Fate / battle of Berserker 作:JALBAS
散々イリヤに酷い目に合わされ、自分本来の肉体まで失った……
それにも関わらずイリヤの不遇の人生に同情し、自分の妹として愛し始めた士郎。
遂には奇跡を起こしてサーヴァントとして復活し、イリヤの窮地を救いました。
そんな士郎の度を越したお人好しに呆れながらも、凛は彼に協力していきます。
果たして、これから士郎達を待ち受ける運命は……
遠坂邸の客間のベッドにイリヤは寝かされ、凛が治療をしている。士郎は、少し離れてその後ろに立っていた。
治療が終わり、包帯を巻き直した後、凛が士郎に言う。
「心配無いわ。この娘の治癒能力は普通じゃ無い……数日もすれば、元通り目も見えるようになるわ。」
「そうか……」
士郎は、ほっと息を吐く。
「それじゃあ……」
凛は立ち上がって、士郎の方を向いて話を続ける。
「納得のいく説明をしてもらいましょうか?」
「……判った……だけど、部屋を変えてもいいか?」
凛はそれに同意し、二人は部屋を出て行く。
応接間に移って、士郎はこれまでの経緯を凛に説明する。
自分がイリヤの城に連れて行かれた後、どうなっていたか。
イリヤが自分の父切嗣の実の娘であり、自分とは血は繋がっていないが兄妹である事。
イリヤから聞かされた、彼女が歩んで来た苦難。
ぬいぐるみに入ってから見て来た、聖杯戦争の事。
アーチャーが、自分に託していったものについて。
そして、今日あったギルガメッシュとの戦いの事を。
それらを全て聞いた後、凛はようやく納得できたかのように呟く。
「そう……あの時アーチャーが言っていた“あいつ”って、貴方の事だったのね。」
「遠坂、お前はイリヤの事を許せないかもしれない……でも、俺は……」
「兄として、イリヤを護りたいって言うんでしょ?」
「……」
思っている事をあっさり言い当てられて、士郎は言葉を失ってしまう。
「でも、貴方は本当にそれでいいの?」
「え?」
「だって、貴方はもう人間じゃ無いのよ?その体だって、バーサーカーからの借り物。聖杯戦争が終われば消滅するわ。正規の英霊なら聖杯戦争の後も現界する術はあるかもしれないけど、貴方には無いわ。それでいいの?」
士郎は、少し俯いて考え込む。しかし直ぐに顔を上げ、迷いの無い表情で答える。
「……ああ、それでイリヤが……妹が幸せに暮らせるなら構わない。」
凛は一瞬顔を顰めるが、直ぐに観念したように言う。
「まったく……呆れたお人好しね……いいわ、私も協力してあげる。」
「本当か?遠坂。」
「ええ……実際に酷い目に合った貴方が許しているのに、私がいつまでも引きずっていたってしょうがないでしょ。聖杯戦争に関しては、どうせ一度は諦めていたんだし……それに、貴方には大きな借りができちゃったしね。」
「大きな借り?」
「助けてくれたでしょ。セイバーの攻撃から。」
「いや、あれは……」
言い掛けて、士郎は言葉を呑み込んだ。またアーチャーの事を言うのは、余計に凛を悲しませると感じたからだ。
だが凛は、協力すると言った直後溜息をついてしまう。
「はあ……でも、結局桜の言った通りになっちゃったわね。」
「桜の言った通り?」
「言ってたでしょ。“あなた達グルだったのね”って……」
「あ……」
桜の話になったところで、二人共暗く沈んでしまう。
桜はイリヤと凛を殺そうと狙っている。凛もそうだが、イリヤを護るという事は、桜やセイバーと戦うという事になってしまう。
「何とか、桜の誤解を解く事はできないのかな?」
「無理でしょうね……第一、誤解じゃ無いし……」
確かに誤解では無い。イリヤが士郎に酷い仕打ちをしたのは事実であり、イリヤを護る士郎に協力する凛は、グル以外の何物でも無いのだ。
その上、士郎がイリヤのサーヴァントとして桜の前に現れれば、更に憎しみを炎上させてしまうのは目に見えていた。
「……だけど、あの桜の様子は普通じゃ無い。それに、あの影は何だ?」
「そうね、桜が影を操っているというより、影に桜が操られているようにも見えたわ。」
「じゃあ、あの影を何とかできれば、桜を説得できないか?」
「う~ん……だけど、あれが何なのか判らないと対策の立てようが……」
言い掛けて、凛ははっとする。
「もしかしたら……綺礼が何か気付いているかも?」
「言峰が?」
「今朝は私沈んでたから気付かなかったけど、何かあいつ私の話を聞いて相槌打ってたような……あの影に、心当たりがあるんじゃないかしら?」
「そうか……よし、俺が行って確かめて来る。イリヤを頼む!」
士郎は、そのまま教会に行こうとする。
「ちょっと待ちなさい!」
そんな士郎を、凛が制止する。
「そんななりで、宵のうちから街をうろつくつもり?」
「あ……」
言われて、士郎は気付く。自分は今バーサーカーなのだ。全身褐色で、半裸の恰好の上に裸足である。イリヤの力を借りれば可能かもしれないが、英霊で無い士郎は霊体化も出来ない。それで街を歩けば、異様に目立つ事は間違い無いし、下手をすれば警察を呼ばれかねない。
「と……遠坂……着替え……あるかな?」
「ある訳無いでしょ!夜が更けるまで待ちなさいっ!」
「はい……」
深夜になって、士郎は一度衛宮家に戻って服を着替えた。
その足で、そのまま言峰教会を訪れた。
教会の中に入ると、祭壇の前に立っていた綺礼が振り向き、入って来た士郎を見て言う。
「これは驚いた……衛宮士郎、お前がまだ生きていたとはな?」
そう言う割には、綺礼はさほど驚きを見せていない。
「果たして、この体が生きていると言えるのかどうか……まあ、そんな事はどうでもいい。単刀直入に聞きたい。桜が引き連れているあの黒い影、あれが何なのか、お前は知っているのか?」
その問いに、綺礼は少し考え込むが、意を決して回答して来る。
「もう、隠す必要も無いだろう……あれは、聖杯の一部だ。」
「聖杯の一部?」
「この冬木の聖杯は、魔力の源である大聖杯と、英霊の魂を貯蔵する器である小聖杯から成り立っている。七人のサーヴァントが戦い、敗れたサーヴァントの魂は一時的にその小聖杯に蓄えられる。そして、全ての魂が溜まった後、大聖杯とひとつになり真の聖杯が誕生する。言わば、小聖杯と大聖杯は繋がっている。」
しかし、この回答に士郎は首を捻る。
「それが、桜が聖杯の一部を纏っている事と、どう関係があるんだ?」
この士郎の言葉に、綺礼は呆れたような顔をして言う。
「判らんか?間桐桜は、その小聖杯だと言っているのだ。」
「なっ……」
「そもそも、お前はイリヤスフィールのサーヴァントになったのだろう?なら、イリヤスフィールも小聖杯だという事を知らんのか?」
そう言われて、士郎は思い出す。イリヤに聞かされた話の中に、そのような内容の話があった事を。
「待ってくれ、何で桜が小聖杯なんだ?あいつは、ホムンクルスじゃないだろう?」
「別に、ホムンクルスが絶対条件では無い。他の動物でも、無機物であろうとも構わんのだ。アインツベルンは、自分達に有利に聖杯戦争を進めるため、ホムンクルスを小聖杯とした。それに対して、あの娘を小聖杯に仕立てたのは間桐臓硯だ。」
「何だって?」
「十年前、聖杯は完成を目前にして破壊された。その時に、臓硯はその欠片の一部を持ち帰った。それを、幼い間桐桜の体に埋め込んだのだ。それでも、間桐桜が小聖杯として完成する可能性は低かったがな。結果としては、完成に至ってしまったという事だ。」
聖杯の仕組みは判ったが、士郎はまだ納得がいかない。
「ちょっと待て。何で聖杯の一部があんな不気味な影なんだ?あの影からは、悪意のような物しか感じなかった。それに、何故あの影は人を襲う?どうして皆、そんな物を二百年間も争ってまで求めようとしたんだ?」
すると、綺礼は今度はいやらしい笑みを浮かべながら答える。
「それはな……この冬木の聖杯は、既に汚染されているからだ。」
「汚染だと?」
「第三次聖杯戦争において、ルールを破って召喚されたあるサーヴァントのせいで、聖杯の中身がこの世全ての悪“アンリマユ”に犯されてしまった。もはやあの聖杯は、全ての望みを“人を殺す”という手段でしか叶えられない欠陥品だ。」
「な……なん……だと……」
「だから、その聖杯と繋がった間桐桜も、既にその呪いに取り憑かれているのだ。」
衝撃を受ける士郎。と同時に、心の中に怒りが込み上げて来る。
「お……お前はそれを知っていて、この聖杯戦争を仕切っていたのか?」
「……そうだが、それがどうかしたのか?」
「誰がどんな願いを叶えても、大勢の人間が死ぬんだぞ!それを、何とも思わないのか?!」
「人間は、いつかは必ず死ぬ。それが、早いか遅いかの違いだ。そんな事よりも、私は誕生の方を優先する。」
「誕生……だと?」
「あれは、十年前、生まれたがっていたのだ。それを、衛宮切嗣が台無しにした。誕生目前で、聖杯を破壊したのだ……だから、今度こそ誕生させてやりたい……それだけだ。」
士郎は、綺礼の言う事の意味がよく理解出来なかった。ただ、綺礼と自分はおそらく永遠に相容れない存在であろう事を感じていた。
「……それなら、お前が聖杯の完成を望んでいるのなら、その小聖杯を破壊しようとはしない筈だな?」
「そうなるな。」
「じゃあ、何でイリヤを殺そうとした?」
「何の話だ?私はイリヤスフィールに手を出してはいない。」
「ギルガメッシュはイリヤを殺そうとした!お前はあいつと通じているんだろう!」
「何?」
「ここに居るんだろう?奴は!」
「ほう……良く判ったな?フェイカー。」
士郎の問いに答えるように、礼拝堂の奥から声がする。そして、奥の暗闇の中から、ギルガメッシュがゆっくりと姿を現した。
「どうして判った?」
綺礼が、士郎に問い掛ける。
「お前は俺の姿を見ても、殆ど驚いていなかった。普通なら、死んだ筈の人間がいきなり現れたらもっと驚く。それに、俺はバーサーカーになったとも、サーヴァントになったとも言っていない。俺がこの姿になってから会った人間は、遠坂ひとりだけだ。
だからその事を知っている者は、遠坂を除けばひとりしか居ない。」
「ふっ……これはしくじったな……」
綺礼は、苦笑いをする。
「まあ良いではないか。どの道、こいつはここで死ぬのだからな。」
ギルガメッシュが、綺礼の前に歩み出て来る。その背後に、無数の時空の歪が発生する。
「今度は逃がさん!」
「待て!まさかここで戦闘を始めるつもりか?」
綺礼が、ギルガメッシュを制止する。
「何か問題でもあるのか?」
「無論だ。こんな事で教会を破壊されてはたまらん。」
「うむ……という事だフェイカー。場所を変えるぞ。もっとも、少しでも逃げるそぶりを見せたらその場で撃ち抜くからな。」
「……判った……」
士郎も、覚悟を決める。
その頃、遠坂邸に怪しい影が近づいていた。
黒いローブに身を包んだ、骸骨の面を被った怪人……現在のアサシンである。
アサシンは、厳重な遠坂家の結界を物ともしない。全てくぐり抜けて、屋敷の中に侵入していく。
凛は、イリヤが寝ている部屋で、父親が残した聖杯戦争の記録を調べていた。何か、影に関する情報が無いかと。
「……リン!」
急に、イリヤが声を上げた。
「あら、気が付いた?」
「気を付けて!何か居る!」
「え?」
その直後、部屋の電球が割られ、部屋が真っ暗になってしまう。
「な……何なの?」
そこで、またイリヤが声を上げる。
「リン!右に避けて!」
「えっ?!」
言われて、凛は右に転がる。すると、さっきまで凛が居た場所に刃物が突き刺さる音がした。
「?!」
驚く凛。
「危ない!後ろよ、リン!」
目が見えない分、イリヤは感覚が研ぎ澄まされ、敵の気配が察知できていた。
慌てて振り向く凛だが……
「ひっ!」
そこには、骸骨が浮かんでいた。いや、正確には黒いローブに包まれた体が闇に紛れ、顔の骸骨の面だけが見えていたのだ。アサシンは、既に振り上げていたナイフを凛に向かって振り下ろした。
アサシンのナイフが、凛の心臓を貫く……ところだったが、そうはならなかった。
「何っ?!」
凛の体に触れる寸前で、ナイフは弾き飛ばされてしまった。更に……
「がはっ!」
次の瞬間、アサシンの体も弾き飛ばされていた。
「え?……何?……」
何が起こったのか理解できない凛の前に、ひとつの人影が実体化して来る。それは……
「ら……ランサー?!」
「き……貴様!……何故ここに?」
部屋の端で身構えるアサシンを、鋭い目つきで睨み付けてランサーは言う。
「悪りぃが、手前らの好きにはさせねえぜ!」
結局この聖杯戦争は、イリヤ陣営、桜陣営、綺礼陣営の三つ巴となりました。
今度こそ、ギルガメッシュとの決着をつけざるをえない士郎。
果たして英雄王に勝てるのか?
そして、凛達を護るランサーの真意は?