すとぱんくえすと   作:たんぽぽ

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実はサブタイトルはめちゃくちゃ適当です


つぎのはじまり

夢を見ていた。夢を。

いつもの様に死に、新たな生存ルートを模索するという過程がひっくり返る夢を。今まで無かった第三者の助けが来た夢を。前に死ぬほど・・・実際に死んでもなかった土壇場における助けが来る夢が。

 

今回はどこから始まるのか。ゆっくり目を開けると、見慣れない天井が自分を迎えた。朝からやり直しだろうか。

 

そんな漫然とした思考は、身体を襲う痛みで霧散した。少し身動きするだけで呻き声を上げてしまう程の痛みによって。

 

いつも死んだ時は、いつの間にか時間が巻き戻っていたが、今回は意識の復活をはっきり自覚出来た。

いや、違う。これはーーー

 

「死んで、ない・・・?」

 

思わず出た言葉は、信じられないほどに掠れていて、尚且つこの現実を裏打ちするものであった。

 

 

複数の銃創とそれに伴う骨折、大量失血で死に瀕していたらしい自分は、何とか一命を取り留めた。

後遺症も左肩の肉が抉れていたせいで、左肩の形が少々歪になるだけらしい。・・・見た目は兎も角、機能的には問題無いとも。

 

大口径の弾丸でなくて本当に良かった。もしクラゲの発射する弾丸だったら腕が消し飛び、胴体も半分血の霧になって吹き飛んでいただろう。

 

それよりも、鎮痛剤を打ってもらえないと激痛に身を焦がされるのが目下の課題だ。何時もなら直ぐに死んでいたか、ほぼ無傷で切り抜けていたので、ここまで痛みが長引く事は無かった。

 

身体の各所は固定され、思うように動かせず、身の回りの事すら覚束無い。そもそもここはどこなんだ。微かに戦闘音が聞こえるあたり、後方という訳では無さそうだが。

 

巡回していた衛生兵にあの少女について尋ねた所、民間人は既に別の所に移送されたと言っていた。

 

無事だったのなら、それに越したことはないだろう。・・・正直な所、彼女とは二度と会いたくない。嘘をついた事に対する負い目があるからだ。何れかは明らかになる嘘だが、その時にはもう自分が彼女と会う事は無いだろう。

 

 

全治2ヶ月の大怪我だそうだ。

戦力にならない為に、後方に移送されるとも。

 

やることが無い。ひたすらに襲い掛かる痛みとの戦いだ。それは死の恐怖に塗れ、慣れてしまった自分でも辛いものであった。病気になると人生観が変わると言うが、自分の価値観も多少変質しただろうか。

 

 

ーーー自分の価値観は周囲の人間に比べ、異質であった。

個人主義が台頭していた時代に生きていた自分にとって、年金も無いこの時代における家という考え方がよく分からなかった。

自分にとって結婚とはリスキーなものだという認識だったが、この時代ではしていて当たり前という認識だった事は驚いた。

 

親友達の話を聞いている限り、女性の社会進出とも程遠い社会構造である事にも驚いた。例外として軍部におけるウィッチの存在が有るが。

自分の価値観は、この時代だと余りにも特異で異質な価値観だった。

 

この時代、いや、この世界には無い数十年分の年月と、指数関数的に進化した科学技術、戦後の連合国による統治の影響が、今の自分の価値観に多大な影響を及ぼしている事は間違いない。

なんせ、扶桑は戦前の日本に良く似ている国だ。第二次大戦から激動の数十年を経た日本とは根底的に違う。

 

長々と口上を述べたが、言いたい事は簡潔だ。

自分は孤独なのだ。価値観を共有出来る人間が居なかったのだ。自身が生まれ育った扶桑のクソ田舎にある村も、自分にとっては全く未知の異国の文化圏であった。

 

自分が知っていた常識とやらと、故郷の常識を折衷しながら過ごした日々は、そう簡単に吐露出来るものでは無い。幼かった親友達は、まだ常識が成熟していなかったので、自分の影響をかなり受けているだろう。大体一緒に居たのだから。

 

だから、彼女達と居ると気が楽だった。非常識であるとか、そういった事を言われなくて済むのだから。

 

 

 

そんな自分にも夢がある。それは多大な資本に裏打ちされた、生活費を労働に依らない生活というものだ。

働く事は尊い事だ。という価値観である故郷では否定されるだろうから、誰にも明かす事が出来なかった。

その夢にとって、軍というものは好都合であった。衣食住は無料だし、平均給与を貰える。初期に設定した人生設計では、初老に差し掛かる頃には働く必要が無くなる予定だった。

だが、その予定は大きく後ろ倒しにされた。実家に対する仕送りという行為を計算に入れていなかったからだ。税金を引かれ、仕送り分を引かれ、少々の娯楽品を買い揃えていると、残るのは少しだけだった。虚しい。

 

だがそんな生活に転機が訪れた。

カールスラント出兵だ。この出兵に参加すると、基本給とは別に現地の貨幣で追加給与が出るのだ。下手すると、基本給よりも多い額が。

自分がカールスラント行きを承諾したのは、そういった面もあった。まぁ、断れる雰囲気で無かった事が直接の原因だが。

 

予想外だった事は出費だけでは無かった。収入面でも同じ事はあった。少しでも資本を増やそうと、株式取引に手を出そうとしたところ、扶桑という国の金利が自分の常識では有り得ない程に高かった為に、その案は自分の中で却下された。

何処ぞの発展途上国か、と内心驚愕が止まらなかった程だ。

 

 

自分が軍に入った理由を好意的に述べたが、そうじゃない理由もある。というより、自分に選択肢は無かったのだ。

 

選択肢がないと言うと少々語弊があるが、過言では無い。自分には軍以外にも選択肢はあった。

それは、自分の優秀な成績を知っていた教師からの推薦で、師範学校に入校しないかと勧誘を受けたのだ。母親はとても喜び、自分を送り出そうとした。

 

だが父親が首を縦に振らなかった。

 

そして、そのまま自分は軍に入隊した。父親としては、仕送りに期待したかったのだろう。

つまり、彼は子供の将来よりも、目先の生活の保障に腐心したのだ。

理屈では仕方が無いと思ったが、感情ではそうもいかない。少々の恨みはあったが、それは貧困に向けた。だから父親に対して蟠りは無い。・・・本当だ。

 

それでもまぁ、やるせない気持ちにはなる。

 

 

相変わらずやることが無い。話せる人間も居ないし、居るのは忙しなく働いている衛生兵のみだ。自分がどういった経緯でここに運び込まれたのかも分からない。この場所がどこなのかは聞けたが、カールスラントの州の名前など自分に分かる筈も無かった。地図を引っ張ってきて説明して貰える筈もない。

 

何回か陣地転換もした。かなりの長距離を後退したと思う。寝たきりの状態でトラックに乗せられていたせいで、正確な距離は分からないが。

 

 

 

虚空を眺めて早二週間。やることが無く、娯楽は無く、与えられるのは鎮痛剤でも誤魔化せない鈍痛のみという拷問染みた時間は、思ったより・・・衛生兵に言われていたよりも早く消費された。

 

怪我が完治したのだ。二週間で。

 

・・・多少のリハビリこそ必要だが、それ以外は問題が無い。自分でも驚いている。衛生兵はもっと驚いていた。

 

どうやら自分は普通の人間よりも身体が人一倍丈夫らしい。

丈夫な身体に産んでくれた母親に対して感謝しなければならない。

 

 

自力で動けると伝えた途端に、後方に異動しろとの命令を受けた。指示された列車に乗り、途中でトラックに乗り換え、飛行場までやってきた。

 

トラックでカールスラントに一緒に来た僅かな仲間と再会できた。そして、ここにいる人間以外は戦死しているか行方不明だと言われた。

 

どうやら、ここで輸送機に乗り、ドーバー海峡を渡ってブリタニアに行くらしい。

トラックに乗っていた時に、残ったカールスラントの領土は矮小で、今やネウロイはガリアにまで侵攻してきているという話を聞いた。カールスラントは殆どノイエカールスラントに行政等の機能を移したとも。

 

 

戦闘機が慌ただしく飛来して行き、半数程になって帰ってくる。殆どがそうだった。輸送機待ちで、半日近く滑走路の端に野ざらしで待機していた自分が暇を持て余した結果、分析出来たものである。

そして同時に分かったが、この基地にウィッチは居ない。

航空歩兵と呼ばれる、空を飛ぶウィッチは少ないらしい。戦闘脚を身に付けて地面を駆ける陸戦ウィッチの中でも特別なウィッチのみが、航空歩兵になれると新聞に書いてあった。

実際にどうなっているのかは知らないが。

 

観察を続けていると、エンジンから煙を吹きながら強行着陸を行った戦闘機が居た。だが間もなく爆発した。パイロットが脱出する寸前に爆発した為に、燃え盛る炎の中で叫び声を上げる人型が見えた。

消火器を持った兵士が駆け寄る頃には叫び声は消え、見るに堪えない真っ赤な物体が転がっていた。

 

彼も運が無いな。

 

自分は心から同情した。

 

本当だ。

 

あぁ、本当にな。

 

 

輸送機の三機編隊が到着し、その内の一機に全員で乗り込む。他の機体にも兵士が乗り込んでいた。

乗り込むと直ぐにエンジンが始動し、加速し始める。

 

緩やかに上昇し、巡航を開始した。

 

順調過ぎて何だか不安だ。

 

 

 

 

 

 

「おい!ここはガリアの支配地域じゃないのか!?」

 

「報告に無い!ここは安全な航路だった筈だ!」

 

怒声と爆音が響き渡り、機体が揺れる。

 

「なるほどね」

 

荒れ狂う機体の中、自分は一人、小さく呟いて遠くを見ていた。

 

 

 

自分が乗ってる輸送機は、攻撃を受けていた。

 

輸送機の小さな窓から外を見るも、黒煙の花が空中に咲く様子しか見えず、他の輸送機以外の飛行物体は見受けられなかった。

つまりだ。

 

地上からの攻撃を受けている。

 

ネウロイの支配地域は、予想よりも早く広がっているらしい。

空中で爆発した対空砲弾の破片が、機体に突き刺さる。幾つか貫通した破片が、人間に突き刺さり、怒声に悲鳴が入り混じる。

 

この空域は茨の道だ。空中で炸裂した砲弾は、爆風と破片を撒き散らし、空を埋め尽くしている。

直接当てる必要なんて無い。爆発に伴う破片が当たればそれだけで航空機は、中に居る人間はダメージを受ける。

輸送機の中は阿鼻叫喚だった。破片にやられたのか、身体の各所から血を垂れ流しながら痙攣する者や、爆風に煽られ、揺れた機内で頭を打って気絶してぐったりしている者。操縦士に大丈夫なのかと怒鳴りながら確認する者。

 

自分はずっと座っていた。時折機体外から飛び込んできた破片が近くを通過するが、五月蝿いからやめて欲しい。

揺れる機体でバランスをとるのは大変なので、機体に掴まってはいたが。

 

「あぁ、ちくしょう!おい!そっちはどうだ!?」

 

「こっちもダメです!多分ワイヤー切れてます!」

 

「垂直尾翼も吹っ飛んでる!」

 

「エルロンとフラップはまだ生きてるな!?それで何とか減速しろ!」

 

「無理です!この速度でフラップを開いたら吹っ飛びますよ!」

 

「うるせえ!兎に角開け!」

 

「分かりました!」

 

機体が絶え間なく左右に揺れ、乱高下を繰り返し始めた。それに加え、ガタガタと異様な振動も追加された。

 

相変わらず外では爆発音が絶えない。

悪寒もしないが。驚く事と言えば、時折頭が自然と動くと同時に、先程まで頭部があった場所に破片が飛び込んでくる事くらいだろう。

 

死の危険を感じ取れない以上、気を張りつめるだけ無駄だ。

 

 

だが、終わりは唐突に訪れた。

 

圧倒的な熱と、風圧を感じた。

 

気が付くと、輸送機の床に転がっていた。相変わらず空中に居るようで、三半規管が揺れを感知している。くぐもった聴覚に、ボヤけた視界。

 

痛む頭を抑え、機体内部の出っ張りに手を掛け、立ち上がる。

 

焦げ臭い臭いと、血の匂いで、輸送機は溢れていた。

そして、自分に勢い良く吹き付ける風。

 

操縦士と、それに声を掛けていた仲間の姿は掻き消え、変わりに赤い霧が舞っていた。

砲弾が直撃したのだろう。機体の各所に爆散した人間の破片と血液が飛び散っており、自分以外の人間の動きは無かった。

 

派手に開放された機体前部からは、あっという間に近付いてくる湖が見えた。

 

 

 

ーーーそして、衝撃。

 

 

 

一瞬で水に包まれ、水を吸って重くなる服に嫌気が差しつつも、崩壊した機体前部から機体外部を目指す。機体から脱出し、次に水面を目指す。

 

水面から頭を出し、上を見た。墜落した自機以外の二機の輸送機は未だに健在で、周囲に爆煙を侍らせながら、飛んで行った。

 

「・・・最悪だ、クソッタレめ」




誤字脱字の修正をしてくれる方、本当にありがとうございます。
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