少女徒然   作:しゃち

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スプリングフィールドを見ると頭が爆発するぐらい好きなので手こずりました。
いい加減ハンドガン勢出したいけど良い子のハンドガン達が病む姿を想像できない不具合。


十四話

鳥のさえずりが微睡む意識を打つ。世界が終わろうとも夜明けの姿は不変らしい。

肺をも凍らす寒気を吸い急速に目を覚ました俺は、本来あってはならないモノがマイベッドですやすや可愛い寝息を立てている事実を目撃した。そう、わーちゃんだ。

俺はまず着衣の乱れから確認した。冴えない男の服も、わーちゃんの独特な制服も、多少の皺こそあるものの想定される最悪の事態を予感させる程度ではない。

多少、おそらく、いや間違いなく俺達は疲れてそのまま床に就いただけだ。社内新聞の一面を賑わす大スキャンダルの空気も、アイツみたいに愛の沼に肩まで浸かった痕跡もそこにはない。同衾もかなり危ういのは理解しているがまだマシだ。うん。

 

「うへへ……。しきかぁん……おねえちゃん……」

 

お馴染みのだらしない顔で夢を見ている愛らしい隣人に無粋な朝をもたらさぬよう、足音を殺して私室を立ち去る。

G&Kの朝は厳しい。殊更に贅沢が染み付いた駄人には、氷点下に至る気温の低さが堪える。やる気も生命力も粗挽され奪われるのだ。

窓を閉めきり、換気扇も回していないこの宿舎の廊下は何故外界とほとんど変わらない温度を保ち住人を苦しめることが可能なのか。おそらく建築物のボロさが一番の要因だろう。いい加減立て直せと何度も嘆願書を上層部の脂ぎった鼻先に叩きつけてやったが、未だに色のいい返事がもらえてないなと思い出す。

腕時計は十二月二十六日の午前七時であることを俺に示す。平日。仕事が始まる前の朝は、祭の疲れの色に染まり静まり返っていた。任務を言い渡されている者以外の戦術人形はまだ夢の中なのだろう。無理もない、あれだけ騒いだら疲れ果てて必要以上に眠りたくなる。戦術人形が人間と同様の意味で疲労を感じるのか、と問われれば疑問が残るが。

 

「おはようございます、指揮官。お早いのですね」

 

思考の泥濘に溺れた意識を現実へ引き戻したのは、麗しいスプリングフィールドの澄んだ声だった。

定型文を返し、スプリングフィールドが立つ真正面の席を今朝の陣地と定める。俺を一目に浮かべた微笑みには倦怠感の色も、影すらなく、改めて俺達の間にある差異を痛感した。

 

「いつものように……ああいや、今日はフレンチトーストで頼む」

 

「ふふ、お疲れのようですね。後で甘いものをご用意いたします」

 

「お願いします……」

 

なんとなく手玉に取られている感覚がして悔しい。

そう感じるちっぽけなプライドは、大した間を取らずにやってきた朝食の味を前にすれば一切の意味を持たなくなる。美味い。甘ったるいわけでもなんちゃってフレンチトーストでもない、絶妙な砂糖の加減。ブラックのコーヒーによく合う。

 

「ところで指揮官、わーちゃん抱き枕の抱き心地はいかがでした?」

 

口中の液を噴き出した。むせた。

一体彼女は俺のどこまでを見透せば気が済むのだろうか。そう思いつつ、恐る恐る持ち上げた視線の先の破顔が怒りが限界を超えた時に現出するそれに見えて心身共に震え上がる。

フレンチトーストを、ひとかけら。サラダを、一口。表情は変わらない。

コーヒーを、一口。フレンチトーストを、ひとかけら。やはり不動。

早朝の喫茶店を包む閑散とした空気が恨めしく、またこれほどまでに喧騒を求めた瞬間はない。優雅な時間は尋問の恐怖に染め上げられ地獄の様相を呈しつつある。

 

「そ、そうだ!今度新しい装備が供与され──」

 

「しきかん?」

 

起死回生の一手として投じれた石は、たったの四つの音で虚しい末路を迎えた。ここで次なる話題転換を図る力も、彼女の口を塞ぐ漢気もなく、畢竟素直に「覚えてないけれど多分柔らかかった」と白状する以外に道はなかった。

 

「ごめんなさい。羨ましくって、いじわるしちゃいました」

 

緊張が弛緩する気配。急降下する体温に目眩がするのも束の間、俺の隣に腰掛けるスプリングフィールドの柔らかな匂いが鼻腔をくすぐる。もう一度全身の血液が沸騰する感覚を覚えるのは、彼女が俺の肩に寄りかかってきた数瞬後のことだった。挑発的な口元が、誘う。

混乱した俺の思考回路は、まず水を求めた。関節がギチギチと音を立て腕が駆動する。指先がコップのフチに触れようとして、届く前に──。

 

「お水ですか?ふふっ、私が飲ませて差し上げますね」

 

えっ。

成る程スプリングフィールドは甘やかしグセというか、抱擁力というか、その類のものを両手で抱えきれないほどに持っている。だがこうも立て続けに自分から手招きするのは例を見ない。

どうも違和感の一種が拭いきれないまま、飲まされた水が喉を通り越し胃壁に染み込んだ。冷たく熱い感覚。齢三十の唇を注視する隣の麗人は、満足気に目を細めた。

 

「き、今日はやたら甘やかしてくれるな……」

 

「ええ、そういう日ですから」

 

少し、嫌な予感がする。

 

 

 

報告書にインクが踊る。何故2060年代にも突入しているにも関わらず俺達は手書きの書類を尊んでいるのか。諸般の事情でコンピュータへの信頼がガタ落ちしている現状は無論把握しているが、やはり一現場の人間としてはメンツよりも利便性を優先したい。

かくの如き緩やかな時を共に刻んでくれる相棒がいるのは非常に心強い。他方先刻の既視感を捨てきれない俺は、結果的に一定の周期でスプリングフィールドの様子を盗み見するところに落ち着いていた。

 

「私の顔に何かついていますか?」

 

「ああ、いや……特にない。気に障ったのなら謝るよ」

 

「まさか。むしろ……ね?」

 

想像を掻き立てる茶色の言葉を相手取って打てる手といえば、精々恥じらいに顔を染めないよう努めて冷静であれと意識する、それだけだ。

昼下がり。燦然と輝く日の光を受ける執務室は、温度計が示す室温よりもずっと暑く、汗ばむ空間だと俺には感じられる。加えてスプリングフィールドが挑発めいた接触を繰り返し、挙げ句の果てには胸部の辺りで主張する双丘を押し当ててきている──気がして心臓に悪い。

 

「指揮官、お耳がりんごのようですよ」

 

「からかってくれるな。美人がゼロ距離にいれば心拍数も上がる」

 

「あら、お上手」

 

いつかの悪酔いの仕返しか。それにしては少々タチが悪い。彼女が誰に対してでもこのように振る舞う、俗に言う売女だとはカケラも思っていないが、そろそろ上官として窘める頃合いだろう。

そんな俺の気概は、次の瞬間打たれた一手によって音を立てて砕かれることとなる。

 

「ふー……」

 

「ぬぉうぇっ!?」

 

生温い風が右耳を突き抜け脳を揺さぶった。それがスプリングフィールドの吐息だと勘づいた時、首筋を撫でられたあの感覚が微かな快楽を伴って背筋を走る。

 

「な、何をする!?」

 

「可愛いお耳があったので、つい」

 

「ええい!今日はいつもの三十割増しぐらいでちょっかいを出してくれ──」

 

続くはず言葉は柔らかな手のひらが遮り、いよいよこの一室に木霊することはなかった。

 

「私がこんなことをするのは指揮官だけ、ですよ?」

 

敢えて音量を絞られた細い声に、再び体中に電流が走る。

スプリングフィールドの顔は俺の耳のすぐそば。その表情を見ることも、微かな変化から機微に触れるのも叶わない。

気まずい沈黙を破るためにも、反撃の糸口を掴むためにも、彼女の面持ちを伺いたい。が、戦術人形にガッチリホールドされた首が動くはずもない。

沈黙を穿つ四回のノックが、響く。

 

「G36です。帰還いたしました」

 

「おおG36か!おかえり、早速報告を頼む」

 

「失礼いたしま……スプリングフィールド、何をしているのですか」

 

「あらおかえりなさい、G36。ふふ、無事で何よりよ」

 

「ありがとう。続け様に私の問いに答えてくれると助かるのですが」

 

「私、今日は指揮官を独占することを赦されているので」

 

「答えになっていません」

 

メイドさんの冷ややかな目線が部下にされるがままになっている俺を軽蔑しているのではなく、スプリングフィールドの奔放さを糾弾しているだけだと信じたい。

とにかく、これは場の支配圏を奪取する絶好の機会だ。来訪者に愛想笑い、目配せし報告を促す。扉と向かい合う形で机を配置したインテリアデザイナーには足を向けて寝れない。

G36は非常に優秀な人形だ。戦闘技術はもちろん、本来人形に求められる家事から、要約力にも長ける。口頭での伝達はもちろん、簡易的な報告書も要点をまとめた明瞭な一冊となっているので、こちらとしても大助かりだ。

良心との紛争に打ち勝った俺はG36を必要以上に労う作戦に出る。

 

「いつも助かるよ。優秀なメイドさん部下が身の回りの世話から排除任務までそつなくこなしてくれる俺は幸せ者だ。おまけに美人ときた」

 

「あ、ありがとうございます……。ですがご主人様、最後の言葉は私にはもったいなく……」

 

「いやいや、事実を言ったまでだ。特に最近はまあ……色々あったから、改めてG36の偉大さというかなんというか……。とにかく居てくれて助かるよ。これからもずっとよろしく頼む」

 

そこまで言い切り、当初の目的も忘れ妙に告白めいたセリフを自分の口が雄弁に語っていると知る。気苦労をかけられ続けた結果特筆すべき意図なしに飛び出した呟きに近い発言だが、無性に気恥ずかしくなったのは変わりない。

どうにか顔を背けようにも拘束がそれを阻む。むしろ秒を重ねるごとに力強くなっているのではと疑う中、G36の様相が一変していく過程を目撃した。

 

「わ、私不肖G36ご主人様の右腕としてあらゆる事態を的確かつ迅速に処理することを使命としておりますので不足なくお役に立てているのならそれは至上の喜びでございます。私ご主人様が必要としてくださる限りいつまでもどこまでも妹と共に貴方様にお仕えし続ける所存でございますのでご心配なく、なく、なくなく……」

 

「むぅ。G36ばかりいい思い。私の日ですからもっと構ってくださらないと拗ねてしまいますよ?」

 

「スプリングフィールドも頼りになるよ。こうして俺の首をガッチリ掴んで離さないことを除けば、な」

 

「あら?ふふっ、無意識でした。ごめんなさいね」

 

肩の荷が下りる。

快晴を脅かす、分厚い雲が一つ二つ。それらは手を取り合うかの如く太陽を覆い、地に影をもたらした。

 

 

 

午後十一時。スプリングフィールドの私室にて。

 

「こんばんは、スプリングフィールド。お誘いありがとう」

 

「こんばんはG36。早速で申し訳ないのだけど、貴女に聞きたいことが一つ。ずばり──」

 

「んなっ!?ど、どこでそれを……!?」

 

「ふふ、親友の考えぐらいお見通し、ですよ。それでね?物は相談なのだけれど……」

 

 




春田さんは好きな人の全てを把握して支配したいタイプだと思う。

スプリングフィールド、G36、G36C +わーちゃんとかいう無敵の編成。わーちゃんのヤンデレ戦闘力が低い?気にしてはいけない。
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