すとぱんくえすと   作:たんぽぽ

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今回短いです


だっしゅつ

無線から声こそ聞こえても、軍曹の姿はどこにも見えなかった。まだ少し離れた場所に居るのだろう。それにウィッチの姿はとても小さい。単純に大きさの関係で見つけにくいのだ。

 

「軍曹、ネウ、ロイの数は、大型が1、小型が5です」

 

「詳しい数が分かってなかったから助かります!」

 

回避機動に伴うGは自分では予想出来ない。自分の意思で回避機動をとっている訳ではなく、いつものように勝手に手と足が動いているからだ。急に体が締め付けられ、発言が途切れ途切れになってしまう。

 

大型ネウロイの姿は目まぐるしく変化する視界には既に映っておらず、確認出来たのは三機の小型ネウロイのみであった。

その内の一機が上方からの曳光弾を浴びて霧散する。自分が限界まで12mmを叩き込んでも撃破出来なかったネウロイがあっさり撃破されると、バカにされているような気がしてきた。

 

残った二機は自分を最早脅威として認識していないのか、軍曹の方へ向かい始めた。

 

暴れ回っていた手足はなりを潜め、ネウロイを落ち着いて観察する事が出来た。

相変わらずどうやって飛んでいるのかが分からない。ジェットエンジンやレシプロエンジンといった推進力を得るための装置は確認出来ず、意味不明な速度と意味不明な攻撃を繰り返している。

 

惨めだ。とても惨めな気持ちになっていく。

それと同時に腹立たしさもある。理不尽の連続は本当に嫌いだ。

 

ここは一つ、意地を見せるとしよう。

5機存在していたてんとう虫が全て軍曹に集中しているのを確認した後に、蜻蛉のような大型ネウロイを探す。北西の方向にそれっぽい姿が見えた。

てんとう虫と激しい格闘戦を繰り広げている軍曹を尻目に、そちらに向かっていく。燃料は十分。弾薬も殆ど残っている。

 

前に高射砲でネウロイを攻撃した時もそうだが、死に対する身体の拒否反応は目を見張るものがある。先程は回避に全振りされていたが、それは恐らく軍曹が近くに居たからだ。攻撃に転じるより、軍曹が到着するまで逃げていた方が生存率が高かったのだろう。

ならもし、軍曹が手一杯のこの状況下であの大型ネウロイに近付くと、一体何が起こるのだろうか。

大型ネウロイを避けようと手が勝手に操縦桿を動かそうとするが、それを抑え込んで無理やり大型ネウロイに向かっていく。

ガタガタと震える腕を体感すると、少しだけ気が晴れた。自傷行為に走った時と同じ感覚だ。

 

ある一定の距離まで近付くと、痙攣を起こしていたような動きをしていた腕の動きが変わる。それと同時に視界が赤に染まった。

 

強い光に晒されたせいか、視界が残像で埋め尽くされている。何も見えない。

恐らく至近に光線を照射されたのだろう。同時に重い空気の膨張音が聞こえた。

未だに視界は白く染まっているが、突如親指が発射ボタンを握り締めた。腕が小刻みに動いて、照準を調整しているのがなんとなくだが分かった。数秒撃ち続け、残像が姿を消して視界が開けた頃には、ネウロイが撃破された時にバラ撒かれる特有の銀色の金属片が舞っていた。

 

倒してしまったのだろうか。大型ネウロイを。自分が。

とてもじゃないが信じられない。前代未聞の一大事だ。

 

兎も角大型ネウロイは姿を消して、それを察知したのかてんとう虫が2機飛んできた。自分の体はてんとう虫に機首を合わせたまま、勝手に手を動かして離陸時に使用する緊急出力に切り替える。

もうなるようになれだ。エンジンが焼き付くのが先か、自分が死ぬのが先か、チキンレースが始まった。

残弾がどれ程残っているのか分からないが、身体の反応からして二機を倒せる程度の残弾は残っているのだろう。照射される光線を回避しながら、彼我の距離を詰めていく。

1.5kmを切ったあたりからだろうか。また親指が発射ボタンを握り締めた。

発射の反動と唸るエンジンで震える機体、そんな最中これまたいきなり左手が風防を全開にし、激突寸前にようやくてんとう虫を一機を撃破したと思ったら、自分の体は宙に浮いていた。猛烈な浮遊感を感じながら遠ざかる機体を見ると、直後に機体は残っていたもう一機のてんとう虫と激突し、同時に散っていった。

現在の高度なんぞ把握していない。パラシュートが間に合うか不安に思ったが、それは杞憂であった。なんせ身体が勝手にパラシュートを展開していたからだ。

展開時の反動で身体が持っていかれる感覚と共に、死への片道切符が緩慢な落下に切り替わる。

 

ここから下方を見ても砂と岩しか見えない。幸いにも地図と方位磁針はあるので、この砂漠の中で遭難しないで済みそうだ。

 

 

パラシュートを着用していても、着地に失敗する事はある。その場合は骨折や打撲などの軍事行動において致命的な怪我に繋がる。

今回は成功したが、歩き出すと砂漠というものの厳しさが自分を襲った。砂に足を取られ歩きにくい上に、酷く日差しが眩しい。水筒こそあるものの、基地にいつたどり着けるか分かったものでは無い。

それでも歩くしかないのだが。

 

小高い岩に登り、地図との整合性をとる。現在位置の把握をしなければならないからだ。大体の場所は分かるが、それでは基地にたどり着くことは出来ない。

どうやらここは自分が飛び立った基地とは遠く離れているようだ。別の基地の方が近い。

取り敢えず一番近い基地まで向かおう。ここに居ても死ぬだけだ。

 

 

日照りが強く、嫌になる。体力を奪われるし、何より不快だ。まだ湿気が無い分楽だが。

そういえば軍曹はどうしたのだろうか。5機のてんとう虫に絡まれていたのを最後に見ていない。まぁ・・・見た目がどうあれ、彼女もウイッチだ。自分とは比べ物にならない戦闘能力を保持している筈だ。あの程度で後れを取ることはないだろう。

 

それより、上官にどう報告したものか。

自分を除いて部隊は殲滅され、自分は大型1、小型2を撃破したとそのまま伝えればいいのだろうか。

前者は仕方が無いが、後者は信じてもらえるか怪しい。魔法力も無しにネウロイを簡単に落とせてるなら、こんな戦争は既に終わっているからだ。

 

考え事をしていると、普段よりも時間の歩みが早く感じる。ふと振り返ると、砂の上に自分の足跡が延々と続いていた。

・・・方向は合っているよな?不安になってきた。

 

 

どうやら杞憂だったようだ。基地が見えてきた。

街の近くに設営されたそれは、どうやらガリア軍のものらしい。

歩哨に所属と名前を伝え、確認の為に急拵えのテントで待機させられる。各国軍同士、余り連携はとれていない。こんな確認ですら半日掛る始末だ。

 

「確認が取れた。これで列車に乗って帰るといい」

 

日も暮れた頃にやっと、若いガリア人から列車のチケットを渡された。

 

因みに満席で列車の席には座れなかった。

 

 

「その報告は本当か?」

 

そう言って、上官は煙草を吹かしていた。彼が息を吐く度に、裸電球で照らされた室内にタバコの白い煙が揺蕩う。

 

「はい。同空域で戦闘していたガリア軍ウィッチに確認を取ってもらえると幸いです」

 

詰問のような状況に、多少緊張する。自分でも荒唐無稽な事を話している自覚があるからだ。

 

「そのウィッチの名は?」

 

「ジョーゼット・ルマール軍曹と名乗っていました」

 

「・・・ふむ、未だに信じ難いが、確認を取っておこう。下がっていいぞ。事実確認が終わったらまた呼ぶ。それまでは待機せよ」

 

上官は掌をひらひらとさせ、退室を促す。既に彼は蒸発した飛行小隊の処理について考えているのだろう。

 

「了解」

 

上官の部屋を出てから、大きく息を吐く。

目上の人間と一緒にいると気疲れする。階級が絶対の軍隊なら尚更。

兵卒のペーペーから伍長にまでなったが、上を見るときりがない。本当に。

 

 

「戻って来たのはお前だけか…怪我はないか?」

 

自室へと戻る最中、整備する機体を失った整備兵に話し掛けられた。

 

「ええ、幸いにも」

 

「そうか…、まぁ気を落とすなよ。もうここにはお前しかパイロットが残ってないからな…」

 

「飛行小隊はあと二個隊残っていたと思うが…」

 

「今日昨日の空戦で殲滅されたよ。格納庫はすっからかんだ」

 

「嘘だろ…」

 

自分一人で何が出来るというのか。この基地は組織的な抵抗が最早不可能になったという事だろう。そもそも機体が無い。

 

暫くは暇になるなと思いながら、自室へと足を進めた。

 

 

「おめでとう、君の戦果は正式に認められたよ」

 

上機嫌な様子の上官を前に、自分は姿勢を正してその言葉を傾聴していた。

 

「来週には新しく機体が運搬されてくるそうだ…君には期待しているよ」

 

どうやらまたすぐに、戦場へと駆り出されるらしい。




次話はベルリンが解放されたら投稿します。

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