少女徒然   作:しゃち

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ハッピーハロウィン(スキン0)


十一話

理性ある生き物には必ず善心と悪心が宿る──と。情操教育の一環として読まされた小難しい学術書の一節を思い出す。

ならばそれに素直な肯定を示すことができないのは私が私である理由の一つだろう。私達戦術人形は生き物であるか、厳密な定義はさておき、一応理性の類を各々有している。AIは日々学習・進化し、更に私や姉さんをはじめとする彼女謹製の特殊な人形にはより生の感情を再現する為の機関が装備されている。理由は分からないが、とにかく私達は限りなく人間性を再現された兵器なのだ。

では兵器は心を持つのかといえば少なくとも私は首をかしげる。先程は戦術人形の感情について高説垂れたが、言ってしまえばそれらは全て擬似的なモノ。ニセモノだ。

ここで話は当初の話題に回帰する。

あの学術書に神が造り上げた理について寸分違わぬ正解が記されているとすれば、私には善心と悪心があることになる。兵器なのに、ただ主人が命ずるまま敵を撃ち殺せばいいのに、殺しに感情も心も不必要どころか枷となるはずなのに。百歩譲って悪心と殺意が同一の存在としよう。では、善心の正体はいかに。

 

──決まっている。指揮官を想う心だ。

 

なるほどでは。もしや。あるいは悪心とは、彼を想う心のもう片方の側面ではないだろうか。未熟な思考の果て、ふとそういう可能性に至った私は、何かに突き動かされるまま古い友人を訪ねた。私の二番目の友達。そして私の産みの親。ペルシカは相も変わらず悪巧みの色が滲む笑みで私を迎え入れた。

 

「へぇ……。指揮官くんの部屋に仕掛けたアレが外された……。面白い。ちょっと想定外」

 

「悠長に構えてる場合じゃないわ!アレが警備体制の質の向上に寄与していたのは疑う余地のない事実よ。それが消されたなんて……しかもコートに隠していたものまで!」

 

「落ち着いてM4。アナタが考えてるような事態ではないわ」

 

ペルシカが私に冷蔵庫から取り出したマグカップを差し出す。八分目で揺れている黒い液体。口に広がったそれは外見から類推されるような代物ではなく甘ったるいナニカ。これが何なのか、私のデータベースには登録されていないが、コーヒーでないとだけは断言できる。

それでもどこか落ち着く味だった。人間で言うところの実家の味なるものだろうか。

 

「アレを外したのは多分指揮官くんの人形……鉄血の妨害工作とかじゃない。そこんところは大丈夫、ぶい」

 

「まあそうだけど……」

 

彼女の言うことはもっともだ。鉄血があの防衛システムを知っていたとして、工作員がそれを破壊しにグリフィンに潜入していたとして。おそらくこれらイフが現実のものであったなら今頃指揮官の命はないだろう。

だけどそうじゃない。もちろん護衛を軽視しているわけではないが、私の心配事はそれではないのだ。

指揮官が取られる──。私だけのヒトではないのに。 私のモノじゃ、ないのに。そう考え焦燥する自分がいる。

 

「最近怪しい動きをする人形がいるの。Karとか9A-91とか。彼女達への対抗策がなければ……」

 

「なければ?」

 

「ヤな気分になる……かもしれない」

 

きっとソレが私の悪心。あの日UMP姉妹に暴かれた私の業罪──指揮官の全てを知りたい、知っておきたいと弾ける醜く歪んだ独占欲。

自らの恥部に押し潰されそうな私をペルシカが大層愉快そうに笑ったのはほどなくしてからの出来事だった。クスクスと、静かに、眼前の恥ずかしい戦術人形を観察しながら、破顔する。しかし喉から漏れる音に侮蔑の類は含まれていないと感じた。

 

「へえ……。あのM4が……。…………ふぅん。へぇ」

 

「お願いよペルシカ!頼れるのは貴女しかいないの!姉さんは最近指揮官に対しよそよそしいし、SOPIIは相変わらずだし、AR-15に至っては挙動不審で──」

 

思わず語尾を強め万能の彼女へ嘆願する。それでも飄々とかわされるばかりの現実を疎ましく思い、いよいよ襟を掴んで揺さぶってやろうかと思った、その時。

 

「私がどうしたの?」

 

思わぬ来訪者が密会部屋の扉をこじ開けた。ふわりと揺れるピンク色のショート。桃の香りが漂ったのは機関が別の物質を誤認したことによる錯覚だろうか。

寸刻前の発言を省み言葉に詰まる私をAR-15はいつもと同じ青い氷の瞳で見つめている。

静寂たる三者の空気に対し、ペルシカの反応はやはり科学者然としたそれだった。何かを察したように来客を右と手で手招き、左手に同じく謎の黒液がこれでもかと注がれたカップを握りながら彼女を私の隣へ座らせると、お預けを食らっている私を顧みず二人だけの世界へ没入してしまった。

 

「……調子はどう?」

 

「まあまあかな。あ、でも最近は指揮官に警戒されてて中々上手く事を運べてないわ。そっちは?」

 

「うん……まあ、そこそこ。新しい人形の製造も一段落したし、またあの面白指揮官達に仕掛ける罠でも考えてるところ……」

 

「新しい人形。気になるけどひとまず置いておきましょう。ねえ、ペルシカ。ヒトの皮膚に埋め込むことができる盗聴器とか無理かしら。あるいは衣服の繊維単位のは?」

 

「不可能じゃない」

 

「ま、待って!待ってください!ストップ!」

 

私にも流石に最後の良心は残されていたらしく、椅子が倒れる勢いで立ち上がり物騒な方面へ加速する会話を一度打ち切った。

 

「何を考えているんですか二人とも!看過できません!そんな指揮官の人権に挑戦するような発明なんて……」

 

「時間があれば指揮官の声を聞いてるアンタに言われたくないわ。耳のソレ、再生機なんでしょ?」

 

「うぐ……」

 

図星を突かれたとはまさしくこのことで、すっかり立場も反撃の糸口も失った私は力なくイヤープロテクターに手をやった。

だけどそれはそれ、これはこれ。警備とか何とか建前は色々あるけどもどう考えても指揮官の皮膚に異物を埋め込むのは危険極まりない!

AR-15の危険発想を槍玉にあげようとした私の声は、他の何者でもない、AR-15自身の先手によって封殺されてしまった。

 

「優柔不断というか変な部分が真面目というか。ま、我等の隊長サマに面倒事を押し付けるつもりはないから安心して。ちょうど今日指揮官もここにいらっしゃるし。全部私達が上手くやるから、アンタは利益だけ吸ってればいいわ。ね?」

 

「…………M4が絶対ダメっていうならやらないけど」

 

「同じく。隊長命令に逆らうつもりはありません」

 

ごくり。誰かの生唾を飲む音が伝播した。

 

 

 

 

16Labの施設に充満する空気が澱んでいるのは平日休日日中夜間は一種の不変の真理と化している。廊下を行く職員の表情に微笑みの断片すらなく、皆が皆責務に追われ舗装された明日への道をデスマーチで突き進んでいる。正味な話グリフィンも真っ青だ。指揮官業がここまで地獄の様相を呈していないのも優秀な幕僚が補佐してくださっているからに違いない。サンキューカリーナ、フォーエバーカリーナ。彼女の労働量に関しては俺の管轄外なのでここでは言及しないでおく。

さて、新製造システムとやらの見学を目的としてここを訪れた俺は、イレギュラーたる未知の存在を目撃した。ロングの黒髪、白のメッシュ。黄色のパーカーかジャージを羽織り、右手にメガホンを持ったオッドアイの……人形だろうか。がこちらを物陰から凝視している。

 

何故M16がここに……?と訝しんだ俺は決して悪くない。

 

顔のパーツはM16に瓜二つだ。しかし注視すれば分かるが、この娘の顔には酒のさの字すらない。どことは言わんがM16よりも立派だ。まあ奴も大きい方だが。

M16でなくて助かったと思った俺もまた、悪くない。脳髄に設置された4K有機ELモニターが飽きもせず黒歴史を延々と再生している今日、ぶっちゃけ奴と顔を合わせづらい。

一人実態のない敵に悶える俺を、その娘は変わらず観察している。人の趣味にケチをつけるぐらい性根が腐っているわけではないが、され放題というのも多少カンに触るのは否めない。

 

「君!俺の顔に何かついてるかい?」

余計なトラブルを避けるため敵意のない爽やかな好青年風の言葉遣いをしてみたが、年甲斐もないと指摘する誰かの声が脳裏に響き小っ恥ずかしくなった。

娘が姿を現わす。観念したとも、待っていたとも捉えられる雰囲気と、軽やかな足取り。その綺麗な声は俺に得も言われぬ充足感を与えた。

 

「初めまして、ミスタ。私は試作戦術人形・コルト9ミリサブマシンガン。コードネームRO635。お気軽にROとお呼びください」

 

「よし、ろーちゃんだな。よろしくな」

 

敢えて馴れ馴れしいあだ名をつけたのは悪戯心とちょっとした復讐心の表露だった。当惑しきった顔が少し面白い。外見はM16そっくりだが、中身は大天使の方に近いのだろうか。この娘が真面目で、AR小隊に加わりバランサーとなる日が訪れるのを祈るばかりである。

 

「ええと、あの、ミスタ。ろーちゃんというのは……」

 

「可愛いだろ。ろーちゃんってあだ名」

 

「ですからその、少々恥ずかしいです……」

 

可愛い。ついだらしない笑顔が現出した俺は我に立ち返り、初対面の人形に権力なる武器を振りかざしてパワハラ、あるいはセクハラを行なっている愚昧な自分を恥じる。元はと言えば仕掛けてきたのは向こうだ。しかしハンムラビ法典が唱える目には目を論を我々は遵守しなくてはならない。つまるところちょっとやり過ぎた感がある。反省。

 

「君の所属は?まさかチームメイトにBARさんいないよな?」

 

「ばーさん……という方は存じ上げませんが、私は無所属です。現在テスト段階ですので」

 

よかった。奴が主人だったら面倒だ。

と、ここで未知なる欲求が湧き上がる。この無垢な戦術人形を私色に染め上げてみたい……!卑猥な意味じゃなく。G11に並ぶ癒し枠的な意味で。そういやあいつ最近見ねーな。

 

「そうだ。これから新システムの見学に行くんだが道案内頼めないか?ここに入った回数少ないからまだ構造を把握しきれてなくてな」

 

さりげなく同行するよう仕向け、色の良い返事を期待した俺を劈いたのは。

 

「しーきかーん!ペルシカが呼んでますよー!」

 

珍しくボリュームの高い声を出すAR-15。

 

 

──彼方からピンク色の悪魔が死を伴って迫る。




10日前ぼく「ネタ切れてきたしRO出してえしどうしよっかなあ」

8日前ぼく「これ時系列的に無理じゃね?」

4日前ぼく「かといってハンドガン勢の話まだ思いつかねえしなあ」

1日前ぼく「ちょっとぐらい(いじっても)バレへんか……」


ところで数話以内に本編なぞってストーリー進める予定とかはないんですけど、読んでくださってる方の中で6章7章未到達、もしくはキューブ作戦未参加の指揮官様はいらっしゃいます?もしいらっしゃるなら書いたらガッツリネタバレになるんで別の方向考えようと思ってるんです。
ROちゃんに関しては公式ツイッターで流されてたからゆるして。
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