Fate / battle of Berserker 作:JALBAS
“Fate / stay night”本編では描かれていませんが、アサシン(佐々木小次郎)は柳洞寺の山門で一度はバーサーカーを撃退しています。
二次創作等でその戦いを描いた物はありますが、私独自の妄想でその戦いを書いてみました。
納得いかない部分も多々あるとは思いますが、あくまで個人の妄想なので大目に見て下さい。
バーサーカーに抱きかかえられ、夜の冬木市を進むイリヤ。向かっている先は、円蔵山だった。
柳洞寺の山門前の石段の下まで辿り着き、イリヤは口を開く。
「ここが、キャスターの隠れ家ね?進みなさい、バーサーカー。」
一歩毎に石段を大きく揺るがせながら、バーサーカーは山門に向かって登って行く。
ところが、山門が近づいて来たところで、バーサーカーは足を止めた。
「どうしたの?バーサーカー?」
すると、イリヤ達の前の空間が歪み、目の前にひとつの人影が出現した。
黒い長髪を頭の後ろでひとまとめにした、羽織袴姿の長身の侍。本来英霊として召喚される者は西洋の英雄であるにも関わらず、その姿はどう見ても日本人であった。
「何よ貴方?……キャスターじゃ無いわよね?」
「私は、アサシンのサーヴァント佐々木小次郎。」
「あ……アサシンですって?!」
イリヤは、驚きの声を上げる。何故なら……
「馬鹿言わないで!アサシンのクラスに呼び出される英霊は、ハサン・サッバーハだけよっ!」
「そんな事を言われても知らぬ。現にこうして、私は召喚されている。」
納得のいかないイリヤだが、これ以上問答しても仕方が無いので質問を変える。
「じゃあ、アサシンの貴方が何故ここで道を塞ぐの?ここは、キャスターの根城じゃないの?」
「簡単な話よ。私を召喚したのはそのキャスターなのでな。」
「なっ……?!」
それで、イリヤは納得した。ルールを破ってサーヴァントがサーヴァントを召喚したため、本来召喚される筈の無い異色なサーヴァントが召喚されたのだと。
「じゃあ……貴方は道を譲るつもりはないのね?」
「おうよ。ここを通ろうとする者を退けるのが、私の役目なのでな。」
「判ったわ……」
イリヤの、目の色が変わる。バーサーカーの腕から石段の上に降りて、バーサーカーに向かって叫ぶ。
「バーサーカー、あいつを今直ぐ殺しなさい!」
夜の山に響き渡る雄叫びを上げて、バーサーカーはアサシンに向かって行く。
「やれやれ……」
アサシンは、背中の鞘から異常な長さの刀を抜く。正に、“物干し竿”の名がしっくりとくる長刀を。
バーサーカーの巨大石斧剣が、アサシンに向かって振り降ろされる。アサシンの刀も異様に長く大きいが、バーサーカーの石斧剣はそれを遥かに上回る大きさだ。それがバーサーカーの怪力で炸裂すれば、アサシンには防ぎようが無いように思われた。しかし……
「な……なんですって?」
バーサーカーの一撃は、アサシンには当たらなかった。かなり左に逸れ、アサシンの右横の石段を砕いていた。
「な……何やってるの!ちゃんと狙いなさいバーサーカー!」
イリヤに叱咤され、再びバーサーカーはアサシンに斬り掛かる。だが、今度はアサシンの左横の石段を砕いただけだった。更に繰り返し剣を繰り出すが、何度やってもバーサーカーの攻撃はアサシンの周りの石段を砕くだけだった。
「そんな……」
驚愕するイリヤ。
アサシンは、その長刀を使ってバーサーカーの攻撃をいなしていたのだ。
もっとも、バーサーカーが本来の全力で攻撃を放てていたら、こううまくはいかなかったであろう。キャスターが柳洞寺の中から魔力を送り、バーサーカーの力を大きく減衰させていた。その上、山門に続くこの石段以外の場所は、強力な結界が張られていて容易には侵入ができなかった。よって、アサシンに対しては常に正面から挑む以外手は無かった。その限定環境とアサシンの卓越した剣技により、このような神業が可能となっていた。
ただ、バーサーカー側も完全に足止めされている訳ではなかった。バーサーカーの一撃はアサシンには当たらないが、足場の石段を悉く砕いていった。そのため、少しずつではあるが、足場を求めてアサシンも後退せざる負えなかった。そうして、山門の手前の最後の踊り場まで押し込まれてしまう。
「いかんな。このままでは、大事な山門にまで被害が及ぶ……ここらで、退場願おうか。」
アサシンは構えを変える。両手で剣を持ち、水平にさせて深く構える。
「な……何をするつもり?」
「秘剣!燕返し!!」
一瞬の閃光、神速で放たれたアサシンの剣撃が、強靭なバーサーカーの肉体を切り裂いた。
「な……?!」
一撃で……いや、バーサーカーは三方から斬り裂かれ、その場に崩れ落ちた。赤く輝いていた目は光を失い、膝をついて沈黙してしまう。
「ど……どうなってるの?一瞬の内に、三度も剣を放っていたの?」
驚いているイリヤに、アサシンはご丁寧に解説を始める。
「燕という鳥は、風を受けて刀を避ける。速かろうが遅かろうが関係はない。どのような刀であろうと、大気を震わさずには振れぬであろう?連中はその震えを感じ取り、飛ぶ方向を変えるのだ。故に、どのような一撃であれ燕を断つ事はできなかった。一本線にすぎぬ刀で、縦横に空を行く燕を捕らえられぬは道理よな……ならば、逃げ道を囲めばいい。一の太刀で燕を襲い、風を読んで避ける燕の逃げ道を二と三の太刀で取り囲む。但し連中は素早いので、事を成したければこれらをほぼ同時に行わなければならなかった……」
得意気に解説をするアサシンだが、次の瞬間、バーサーカーは再び動き出した。
「何?!」
白い蒸気を発して、斬り裂かれた体が徐々に再生をしていく。光を失った目は再び赤く輝き、雄叫びを上げてバーサーカーは立ち上がった。
「何だと?……不死身か?こやつは……」
一度は動揺したイリヤだったが、蘇生したバーサーカーに驚くアサシンを前に、高圧的な口調に戻る。
「驚いた?これがバーサーカーの宝具、“十二の試練”よ!」
「“十二の試練”だと?ならばこやつは……」
「そう、バーサーカーの真名はギリシャ神話の大英雄“ヘラクレス”よ!」
柳洞寺の中からその戦いを見ていた、紫のローブに身を包んだ魔導師の様相の英霊キャスターは、思わず舌打ちをする。
「ちっ!……ヘラクレスですって?よりにもよって、なんて奴を召喚してくれたのよ……」
一度は驚いたアサシンだが、再び平静を装い、イリヤに問い掛ける。
「“十二の試練”という事は……十二の命を持つという事かな?」
「そうよ!それに、一度受けた攻撃には耐性ができて二度目は通用しないわ。」
「ほう?」
「貴方にあと十一個必殺技があるのなら別だけど、そうでなければ貴方の負けよ!」
「それはどうかな?」
「バーサーカー、一気にあいつを門の中まで押し込むのよ!」
イリヤの指示に、バーサーカーはアサシンに襲い掛かろうと石斧剣を振り上げる。そこでアサシンは……
「秘剣!燕返し!!」
同じ技を、再度放っていた。
「馬鹿ね!同じ技はもう効かないって……」
言いかけて、またもイリヤは愕然としてしまう。
先程と同じ燕返しに、再びバーサーカーが斬り裂かれ、沈黙してしまったのだ。
「そ……そんな……どうしてっ?!」
動揺するイリヤに、アサシンは淡々と答える。
「“十二の試練”による一度受けた攻撃に対する耐性は、ヘラクレスの初見で相手の技を見切る技能によるものだ。だが、私のスキル“宗和の心得”は、容易に相手に技を見切らせない。如何に“十二の試練”といえども、一度や二度で私の秘剣を見切る事は不可能!
もっとも、あと十度見切られずに技を決められるという保証も無いがな……どうだ?試してみるか?バーサーカーのマスターよ。」
「……っ!」
歯軋りをして、アサシンを睨み付けるイリヤ。
バーサーカーは直ぐに蘇生したが、イリヤからの指示が無いので襲い掛かろうとはしなかった。しばしの間、睨み合いが続く。
「……戻りなさい、バーサーカー。」
ようやくイリヤが口を開く。
バーサーカーは石段を降りてイリヤの所まで行き、再び片腕でイリヤを抱き上げた。
「今日のところは……見逃してあげるわ……」
本当は腸が煮えくり返る程頭に来ていたが、イリヤは平静を装って柳洞寺を後にした。
アサシンは何も言わず、去って行くイリヤとバーサーカーを見詰めていた。
城に戻っても、イリヤの気持ちは収まらない。
自分の部屋に戻るや否や、手に持ったぬいぐるみを思い切りベッド脇の壁に投げ付けた。
「なんなのよ!あいつ!」
直ぐさま壁の下に落ちたぬいぐるみの足を持って、今度はベッドの角に何度も叩き付ける。
「この!この!このっ!」
完全に八つ当たりである。
別に敗北したという訳ではないのだが、目的は果たせず、いいようにあしらわれた事が頭に来て仕方が無かった。
士郎の魂の入ったぬいぐるみにとってはいい迷惑であったが、神経の通わないぬいぐるみの身では、痛くも痒くも無いので実被害は無かった。
「わああああああああああああっ!」
最後は、ベッドの端にぬいぐるみを投げ付け、ベッドに倒れ込んで泣き出していた。
しばらく突っ伏して泣いた後、ようやく気持ちが落ち着いたのかイリヤは顔を上げる。
ベッドの隅に放り投げられたぬいぐるみを見詰め、体を起こしてそのそばに行く。そして、ぬいぐるみを抱き起こして言う。
「ごめん……ごめんねお兄ちゃん……お兄ちゃんは、何も悪くないのに……」
何度も謝りながら、イリヤは士郎のぬいぐるみを強く抱きしめるのだった。
その数日後の夕刻、凛は慎二に呼び出されて弓道場の裏の雑木林に来ていた。
いつまで経っても返事をしない凛に、慎二が痺れを切らしたのだ。
「いつまで待たせるんだ遠坂!いい加減に返事をもらいたいな。」
苛ついた顔で、慎二は凛を問い詰める。
凛は溜息をつき、もうこれ以上の引き伸ばしは無理と判断する。
「仕方無いわね……じゃあはっきり言うけど、貴方と同盟は組めないわ。慎二。」
「なっ?!」
楽観的な慎二は、凛が断るとは考えていなかった。予想だにしなかった回答に困惑しながら、慎二は改めて問い掛ける。
「ど……どうしてさ?僕と手を組んだ方が、絶対勝率が高くなるだろうに……」
「それはどうかしら?」
「なっ……何?」
「どうせ手を組むのなら、本物のマスターと手を組んだ方がいいわ。」
「何を言ってるんだ?僕はマスターだって言ってるだろ?」
すると、凛は慎二が手に持っている小さな書籍を指差して言う。
「それ、“偽臣の書”でしょ?という事は、貴方はマスターの代行をしているに過ぎない。」
「ど……どうしてそれを?」
「貴方からは、何の魔力も感じない。貴方は魔術師じゃないわ。魔術師じゃない者にサーヴァントの召喚は出来ない……だから貴方は、ライダーを召喚した本物のマスターから、“偽臣の書”を通してマスターの権利を譲り受けただけのただの人間よ。まあ、貴方に権利を譲り渡した本当のマスターが誰なのか……それは、大方予想がつくけど……」
完全に取り乱しながら、それでも慎二は諦めずに言う。
「そ……それが何だって言うんだ!代理だろうが何だろうが、今は僕がライダーのマスターだ!それの何が不満なんだ?」
「魔術師じゃ無いマスターなんて、足手纏いにしかならないわ。」
「なっ……」
「それに、貴方は私に嘘をついている。」
「何だって?」
「確かに、この学校にはもう一人マスターが居るのかもしれない……だけど、学校に結界を張っているのはライダー……貴方のサーヴァントよ!」
「……っ!」
全てを見抜かれ、もう慎二は返す言葉も無い。
「そんな人間を、誰が信用できるって言うの?」
黙り込んでいた慎二は、更に厳しく凛を睨み付けてようやく言葉を発する。
「そ……そうかい……じゃあ、もう僕達は敵同士だな。後から泣いて謝ったって許さないぜ……殺れ!ライダーっ!」
慎二の叫びに応じて、霊体化していたサーヴァントが姿を現す。地面に付きそうな程の長髪で、女性としては異常に背の高い英霊のライダーが。
全身は黒いボディコンスタイルに包まれ、何故か顔には目隠しがされている。
ライダーは、すかさず鎖付の鉄杭を凛に向かって投げつけて来る。
「アーチャーっ!」
凛の叫びで彼女の目の前に、赤い外套を纏った浅黒い肌で白髪の英霊、アーチャーが実体化する。
「トレース・オン!」
アーチャーは白と黒の夫婦剣“干渉・莫耶”を投影し、凛を襲う鉄杭を弾く。
「はあっ!」
更に、ライダーに向かって切り掛かって行く。
「ふっ!」
ライダーは素早くこれを躱し、再び鉄杭を放つ。
しかし、アーチャーも両手の剣でこれを悉く弾く。
雑木林の中を駆け回りながら、二人はこのような攻防を繰り返していく。
「慎二っ!」
凛も黙ってはいない。慎二に向かって左手を向け、指を二本立ててその先から銃撃のようにガンドを放った。
「え?うわああああああっ!」
いきなり攻撃され、慌てて慎二は飛び避ける。
凛の放ったガンドは、慎二が立っていた場所の地面を大きく抉っていた。
「な……僕を殺すつもりか?遠坂っ!」
「今更何言ってるの!先に仕掛けて来たのはあんたでしょうがっ!」
凛は容赦しない。怒涛の如くガンドを撃ちまくる。
「ひいいいいいいいいいっ!」
慎二は、見っともなく逃げまくるだけだった。
だがそれも長くは続かず、直ぐに躓いて転んでしまう。
「ここまでね。」
凛は、動きの止まった慎二に狙いを定める。
慎二は近くの木の所まで這って行き、もたれ掛って許しを請う。
「ま……待ってくれ……撃つなあああああっ!」
「さっきのあんたの言葉をそのまま返すわ!泣いて謝ったって許さない!」
「ら……ライダアアアアアアアッ!」
慎二は、大声でライダーを呼んだ。
慎二の危機を察して、瞬時にライダーは駆け付ける。凛の前に立ちはだかって、慎二を庇う。
しかし、アーチャーも瞬時に駆け付けた。凛の前に立って、ライダーに対峙した。
そこで、ライダーは奥の手を出す。自らの目を封じていた、目隠しを外したのだ。
「何っ?!」
ライダーの魔眼が、妖しく輝く。
その直後、アーチャーと凛の体は麻痺したように硬直してしまう。
「な……う……動けない……」
「これは……石化の魔眼?!こいつ……メドゥーサか?」
ライダーは、続けて攻撃に移る。アーチャー達に向かって突進して来る。
ただ、狙いはアーチャーでは無かった。少し横に動き、弧を描くように接近して来る。直接、マスターである凛を仕留めるつもりだ。
「くっ……だめ……」
対処しようにも、凛は身動きできない。だが……
「トレース・オン!」
アーチャーは動きを封じられても、魔力まで完全に封じられてはいなかった。
凛に迫るライダーの周囲に、無数の剣が投影される。
「?!」
気付いた時にはもう遅かった。全方位からの剣の群れに、ライダーの体は貫かれてしまう。
「あああああああああああっ!!」
串刺しになって、ライダーは崩れ落ちる。
「な?!……おい……ら……ライダー?」
問い掛ける慎二の目の前で、ライダーの体は消滅していった。それと同時に……
「うわっ!」
慎二の持つ、“偽臣の書”が燃え出した。
「な……何で?どうして?待て……待てよっ!」
慎二の叫びも虚しく、“偽臣の書”はそのまま燃え尽きて無くなってしまう。
「ひっ……ひぃ……ひいいいいいいいいいいっ!」
慎二は、脱兎の如くその場から逃げ出して行く。
「追うか?」
ライダーが消滅して、体が自由になったアーチャーが凛に問う。
「その必要は無いでしょう。サーヴァントが居なくなったら、あいつにはもう何にもできないわ。」
もう凛の頭の中には、慎二の事など微塵も残っていなかった。
それよりも、慎二にマスターの権利を譲渡した、ある魔術師の事が気になって仕方が無かった……
後半は、アーチャーVSライダーの戦いでした。
士郎とセイバーが居ませんので、ライダーと慎二のお相手はアーチャーと凛に代わってもらいました。
この話の慎二は、もうこれで退場予定です。