『もういーかい?』
『まーだだよ!』
『僕はこっちに隠れるね』
『あたしはこっちー!』
(…あー、これが明晰夢ってやつなんだね)
小さい頃に誰でもやったことがあるよね。鬼ごっこぐらいに人気だったと思う。あたし達はこの時かくれんぼをしていた。この日はお姉ちゃんと結花ちゃんは一緒じゃなかった。あたしとユウくんの2人でいつもの公園に来て、そこにいた他の子たちと一緒にかくれんぼをすることになったんだったかな。
『もーいーかい?』
『もーいーよー!』
あたしとユウくんはこの時勝負してたんだよね。どっちの方が長く隠れられるかって。あたし達を含めて5人で遊んでたんだけど、あたしとユウくんは全然見つからなかった。あたしもユウくんも、お互いどこに隠れたのかは知らない。だから勝負がどうなってるか分からなくて、あたしは負けたくなかったからずっと隠れてた。
だけど、なかなか鬼の子は見つけてくれない。だんだん日が沈んで暗くなり始めたら、みんな帰らないといけない。だからあたしも、隠れるのをやめたらよかったんだ。…でも、あたしはユウくんに勝ちたかった。この日の前日に結花ちゃんに『ひなちゃんは、いっつもユウくんにだけぜったいまけるよね!』って言われたから、ムッとしたあたしは『あしたぜったいかつもん!』って意地を張ってたんだ。
そんな意地を張らなければよかったのに、あたしはずっと隠れ続けた。鬼以外の子たちもあたしを探し始めたけど、帰らないといけない時間になって、帰って行っちゃった。ユウくんがどうしてるのかわからないし、あたしは1人取り残された気がして、周りの暗さも相まって怖くなった。
実はみんなまだ探してくれてるんじゃないか、見つけられたらユウくんにまた負けちゃうんじゃないか、そんな思いもあって、声を押し殺しながら涙を流した。
見つけてほしい。だけど、見つけてほしくない。
自分の気持ちがグチャグチャになって、じっとその場で泣き続けた。
『おねえちゃ…ゆう…くん。…うぁ…あぁぁ』
『ひなちゃんみーっけ!』
『ふぇ…?』
『よかったー。みんなでひなちゃんさがしてたけど、なかなかみつけられなくてビックリしたよ。…はじめてひなちゃんにまけちゃったね』
『あ、あぁ…ゆう…くん』
負けたことの悔しさ以上に、あたしを見つけたという安心が強かったんだろうね。ユウくんは満面の笑みで、あたしのことを抱きしめてくれた。
あたしはその安心感もあって、声を押し殺すのをやめた。喉が張り裂けるんじゃないか、ってぐらい声をあげて、ユウくんにしがみついていっぱい泣いた。ユウくんはあたしの背中に手を回してくれて、ポンポンって優しく叩いてくれてた。
『ぐすっ、…こわ、かった』
『くらいもんね』
『ずっと1人になるとおもった!』
『ひなちゃん、かくれるのうますぎるよ。…でも、だいじょうぶだよ、ひなちゃん』
『え?』
『ぼくはーーーーーーーーから』
『ほんと?』
『うん!やくそく!』
『じゃあゆびきりしよ!』
『いいよ!』
この日ユウくんと約束した。あたしはそれがすっごい嬉しかったのを覚えてる。この日のことは色褪せずに覚えてる。あたしが初めてユウくんに勝った日で、初めて外で大泣きした日で、そして、とても大切な
今のが1つ目で、あたし達は手を繋ぎながら公園を出て家に帰っていく。その道中で2つ目の約束をする。
『それじゃあひなちゃん!またあしたね!』
『…ゆうくん』
『どうしたの?』
『やくそく…』
『やくそくなら…、……うん。いいよ!もういっこやくそくしたいんだよね?』
『!!…うん!あのね! 』
☆★☆
「っ!!!…はぁ、はぁはぁ…夢って…わかっててもしんどいね」
飛び起きるように体を起こしたあたしは、乱れてる呼吸を整えながら時間を確認する。まだいつもなら寝てる時間だけど、かといって二度寝したら寝坊しそうな、そんな時間だったから起きることにした。
幼い頃にした大切な2つの約束。あたしはその事を忘れたことがないし、ユウくんが裏切ったあの日以降、どれだけ忘れたいと思っても忘れることができなかった。いつまでもあたしの胸の中に
「こんな夢見るの…リサちーと彩ちゃんのせいだよ」
喉を潤すために冷蔵庫からお茶を取り出して、コップに注いでそれを一気に飲み干す。汗も酷いし、服も着替えとこっと。
昨日あった出来事が原因だと決めつけて、思い出したくないのに蘇ってくる記憶に苛立ちを覚える。
「どうせ結花ちゃんのからかいのせいだろうけど、ユウくんもユウくんだよね。…あんなとこでリサちーにキスするなんて」
全然人がいなかったから、噂にもならないだろうけど、それでもあんな目立つとこでやるなんてどうかしてるよ。リサちーも拒まないしさ。
そんなことを思いながら事務所にレッスンしに行ったんだけど、彩ちゃんは彩ちゃんでユウくん達に会ったことを嬉しそうに話すし。レッスンでいつも通りあたしはミスしなかったけど、「らしくない」なんて言われて、なんか強引だった彩ちゃんのせいで話さないといけなくなったんだよね。
『日菜ちゃん…それは日菜ちゃんが『違う!!』っ!』
『何も知らないくせに…。ちょっと話を聞いたからってズカズカ踏み込んでこないでよ!あたしのことを勝手に彩ちゃんが決めないで!!』
『お、おふたりとも、喧嘩は…喧嘩はやめてください!』
『日菜さんも落ち着いてください。彩さんも、これ以上は踏み込まないということにしてください』
『…そう、だね。…ごめんね…日菜ちゃん』
『ぁ…ーーっ!』
『ヒナさん!』
『イヴさん!追いかけては駄目です!』
『なんでですか!!ヒナさんはパスパレの一員なんですよ!?』
『今は…そっとしてあげてください』
『マヤさん…。わかりました…』
(千聖さんがいてくださればもう少しマシになってたんでしょうね。…ジブンはまだまだ未熟すぎます)
なんてことがあったんだったね。それで、帰って不貞寝したらこんな夢見て…。なんなの、ほんとに。
「あら日菜。起きてたの?早いわね」
「あ、お姉ちゃん。おはよう♪」
「ええ、おはよう。昨日は随分早く寝たのね」
「まぁね〜」
「…日菜、昨日何があったの?丸山さんから『日菜ちゃんを怒らせちゃった』ってメッセージが届いたのだけど」
「…彩ちゃん、そんなことしたんだ。…気にしないで、ちょっともめちゃっただけだから」
「もめたの?あなたが?…日菜、ちゃんと丸山さんと話をしなさいよ。あなたにとって、大切な居場所でしょ?」
「うん、わかってる。…ありがと、お姉ちゃん」
お姉ちゃんは最低限しか踏み込んでこない。それはお姉ちゃんも踏み込まれたくない人だから。人にされたくないことは、絶対に人にしない。そんな人で助かったよ。今踏み込まれたら、大好きなお姉ちゃん相手でも怒鳴ってたと思うから。
「私の方でも少しだけ丸山さんと話はしておくわね」
「…うん」
〜〜〜〜〜
学校に行くと、今日もまた男子たちがユウくんを捕まえようと躍起になってた。日に日に追いかける男子の人数が増えていくし、真剣味が増していくんだけど、なにか理由でもあるのかな?
大して興味もないことだけど、あそこまで必死になってると流石に気になる。近くにいたクラスの子に聞いてみたら納得のいく答えが返ってきた。
「あ、リサおはよー!」
「おはよ☆…まぁた男子たちはやってるの?懲りないねぇ」
「リサちーが絡んでるからね〜」
「へ?なにそれ?」
「リサ知らないのー?なんでか知らないけど、藤森くんを捕まえた男子はリサと付き合う権利を貰える、なんてことになってるんだよ?」
「えぇ!?あたしそんなの知らないんだけど!?そんなの勝手に決められても…」
「そういえばそれって期限決めてあるの?」
「たしか今月末の体育祭までだったかな。誰も捕まえれなかったら藤森くんとリサのカップルを正式に認めるんだとか」
「自分勝手な勝負だね。どうせ男子たちが勝手に決めて、藤森くんもそれに巻き込まれたってとこでしょ?」
「よくわかったね〜。そんなとこらしいよ」
本当にうちの学校の男子たちってるんっ♪てこない人たちばっかだよね。まぁあたしはそれを傍から見るだけなんだけど、勝手に巻き込まれたリサちーは「…か、カップル?あたしが?そんな、えぇ?」なんてブツブツ言っときながら満更でもなさそうに頬を赤く染めてるし。
(ほんと、るんっ♪てこないことばっかだよ。前まではもっと面白いことが多かったのに)
未だにトリップしてるリサちーを席に座らせて、あたしも自分の席に座る。まぁリサちーの前なんだけど。周りに人がいないのを軽く確認したらリサちーを現実に引き戻す。
「えっと…あれ?」
「リサちーに聞きたいことがあるんだけどさ」
「え?なになに?」
「ユウくんにキスしてもらってどうだった?」
「ふぇ!?にゃ、にゃんれ!?」
「あはは!リサちー動揺しすぎ〜!…あんな目立つとこでしてたら嫌でも見えちゃうよ。ま、あたし以外に人はいなかったから、そこは安心して」
「ヒナに見られただけでも恥ずかしいんだけど…」
「で、どうだったの?リサちー受け入れてたよね?」
「き、緊張しすぎててよく分かんないよ…」
「リサちーほんとウブだよね〜。あれでしょ、手を握るだけでもるんっ♪てするタイプでしょ」
「か、かな〜。あ、あははー」
そうやって誤魔化せてない誤魔化しをするリサちーだったけど、ユウくんが男子たちを振り切って教室に戻ってきた時に変な反応をした。今まで通りならキラーンって感じなのに、どこかシューンって感じ。
引っかかりを感じたあたしは、リサちーの頬を両手で挟んで目を覗き込むことにした。いきなりのことで目が泳いでたけど、少ししたら真っ直ぐ見返してくれた。…いいね、そうしてくれる方が助かるよ。
「ヒナ、なにしてるの?」
「リサちー、あたしの質問に答えてね」
「え?」
「昨日あの後、藤森くんと何かあった?」
「何もなかったよ?途中まで一緒の道で、別れてからはあたしスタジオに行ったし」
「じゃあ…
「っ!??」
(これか)
ユウくんと何もなくて、その後Roseliaの練習だけなのに今日そんな反応したってことは、ユウくんのことを誰かと話したということ。そしてRoseliaメンバーならお姉ちゃん以外ユウくんと接点がない。
リサちーがお姉ちゃんから話を聞き出したとは考えにくいから、お姉ちゃんの方からリサちーに声をかけたのかな。……お姉ちゃん、いったい何を考えてるの?いや、それは話の内容を知ってからじゃないとね。
「あ、あたしは特に何も話してないよ?」
「目が泳ぎまくってるよ?リサちー」
「け、けど本当だから」
「じゃあお姉ちゃんの話を聞く役になってたわけだ。…お姉ちゃんは何をリサちーに話したの?リサちーは何を知ったの?答えてよね」
「あ、あたしは…」
「氷川、リサをいじめてやるな」
「…別にいじめてないよ。友達をいじめるわけ無いじゃん。あたしはリサちーから話を聞きたいだけだから。藤森くんは関係ないでしょ?」
「たしかに関係ないが、リサはそれで困ってるだろ?それと、もうすぐHRが始まるぞ」
「…わかったよ。ごめんねリサちー」
「ううん。大丈夫だから」
あたしはリサちーから手を離して、謝ってから前を向いて座った。ユウくんも自分の席に戻ったから、あたしはそれを見てからリサちーに小声で話しかけることにした。
「絶対に話してもらうからね」
「っ!」
逃さないよ、リサちー。これも必要なことなんだからね。