お姉ちゃんと結花ちゃんから、2年前の真相をすべて聞かされた。あたしは子どもだったんだね。仕方ないこととはいえ、ユウくんに約束を破られたということだけを重く、大きく捉えた。その結果自分の気持ちが分からなくなって、胸の中がモヤモヤし始めて、気付いたときにはドロドロになってた。完全な逆恨みなのにね。
「……あの時って、なんで天体観測しようと思ったんだっけ」
4人で遊ぶことが減ったから、というのもあったんだけど、それ以上の理由があったはずなんだ。たしか、同じクラスの子の会話が聞こえたからだっけ?
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「るんる〜ん♪」
あたしが珍しく先生の手伝いをした。結花ちゃんの手伝いとか、お姉ちゃんの手伝いとかならするし、ユウくんが何かしてたら走って手伝いに行く。だけどそれ以外の人の手伝いなんてほとんどしない。あ、お父さんとお母さんは別だよ?
ともかく、あたしが手伝いをするなんて珍しいことで、先生もビックリしてた。でも「助かった。ありがとう」って言ってもらったし、ユウくんに話したらきっと褒めてくれるよね!それが楽しみでユウくんを探した。日直らしいから、教室か職員室のどっちかだよね!そんな時だった。いつも気にしないのに、気になる内容の話し声が聞こえてきたのは。
──藤森くんってホントに日菜ちゃんのこと好きなのかな?だって、あれだけ仲いいのに付き合ってないんでしょ?
あたしの胸がキューってなるには十分過ぎる言葉だった。こんなの聞こえなかったらよかったのに、ユウくんの名前が聞こえたから気になって聞いちゃった。あたしはそれで揺らいじゃった。
(ユウくんが一緒にいてくれるのって、もしかして
そんなことないと思いたかった。ユウくんに好かれていると思ってたし、好かれていたいって願望もあったから。よくわからなくなって、とりあえずユウくんに会おうって思った。会えばわかるから。だからユウくんを探すのを再開した。教室にいなかったから職員室だろうと思って、ユウくんが通るであろう道を通った。
「ユーウーくん!」
「うおっ!…日菜、飛びつくのやめてくれって言ってるだろ」
「えー。これがあたし達じゃん?」
「どういうことだ…」
「それよりさ!ユウくん今日の夜は予定空いてたよね!」
「夜?そりゃあ予定空いてるけど」
「やった!じゃあ決まりだね!」
「何がだ」
「何って、そりゃあ天体観測に決まってるじゃん!」
話してみても、やっぱりいつも通りだった。あたしが好きな表情で笑ってくれる。呆れた様子を見せながらも付き合ってくれる。今もこうやって優しく頭を撫でてくれて、るんっ♪てさせてくれる。けど、さっき聞いた言葉が脳裏をよぎって、胸がモヤモヤってなった。
ユウくんは教室に戻るみたいで、お姉ちゃんに話しといてくれるみたい。だからあたしが結花ちゃんに話すことにした。家が近いからね!結花ちゃんに話したけど、結花ちゃんは今晩来れないらしかった。次のレコーディングのために練習しないといけないんだって。ざーんねん…。
あたしは、3人でもいいから天体観測をしようって思った。天体観測をして、その時にユウくんに告白しようって思ってたから。確かめるならこれが手っ取り早いもんね。ユウくんが好きでいてくれてるなら、断られることなんてないから。もちろん断られないと思ってたけど、ちょっと不安もあった。ドキドキしながら天体観測の準備をして、あたしは1人で先にセッティングしといた。ユウくん達は場所を知らないから迎えに行かないとだけど、先にセッティングしてたほうがいっぱい楽しめるから。
──でも、ユウくんは来なかった。連絡の一つもなく。
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「たしかこんな感じだったね…」
ユウくんに裏切られたって思った。クラスの子が言った通り、あたしのことが好きだったわけじゃないんだって。その後寝込んだんだよね。周りのことすべてをシャットアウトして、泣いて泣いて泣いて泣いて……。その悲しみはいつの間にか怒りに変わってて…、ホントに理不尽な話だよね。ユウくんは悪くないのに。勝手にあたしが1人で踊り狂って、好きな人を恨んだって話なんだから。理不尽で滑稽だよ。
でも、リサちーの言われたのも当たってる。あたしはユウくんが好きって気持ちも持ってる。でも、嫌いって気持ちもあたしの中にはたしかに存在してて、それが実は自分に向いてるっていうのは、言われて気付いた。
ユウくんたちの家はあたし達の家からすぐそこだったから、警察が来てたのも知ってる。でも、あたしは何も知ろうとしなかった。突然警察がユウくんたちの家に来て、お父さんやお母さんにも話を聞いてたっていうのに、すべてから逃げた。ユウくんたちにスッゴイ大変なことが起きたっていうのは、察していたはずなのに、脳が…、あたしの心がそれを理解することを拒んだ。お姉ちゃんの身に何か起きたことも同じだ。知ることから逃げたんだ。
「…あたし……こんなにダメな人だったんだね。……何もかもから逃げて、周りを振り回して、あたって、怒鳴って……」
──もう、いいや
目の前にある柵に体を傾けていく。せいぜいお腹辺りまでしか高さのない柵だから、このまま傾けていったらどうなるかなんて分かってる。分かってるからこそやってるんだ。
「このバカ!」
「……ぇ」
足が地面から離れ始めたところで、聞こえないはずの声が聞こえて、いないはずの誰かに体を引っ張られた。咄嗟にやったことだからかな、バランスを崩しちゃってみたいで、その人は背中から倒れてあたしはその人を押し倒す形になった。
「ったぁ〜………ぇ……ゆう……くん?」
「まったく、何考えてんだよ。身投げなんてしようとして」
見覚えがある、なんて話じゃない。よく知ってる。どれだけ望んでも忘れられたかった人が今あたしの目の前にいた。どれだけ走ってきたんだろ。肌寒くなってきたこの時期なのに汗をかいてるし、めちゃくちゃ呼吸も乱れてる。
「さすがに肝が冷えたぞ」
「なんで…」
「ん?」
「なんで助けたの!」
「何言ってんだ?」
「あたし、みんなにいっぱい迷惑かけたんだよ!?何も知ろうとしないで、勝手にユウくんが全部悪いんだって決めつけて!なのに……なのになんで助けたの!」
「そりゃあ日菜のことが大切だから」
「っ!……うそだよ」
「嘘じゃない」
「うそだよ!うそ!だって…!」
その先のことは言えなかった。今はもう真実を知っているから、ユウくんが約束を守れなかったのは、仕方のないことだから。頭ではそうわかってる。でも感情はまた別なんだ。
それとは別の理由でも言えなかった。あたしの口にユウくんの口が重ねられたから。拒もうという意思が生まれた。でも、実際には拒むことができなかった。そんな意思は生まれてすぐに消えたから。その代わり、あたしの中で暖かい感情が生まれて、それがいっぱい広がっていった。この感情は初めてじゃない。あたしが見失ってた感情で、前まではずっとこれに満たされてた。
「日菜が言ったんだろ?『ずっと一緒にいよう』って。俺が言えた義理じゃないけど、約束を破ろうとしないでくれ。日菜に死なれたら俺も死にたくなるし、絶対に約束を果たせなくなるじゃないか」
「ぁ……覚えてて……くれたの?」
「忘れたことなんてない。俺は日菜のこと、ずっと好きだったから。あっちにいた時も、戻ってきて日菜に拒まれても、それでも俺はこの約束もこの感情も一ミリたりとも失ったことはないから」
「ゆう……くん。……ユウくん!」
覚えててくれた。ユウくんは忘れてなんてなかった。そのことにるるるんっ♪てなって、離れたユウくんの口を今度はあたしが覆いにいった。ユウくんの首に、頭に手を回して、逃げられないように、あたしのものだと示すように。
「…ひな……」
「えへへ。……あのね、ユウくん。あの日にね、ユウくんに伝えたかったことがあるんだ」
「伝えたかったこと?」
「うん。………ふぅー、……雄弥くん。あなたのことが、誰よりも好きです」
「!……ありがとう日菜。俺も日菜のことが好きだ。もう絶対に日菜の前からいなくならない」
「えへへ〜、…でもね、ユウくん」
「ん?」
「…あたし、この"嫌い"って気持ちが消えそうにないんだ。この気持ちがあたしに向いてるってリサちーに言われて気づいて、…あたし……自分を好きになれそうにないよぉ…」
「日菜…。言葉の綾みたいなもんだが…、リサや薫を始めとした学校のみんなやパスパレのみんな、おじさんやおばさんや紗夜、なにより…俺が好きで仕方がない存在である、氷川日菜を好きになってくれないか?」
「…なにそれ、変わんないよ?」
「捉え方の違いだ。負い目を感じてる自分を好きになれなくても、みんなに好かれてる自分なら好きになれるんじゃないか?」
「わかんない。…そんなのわかんないよ」
「やってみたら分かるさ。すぐにできるとも思ってないし、これから一緒に克服しよう」
あたしのことを優しい目で、それでも真っ直ぐと見つめてくれて…、あたしはそんなユウくんにもたれ掛かるように力を抜いた。ユウくんはあたしのことを抱きしめてくれて、全身がユウくんに包まれたような、そんな感覚に陥った。…こうやってるんるん♪してるあたしなら…たしかに好きになれるかもしれない。そう思った。
これからのことは、それこそこれから分かるしかない。そう結論付けて、あたしはユウくんを信じることにした。ユウくんとなら、やっていける気がして。それに、今度こそ最後まで信じたいから。ユウくんの腕にしがみついて、肩に頭を預けながら家までの道を歩く。今までのことを踏まえたら、随分と調子のいいことをしちゃってる。でも、あたしはこうしたいし、ユウくんもあたしの好きにしてほしいって言ってくれたから。
「ユウくんはさ、なんであの場所にあたしがいるってわかったの?」
「日菜のことならお見通しってことだ。…それに、あそこだろ?2年前にやろうとしてた天体観測の場所って」
「う、うん。すごいね。ほんとにお見通しなんだね。これじゃあユウくんに秘密なんてできないね」
「嫌か?」
「ううん!すっごい嬉しいよ!」
家に帰ったらお姉ちゃんに出迎えられて、お姉ちゃんにギューッて抱きしめられた。お姉ちゃんにそうしてもらえるなんて思ってなかったし、泣いてるお姉ちゃんを見て、あたしは自分がしたことがどれだけ周りに心配をかけたのかわかった。あたしも泣いて、あたしもお姉ちゃんもユウくんに慰めてもらった。パスパレのみんなに連絡したらグループ通話が始まって、いっぱい怒られたしいっぱい泣かれた。リサちーたちにも心配かけちゃった。
その日は、お父さんもお母さんもお礼をしたいって言って、ユウくんは泊まることになった。…それで結花ちゃんから説教を受けてたけどね。明日家に戻ったら結花ちゃんと沙綾ちゃんにこってり怒られるみたい。……あたしも一緒に謝りにいかないとね。
次回が最終回というか、エピローグというか、そんな感じの内容になります。