Fate / battle of Berserker 作:JALBAS
間桐臓硯が動いているので、遂に真アサシンが召喚されます。
ただ、その後の流れを原作とは少し変えました。
そして海浜公園で凛と臓硯は顔を合わせますが、ここも士郎陣営が居ないので代わりに別な陣営が加わる事に……
数日間、イリヤは狩りには出掛けず、城でぬいぐるみの士郎と戯れていた。
「私、今迄ずっとひとりで寂しかった……でも、もう寂しくないよ。これからは、お兄ちゃんがずっと一緒なんだから。」
イリヤは士郎に、自分の過去を語って聞かせていた。
父母と過ごした、幸せだった日々の思い出。
ひとり取り残されて、二人の帰りをじっと待っていた寂しかった日々の事。
母の死を知らされた時の悲しみ。
いつまで経っても迎えに来てくれない、切嗣への苛立ちが憎しみに変わっていった事。
マスターに成るための辛い試練。
そして、バーサーカーとの出会い……
日が経つにつれ、壊れ掛けていた士郎の自我が元に戻り始める。
イリヤの話す内容が判断できるようになり、最初は疑問であった自分が襲われた訳も、納得出来るかどうかは別にして理解する事ができた。
イリヤは、血は繋がっていないが、士郎とは兄妹という事になる。
イリヤの士郎に対する怒りは、憎しみから来ているものでは無かった。幼い頃に自分が失ってしまった家族とその安らぎを、独り占めしてしまった事への妬みから来ていた。
士郎を自分の物にして、イリヤはようやく家族を取り戻す事が出来たのだ。
人の良い士郎は、そんなイリヤが可哀想になり、自分が酷い目に合った事など忘れていく。
だんだん、イリヤが愛おしくなっていく。
自分の妹として、イリヤに好感を持ち始めた士郎だが、その気持ちをイリヤに伝える術は無かった。
イリヤは士郎に自分の言葉を聞かせる事はしても、士郎の意思を知ろうとはしなかった。自分を否定されるのが怖かったのだ。切嗣のように、離れて行ってしまう事を恐れていた。だから、物言わぬ人形にして自分の気持ちだけをぶつけていたのだった。
もうひとつ、士郎は気付いていた。
切嗣が、一人で何度も海外に出掛けていた理由を。
“あれは、イリヤを連れ戻しに行っていたのだろう。
だが、アインツベルンにとっては切嗣は裏切り者でしかない。そんな切嗣に、アインツベルンがマスターの資質の高いイリヤを渡す筈がない。
それをイリヤは、切嗣が自分を捨てたと勘違いして……いや、アインツベルンにそう吹き込まれていたのかもしれない……“
こうしてイリヤが城に籠っている一方で、聖杯戦争は大きくその動きを変えようとしていた。
柳洞寺の山門の門番を務めるアサシン。
彼はあのバーサーカーを退けていたが、それ以外に今回の聖杯戦争において、ランサー、ライダーをも一度は退けていた。
そんな山門の前では無敵に近い強さを誇る彼が、その夜、異様な苦しみを見せていた。
アサシンの手から長刀が離され、石段を転げ落ちていく。
「ぐっ……ぐわああああああああっ!」
突然、アサシンの胸が裂け、大量の血が噴き出す。アサシンは、そのまま仰向けに倒れてしまう。
その胸の裂け目から、二本の黒い腕が飛び出す。その腕が地面に着くと、今度は裂けた胸から頭部が飛び出す。その顔は、骸骨を模った面で隠されている。頭部はアサシンの内臓を喰らい始め、喰らう毎に首から下が湧き出て来る。内臓をあらかた喰らい終わった頃には、屈んだ姿勢の全身がアサシンの内臓と入れ替わっていた。
「キキキキキイイイイイイッ!」
全身を黒いローブで包んだその奇怪な人影は、奇声を上げながら柳洞寺の中へ飛び跳ねて行った。
残された胸に大穴の開いたアサシンの体の周りに、突如黒い影が広がっていく。それはアサシンの体を飲み込んで、地面の中に消えていった。
「アサシン?」
そこに、一人の女性が山門をくぐって境内から出て来る。
それは、一般の女性の姿を装ったキャスターだった。
キャスターは山門の周りを見渡すが、何処にもアサシンの姿は無い。もっとも、気配を断っていればキャスターにも感知できないのだが、契約により支配下にあるアサシンが、主であるキャスターの呼び掛けに答えないのはおかしかった。
よくよく見渡すと、石段の少し下方の踊り場の上に、アサシンの長刀だけが落ちていた。
「?!」
その時、キャスターは柳洞寺本堂の中から不穏な魔力を感じた。
慌てていつもの紫のローブ姿に戻り、本堂の方に駆けて行く。戸を開けて中に入ったキャスターは、目の前の光景に愕然とする。
「そ……宗一郎……さま?!」
暗い本堂の奥には、キャスターのマスターである葛木宗一郎が、糸の切れた操り人形の如く浮いていた。
いや、正確に言うと、謎の黒い怪人に吊り下げられていた。
手足は骨を砕かれたようにダラリと下がっており、体中血だらけだった。その顔にはもう生気は無く、意識も全く無い様子だった。
黒い怪人は、その葛木の首に黒いナイフを突き付けており、キャスターに向かってカタコトの言葉を発した。
「ケイヤクヲ……トケ……」
その一言で、キャスターは全てを理解した。
目の前の化け物は、アサシンに取って代わって出現した真のアサシンである事。
前のアサシンの中から誕生したため、キャスターとの契約が完全に無効になっていない事を。
キャスターは自らの宝具、歪な形をした短剣“ルールブレイカー”を取り出し、それを自分の心臓に突き刺した。
「はうっ!」
キャスターと真アサシンの間に魔力のオーラが立ち昇り、分断するように切れて消滅する。
「これで満足でしょう!」
“言われた通りにしたのだからマスターを離せ”と言わんばかりに、キャスターは叫ぶ。
しかし真アサシンは……
「キキキキキイイイイイイッ!」
即座にナイフで葛木の首筋を切り裂いてしまった。
「き……きさまああああああっ!」
激昂したキャスターは、光弾を放って真アサシンを攻撃する。真アサシンはそれらを素早く躱して、境内に飛び出して行く。キャスターもそれを追って飛び出し、絶えず光弾を放ち続けるが真アサシンを捕えきれない。そうしている内に、真アサシンは気配を断って姿を消してしまう。
「ど……何処に行ったの?」
境内の中央で、キャスターは真アサシンの魔力を探るが全く感知出来ない。
すると、真アサシンは突然キャスターの背後に現れた。
「ちっ!」
慌てて振り向き、キャスターはまた光弾を放つ。それを躱しながら、真アサシンは右腕のローブを解いた。オレンジに輝く、その右手が解放される。
「ザバーニーヤ!」
その右腕は異様な長さに伸びて、指の先がキャスターの胸を捕えた。
「?!」
だが、それに殺傷能力は無かった。ただ触れただけで、右腕は縮んで元の長さに戻る。
散々逃げ続けた真アサシンだが、山門の前に差し掛かったところで突然動きを止めてしまう。
「掛かったわね!」
キャスターは、攻撃を続けながらも罠を張っていた。真アサシンの足元には魔法陣が広がり、これにより足が止められてしまった。
「塵になりなさい!」
キャスターは、目の前に巨大な魔方陣を作り出す。強力な一撃で、一気に葬り去ろうというのだ。
しかし、真アサシンには慌てる様子は無かった。ゆっくりと、オレンジに輝く右手を上げる。そこには、いつの間にか心臓が掴まれていた。真アサシンは、その心臓を一気に握り潰した。
「……っ!」
その瞬間、キャスターの胸が爆ぜる。
魔法陣は消え、口から血を流し、キャスターは立ったまま絶命した。
真アサシンの右手の心臓は、その直後に消滅してしまう。真アサシンはひとっ飛びでキャスターの前まで行き、破裂したキャスターの胸から潰れた心臓を抉り取る。そして大きく口を開け、その心臓を一気に飲み干した。
「ふっ……」
先程までとは少し雰囲気が変わり、含み笑いを浮かべた後、真アサシンは再び闇の中に消えて行った。
それからまた数日後、凛は綺礼と話をするため言峰教会を訪れていた。
今回の聖杯戦争に、父親に聞いていたものと違う異質なものを感じたからだ。
礼拝堂の祭壇の前で、凛と綺礼は話をしている。
「何?キャスターが……」
「キャスターは柳洞寺を根城にしていた。新都の昏睡事件で集められた魔力は、全て柳洞寺にいっていた……二日前の夜、私達は柳洞寺を探りに行ったわ。でも、キャスターの姿は何処にも無かった。魔力の痕跡は残っていたけどね。それで、寺の人間は全て生気を吸い取られて昏睡状態……そんな中、一人だけ命を奪われていた者が居た。うちの学校の教師、葛木宗一郎……彼が、キャスターのマスターなんでしょ?」
「おそらくな……」
「おそらくって、貴方監督役でしょ?聖杯戦争に参加しているマスターは、全て把握しているんじゃないの?」
「キャスターは色々とルールを破っていてな。奴は一度マスターとの契約を切って、自分のマスターを殺している。」
「契約を切るって……サーヴァントにそんな事ができるの?」
「キャスターの宝具、“ルールブレイカー”なら可能だ。それで奴は柳洞寺に逃げ込み、新たなマスターと契約した。それが、その葛木という男なのだろう。」
「何者かが柳洞寺を襲撃して、キャスターとそのマスターを殺した……でも、キャスターが死んだのなら、新都の昏睡事件も止まる筈……なのに、昨夜もその前の夜も昏睡事件は起こり続けているわ。それどころか、被害は前よりも酷くなっているわ。」
綺礼は少し考え込んだ後、凛にある情報を伝える。
「……確かに、今回の聖杯戦争には不穏な動きを感じる。監督役である私に何のことわりも無く、強引に参戦しているマスターも居る事だしな……」
「強引に参戦?だ……誰よ、それは?」
「間桐家の長老、間桐臓硯だ。」
その日の深夜、雨の降る中レインコートを着た凛が街を歩いて行く。
その横を、サイレンを鳴らしてパトカーや救急車が通り過ぎて行く。
凛はそのまま、海浜公園までやって来た。
公園の中央には、小さな人影がひとつあった。凛は、その人影の前に立つ。それは、暗闇では本当に妖怪と見間違うような、異質な雰囲気を発している老人だった。
「あれは、あなたの仕業でいいのかしら?間桐のご隠居。」
凛は、鳴りしきるサイレンを指して問う。
「ふふ……遠坂の娘か?」
「間桐の長老までマスターだったとはね……一家の中から二人もマスターとして参加してるなんて……」
凛の言葉を、間桐臓硯は鼻で笑う。
「ふっ……二人か……」
「?!」
その時、凛は強大な魔力を感じ取る。それは、凛と臓硯が正対する真横の方から感じられる。
そして暗闇の中から、その魔力の主がゆっくりと現れる。
「……言ったよね、リン。次に会った時は、確実に殺すって……」
後ろに、褐色の巨人バーサーカーを従えて、イリヤが二人の前に現れる。その腕には、士郎の魂の入ったぬいぐるみが抱かれている。
「イリヤ……バーサーカー……」
「ふん……最悪の展開だな……」
非常事態を察知して、凛の横にアーチャーが実体化する。
「ふっ……アインツベルンの小娘か?奇しくも、冬木の聖杯戦争を創り上げた御三家が揃い踏みするとはのぉ。」
臓硯が、不気味な笑みを浮かべながら言う。
「初めまして臓硯……とうとう間桐も魔術師の血が絶えて、ご隠居が出張るしかなくなったのかしら?」
「ふん……人形風情が、一端の口を利きおるわい。」
「五百年も人を喰らって生き長らえている妖怪に、言われたくはないわ。」
臓硯とイリヤは、いきなり皮肉の言い合いを始める。
“人形風情?……五百年も生き長らえた?……”
しかし、詳しい事情を知らない凛には理解のできない内容だった。
今ここに、三つ巴の戦いが展開されようとしていた……
原作では、真アサシンはキャスターの心臓は取り込んでいません。
何か理由があるのかもしれませんが、召喚されてすぐ目の前にある餌を食べない道理は無いので、この話ではキャスターの心臓を取り込ませました。ついでに、キャスターとの戦闘も少し書いてみました。