もう一度輝くために   作:粗茶Returnees

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いつもよりちょっと短めですが、キリがいいので投稿します!


26話

 丸山さんから連絡があったから、彼女たちがいる場所に向かうことにした。日菜と話し直さないといけないから。日菜が"嫌い"という感情を覚えてしまったのは、あの日が原因なのは明白なこと。日菜が雄弥くんと決めた天体観測の予定が急に無くなっただけなら、きっとまだ日菜は自分を抑えれた。だから、日菜が雄弥くんと交したという別の約束(・・・・)、それがきっと火種となってしまった。

 雄弥くんとずっと一緒にいる結花でさえ知らないその約束は、もちろん私も知らない。だけど、その約束があったがために日菜は傷ついてしまった。

 

 

『ごめん紗夜ちゃん!目を離したら日菜ちゃんがいなくなっちゃった!』

 

 

 頭の中を整理しつつ、日菜と実際に会ったら何を話すべきなのかを考えている時だった。丸山さんからの電話でそのことを知ったのは。

 

 

『完全に見失っちゃったから、手分けして探すね!』

 

「わかりました。あの子が行きそうな所をあたりますね」

 

『うん。ホントにごめんね!』

 

「いえ。元はといえば私が強引に今日という日を用意してしまいましたから。丸山さんたちもどうかお気をつけて」

 

『うん!何か分かったら連絡するね!』

 

 

 通話を切って思考を切り替える。あの子と話すことよりも、今はあの子を見つけ出すことに思考を集中させなくてはいけないから。日菜と双子だというのに、私は日菜のことを全然分かっていない。さっきああ言ったものの、日菜が行きそうな所なんて思いつかない。

 

 

「…立ち止まっていても仕方ないわね。丸山さんたちがいた場所を基点にして、場所を絞って当たるしかないわ」

 

 

 猫のように自由で、何も予定が無いときは気の向くままに動く子。そんな日菜はこういう時いったいどこに行くのかしら。思い返せば、日菜がこんな行動に出るのも初めてだわ。どこか落ち着ける所、かつ一人でいられる所。そう分析して携帯の地図機能を動かす。候補を絞り込んで手当たりしだいに行くしかない。

 

 

「あまり遠くには行ってほしくないものね…」

 

 

 元々行動力の塊といえるあの子が、誰にも見つからない場所を求めてしまうと、とうとう私たちだけの捜索の限界を超えてしまう。そうしたら警察に捜索願いを出さないといけない。できればそんなことはしたくない。警察のお世話になるような事態に巻き込まれるのは、2年前のあの時だけで十分なのだから。

 

 

「ここには……いないわね。…次」

 

 

 七夕祭りの時に、カササギを追いかけたらたどり着いた公園。昔は日菜と雄弥くんと結花と私の4人でよく遊んでた場所。ブランコを高く漕ぎすぎて落下した日菜を雄弥くんが受け止めようとして下敷きになったこともあったわね。それなのに高所恐怖症にならないあたり、あの子は恐れ知らずね。

 

 

「はぁはぁ…ここも……いない…」

 

 

 大きな池がある公園。水上ボートがあって、誰が雄弥くんの隣に座るかで取り合ったわね。あの時は結花の誕生日が近いということもあって、雄弥くんが結花を指名したのよね。雄弥くんの隣じゃないからって楽しめないような性格じゃないし、日菜と一緒に雄弥くんたちが何を話してるかを当てようなんて遊びになったわね。

 

 

「……ここも……ちがうの?……日菜…どこなの?」

 

 

 雄弥くんが行きたいと言って来た場所。そこまで広くないにも拘わらず、視界を埋め尽くすようにコスモスが咲く場所。摘んでいい場所といけない場所があって、雄弥くんが摘んだコスモスを使って冠を3人分作ってくれたのよね。

 太陽はもうほとんど地平線に沈んでしまっている。西がまだ若干明るいだけで、空はもうほぼ夜空が広がってしまった。…丸山さん達にはもう帰ってもらわないと。夜遅くまで付き合わせるわけにはいかないし、何よりも日菜も含めて彼女たちはアイドルなのだから。身を危険に晒すようなことをさせてはいけない。電話をしてそのことを伝えたら、当然反発された。彼女たちも分担して探してくれていて、情報まで集めようとしてくれていたらしい。日菜の失踪はアイドルの失踪。文字通り身を削る行動だというのに…。

 

 

『日菜ちゃんは私達の大切な仲間だから!友達だから!だから見つかるまで探すよ!』

 

「…ですが……」

 

『紗夜ちゃんも思い当たる場所に行って、それでもいなかったんでしょ?時間もだけど、候補が無いから電話してきたんでしょ?一人で探すより、協力して探したほうがいいに決まってるよ!』

 

「そこまで…どうして…」

 

『さっき言ったのもあるけど、だって紗夜ちゃんも友達だもん!友達を助けるのは当たり前だよ!』

 

「!!」

 

『だから、私達にも協力させて。最後まで付き合わさせて?』

 

「彩たちには帰ってもらおう」

 

『え?』

 

「…雄弥…くん?」

 

 

 突然のことに固まってしまったけど、息を切らせながらも私の前に立っているのは、間違いなく雄弥くんだ。きっと結花から聞いたのだろうけど、それでもどうやってここが分かったのかしら。私みたいに一つ一つ当たっていったら合流したということかしら。

 

 

「やっぱ紗夜は(・・・)ここにいたか」

 

「私は…?どういうこと?」

 

「それは後で。紗夜、スピーカーに変えてくれ。…彩聞こえるか?」

 

『う、うん。聞こえてるよ。私たちには帰ってもらうってどういうこと?』

 

「日菜の居場所なら分かってる(・・・・・)

 

「『え!?』」

 

「確信があるから、だから任せてくれないか?全て解決してみせるから」

 

『…でも…』

 

「頼む」

 

『……わかったよ。ぜーーーったいに!日菜ちゃんを連れて帰ってきてね!』

 

「ああ」

 

『千聖ちゃん達には私から伝えとくね!それじゃあ、連絡待ってるから!』

 

「ありがとう彩」

 

 

 通話が終わったところで私は、携帯電話をポケットに仕舞い込んだ。丸山さんに断言してたけど、雄弥くんはなぜ日菜の居場所が分かるのかしら。ある方向を向いてるということは、そっちにいるんでしょうけど、私にはそれがどこか詳細が分からなかった。そして悔しかった。姉だというのに、日菜と一番長い時間を過ごしているというのに、日菜の行動が分からないことが。一度離れた雄弥くんが、日菜のことを今でも理解できていることが。

 雄弥くんに…そして…日菜にも嫉妬してるのね、私。

 

 

「紗夜?どうしたんだ暗い顔して」

 

「……雄弥くんは、私のことを本当に好きでいてくれてるの?」

 

「当たり前だろ」

 

「本当に?」

 

「…紗夜?」

 

「不安なのよ…。神木くんに言われたことを思い出して…、私は日菜の姉だから、いつも一緒だったからそれで好きでいてくれているのかもって。私はついでなんじゃないかって!」

 

「そんなことない!」

 

「だったら証明してみせてよ!日菜に向ける笑顔と私に向ける笑顔が異なるのは何故なのか!納得いく説明をしてみせて!あの日あなたはたしかに否定してくれた!愛してると言ってくれた!でも…あの事件があったとはいえ……いなくなったじゃない!伝える余裕がその時には無かったということは結花の説明で理解したわ!でも……だったら…回復した時に…連絡してくれても良かったじゃない…」

 

「紗夜…」

 

 

 雄弥くんを責めるように服を強く握りしめながらも、縋るようにその胸に顔をうずめた。不安を取り除いてほしい。私が雄弥くんに愛されているという実感がほしい。情けなんかじゃないと証明してほしい。

 

 

「…屁理屈に聞こえるかもしれない。言い訳にしか聞こえないかもしれない。…でも、本当に紗夜のことが好きなんだ。ついでなんかじゃない。情けなんかじゃない。俺は氷川日菜の姉が好きなんじゃない。氷川紗夜という一人の女の子が好きなんだ」

 

「…ぁ」

 

「向ける笑顔が違うと言われても仕方ないな。だって、日菜は日菜で紗夜は紗夜なんだから。同じ笑顔だったら、それこそ情けみたいじゃないか。というかな、紗夜といる時が自然な笑顔だぞ?日菜の笑顔ってさ、凄い無邪気だろ?その相乗効果というか…まぁそんな感じでいつも以上になるんだよ」

 

「……ふふっ、たしかに屁理屈じみてるわね」

 

「だろ?だからさ…紗夜」

 

「なにかしら?」

 

「これから先も何度も紗夜を不安にさせるかもしれないし、悲しませるかもしれない。俺は紗夜だけを愛せるわけじゃない底辺の人間だけど、それでも紗夜のことを愛してる。ずっとこれからを共に行きたい。歩んでいきたい。だから…こんな俺でもよかったら…俺と付き合ってくれないか?」

 

「…っ!……ばか。…私だって雄弥くんを愛してる。誰にも…それこそ結花にも日菜にも負けないと自負してる。だから…柔軟に生きれない私だけど、そんな私でよければ喜んで」

 

 

 言葉もなく、どちらからでもなく、距離をゼロにした。強く握っていた手は体に添えるように、空をきっていた手は私の背中に回された。彼の温もりを感じ、彼の全てを受け止めるように、彼ともう離れないように、求めるように。

 彼との隔たりも確執もなくなり、元の距離感よりもさらに近いものとなれた。いつからかは覚えていない。幼少の記憶の時から彼とは一緒に過ごしていた。それが当たり前だった。だから、いつ、どういう時に雄弥くんを好きになったのかは分からない。気づいたときには好きになっていて、自覚してからはどうしょうもないぐらい彼に惹かれ続けた。いつもは気にしていない彼の仕草も、言動も、一つ一つが愛おしくなっていたんだ。

 

 

──あぁ、そうだったわね。私はずっとこうなりたかったんだわ。

 

 

 

「あ、紗夜は家で待っていてくれ」

 

「何言ってるのよ。私も行くに決まってるじゃない」

 

「ダメだ。もう暗くなってる」

 

「もう子どもじゃないわ」

 

「そう言ってるうちは子どもらしいぞ?」

 

「……はぁ。…わかったわよ。日菜を家に連れて帰って来てくれるって信じてるわよ?」

 

「ああ、任せろ」

 

 

 惚れた弱み…なんて言うのかしらね。好きな人に真っ直ぐ見つめられて言われたら頷いてしまうのわ。…でも、心地いいわね。彼のことを好いているのだって自覚できるから。

 

 

「あ、結花たちにも帰っとくように言っといて」

 

「彼女たちはまだ帰らせてなかったの?」

 

「うん」

 

「まったく…。仕方ないわね」

 

「はは、ありがと!」

 

「結花の説教が待ってるわよ」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

「…あは…あははは…、なんであたし、…よりによってここに(・・・)来ちゃったんだろ」

 

 

──これも因果ってやつなのかな。

 

 

──でも

 

 

──ここなら絶対に誰も来れないよね。

 

 


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