すとぱんくえすと   作:たんぽぽ

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遅れてすみません・・・。
次も結構期間が空くと思います。


くそげー

何か、何かがおかしい。

 

いや、おかしいのは今に始まった話では無いのだが、今回はなんだか毛色が違う。

僅かながら、あの感覚が・・・死の感覚がずっと続いているのだ。そのせいで体は強ばり、緊張しっぱなしだ。

・・・どうしてだ。自分が死に直面しているようにはどうしても思えない。

 

そんな奇妙な現象と直面しながら、自分は新たな戦場で戦っていた。

人類側は防戦一方で、攻めて出る様子は無い。

 

タッタと駆け足で言われた通りの配置に着き、ネウロイの襲撃に備える。

ここに自分の直属の上官はいない。というより、ここには扶桑軍が居ない。何故なら、ここに来る筈だった人員が全員死亡したか行方不明になっているからだ。

先にここに居たガリア軍の士官が伝える所によると、自分の部隊は・・・自分を残して殲滅された。全員死んだのだ。全員。正確には行方不明の者も居るが、大方死体の損壊が激し過ぎて身元の確認が出来なかったか、人目につかない場所でひっそりと死んでいるかのどちらかだろう。

ネウロイの支配地域で生き延びるなど、困難極まりない。

 

しかしまぁ、なんだ・・・。何故か未だに現実感が無い。顔見知りが死にました。なんて、目の前でその顔見知りが頭を弾丸で消し飛ばされても直ぐには理解出来なかったのに、口伝による情報では、余りにも現実感が欠如している。

 

部隊の人はいい人ばかりだった。隊の中でも最年少であった自分がそう思うのだから、彼等の人柄の良さは推して量れるだろう。

だがもう居ない。

 

 

ここに居るガリア兵は士官くらいで、居るのは殆どブリタニア軍だった。本土から大陸に渡って来たのだろうか。

それに伴って、ブリタニアの戦車や装甲車、砲があちこちに散在していた。

 

砲撃が飛んできて、爆音と破片、それに時々肉片が伴って撒き散らされる。断続的に響き続ける爆発音が悲鳴が怒号が、その他諸々の煩わしさが頭に染み込んでくる。

沿岸地域の近くであり、文字通りの背水の陣であるここから退却できる場所はない。我々は袋の鼠だ。

 

ネウロイが襲撃してこない僅かな時間で泥のように眠り、睡眠をとるが、また直ぐに奴等はやってくる。手帳が無ければ、自分はとっくに日付感覚を喪失していただろう。今日はここに到着してから三日目だ。

 

 

 

それからまた二日後、転機は急にやってきた。

攻勢命令が下ったのだ。攻勢命令だ。攻勢命令。

 

 

正気か?

 

 

 

塹壕や土嚢を組み合わせて構築されていた簡易的な陣地から、砲撃を盛んに繰り返し、僅かに残っていた貴重な機甲戦力が前に進んで行く。沿岸地域から少しのこの場所で、決死の攻勢命令は実行されていた。

 

どうしてこの圧倒的な戦力差で攻勢命令が下されるのか。その理由は欠片も分からなかった。一兵卒に過ぎない自分では得られる情報が余りにも乏しい。どうしてこんな無謀な作戦が・・・。

 

ブリタニア遠征軍による機甲師団が中心となったこの作戦は、驚く事に、ネウロイを押し返す事に成功していた。

 

カールスラントの戦車とは違い、歩兵と合わせて動くというコンセプトで作られたマチルダ歩兵戦車。機動力が鈍重で、ノロノロと進んでいるその戦車を見て、こんなもので大丈夫なのかと不安に思っていた自分は、次に見た光景でその感想を直ぐに撤回した。

 

高速で飛来した砲弾が、戦車の正面装甲に直撃する。

金属同士が擦れる音を響かせながらも、戦車の足は止まらなかった。

 

そう、この鈍足マチルダ歩兵戦車、カールスラント戦車とは比較にならないほどに装甲が厚いのだ。

足周りと火力こそ残念だが、装甲だけは有る。2ポンド砲を発砲しながら進んでいくその様は、なんとも頼り甲斐があるものだった。

 

光弾が歩兵戦車にぶつかり、身を縮ませる金属音と共に弾かれ、上空に跳弾していく。砲弾が履帯に直撃し、履帯が破損して動けなくなった歩兵戦車を追い越した時に振り返り、その姿を正面から見てみる。正面装甲は抉れていたり、砲弾がそのまま突き刺さっていたりしていた。

どうやらかなりの猛攻をその分厚い正面装甲で受けたらしい。

 

緩やかな稜線を目指して進撃していたブリタニア軍と共に行動していたが、先行していたマチルダが後退している事に気が付いた。

戦車兵がキューポラから頭を出し、下がれ下がれと叫んでいる。

 

 

緑色の大地と、青空と、散在するブリタニア製の鋼鉄の塊によって構成させれていた稜線。その稜線に、黒い異物がのっそりと姿を覗かせた。

 

金属で出来た6本の足が地面を踏みしめ、少量の土とそれに張り付いていた植物を巻き込み、進んでいる。

その姿を自分の網膜は、はっきりと捉えていた。

 

長い砲身がマチルダを指し、鼓膜を殴り付ける爆発音を響かせる。

風切り音と同時に甲高い金属音が響き、光弾が上に弾かれていた。

 

だが、爆発音は一つだけでは無かった。連続したその音は、自分の心から余裕を無くすには十分過ぎた。稜線を埋め尽くす様に次から次から現れるその姿は、出来の悪い冗談の様で、少しその場に硬直した。

 

「冗談じゃねえよ」

 

砲撃の影響か、所々地面で小さな炎が燻っている。それに付随して戦場に漂う重苦しい煙を振り払い、走って行く。

 

発砲音とは別に背後で聞こえた爆発音は、マチルダ歩兵戦車の砲塔が空中に放り投げられた音だった。ターレットリングごと上に吹き飛んだ砲塔と、地面に置き去りにされた車体から炎が噴き出すが、直ぐに炎の勢いは弱まる。

 

今頃車体の中に残っていた搭乗員は悲惨な事になっている事は想像にかたくない。弾薬が引火した戦車の中は鋼鉄で出来たオーブンみたいなものだ。人間の原型を保っているかすら怪しい。ゲル状になっている可能性も高いだろう。

 

・・・止めだ。考えるのはよそう。

 

 

その後は走って走って走った。周囲で聞こえる怒号と叫び声、爆発音を努めて無視してひたすらに。

 

完全に敗走だった。

指揮系統は混乱し、自分にも命令は下されていなかった。各々が時折反撃しつつも後退し、戦線は引き下がっていく。このままだと、また陣地まで押し戻されてしまう・・・いや、そのまま押し潰されて殲滅されるだろう。

 

どうやって破滅を回避しようかを思考しながら、足を動かす。

・・・生憎と名案と呼ばれるような、冴えたやり方は浮かばなかった。根本的に戦力の差が大き過ぎた。それに尽きる。

 

時折身体が意図せずに出鱈目な動きを繰り返し、流れ弾から身を躱している。出鱈目とは言っても物理法則に反する様なものではく、急に横に飛び伏せたり前転したりと自分の主観から見た出鱈目さだ。

 

 

地面が揺れている。質量を伴った足音が近くに、すぐそこにまで迫っている。

 

疲れ果てて走る事が覚束なくなった自分は、元は家であったであろう瓦礫に身を潜めていた。平野に散在する家の一つであったこの残骸は意外と大きく、身を隠すには十分だった。

 

意識して呼吸を落ち着かせ、ひたすらに時間が過ぎ去るのを待つ。

・・・瘴気で死ぬか、砲撃で消し飛ばされて死ぬか。最悪で最低な二者択一の選択肢は、既に目の前に迫っていた。

 

黒く、硬質な金属製の関節肢が大きく視界に映り込み、同時に長い砲身が見えた。頭部を振っている蟻型がすぐそこに・・・もう既に居たのであった。

 

「なっ」

 

完全な不意打ちだった。

それは蟻型も一緒だったのか、双方共に一瞬硬直し、睨み合う格好になる。

だが長い砲身で自分を捉えようと頭を動かす蟻型を見て、自分は駆け出していた。

 

そして、不可避の一撃が背中を叩いた。だが直撃した訳では無いようだ。もし直撃していたら胴体が二つに泣き別れしている筈だから。

 

至近弾による衝撃波か破片か。前者か後者か分からないが、兎に角その一撃によって、自分の呼吸は確かに一瞬止まった。爆風によって前方に転がり、のたうち苦しむ。

内臓が幾つか潰れてしまったのか?霞む視界、くぐもる聴覚、余りの痛みに、自分は叫んでいた。

 

口の中は鉄の味のする生暖かい液体で溢れかえり、断続的に口から外部へ飛び出していく。呼吸が困難になるほどに溢れ出るそれは、思考をする余裕を奪い去っていった。

 

妙に粘着質な水音がする呼吸音を響かせながら、なんとかネウロイを視界に入れる。仰向けの状態から、腕を使って上体だけを少し上げて。

 

だが既に砲身は致命的なまでに、正確に自分を捉えていた。

 

 

そして、爆発。

 

 

 

 

 

横っ面を爆発で殴り付けられた蟻型がバランスを崩し、砲身がブレる。自分の顔を掠める程に近くを飛来した砲弾は、遥か後方へ消えていった。

 

何が起こった・・・?

 

 

悲鳴を上げ続ける身体を無理矢理動かし、周囲を見回す。見えたのは、ガリア製の戦車の群れだった。

 

 

もう遅いが。

 

 

 

死んだ。

例の至近弾はどうやら致命傷だったようだ。

 

またまた尻を蹴られながら自分はトラックに乗り込んだ。

 

何故か今回はかなり前まで時間が巻き戻っている。

だがもう死の感覚がする。死だ。死の感覚がするんだ。どういう事だ?どうしてこんな早くから、こんな、こんな・・・感覚がするんだ?

 

 

"Calais"

 

 

看板は、前周よりも曲がっていた気がした。

 

五日後に、攻勢命令はまた実行された。

 

 

死んだ。

 

"Calais"

 

トラックから降りると、既に見慣れた、忌々しい記憶の筆頭を飾る看板が自分を迎える。

ダメだ、これは良くない兆候だ。正しい選択肢を探さなければならない。それは一体どこだ。

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

焦点の合わない瞳を無理矢理合わせて、目の前を見る。そこにはもう見慣れたトラックが並んでいた。これに乗って、自分は屠殺されに行く。選択肢は無く、ただただ殺される。この状況を打破する方法も、考えも思い付かない!

 

ふざけんな、ふざけんなよ・・・誰か教えてくれ、どうすればいい?

 

自分は尻を蹴られつつ、またトラックに乗った。

 

だめだ、だめだ。このままいくと生存ルートが袋小路を迎える。

考えろ、考えろ。何をすればいい、どうすればいい。

なんで自分は死んでる?ネズミ一匹通さないレベルの、包囲された戦線でジリジリと、真綿で首を絞められるように・・・クソ!ふざけんな、ふざけんなよ、どこに行っても奴等が居る!

進行不可、クリア不可だなんて、クソゲーにも程があるだろう?

ここでずっと・・・だなんて事はない筈だ。なら、正しい選択肢はどれだ?

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calaーーー

 

「クソッ!」

 

看板を蹴りつける。

 

「クソが!ふざけんな!クソ!クソ!」

 

執拗に蹴りつける。鉄で出来た看板を破壊する事は叶わず、これから起こるであろう理不尽な死と、それを淡々と宣告するように直立する看板が、自分の心を掻き乱す。

 

希望が無い。

 

冴えた方法が無い。

 

死ぬしかない。

 

前に、未来に進めない。

 

目の前に広がるのは、終焉以外は自由の、だが確実に袋小路へと向かう理不尽だった。

 

「ああ!クソ!クソ!めんどくせぇ!クソが!」

 

看板を蹴りつける。

 

風切り音が聞こえた。高い、高い風切り音が。

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

 

 

 

 

 

自分は今どこに居るのだろうか。

 

思えば色々な死に方を経験した。あのウィッチと協力して・・・あれ、彼女の名前って、なんだっけ。あれ、あれ・・・。

 

 

・・・あのウィッチと協力して脱出した街で経験した、様々な死に方。大量のネウロイと正面切って戦った、あの時の色々な死に方。それらの記憶を刷新する経験を、今している。

 

これを、もう何回繰り返しているのだろうか。

 

あの時と違い、何回行っても進歩が見受けられず。

ただひたすらに、無感情に、機械的に、必然的に、不可避に、殺されている。

 

どうすればいい?

 

答えは返ってこない。

誰も助けてはくれない。

 

トラックが走り出した。尻で感じる地面の凹凸。

必死に考える。考えた。考えるのはもう辞めだ。あぁ、もう辞めた!

トラックが止まる。視界に映る看板。

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

"Calais"

 

 

 

ちくしょう。




この場面はもっと書きたかったんですけど、先に私の知識と想像力が尽きました。
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