Fate / battle of Berserker   作:JALBAS

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桜を救うため、大聖杯の破壊を決意する士郎。
更にはイリヤから、桜に取り憑いている影が何なのか?
聖杯を汚染させたものが何なのかが語られます。
そして、舞台は最終決戦の場、大聖杯へ……




《 第九話 》

 

桜達が去った後、士郎は綺礼の遺体を教会の中まで運んだ。

自分とは相容れぬ敵だったとはいえ、亡骸を野晒しにして帰るには忍びないと感じたためだ。

礼拝堂の祭壇の前まで行き、綺礼の遺体をそこに横たわらせる。そして、軽く祈りを捧げた後、教会を出て行った。

 

士郎が去った数分後、今度はひとりの英霊がその場に実体化する。ランサーである。

ランサーは、しばらくもう動かぬ綺礼をじっと見詰めていた。

「ちっ……留守の間にマスターを殺られちまうとは、何とも間の抜けた話だぜ……」

最後にそう呟いて、ランサー再び霊体化して消えていってしまった。

 

 

 

士郎は、再度衛宮家で服を着替えて遠坂邸に帰って来た。

士郎は凛達に、桜が纏う影の正体、ギルガメッシュとの戦い、再び桜とセイバーに遭遇した事、そして綺礼が桜の手によって命を落とした事を話した。

凛も、アサシンに襲われた事、危ないところをランサーに救われた事を語った。

「“奴らの邪魔をしろと言われてる”、ランサーはそう言ったのか?」

「ええ。」

「なら、ランサーのマスターはおそらく言峰だ。」

「えっ?」

「桜は、言峰が何かと邪魔をしていると言っていた。言峰達は、イリヤの心臓を使って自分達専用の聖杯の器を用意しようとしていた。だとしたら、桜や臓硯の行動を妨害もするだろう。」

「で……でも、綺礼は桜に殺されたんでしょ?なら、ランサーは……」

「マスターを失ったんだ。もう、現界していないかもしれない。」

凛は、少し複雑な表情をしている。

「桜と間桐臓硯は手を組んでいる……というより、臓硯が桜を操ってると言った方がいいのかしら?ランサーが居なくなったのなら、聖杯戦争はもう私達と臓硯達の争いになったという事ね?」

「ああ……」

士郎は、重い顔立ちで考え込んでいる。

「士郎?」

そんな士郎に、凛が声を掛けるが……

「イリヤ。」

士郎はそれには答えず、黙ってベッドに座って話を聞いていたイリヤに話し掛ける。

「俺は、お前のサーヴァントだ。本来なら、お前の望みを叶えるために行動しなきゃならない……だけど……」

「大聖杯を破壊したいんでしょ?」

イリヤは、士郎の思惑をあっさり言い当てる。

「いいよ。」

「え?」

「本当か?イリヤ。」

凛も士郎も、すんなり同意するイリヤに驚く。

「アインツベルンのお爺様の言いつけには背く事になるけど……元々、サクラがあんなになっちゃったのは私の責任だから……私を恨むあまり、サクラは“復讐者・アヴェンジャー”と契約してしまった。」

『アヴェンジャー?!』

士郎と凛が、同時に声を上げる。

「存在しない筈の、八番目のクラス。この世全てを恨み、滅ぼす悪魔よ。」

「ちょっと待ってイリヤ、八番目のクラスって……」

「キレイが“アレは誕生したがっていた”って言ってたんでしょ?聖杯が完成すると、聖杯を汚染させたアンリマユが、強大なサーヴァントとして誕生してしまう。それがアヴェンジャー……」

イリヤは、第三次聖杯戦争でアインツベルンがルールを破って召喚したサーヴァント“アヴェンジャー”について、士郎達に語った。

 

それはかつて、ひとりの何の力も無い人間に過ぎなかった。

だが、人々の安息のため、その者は全ての罪や厄災を擦り付けられて生贄にされた。

それにより人々の心を救い、結果“反英雄”として語られる事となった。

それは、そうあるべきと人々が望んだ願望そのものであった。

だから、それが万能の願望機聖杯に取り込まれた時、叶えるべき望みとして記録されてしまったのだ。

本来は空想であり実在しなかった“この世全ての悪”が、逆に人々の願望として実体化してしまう……何とも皮肉な話である。

 

「キリツグは、前回の聖杯戦争の時に聖杯に触れて、その危険性に気付いた。だから、その誕生を阻止しするために聖杯を破壊した……」

イリヤの話を聞いた後、士郎はある事に気付く。

「桜はアヴェンジャーと契約してしまったって言ったな?なら、その契約を解除すれば、桜をあの影から切り離せるのか?」

「ええ。」

「でも、どうやって?」

凛が聞いて来る。

「キャスターが使ったあの宝具だ。あれを投影すれば……」

そう言った後、士郎は立ち上がる。

「済まない遠坂、またイリヤを頼めるか?」

すると、凛は目を座らせて士郎を睨み付ける。

「まさか?またひとりで行くつもりじゃないでしょうね?」

「え?……だって……イリヤは目を負傷しているし……遠坂は、サーヴァントを失ってるじゃないか?」

「だから?」

「い……いや、向こうにはセイバーやアサシンが居るんだ。危険だし……」

「ここに居れば安全なの?貴方が居ない間に、私達はアサシンに襲われたのよ?」

「いや……それは……」

「桜はイリヤの命を狙ってるのよね?貴方が居なければ、これ程都合のいい事は無いわ。

セイバーにでも貴方を足止めをさせて、真っ先に襲って来るでしょうね。」

「……」

凛の的を射た読みに、士郎は何も言えなくなってしまう。

「貴方もサーヴァントなら、迂闊にマスターの傍から離れるんじゃないわよ!」

「……はい……」

「そもそも、貴方何処に行くつもりなの?」

「何処って……大聖杯のところに……」

「それが何処にあるか知ってるの?」

「え?……いや……何処だ?」

「何にも考えて無いじゃない!もっと慎重に行動しなさいよ!」

「……はい……」

 

散々説教された後、結局凛の提案で、士郎達はイリヤの回復を待ってから行動する事に決める。

「それで、その大聖杯ってのは何処にあるんだ?」

士郎が尋ねる。

「柳洞寺の裏手、長い洞窟の先に大空洞って言われる地下の大広間があるわ。そこに描かれた魔方陣が大聖杯よ。」

「じゃあ、そこに乗り込めばいいんだな?」

「ええ。でも、こっちの考えは多分向こうもお見通しよ。先に行って待ち構えているでしょうね。」

「じゃあ、これが最終決戦になる訳か?」

「そうね……」

 

 

 

間桐邸。

地下室からは、また奇声が響き渡っていた。

蠢く異形の蟲達の中に蹲り、桜は叫び続けている。

「あああああああああああああああああああああっ!」

そこに、臓硯が現れる。

「どうした?桜?」

「だ……駄目なんです……先輩が……せんぱいがあああああああああああああっ!」

桜の目は、狂気に満ちている。

「あの小娘に心の底まで魅入られて……私の話を聞いてくれない……あの小娘を殺したくても、先輩は必ず邪魔をする。このままじゃ私……先輩まで殺さなくちゃいけない……」

「……それで良いのじゃ、桜。」

「え?」

「あの小僧はもはやサーヴァントじゃ。聖杯戦争が終われば消滅してしまう。このままでは、どの道命を落とす事は避けられん……」

「そんな……そんな……」

「じゃからこそ、お前が聖杯を手にする必要があるのじゃ。聖杯は、どんな望みでも叶えられる万能の願望機。お前が聖杯を手にし、あの小僧を蘇らせれば良いだけの事じゃ。」

「そ……そう……そうですよね?」

桜は、狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

その後、臓硯はひとり新都に出掛ける。

既に朽ち掛けたその体は、定期的に人の肉体で補填しないと崩れてしまう。

深夜の路地裏で、臓硯は殺した若い女性の肉を喰らっていた。

その背後に、不気味な人影が立っている。黒いローブに身を包み、骸骨の面で顔を隠した怪人……アサシンである。

アサシンは、人肉を喰らっている臓硯に語り掛ける。

「良いのですか?あのような嘘を言って。」

「嘘じゃと?」

「死者の完全な蘇生など、もはや願望機のレベルを超えています。その実現には全ての英霊の魂を注ぎ込み、天の杯を再現させなければ……あの娘ではそこまで到達出来ないし、それを行えば魔術師殿の願いも叶えられないかと。」

「うむ……キャスターの心臓を喰らったお蔭で、余計な知識までついたようじゃな。じゃが、心配はいらん。その頃には、あ奴にもう自我など残っていまい。それに、あ奴は絶対に儂には逆らえんでの……」

不気味な笑みを浮かべながら、臓硯は死肉を喰らい続ける。

 

 

 

それから二日後の深夜、士郎、イリヤ、凛の三人は、大空洞に向かう。

柳洞寺を抜け、裏の参道から脇道に逸れる。谷間となっている場所の底に降りて行くと、崖の下に地下へと続く洞窟がある。士郎達は、その洞窟の中に入って行く。

大空洞までの経路で襲われる事も想定していたが、意外にも何の襲撃も無く大空洞に到達した。

そこは、本当に地下かと思われる程広い空間だった。柳洞寺の敷地よりも遥かに広い平地の先に、大きな段差があってステージのような場所がある。そこに大聖杯の魔方陣があるのだろう。ここに集められた膨大な魔力が、赤いオーラとなって立ち込めている。

その段差の上には、二つの人影があった。桜と、臓硯だ。やはり、ここで決着を付けるつもりのようだ。

 

士郎達が平地の中央付近に差し掛かったところで、前方に黒い影が湧き出して来る。そしてその中から、黒い鎧に身を包んだブロンドの女騎士、セイバーが現れる。

イリヤ達より数歩前に出て、士郎はセイバーに語り掛ける。

「セイバー、どうしても戦わなければならないのか?俺は、できればお前とは戦いたくない。」

そこで、初めてセイバーは口を開いた。

「シロウ……己がマスターのために、敵を討つのがサーヴァントだ。迷いがあるのなら、貴方に勝ち目は無い。」

「……っ!」

もう何を言っても無駄だと、士郎は諦めて戦う決意をする。

「イリヤ、遠坂、巻き添えをくわないように、出来るだけ離れていてくれ。」

「判ったわ。」

士郎の言葉に、凛とイリヤは大空洞の入り口付近まで後退する。そこで、イリヤが凛に言う。

「気を付けてリン。アサシンの気配が無い。シロウがセイバーに気を取られている隙に、私達を狙うつもりよ。」

言われて、凛は周りに気を配る。

そして、士郎とセイバーの戦いが始まる。

「トレース・オン!」

士郎は、無数の剣を投影してセイバーに向けて放つ。しかし、セイバーは難無くそれらを弾き返してしまう。

それもその筈、士郎は心の底ではセイバーと戦う覚悟が出来ていなかった。そのため、無意識にセーブしてしまい、本気の攻撃が出来なかった。

だがそれは、セイバーの逆鱗に触れてしまう。それまで無感情だったセイバーが、初めて怒りを露にして士郎を怒鳴り付けた。

「私を馬鹿にしているのか!シロウ!ギルガメッシュと戦った時は、こんなものでは無かった筈だ!」

セイバーは、物凄い勢いで駆け出し、間髪入れずに士郎に斬り掛かって来る。

「くっ!」

士郎は干渉・莫邪を投影してこれに対するが、凄まじい力で斬り掛かって来る攻撃をいなし切れない。どんどん圧されていき、イリヤや凛の近くまで押し込まれてしまう。

「戦う気が無いのなら今すぐ終わらせる!エクスカリバーで、貴方諸共イリヤスフィールを討つ!」

セイバーの目は本気だった。

ここで、士郎の中で何かが弾けた。

自分が負ければイリヤが死ぬ。その事実が、士郎の迷いを吹き飛ばした。

「ふ……ふざけるなああああああああっ!」

本気になった士郎の剣撃が、ようやくセイバーの剣を弾き返した。

「トレース・オオオオオオオン!!」

更に、士郎は怒涛の如く剣を投影してセイバーに向けて放つ。流石のセイバーも、これは余裕では弾き返せない。直撃こそ受けないものの、少しずつ後退させられ、元居た位置まで押し戻されてしまう。

間合いが取れた事で、士郎は次の攻撃に移る。

左手に弓、右手に剣を投影し、剣を矢のように弓に添える。弦を引きながら、呪文を唱える。

「I am the bone of my sword.」

剣が、矢のように形を変えていく。そこで士郎は、セイバーに向かって矢を放つ。

「カラドボルグ!!」

これに対し、セイバーは剣を低く構えて魔力を高める。

「はあああああああああっ!」

風王結界が発生し、セイバーの剣を包み込む。

セイバーは剣を振るうと同時に、その結界を解く。凄まじい風が竜巻のように、士郎の放った矢に向けて飛んで行く。

これらは二人の中央で激突し、凄まじい爆発を引き起こす。

「……っ!」

その爆発は激しい爆風も起こし、凛達は腕で顔を覆ってこれに耐える。

爆風が去った後、士郎もセイバーもダメージは受けていないが、二人の間には地面が大きく抉れた大穴が開いていた。

「す……凄い……」

激しい戦いに、つい凛は気をとられてしまう。

「リン!危ない!」

イリヤが、使い魔を飛ばしてリンの背後から飛んで来たナイフを防いだ。

「アサシン?!」

凛は後ろを向くが、そこにアサシンの気配は無い。二人で辺りの気配を探るが、アサシンの気配は感知できなっかた。

「遠坂?!」

一瞬、背後に気を取られる士郎。だが、その隙をセイバーは見逃さない。

「ううっ!」

一気に間合いを詰めたセイバーの剣が、士郎の腕を掠めた。

「余裕ですねシロウ。戦いの最中によそ見とは。」

「くっ……」

「し……士郎?」

再び劣勢となった士郎に、また凛は気をとられてしまう。

「リン!後ろっ!」

この隙を、今度はアサシンが見逃さない。突如リンの背後に現れ、襲い掛かろうとするが……

「がはあっ!」

いつぞやと同じように、アサシンは見えない影に弾き飛ばされた。

「えっ?」

驚く凛の前に、またしても青いタイツ姿の英霊が実体化する。

「ランサー?!どうして……綺礼が居なくなったんだから、貴方は現界出来ない筈じゃ……」

「へっ!いけ好かねえキザ野郎が、消滅間際に置き土産していきやがったんだよ。“単独行動”のスキルってやつをな。」

「え?……まさか……アーチャーが?」

「とは言っても、今は失業中でガス欠寸前だ。まとまな技も使えやしねえ……どうだ嬢ちゃん?残り時間僅かだが、俺を雇っちゃくれねえか?」

「雇うって……契約しろって事?」

「英霊なんてもんは、自分で雇い主は選べねえ。一度くらい、自分の好みのマスターに雇ってもらいたいんだがな。」

そう言いながら、ランサーは槍を出してアサシンに向かっていく。アサシンはナイフでこれに対抗する。

本来なら、まともに戦ったらアサシンではランサーに敵わない。ところが、今のランサーは魔力が尽きかけていた。そのため戦いは互角……いや、かえってアサシンの方が優勢だった。

苦戦するランサーを見て、凛は決意する。

「判ったわ!ランサー!」

凛は、右手をランサーに翳して言う。

「告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば我に従え!ならばこの命運、汝の剣に預けよう!」

「ああ、誓うぜ嬢ちゃん!あんたを俺の主と認めるぜ!」

 






アーチャーは“後は、あいつ……に頼るしか”と言って消えました。
凛には“あいつ”としか聞こえていませんでしたが、本当はアーチャーは“あいつら”と言っていたんです。
アーチャーは、士郎と隠れて様子を見ていた“ランサー”の二人に凛を託していたんです。

次回、最終話です。
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