは、慌てて凛とイリヤを抱え、大空洞の端の方へ移動する。聖剣による攻撃の巻き添えを喰らわないために。

セイバーは、士郎に向けて聖剣を一気に振り下ろす。

「エクス……カリバアアアアアアアアアッ!!」

激しく広がる黒い極光が、光線のように地を駆け、一直線に士郎を襲う。

「ロー・アイアス!!」

すかさず士郎は光の盾で防御する。黒い極光の帯と光の盾が衝突し、凄まじい閃光と轟音が辺りを包み込む。

「し……シロオオオオオオオっ!」

叫ぶイリヤ。

眩い光は、イリヤ達の視界を一時奪う。そしてその光が去った後には……

アーチャーをも消滅させた全力のエクスカリバーは、光の盾を完全に消滅させた。

だが、それにより大きく威力が減衰させられた剣撃では、強靭なバーサーカーの肉体の士郎を完全に消去するには至らなかった。更に……

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

窮地に追い込まれた士郎は、またも狂戦士化していた。

「え?……し……士郎?」

これには、凛が驚く。

士郎の叫びに呼応して、無数の剣が士郎の周りに投影される。そして、それらがセイバーに向かって放たれる。

「はあああああああああっ!」

セイバーは、向かって来る剣を悉く撃ち落とす。

防戦一方で少しずつ後退させられてはいるが、それでもバーサーカーの力で強化された剣の嵐を、何とかセイバーは防ぎ切る。

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

その間に、今度は士郎の方がセイバーに肉薄していた。士郎の両手には、干渉・莫耶が再び握られている。

猛烈な勢いで、狂化した士郎はセイバーに斬り掛かる。狂化した事で、剣自体の攻撃力は異様な程跳ね上がっている。セイバーは黒い聖剣でその剣撃を弾くが、流石に少し圧されている。

それでも、剣戟にかけてはまだセイバーの方が一枚上手だった。圧されていながらも、相手の動きを読み、効果的に対処する。その結果、士郎の左手の干渉を砕く。

「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

しかし、狂化している士郎はそんな事で怯む事は無い。右手の莫耶で、今まで以上に激しく斬り付けて来る。

再び、激しい剣戟が展開されるが、やはり最後はセイバーが優った。遂にセイバーの聖剣が、士郎の右手の莫耶をも砕いた。

「私の勝ちだ!」

セイバーは聖剣を振り上げ、止めのエクスカリバーを放とうとする。

「ぐぅふうっ!」

が、セイバーは剣を振り上げたまま、吐血して硬直した。一瞬早く、士郎の左腕がセイバーの心臓を貫いていた。

いや……それは腕では無くなっていた。彼の左腕は、複製品としては不完全な出来損ないであったが、黄金に輝くかつてのセイバーの聖剣に変わっていた。

「み……見事です……シロウ……」

ほんの僅かな笑みを浮かべ、セイバーはその場に崩れ落ちる。

そこで、狂化が解け、士郎は自我を取り戻す。

「せ……セイバー……」

自分の足元に倒れているセイバーを、悲痛な表情で見詰る士郎。彼の心には勝利した事への感慨等は無く、どうしようも無い虚しさだけが残っていた。

 

セイバー、アサシンを倒した士郎達は、桜と臓硯が立つ段差に向かって歩いて行く。

その場を動かない桜に対して、臓硯は無数の蟲に姿を変えて移動する。そして、凛とランサーの前で再び臓硯の姿となる。

「お主達の相手は儂がしよう。」

「けっ、人間がサーヴァントに勝てると思ってんのか?」

ランサーは槍を構え、臓硯に突進して行く。そのまま槍で臓硯を突くが、またも蟲になって分散してしまう。そしてその蟲の大群が、凛に向かって飛んで行く。

「こ……このおっ!」

慌ててガンドで応戦するが、数が多すぎてとても捌ききれない。

「ちいっ!」

すかさずランサーは凛の前に戻り、槍を円を描くように回して蟲の群れを弾く。

「くそっ!人間じゃ無くて妖怪だったか?」

「何処かにコアになる蟲が居る筈よ!そいつを叩かないと埒が明かないわ!」

「判った!」

しかし、この場でいくら蟲達を潰しても、コアには至らない。何故なら……

 

士郎とイリヤは、段差の上に上がり桜と対峙していた。

「桜……もう、終わりにしよう。」

「だめなんですね、先輩……どうしても、正気には戻ってくれないんですね?」

「正気じゃ無いのはお前の方なんだ!桜!」

「判りました……じゃあ……死んで下さい……」

「桜!」

「できるだけ苦しまないように……ひと思いに殺してあげます!」

桜の前に、巨大な黒い影が出現する。それひとつで強力なサーヴァント一体に相当する、魔力の塊が。それは、間髪入れずに士郎に襲い掛かって来るが……

「な……何ですって?!」

それは、士郎に到達する前に消滅してしまった。

士郎の後ろから、イリヤが魔力を放っていた。相当する強力な魔力を放出して、影を打ち消したのだ。

「今よ!シロウ!」

「トレース・オン!」

士郎は、歪な形の短剣を投影する。キャスターの宝具“ルールブレイカー”だ。

「さくらああああああああっ!」

士郎は桜に突進し、桜の心臓にルールブレイカーを突き刺した。

「あああああああああああああっ!」

桜の体から大量の魔力が放出されていき、桜を包んでいた黒い影は体から離れていく。

髪の色も元に戻っていき、頬まで這い上げっていた令呪も消えていく。

それと同時に、もうひとつ桜の体から追い出された物があった。

桜の心臓に寄生していた、一匹の蟲だった。

「ぬ……ぬううううううっ……」

臓硯の心臓でもあるこの蟲は、桜の体から離れて上空に浮かび上がる。凛が、それに気付く。

「ランサー!あれが本体よ!」

「よっしゃあ!ゲイ・ボルク!!」

ランサーが、臓硯の蟲に向かって必殺の槍を放つ。

「ぐぅおおおおおおおおおっ!」

槍に貫かれ、桜に寄生していた蟲が断末魔の叫びと共に消滅する。

直後、凛達の前にいた臓硯を形成していた蟲の群れが、粉々に砕けて塵となっていった。

 

アヴェンジャーとの契約を断たれた桜は、意識を失い、糸の切れた操り人形のように倒れて来る。そんな桜を、士郎はしっかりと抱き留めた。

士郎は桜を抱き上げて、凛の所まで歩いて来る。そして彼女の前に、そっと桜を横たわらせる。凛は腰を落として、そんな桜を優しく抱き起す。

「お別れだ、遠坂……今迄、ありがとな。」

「え……衛宮……くん……」

凛の目に、涙が浮かぶ。

「桜に、宜しく言っておいてくれ……」

そう言って、士郎は凛に背を向けて歩き出す。

その後、気を失っていた桜が、うっすらと目を開けて凛に気付く。

「ね……姉さん……」

「桜……もう、終わったのよ……」

「姉さん……私……取り返しのつかない事をしてしまった……沢山の人の命を奪って、姉さんまで殺そうとして……」

「あなたのせいじゃないわ……あなたは黒い影に憑りつかれて、正気じゃ無かったんだから……」

「いいえ……私の心の奥に、そういう闇があったんです……私のせいです……」

「誰にだって、心に闇はあるわ……あなただけじゃない……」

「でも……私は姉さんにあんな酷い事を……」

「許すわ。」

「ね……姉さん?」

「私達は姉妹だもの……全部許すわ。」

「だって……」

「士郎が言っていたの“兄妹は助け合うものだ”って……イリヤが何をしても、士郎は全て許した。本当は血が繋がっていない兄妹なのに……それなのに、本当に血を分けた私達がいがみ合っていたら、士郎に笑われるわ。」

「ね……姉さん……ごめん……なさい……」

桜は、涙を流しながら凛に抱き付き、再び気を失ってしまう。

 

「坊主……」

大聖杯に向かう士郎に、ランサーが声を掛ける。

「ランサー……最後に、遠坂と桜の事頼めるか?」

サーヴァントとなった士郎も、ランサーも、大聖杯が無くなればもう現界は出来ない。顔を合わせるのもこれが最後になる。共にアーチャーに後を託された身であるが、最初の出会いは殺し合いであった。

「ああ、任せとけ。」

そんな二人が最後には笑い合い、そして別れた。

お互いに背を向けて進む二人。

ランサーは凛と桜を連れ、大空洞を後にする。

士郎はひとり、大聖杯に向かって行く。

 

桜との繋がりを断たれても、既に大聖杯には桜が集めたサーヴァントの魂が流れ込んでいた。そして、大いなる悪が誕生しようとしていた。

士郎は、その前に立ち両手を頭上に掲げる。

「トレース・オン!」

士郎の両手に、先程セイバーを倒した黄金の剣が投影される。

これを破壊すれば、もう自分は現世には留まれない。しかし、士郎にはもう迷いは無かった。

士郎が剣に魔力を込めようとした、その瞬間……

「え?!」

突然、剣が消滅する。更には、士郎の体から魔力が抜けていく。

「な……どうなって……」

「ごめんね。お兄ちゃん。」

戸惑っている士郎に、後ろからイリヤが声を掛ける。

「い……イリヤ?」

「私、嘘ついてた……悪いけど、聖杯は破壊させないよ。」

「な……何を言ってるんだ?こいつをこのままにしたら、アヴェンジャーが誕生してしまう……そうなったら、世界が滅ぶかもしらないんだぞ!願望機としても、こいつは欠陥品だ!」

「願望機というのは、魔術師達を騙す口実……この聖杯の本来の目的は、そんな事じゃ無いんだよ。」

「何だって?」

イリヤは、士郎の横を通り過ぎていく。その姿は、今迄のイリヤの服装では無かった。

白い冠に、白いドレス、西欧の王女のような格好に変わっていた。

「アインツベルン、マキリ、遠坂がこの地に聖杯を創ったのは、失われた第三魔法、魂の物質化“天の杯”を再現させるためだったの。」

声の口調も変わっている。少し、大人びた口調に。

「第三魔法?……天の杯?」

「それを使えば、シロウの魂はこの世界に留まれる。紛い物の肉体でも、生きていく事が出来るんだよ。」

「……じゃあ、お前は最初から……」

「そうだよ……シロウを蘇らせるには、この方法しか無かった……といっても、最初のうちは不都合を感じるかもしれない。代わりの体は、私の体しか無いから……でも、リンがきっと何とかしてくれるから、それまで我慢して。」

「な……何で、今迄黙っていたんだ?」

「天の杯への門を開くと、大聖杯に溜まったアンリマユも流れ出してしまう。だから、私が向こう側から門を閉じるの。」

「馬鹿な……そんな事をしたら、お前は戻って来られないじゃないか!」

「いいの……私は、もっとシロウに生きていて欲しいから……」

「だからって、何でお前が犠牲になるんだ?」

「だって、シロウをそんな体にしてしまったのは私……だから、私が償わなくっちゃ……」

「そんな事はいい!あれは仕方が無かった……お前は、アインツベルンに洗脳されていたのも同然だったんだ!……これからが、お前の本当の人生だろう?俺は、お前に幸せになって欲しいんだ!」

「私は、もう十分に幸せだよ。」

「な……」

「大切なのは、何年生きたかじゃ無いよ。」

「何を……」

「私は、聖杯の器として生まれた。ただの道具でしか無かった。そんな私を、シロウは本当の妹として愛してくれた。シロウのおかげで、私は本当の人間になれたんだよ。」

「イリヤ……」

「シロウ言ったよね。兄妹は助け合うものだって。兄貴が、妹を助けるのに理由がいるのかって。」

「ああ、だからこそ俺が……」

「本当は、私の方が少しだけお姉さんなんだよ。」

「え?」

「だから、今度は私の番。姉が、弟を助けるのに理由はいらないでしょ?」

「イリヤ!」

引き留めようとする士郎だが、金縛りに合ったように体は動かなかった。

「イリヤっ!」

「ありがとう……シロウ……」

「イリヤ!……イリヤ!……イリヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」

眩い光が、大空洞を包み込む。そして……

 

 

 

 

 

それから月日は流れ、一年が過ぎた。

新しい体にも慣れ、ようやく元の生活に戻れた俺は、桜と一緒に柳洞寺に墓参りに来ていた。

今の体に移ったのは、半年程前だ。

あの時、イリヤは天の杯を再現し、俺の魂の物質化に成功した。それにより俺は、人間としての機能を備えた固体であれば、魂を同化させて本来の自分の体として使えるようになった。

だが、最初は使えるのがイリヤの体しか無かった。イリヤの体は、天の杯への到達のために全ての魔術回路は消費され、人間としての機能にも大きな障害が出ていた。そして何より、俺の魂との相性が良く無かった。

半年間は満足に話す事も動く事もできず、人前にも出られなかった。元々聖杯戦争が始まった直後から失踪していた事もあって、周りは大騒ぎになっていた。

そこで、遠坂に頼まれて半年間海外に行っている事にしてもらった。その間、学校も休学させてもらった。

半年前に、ようやく遠坂が魔術師仲間の伝手で、高名な人形師から俺と相性のいい精巧な人形を調達して来てくれた。その人形は俺の魂との相性も抜群で、ようやく俺は家に戻れ、学校にも復学できた。

しかし、半年間の休学で留年となり、俺は桜と同学年に……遠坂の後輩になってしまった。

 

親父達の墓に花を供え、桜と二人で合掌して礼拝する。

イリヤの遺体は、切嗣と同じ墓に葬った。

ずっと離れ離れだった血を分けた本当の父と娘が、ようやく一緒になれたのだ。

「イリヤ……親父も、喜んでくれているかな?」

「ええ、きっと喜んでいますよ。」

 

柳洞寺の帰りに、商店街に寄って夕飯の買い物をする。

魚屋の前を通り掛かって、店頭に並んでいる魚を物色していると……

「いらっしゃい!今日は金目が……何だ、坊主か?」

奥から出て来た、青い短髪の背の高い外国人の店員がそう言って来る。

「ランサー……バイトか?」

「おうよ!自分の食い扶ちくらいは、自分で稼ぎてえからな。」

ランサーは、何と現世に留まっている。

ランサー自身も、遠坂も最後まで生き残った。令呪も消費していない。だから、遠坂が契約解除しない限り、ランサーが消える事は無い。

問題は聖杯が無くなった状態で、遠坂がランサーに十分な魔力提供ができるかという点だが、桜が居る。アヴェンジャーとの契約は解除し、大聖杯も無力化して門も閉ざされたが、桜と聖杯は別なラインで繋がっている。そのため、消費し切れない魔力が未だに桜に送られてくる。それを遠坂に分け与えているのだ。

実をいうと、満足に動けなくて大空洞に転がっていた俺を、拾いに来てくれたのは他ならぬランサーだった。

かっこ付けて別れておきながら、そんな情けない再会をした俺は何とも気恥ずかしかった。ランサーの方は、気にも留めていなかったようだが……

「どうした?二人揃ってデートの帰りか?」

「墓参りだよ……それより、何かお勧めはあるか?」

「おう、今日は金目がいいよ!」

勧められた金目鯛を見るが……ちょっと予算オーバーだ。

「ランサー、予算が……手頃なやつでひとつ。」

「あ~っ……それなら、鮭はどうよ?安いぜ。そして美味い!」

「鮭か……いいな、蒸しても美味いし……ホイル焼きなんかいいか?」

「ああ、いいですね。ホイル焼き。」

桜も同意する。

「何だ?そりゃ……美味いのか?」

「簡単に出来る割に美味いと思う。じゃあ、これ三切れくれ。」

すると、ランサーは何か考え込みながら鮭の切り身を袋に入れ、渡して来る。

「あれ?二切れ多いけど?」

「それ、俺にも食わせろ!」

「はあ?」

「安心しな。自分の分の金は払う。」

「いや、そういう事じゃなくて……って、一切れはお前ので、もう一切れは?」

「決まってんだろ!嬢ちゃんの分だよ!マスターを放っといて、自分だけご相伴に預かる訳にはいかねえからな。」

「お前なあ……いつまで“嬢ちゃん”って呼ぶんだよ?いい加減に名前で呼んだら?」

「ん~っ……でもなあ、“遠坂”じゃ坊主みてえだし、“凛”なんて呼んだらどっかのキザ野郎みてえじゃねえか。やっぱ俺には、“嬢ちゃん”が一番しっくりくるな。」

 

こいつ……遠坂がお婆さんになってもそう呼び続ける気か?

 

「んじゃな。後で行くから用意しとけよ。」

勝手に決められてしまった。

 

 

家に戻り、夕食の準備をしている最中に、遠坂とランサーが来た。

「いらっしゃい。姉さん、ランサーさん。」

桜が出迎え、居間に二人を連れて来る。

「悪いわね衛宮くん。ランサーったら、言い出したら聞かないから。」

「そう言うなって……ほら、差し入れだ。」

そう言って、ランサーは重そうな袋を手渡して来る。

「わざわざどうも……って、これ全部酒じゃないか?」

「何だ、飲めねえのか?」

「まだ未成年だよ!」

「こまけえ事を気にすんなよ!でっかくなれんぞ!」

そうしている内に、藤姉も帰って来る。

「あれ~、ランサーさんじゃない!」

「おっ、タイガの姉ちゃん。邪魔してるぜ!」

 

そして準備が終わり、皆でたいへん賑やかな夕食となった。

「いやこれ、うめえなあおい!」

ランサーはホイル焼きが気に入ったようで、終始“美味い”を連発する。

遠坂にも非常に評判が良く、和やかな団欒が続く。

本当なら、この団欒の中にイリヤも居て欲しかった。

しかし、イリヤが生き残った場合は俺が居なくなっていた。俺とイリヤが、一緒に生き残る未来はこの世界には存在していなかった。

だから、今はイリヤが与えてくれたこの命で精一杯生きていこう。

それが、イリヤが最後に望んだ事なのだから……

 





最後まで読んで頂いてありがとうございました。
目次のあらすじに“BAD END”があまりにも酷いから続きを妄想したと書いてますが、第六話の後書きで書いたように“ギルにイリヤが殺される寸前で、士郎がバーサーカーと同化してイリヤを護る”というのを書きたくて、この話を始めました。
まあ、私の妄想の“イリヤルート”ですかね。
イリヤがメインになるので、どうしても桜側はおざなりになります。HFルートベースの割には、桜の出番が少ない上に、ラスボス感が強くなってます。
原作と違ってライダーを残さなかったのも、そのためです。ライダーを残すと、どうしてももっと桜側の描写が必要になるので。

ランサーを残す設定は、第五話くらいまで書いた後に思い付きました。
原作と同じでアサシンに心臓飲まれるのもつまらないし、何処でどう退場させようかと悩んでいる内に、なら味方になって最後まで残った方が面白いかもと思いました。
エピローグの士郎とのやりとりは、“衛宮さんちの今日のごはん”をパロってます。
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