「雄弥なにしてんのー!早くしないと間に合わないよー!」
「何時だと思ってんだよ…。ポピパがやる時間まであと2時間はあるぞ」
「何言ってんの雄弥…。こういう時に差し入れを持っていくのは当たり前でしょ?」
「…そうかよ」
結花はこういう時いっさい引かないからな。こっちが折れるしかない。そんなわけでライブを見に行くための準備を済ませる。と言ってもチケットと財布と携帯ぐらいだがな。差し入れは結花が持つようだしな。
「それじゃあライブハウスに向かってシュッパーツ!」
「元気だな…」
「ポピパのもそうだし、Roseliaのも楽しみなんだもん♪」
「…そうだな」
「なにより、こうやって雄弥と2人でライブを見にいけるって思ってなかったからね☆」
それもそうなのだろうが、それ以外にも理由がありそうな気がする…。それもきっと俺関係の理由なのだろうが…、何だろうな。記憶を掘り返していき、思い当たるものがあることに気づいた。それはたしかに結花がここまで楽しそうにする理由だ。それがわかった俺は、鼻歌を歌い一歩先を歩いていた結花の横に行き手を繋いだ。
「どうしたの?」
「
「え…」
「ライブを見に行くこと自体、これが初めてだったなって。合ってるだろ?」
「……。うん♪」
そうだ。思い返してみても、俺たちは一度だって観客側でライブ会場にいたことなんてない。いつだってステージの上に立って演奏する側だった。今日は、人生初の観客側だ。楽しませてもらうとしよう。
「雄弥はポピパのライブが終わったらどうするの?Roseliaのは最後だけど」
「さぁな。沙綾と話してるか、他のバンドのも見てるかだな」
「ま、そんなとこだよね〜」
「結花は?」
「ずっと見てるかな〜。気が変わったらRoseliaの控室に行ってるかも」
「自由だな」
「まぁね〜♪」
結花らしいな。この自由奔放さにどれだけ助けられてることか。それでいて他の人のことをしっかり見ているんだから、いよいよ非の打ち所がない。ま、こんなべた褒めなんて絶対に口にしないがな。調子に乗ることが分かってるから。
「いらっしゃいませー。…ん?お客様の入店はもうしばらく後になるんですけど…」
「すみませーん。出演者に知り合いがいるのでその差し入れをと思いまして」
「あー、そういうことならいいよー。ちなみにどのバンドか聞いていいかな?」
(一気にフランクになったな…)
「ポピパとRoseliaです」
「そうなんだ。えと、これが店の地図になって、ポピパちゃんはここで、Roseliaはここだよ」
「ありがとうございます☆」
「リハーサルとかするだろうし、長居はしないであげてね〜」
「はーい!」
(……んん!?今の2人ってもしかして!?)
教えてもらった部屋の場所を覚え、先にポピパの部屋へと向かう。扉に「Poppin'Party」と紙が貼ってあるし、ここで間違いないな。扉をノックすると中から元気な返事が聞こえ、すぐに勢いよく扉が開けられた。
「…雄弥大丈夫?」
「…なんとか」
「わわっ!ごめんなさい!」
「だからいっつも勢いよく扉開けるなって言ってるだろ!」
「だってぇー、お客さんが来てくれたって思うと嬉しくて…」
「それで怪我させたら元も子もねぇだろ!」
「香澄ちゃんも有咲ちゃんも落ち着いて…。お客さんが来てるんだよ?」
「あ、そうだった!ホントにごめんなさい!」
「いいよ、怪我したわけでもないし。悪気がなかったのもわかったし」
「ホントですか!?やったー☆有咲!許してもらえるって!」
「その言い方だとアタシがやったみたいになるじゃねぇか!」
「初めまして花園たえです」
「何自己紹介始めてんだ!」
「とりあえず中に入ってもらったら?」
「そうだよ有咲。お客様に立たせっぱなしなのは失礼だよ」
「このっ、〜〜っ!!」
なるほど、沙綾がこのバンドを好きになるのがよくわかる。こんなに明るいところだと、嫌なことなんてすぐに吹き飛ばしてくれそうだしな。
中に入れさせてもらい、用意してもらった椅子に結花と並んで座る。沙綾が驚いてたんだが、俺たちだとわかってなかったのか…。
「お2人は私たちのファンですか!?」
「質問がおかしいだろ!こういう時は自己紹介からだろ!」
「あ、そっか〜」
「チョココロネって美味しいですよね…」
「りみ!なんの話してるんだ!」
「沙綾とはどういう関係ですか?」
「おたえも変なこと聞くな!……って、え?」
「「ええ!?」」
「?みんなどうしたの?」
「どうしたのって…おたえお前何言って」
「え?だって沙綾の知り合いの人でしょ?」
「そ、そうなのか?」
「あははー、…うん。そうだよ」
「もしかして彼氏さん!?」
「香澄!目を輝かせるな!」
あの子、さっきから1人でツッコミしてるけど、タフだな。香澄って子とおたえ(たえって言ってたからあだ名かな?)がボケ側だし、りみはマイペースになると手に負えないんだけど、ちゃんと相手してるの凄いな。
「あはは、残念だけど彼氏じゃないよ。この人はうちの手伝いしてくれてる、藤森雄弥さん。お隣がそのお姉さんの結花さん」
「よろしくね〜♪香澄ちゃんとは会ったことあるよね〜」
「あ!覚えててくれたんですか!ありがとうございます!」
「どういたしまして〜」
「香澄ちゃん。いつ知り合ったの?」
「うーん、結花さんが沙綾と一緒に登校してて、その時かな」
「よくそこに入れたな…」
「えー?結花さんいい人だよ?私たちと同じ花女だし」
「え?そうなんですか?」
「うん。2年A組だよ」
あ、女子トークが始まった。こうなると俺は会話に混ざれないし、傍観に徹するか。そう思ってると沙綾と目が合い、アイコンタクトで外に出ようと誘われた。ここにいても話に混ざれないし、もちろん承諾した。
「結花、ちょっと外に出てくる」
「うん。行ってらっしゃい。あ、ついでに飲み物買っといてー」
「炭酸か?」
「よくわかってるね〜」
「じゃ、行ってくる」
「香澄、私もちょっと出てくるね」
「ならわたしも!」
「香澄、ダメだよ」
「えーなんでー?」
「私は香澄と話したい」
「わかったー!わたしもおたえと話すの楽しいし!」
…へー?あの子、ただの天然かと思ってたけど、意外と凄い子なのか?…あ、でも香澄が単純っていうのもあるのか。ま、なんでもいいや。
先に部屋から出ておき、後から出てきた沙綾と一緒にスタジオの外に出る。ちょっとしたカフェもあるから、そこで飲み物を買って椅子に座る。
「悪いな沙綾。気を使ってもらって」
「いえいえ、雄弥さんとこうして過ごすのも楽しいので♪」
「そう言ってもらえると気が楽だよ」
「ふふっ、どういたしまして?」
「なんで疑問形なんだよ…」
「なんとなくですよ♪」
両肘をテーブルにつき、両手の上に顎を乗せ、笑顔でほんとに楽しそうにしてる沙綾を見てると、こっちも気持ちが明るくなる。気が沈んでたってわけじゃないんだがな。紗夜と向き合うとは決めたが、会ってどう話すかがまったく分からない。そこが引っかかっているんだ。
「……雄弥さん、何か悩みごとですか?」
「ぇ…」
「分かりますよ?雄弥さんが私を見てくれてるのと同じだけ、私も雄弥さんを見てるんですから」
「ははっ、短い期間なんだけどな」
「そこは私の実力ってことですかね?お姉ちゃんだから細かいところまで見るようにしてるんです」
「そうなのか。…立派だな」
「ありがとうございます♪…それで、話してくれますか?」
「……沙綾はさ、約束を破った相手と会うときってどうする?もちろん謝るってのは決めてるんだが、…なんか一歩踏み出せなくてさ」
誰とのことかは伏せさせてもらうとしよう。流石にそこは、な。言葉にしてみると何やらチンケな悩みな気がしてきたが、俺からしたらそうでもないんだよな。
肘をつくのをやめた沙綾は、目を瞑り背もたれに体を預けた。沙綾なりに真剣に受け止めてくれてるようだ。
「……気持ちはなんとなく分かりますよ。…私も仲間を…友達を……裏切ったことがありますから」
「……え?……沙綾…が?」
「えへへ…、詳細は今は伏せさせてもらいますけど、…気まずくて話すことなんてできませんでした。でも、香澄がそれじゃ駄目だって…、お互いの気持ちをぶつけなきゃ駄目だって。たしかに怖かったですよ。絶対に嫌われてるって、恨まれてるって思ってましたから。でも…結局は怖がってちゃ何も分からないんですよ。勇気を持って、例え傷つくのだとしても、向き合うと決めたのなら……ってすみません。私なんかが雄弥さんに、こんな…」
「いや、いいよ。…ありがとう沙綾。…沙綾は強いな」
「そんなことないですよ。私はみんなが背中を押してくれたから、それで向き合えたんです。…なんなら私が雄弥さんの背中を押してあげますよ?…なんて…えへへ」
「十分だよ。もう十分沙綾には背中を押してもらってる。…本当にありがとう」
「ーーっ。その笑顔はズルいです」
なぜか頬を赤くして目をそらす沙綾を不思議に思いつつ、そろそろ戻るべき時間になっていることに気づいた。急いで結花に頼まれた飲み物を買って、沙綾と一緒に控室へと戻り、結花に飲み物を渡した。どうやらリハーサルはしないらしく、ライブを楽しむために今から精神面を調整するらしい。……さっきまでと何か変わったのか?
「結花…紗夜には最後に会うよ」
「…そっか。なら、差し入れもライブの後だね」
「ごめんな」
「ううん。逃げないってことはわかってるから。タイミングは任せるよ。…私も何か手伝ってあげれたらいいけど」
「大丈夫だ。結花が側にいてくれるだけでも心強いから」
「ならよかった」
ポピパのライブはもちろん、その後の他のバンドのもいくつか見るとしよう。そして、Roseliaのライブも。
紗夜に会う時間は刻々と迫っている。もう逃げたりはしない。俺は傷つけてしまった人に、ある意味日菜以上に傷を追わせてしまった人に、正面から向き合う。
ちょっとね、ゲームしたいので、そっちが終わったら次のを執筆します。どれぐらいかは分かりませんが、お待ちください!m(_ _)m