「…リサがあそこまで言うなんて、珍しいこともあるものね」
「あ、あはは〜。…まぁ他人事ってわけでもないしさ」
「……そう」
「日菜のことはとりあえずパスパレに任せるしかないかな」
「ヒナちんのこと、あこ達は追いかけなくていいんですか?」
「そうした方がよかったかもだけど、そこは半々だし。なにより、もうすぐ雄弥がここに来るしね」
「え!?雄弥くん来るの!?」
「うん。強引な手だけど場のセッティングをしとこうと思って。紗夜が話をするって言うから、丁度いいかなって思ったんだけど…」
「さすがに……望みすぎかと…」
「だよね。あはは……いつも詰めが甘いって雄弥に言われてるんだけどね」
そっか。雄弥がここに来るんだ…。なんか複雑だなぁ。雄弥の過去を知れてよかったとは思うけど、それで余計に雄弥に負い目を感じてるわけだし。
私のその気持ちを察したのかは知らないけど、友希那が話題を変えてくれた。この喫茶店の話になったんだけど、友希那だけじゃなくてみんな思ってることだよね。ここ、店員さんがすっごい特徴的というか個性的だからね。
「ここはね。私たちAugenblickのリーダー、秋宮疾斗のお祖父ちゃんが経営してる喫茶店なんだよ。来るもの拒まずって感じで採用してたら個性的な人が集まったんだって〜」
「生徒会長の…」
「彼も個性的というか、大物だものね。妙に納得できるわ」
「はい。生徒会同士の交流があるので面識はありますが、言動の軽さとは裏腹に物事をよく見てる人ですからね」
「ちなみに疾斗の担当楽器はギターだからね」
「そうなのですか!?それは知りませんでしたね」
「結花さん!ドラムはどんな人が担当してたんですか!」
あこってばグイグイ聞くねぇ。まぁ結花がボーカルで雄弥がベース、そして生徒会長がギターって分かったら、流れで聞きたくなるのも分かるけどさ。いつも静止役になってる燐子もどうやら興味あるみたいだし。
「ドラムはね、梶大輝ってのが担当してたよ〜。熱血タイプで暑苦しいとこがあるんだけど、一番バンドのことを考えてて、ムードメーカーなんだよね〜」
「へ〜!」
「梶……大輝…?…あれ?」
「どうしたの?沙綾」
「あ、いえ。…たしか香澄の従兄弟がそんな名前だったなって思って。記憶違いかもしれないですけど」
「あー、それで合ってるよ。…というかあの二人って付き合ってるんじゃないの?」
「え?」
「え?」
「戸山さん……彼氏がいたの?」
「いやいやいや!あの香澄に彼氏って!」
「沙綾、心当たりないの?香澄って分かりやすいと思うんだけど」
「心当たりなんて……」
『沙綾聞いて〜、大ちゃんがねー!』
『この前大ちゃんと買い物行ったんだ〜!』
『大ちゃんがプレゼントくれたんだよ!』
『二人で出かけたらデートじゃないの?』
「……あ」
「案外わからないものなのね」
そっかぁ〜、あの香澄に彼氏か〜。でも聞いた限りだとなんとも香澄に合った彼氏だよね。一途なのは間違いないだろうし、何かあったら絶対駆けつけてくれるだろうし、駄目なことは本気で叱ったりしそう。
「あの…キーボードの方は……」
「ああ、そうだったそうだった」
「もしかして……毛利愁くん…だったり…しますか?」
「合ってるよ。あれ?前に言ったっけ?」
「いえ…わたしが…知る限りだと……彼が…ありえそうだな……って」
「"埋もれた天才"…だったかしら?賞に興味がないからコンテストに出なかった人よね」
「はい。……何度か…会ったことは……あったので、…彼が出てたら……わたしは…賞を……取ってないです」
「そんなに凄いの!?あこ、りんりんのが一番だと思ってるよ?」
「ありがとう…あこちゃん。でも…毛利くんは……本当に…すごい、よ?…いろいろ…教えてもらった…から」
「へ〜、燐子の先生でもあったってことなんだね!それにしても…Augenblickと関わりある人が、アタシらの周りに結構いるんだね〜」
「まぁね。地元での集まりだったから」
「雄弥くんも言ってましたね。同じ事務所のメンバーで固めたって」
家がそこまで離れてなかったら集まりやすいし、絆を深めやすいから…なのかな。別に離れてても、関係なく仲良くなれると思うけど…。まぁでも、中学生で同じ事務所ってなったら自然と住んでる場所も近くなるか。
アタシたちが結花からバンドの話を聞き始めて10分くらいかな。待ち人である雄弥が喫茶店にたどり着いた。…さすがにお墓参りの後じゃ、いつもと雰囲気が違っても仕方ないよね。
「?席が余りまくってないか?」
「パスパレも来てたからね〜」
「…そうなのか」
「ちょっとバタバタがあってね。あとで連絡が来るはずだよ」
「なるほど。それで、俺を呼んだのに帰るわけにはいかない、ってことで待っててくれたわけか」
「うん。
「他の理由?」
他の理由って何か言ってたっけ?そう思って他の子を見回したけど、やっぱり誰も知らないようだった。みんなと顔を見合わせては首を傾げていると、いつの間にか結花と沙綾と紗夜がいなくなってた。…って紗夜はさっき目を合わせてたのに!どうやってそんなすぐにいなくなれたの!?
「雄弥、3人は?」
「さぁ。ここに残っててって言われただけだから、よくわからん」
「……悪いけど、私も少し席を外すわね」
「え?友希那?」
「あこ、燐子。少し付き合いなさい」
「…わかり…ました」
「え?え?どういうこと?」
「あこちゃん…あとで……説明…するね」
「そういうことなら…」
あからさまにアタシと雄弥の2人だけって状態を作られたんだけど!?燐子は察する側の人なのは分かるけどさ、まさか友希那までそういうのがわかるなんて思ってなかったよ…。
「今日の集まりはなんだったんだ?」
「あれ?雄弥は内容知らされてなかったの?」
「まぁな。大事な話があるから、お墓参りに行けないって結花に言われただけだ」
「…そっか。………全部聞いたよ」
「…結花が話したのか」
「半分はね。学校でのことは紗夜が、その後のことは結花が話してくれたよ。紗夜はね…、日菜と向き合うためにも話さないといけないって考えたんだよ」
紗夜の予定じゃ友希那と燐子とあこは、この場に呼ばないことになってたみたい。雄弥と関わりが深い人たちと、ヒナをこの場に連れてくるために協力してくれたパスパレメンバーにだけ話すつもりだったみたい。でも、結花が3人を呼んだらしくて、『Roseliaの竿隊が来るなら、他のメンバーも呼ぶべきだよ』って。
そういった事情も含めて雄弥に今日のことを話した。そして最後にはアタシが追及しすぎたせいでヒナが飛び出しちゃって、それをパスパレが追いかけてることも。
「それでパスパレがいなくなってたのか。……そうか」
「…ねぇ。今
「…ぇ」
「アタシのこの気持ちに区切りをつけさせて」
「…それ……は」
「雄弥の過去を聞いて分かったよ。今も紗夜とヒナのことが好きなんだなって。……アタシじゃ………アタシじゃあ……ダメ…なんだよね?」
顔を伏せた雄弥の頬を両手で挟み込んで、その目を覗きこんだ。…なんて顔しちゃってるの。そんなに目に涙ためちゃってさ。
大人っぽくて、他の男子とは明らかに違う雰囲気があるのに、こういう所は凄い子供っぽい。アタシができるだけ優しく笑ってあげたら、強く抱きしめられた。とても力強いのに、優しい。けど、その腕は、体は震えてて、耳元で何回も弱々しく謝られた。
「…もぅ、そんなんじゃあヒナと仲直りできないよ?紗夜とも話し直さなきゃいけないんでしょ?」
「…うん……うん…」
「アタシだって悲しいんだけどなぁ…」
「ごめん……ごめん…!おれ…は……リサ…を……リサ…と…離れ…たくない……でも……」
「……!…そっか。…でもダメだよ。アタシは独占欲強いし、…嫉妬深いからさ。…アタシだけ…じゃないとイヤなんだ」
「うん…わかっ…てる。……一緒にいて、いっぱい話して…分かったから」
「ねぇ雄弥。アタシはさ、別にいなくなるわけじゃないんだよ?フラレたからって距離を置いたりしない。今までと同じで、雄弥の側にいるからさ」
「り…さ……」
「だからさ、そんな顔しないで?好きな人が悲しんでるとこは、見たくないなー」
「…あぁ……」
ちょっと口調が戻ってきたかな。まだ本調子じゃなさそうだけど、そこは時間で解決するだろうし。……でも、
──いっそずっとこのままでいいのに…
「リサ!雄弥!大変なこと…に………ごめんなさい。出直してくるわ」
「〜〜!!?ぷはっ、はぁはぁ、まって…友希那!…はぁ…気まずいから!」
「それはこっちのセリフよ。どれぐらい時間空ければいいかしら?」
「空けなくていいから!」
「そう?」
「大変なことってなんだ?」
「なんであなたは平然としてるのよ…。…いけない、今はそんなこと言ってる暇はないわね」
「さっき時間空けるとか言ってたじゃん…」
「そんなこと忘れたわ」
「えぇー」
「日菜が飛び出して行ったでしょ?」
「う、うん。彩たちがすぐに追いかけてくれたでしょ?」
「見失ったそうよ」
「……ぇ?」
「……」
「一度は捕まえたらしいの。それで5人で話をしてたみたいなのだけど、目を離した途端にいなくなったみたい。捕まえた時に結花に連絡が来て、それで紗夜が迎えに行こうとしたのだけど…」
「…それを避けちゃったんだ」
「……まだ整理できてないってことか」
雄弥が今度こそ本調子になったみたいだね。ヒナのことを聞いた途端に…。やっぱりそれだけヒナのことが大切なんだね。なら、しっかり背中を押してあげなきゃね!
「雄弥が行かなきゃ」
「え…?」
「ヒナのこと、放っておけないでしょ?雄弥が行かないとダメだよ」
「だが…俺は…」
「しっかりして!雄弥の気持ちは変わってないんでしょ!?逃げるのはやめなよ。向き合いなよ!紗夜もそのために今日この場を用意して!辛い記憶を思い出して全部話したんだよ!?ヒナにコンプレックス抱いてて、ヒナに嫌われるかもしれないって怖さもあったのに、それでも全部包み隠さずに話した!そんな紗夜が好きになった雄弥は、アタシが好きになった雄弥は、ここで足踏みするような人じゃないでしょ!」
「!!」
「ヒナを探しに行って。ヒナを見つけて、向き合って、仲直りして、全部片付けて帰ってきて!!」
「…リサ、…そうだな。ありがとう。必ず全部解決させて帰ってくるよ」
「うん♪」
決意に満ちた顔、力強い目をした雄弥は、いつもの笑顔で喫茶店を飛び出して行った。大切な人を迎えに行くために。
…これでよかったんだ。
……これでよかったんだよ。
アタシの気持ちは全部ぶつけた。
もう思い残すことなんてないんだから。
「リサ」
「ゆきな…?」
「
「ゆき…な……ゆきなぁぁ…」
「我慢しなくていいわ。私が受け止めるから」
「アタシ…あたし!……やっぱり…くやしいよぉ!」
「…ええ。そうよね」
〜〜〜〜〜
「あ、雄弥さん!」
「…やっと向き合う覚悟ができたみたいだね」
「沙綾、結花。…あぁ、おかげさまでな。……リサにも背中を押されたし」
「……そっか」
私にはそっちはどうしようもないから、友希那に任せるしかないね。…いや、そもそも「私が」なんておこがましいか。リサのことを一番分かってるのは、他でもない友希那なんだから。
「それで、日菜を見失ったってのはどれぐらい前のことだ?」
「だいたい15分前くらいかな」
「…なるほど」
「あの……雄弥さん」
「どうかしたか?」
「えっと……うまく言えないんですけど……雄弥さんなら、大丈夫だと思います」
「ははっ、ありがとう」
「あと…それと…」
「ん?…んんっ!?」
「わぉ、沙綾ってば大胆だね☆」
「…えへへ、頑張ってね
「あ、あぁ。…行ってくる!」
「「行ってらっしゃい」」
沙綾が雄弥を赤面させるなんて、これは珍しいのを見たな〜。もう見れない気もするけど、バッチリとコッソリ携帯で撮ってあるから、弄るときに使おうっと♪
「…結花ちゃん…」
「あ、バレた?」
「…バッチリ…。あとで、山吹さんに…送ってあげなよ?」
「そうだね!」
「ねぇねぇ結花さん」
「なぁにー?あこちゃん」
「雄弥さんってリサ姉のこと、好きなの?」
「あ、あこちゃん……!」
この子はぶち込んでくるねぇ〜。沙綾は……離れたとこにいて雄弥の姿が見えなくなるまで見送ってるし、手短に済ませたら大丈夫かな。
「…好きだっただろうね」
「…え?」
「じゃあ両想い?」
「そうだったんだろうね〜。でも、雄弥はそれに応えれなかったし、リサも自分一人じゃないことに耐えれないだろうから、くっつかないんだよ。紗夜と日菜に出会ってなかったら、確実だっただろうね〜」
「なんで……言い切れるの?」
「だって、母さんとリサの人柄が一緒だから」
「え?どういうことですか?」
「男の子は…お母さんに似た人に……惹かれやすい…。女の子なら…その逆が多い。……そんな話が…あるんだよ」
「あ、そういうことなんだー!」
「…あこちゃん。ちょっと…飲み物…買いに行こ」
「いいよー!」
燐子があこちゃんを連れて離れていくと、今度は沙綾が戻ってきた。燐子は周りのことをよく見てるし、気を使える人だよね。…わりと優良物件なんじゃ。あーあ、私が男なら燐子は放っておかないな〜。
「結花…さん」
「どうしたの?…!……分かったんだね?」
「…はい。……私…雄弥さんが好きだったん…ですよね。…こんなの、初めてなのに…凄い嬉しかったのに………今は凄い…悲しいです」
「そうだね。…お姉ちゃんの胸に飛び込んでおいで」
「ぁ…ぁぁ……うわぁぁぁん」
(2人同時にフッタんだから、失敗したら許さないよ?雄弥)
雄弥は新たなステータス"マザコン"を手に入れた!
失礼しました。ふざけないと僕自身が持たないもので…。