「アーチャー、温泉よ、温泉!わたしも水着を持ってくるから入りましょ!ギル、この温泉で泳いでもいい?」
「よい、許す。公共の場なら兎も角今のところ貸切なのだから好きにするがいい。ただし節度は守れよ!」
「はーい」
中々の寒さに休息の意味もあって露天風呂を出したのだが、ここまで凛が食いつくとは予想外であった。
軽い足音が過ぎ去っていく。この歳にしては弁えている幼子に節度云々は不要だったかもしれない。だが駄女神のように遣らかすことも大いにあり得る。イシュタルの、と前に付くだけで何事も信用がなくなる。イシュタルの憑代の凛にも言えたことだ。
だが、子守に付きっ切りではやるべきこともできやしない。
結局のところ、そのマスターの事はそのサーヴァントに一任するのが一番だ。
「凛は頼んだぞ。貴様にははしゃぎ過ぎて温泉を壊すなとだけ言っておこう。水着の騎士王は総じて羽目を外している節があるからな」
「む、失礼な。はしゃいでいるとはいえ、節度くらい持ち合わせています。まあ、貴方が金ぴかの方でしたら遠慮なんか知らないとばかりに壊していたかもしれませんが」
「つくづくキャスターの方で良かったな、我。若い我ならこうして横に並ぶことさえしないだろう」
「そうですねえ、カリバるくらいならしたかもしれません。賢王としての第七特異点での様子を見てなければ貴方にも容赦はなかったですね。
カルデアは必ず第七特異点で貴方に会う。私のカルデアでしか発生しない側面であるアーチャーとライダーは少なからず貴方の行いを知っているはずです」
「我が直接縁があるのはカルデアで発生する水着の貴様とサンタとメイドの反転した貴様だ。確実に会ったことになるカルデアの正史の様なもの以外では縁を引っ張ってくるには些か弱いからな。サバフェス様様と言ったところか。
こじ付けで月の聖杯戦争でクラスのない我と正しくセイバーの貴様は呼べるがそっちは触媒で確実に召喚されるから関係がない。
となると結局のところ我の縁を触媒に召喚出来るのはアーチャーとライダーのみ。
だから貴様を二番目のサーヴァントとして召喚し、尚且つ手元に置いておく必要があった。」
「そんな役回りですね、貴方は。
ただの金ピカなら場を引っ掻き回すばかりでしょうに、わざわざ過労の原因を引き受けるとか」
「ふん、気まぐれに近いものではあるが、凛との縁もけして浅いものでもない。
ならば一つくらいは願いの叶う世界線があっても良いだろう。
我自ら動くのは筋が違うが、それが願われたものであるならば報酬としては妥当なところだろう」
既に仕込みは始まっている。これはその第一段階。
平行世界において観測される騎士王の側面は10。
既にキャスター以外のクラスを網羅しているところを見ると、どれだけ増殖したのだと言いたくはなる。
つまりは、キャスターを除いて全てのサーヴァントが騎士王である聖杯戦争も可能であるということだ。
セイバー以外の騎士王ならば正しく英雄に召し上げられた存在であるし、どれもかれも一級の霊基だ。脱落させるにはそれ相応の規模の戦闘が必要となり、騎士王は合理主義的ではありながら、無関係な者を巻き込まないほどの分別はある。
そして、騎士王の宝具は大体がビームだ。サーヴァントユニヴァースの二騎はそれに比べればマシではあるものの目立つものに変わりはない。それによる宝具の使用制限とくれば一騎も脱落させることのない聖杯戦争も些か楽なものとなる。
あとは聖杯戦争の合間にサーヴァントを喚んで幾らか衰えるだろう泥の対象をすればいい。
あとは各自が元の召喚するはずだったクラスの騎士王を呼び寄せるのみ。
キャスターの我がここにいる時点で殺人鬼はあのジル・ド・レェの召喚が出来ず、あとは余った令呪の代わりに宝物庫の令呪を凛に与えて主催者側としてアーチャーの騎士王を喚べば序盤の仕込みは殆ど済む。
聖杯に令呪があると誤認させるのは月の記憶から引っ張ってきた考えであったが、問題なく凛がマスターとなった。時臣も戦力が増えるのだから喜ばしいだろう。
縁の起点として騎士王自身を置くのだから他のサーヴァントも騎士王が十中八九来るに違いなく、保険にまだ◼︎◼︎士郎であった少年との縁も引き寄せる触媒にする。
ここまでして騎士王が来ない道理がない。この聖杯戦争は騎士王ホイホイとして機能する。
後は成り行きに任せていればいい。
一番聖杯に固執するセイバーの騎士王にさえ注視しておけば他は現世を謳歌する適度の気概だ。
「ところで貴様は浮かれた水着のままでいるのか?今は冬だぞ?」
「ええ、そっくりそのまま貴方に返してあげましょう。
普段が水着の霊衣の方より露出が高いひとが何を言っているのです?
それに今から私は凛と露天風呂を楽しむのですから、なんら不思議はないでしょう」
「ええい、鉄砲を構えるな!邪魔などせんわ、たわけ!
稚児趣味であるわけでもなし、そして貴様らは水着!多少見られたところで問題なんぞあるか。
我が足を浸けるくらいは問題あるまい、流石に我とて全裸でそのまま入ろうとはせんわ!」
「むしろしようとしてたら即ブッパしてます。
いえ、そういうことではなく、いや、全裸になったらブッパはしますが。
折角の温泉なのです。
こうして私は水着ですし、凛も水着も持ってくると言っています。
それならば所有者である貴方も入るのは道理というもの。
直ぐに水着にでも着替えるべきでは?」
この騎士王優しすぎでは、と感動する間も無く、
「凛は老人には優しくするものだと言っていました。金が成る木のようなら尚のこと、とも。
さて、老人なのですから逆上せすぎない程度に。
私的にはアイスの入った大福を食べながらの温泉は乙なものだと思うのですが」
如何ですか、とでも言いたげな目は美味しいものしか見えていなかった。