今は昔の百鬼夜行   作:神の筍

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どこか既視感を

どこか既視感を覚えていた。

まるでそれが当たり前だと言わんばかりに眩い閃光が煌めいた。すでに他の妖怪たちは後ろに下がり、石畳に穴が空き土煙が舞う。

 

「ま、さすがにこれくらいじゃやられてくれないわよね」

 

大幣ーーお祓い棒に飾られた紙が揺れた。

腰に手を当て、先ほどよりも高い位置で相手の反撃を待つ。博麗の巫女は幻想郷屈指の実力者、それは管理者である八雲紫でさえ認めるほどである。赤い月を照らす吸血鬼を、桜を探す亡霊姫を、人に絆された鬼を、月からの逃亡者たちをーー、名だたる者を相手にただ一人戦い抜いてきた。もちろん隣には白黒の魔女がいた。しかし、彼女は義務に伴ったものではなく''普通の魔法使い''だ。

 

「ーーっ」

 

直感ーー。

 

宙返りの格好で頭を下げ、背後へ勢いに任せて足を出す。地面を蹴ったような感覚が右足に響くと、すぐにそれを掴んでお祓い棒を振るった。

 

「おっ、と」

 

「っち、当たりなさいよ」

 

「かかか、そう簡単にやられはせん」

 

一歩下がった日和が愉快そうに笑う。 真剣味の無い表情に悪態をつきながらも霊力を込めた札を投げた。

 

「軽いぞ、博麗の巫女」

 

並みの妖怪ならば消滅する霊力を込めたそれを、日和はさらに上回る妖力で打ちはらう。一瞬の停滞とともに、霊夢は再び背後へとお祓い棒を構えた。

 

「さっきからやりにくいわね、あんたっ」

 

「捉えようとすればするほどややこしくなるぞ」

 

瞬きするまで視界に捉えていた。ーーしかし、いつのまにか死角にいる。

二人を除いた妖怪たちは両者の姿を騒ぎながら見ていた。妖怪ながらも霊夢を応援する者、妖怪であるがゆえに日和を応援する者。二者択一のなか、彼らが見ているのは煙のように撒きながら霊夢を攻めたてる日和の姿である。

 

「やはり、まずはそこからか」

 

「彼奴の能力はやりにくいからのぉ」

 

藍とマミゾウは言った。

 

「日和が持つ能力の前に、力や技は無力になる。知っていれば対処できるかもしれない。だが、根本的なところをずらされればそれすらも敵わない。この幻想郷で、初手であいつに敵うのは天性の才(・・・・)を持つ霊夢を除いて他にはいない」

 

笠を投げ視界から日和が消える。霊夢は鬱陶しそうに弾いた。

 

「しょーもないことばっか、早くスペルカードでも使ってみたらどう?」

 

「まぁ、それも良いかもしれんな」

 

開始から繰り返されたのは日和が蒸け、霊夢が防ぐ。霊夢の攻撃は柳に風か、流されるばかりだった。未だ遊ばれているとわかっているのか霊夢が用いた霊力は最初の札のみで肩の息すら上がっていない。

 

「それじゃあ、一勝負(ひとしょうぶ)目だ……!」

 

日和の指に挟んだ札が風に煽られる。

 

 

 

ーー百鬼「『伊吹童子』と『星熊童子』」

 

 

 

「おいおい、面白そうなもん作ってるじゃねえか!」

 

「さすが日和だ、私たちも混ぜてくれるなんてね!」

 

濃密な妖力が現れた。

茶色の二角、赤色の一角。鬼、萃香と勇儀の二人が召喚される。

それを見た霊夢は「やっぱり……」と呟くと苦虫を噛んだような表情を浮かべた。

 

「悪いな、霊夢」

 

「数で押すのは好きじゃないけど、今は私たちで一匹だ」

 

「かかか! 超えてみろ博麗の巫女、まだまだ終わらんぞ!」

 

「笑ってられるのも今だけよ!」

 

鈍い音で地面が没する。鬼二人は刹那の間に霊夢の前に跳ぶと、同時に拳を出す。一撃が容易く命を刈り取る鎌、もちろん死なないように手加減はしている。だが致命傷は避けられずこの先の戦闘復帰は期待できない。そうなれば後は下で集まった妖怪たちに牽制をしている魔理沙に任せることになる。

縫った隙間に体を滑らせ、札を切った。

 

 

 

ーー霊符「夢想封印」

 

 

 

七色の光が二人を襲う。追尾式のそれを交わすように飛ぶがなんとか撃ち落とす。

 

「どうやら、あんたに召喚されたものは力に制限が付くみたいね」

 

「ああ。さすがにそのまま出すのは''すぺるかーどるーる''の意に反することになる。能力に制限を設けることで可能にした」

 

どちらも勝てる可能性がある、それが弾幕ごっこである。故に八雲紫はルールを加えた。避けきれないものを作るのは禁止で、どこかに弱点を用意することで避けられるようにする。これが理不尽なゲームバランスを防ぐためのルールだ。むろん退治(・・)と表した今回とてそれは適用される。

 

「だが、二人はまだ終わってないぞ」

 

「鬼舐めんなよ霊夢!」

 

「これを百持ってきてから他所を見な!」

 

桁違いの力と頑丈さ。古より語られた神話をその身に宿す二人は霊夢が込めたスペルカードを受けても倒れることはない。むしろさらに足を踏み込み拳を振るった。動きを止めるために放った拳は空気を押し風を起こす。バツの字に気圧された風は霊夢の動きを見事に止めた。

 

「……っ、なによこれ!」

 

「ほらっ、これで終わりさ!」

 

上から日和、左右から萃香と勇儀の絶対不可避の攻撃。頭を掴むように出した日和の右手と、振りかぶった腕を二人が霊夢に出す瞬間ーー。

 

 

 

「調子に乗んなっ!」

 

 

 

今までにない圧と霊力が霊夢から滲む。霊夢を中心に嵐が吹き荒れると三人は吹き飛ばされた。

 

「おいおい、なんだ今の霊力は……」

 

「二人はこれで退場よ!

 

 

 

ーー霊符「夢想封印ー散」

 

 

 

……傍らでこいつがやられるのを見とくのね」

 

散った霊力弾が見えるが否や、萃香と勇儀目掛けて飛んで行く。信用か、過信か。上から手を伸ばした日和に霊夢は振り向いており、二人には背中を向けている。

霊力弾に当たった二人から悔しそうな声が上がった。召喚されたときと同様に、姿が見えなくなると並んでいた石畳の上に立っていた。

 

「ちぇ、まだまだ楽しめると思ったのに」

 

「ははは、まあたまにはこんなのも悪くないね」

 

杯を一杯。酒を喉に流せば楽しそうに日和と霊夢に野次を入れる二人に戻った。

 

「あんたもそろそろーー」

 

「とはいかねえな。二番勝負目だ、

 

 

 

ーー百鬼「『金毛白面九尾の狐』」

 

 

 

来いよ、藍」

 

「ーーふむ、次は私の番か。久しぶりに手合わせ願うぞ、霊夢。手加減はせん」

 

すれ違うように霊夢と重なった日和は二枚目のスペルカードを出した。金色のそれを紡ぐと霊夢の隣に八雲藍が現れる。

 

「藍まで……あんたまさか、ここにいるやつら全員出す気じゃないでしょうね!」

 

「さあ、どうだろうな。だが、百鬼の主を討ち取る気なんだ。あと幾人か、倒してもらわんと俺には辿り着けんぞ!」

 

霊夢は囲まれた状況を脱するために小さな弾幕を展開した。日和は煙のように当たらず、藍は九尾で全て弾いてしまう。

 

 

 

ーー式弾「ユーニラタルコンタクト」

 

 

 

スペルカードを出した藍から、青と赤の弾幕が交互に展開される。扇をなぞるような形で迫ってくるそれを、霊夢は地面とつま先が触れながら避けた。

 

「こっちはスペルカードも使えるのね……」

 

「制限付きとはこういうことか」

 

「まったく、藍の相手は昔からめんどくさいのよ!」

 

 

 

ーー夢符「二重結界」

 

 

 

掲げられたスペルカードから赤と紫の二種類の結界が周辺を包んだ。見物と化した妖怪と、魔理沙を巻き込まない程度に広いそれは日和と藍を覆った。

 

 

 

ーー霊符「博麗幻影」

 

 

 

ーー霊符「夢想封印ー集」

 

 

 

博麗の幻影、七つに分かたれるが一つになろうとした弾幕が藍を襲う。本体である霊夢は先に日和を討ち取ろうと接近した。

 

「何度やっても、真正面からは討ちとれんぞ!」

 

三人で挟撃を繰り出したときと同じく、日和は手を突き立てようと霊夢に迫る。速さは幻想郷一と誇るブン屋よりも速いかもしれない。翼もないにもかかわらず、それを可能にするのは大妖怪としての海を彷彿とさせる底知れぬ妖力だ。

今まさに巫女服に包まれた白い肌に指が触れようとした時、

 

 

 

「……んん?」

 

 

 

煙を撒いたように、日和の能力と似たように霊夢の姿が掻き消えた。

 

「ーー日和! この結界は夢と現世の間を再現している、目に見える全てのものは虚と思え!」

 

右方で幻影と戦っているが、藍の声は上方から聞こえてきた。

 

「なるほど、俺と化かし合いをしようって言うのかい」

 

「そのつもりは無いわ。あんたを今、落とすつもりよ」

 

耳元で囁かれた声に反応し首を向ける。逆さになった霊夢と目のあった日和は思はず腕を振るうが煙と消える。

反応できたのは、長年生きてきた経験がゆえであろう。

 

「ーーっ」

 

裏拳の要領で出した一撃を霊夢はあわや額に当たらんといった寸で受け止めていた。

 

 

 

ーー式輝「四面楚歌チャーミング」

 

 

 

藍が二枚目のスペルカードを出した。

蛇のようにうねる青く細い弾幕、霊夢の身長と同等の大きな弾幕が日和の姿をかき消した。

 

「幻影だけで済むわけないわよね……!」

 

それでも、あの九尾を足止めしたのは霊夢だからこそだろう。一尾一振りが十の妖を、人を殺す力を持った藍を破るのは並大抵の存在には不可能だ。

乾いた血色の弾幕を避けながら、霊夢は自らが張った結界が割れていくのを目にする。今回の符は、事前に霊力を貯めに貯めたやつにもかかわらず容易に割った藍には後ほど折檻すると決めた。

 

「そらっ、まだまだーー!」

 

手を広げ、尾が九つで半円を形造る。色の白くなった先から狐火が起こり霊夢に迫る。

 

「これだから技巧派は嫌なのよ、魔理沙みたいなパワー馬鹿なら良いのに!」

 

「おい、それはどういうことなんだぜ!?」

 

避けた狐火が地面に触れる。するとさらに大きくなった狐火は膨れ弾け、百を超える弾幕と化した。

 

 

 

ーー夢符「封魔陣」

 

 

 

青白い結界が立ち上る。

さっきの結界とは違い、今回の結界は明確に空間を仕切る目的のもの。これもまた三日三晩霊力を注ぎ続けたものであり、破ることができるのは八雲紫といった根底から結界のあり方を崩せる者だけだろう。

 

「ほう、なかなか硬そうだ」

 

囲まれた当人ーー日和は面白そうに結界を手を丸め叩いていた。中身の入った酒瓶を落としたような音に霊夢の実力を感じた。

だが、その余裕も長くはない。結界の中には先ほど藍が放った狐火も含まれ、遮断している結界に触れると弾け膨れ数を増した。

 

「おいおい、どうにかしてくれ藍!」

 

「黙れ馬鹿者、こっちは霊夢がいるんだ。マシと思え!」

 

霊夢の弾幕を紙一重で避けながら藍は叫んだ。

 

「紫の式なのに、博麗の巫女たる私に反抗とはいい度胸じゃないーー藍」

 

「ぐぅ、違うんだ! これは紫様のためでもあるんだ! ……そ、それに、今の私は八雲藍でもあり百鬼夜行の『白面金毛九尾の狐』だ! 関係あるかぁーー!」

 

藍は自棄になったのかスペルカードを一枚切りながら霊夢に肉迫する。

 

 

 

ーー式輝「プリンセス天狐 - Illusion-」

 

 

 

霊夢の近くにいる藍は全方向に向かい弾幕を撃つ。直感と反射神経を頼りに霊夢は避けていくが、一番弾幕が薄い場所に出ると上方から特大の弾幕約三十も飛んできた。

 

「甘いのよ、こんなものっ」

 

弾き、避け、相殺し。

すべてを裁くと霊夢は上で少し息を荒げる藍を見上げた。

 

「霊符ーー」

 

「まだ倒れてくれんか……

 

 

 

ーー式輝「狐狸妖怪レーザー」

 

 

 

……! …………ん」

 

手を前にかざすが藍のスペルカードが反応することはなかった。

 

「狐狸妖怪レーザー! …………あれ」

 

「そうよね。あんたみたいな奴を召喚出るだけで、その制限は多いはず。(あいつら)はスペルカードが使えず肉弾戦のみ、(あんた)は肉弾戦が行えずスペルカードのみ。でも、スペルカードが無制限なんてそんな理不尽なことはできない」

 

「ま、まさか……」

 

「三枚が限度なのよ! くたばりなさい、このぽんこつ駄狐!」

 

 

 

ーー霊符「夢想妙殊」

 

 

 

虹色に輝く誘導弾が藍に向かっていく。無防備になった藍はそれを避けることはできずに正面から当たった。焦げ臭い匂いが立ち込め、尾の萎れた藍が石畳みにヘタレ混んだ。

 

「覚えとけ日和めは……」

 

「ふはは、無様よな狐」

 

「黙れ狸」

 

皮肉りあう二人をよそに結界内で狐火から逃げ回っていた日和は二枚のスペルカードを取り出した。

 

 

 

ーー夜行「ぬらりとすり抜け」

ーー夜行「ひょんと浮く」

 

 

 

結界の角に吸い込まれるように姿が消える。やがて結界の外に姿を見せるとやれやれと溜息を吐いた。

 

「回避用だったもんをここで使うとは……」

 

二枚で一枚のスペルカード。どちらも無ければ使うことはできず、どちらか一枚では何の効力も無いものだ。日和はこれを霊夢が必殺とした弾幕を避けるために用意していたのだが、思ったより結界が強固で使用することになった。

 

「妖怪と人間が戦えるようにするなんて言ってたが、強ち間違いじゃなかったな」

 

いつか見た八雲紫と霊夢の弾幕ごっこを思い出す。

戦っている理由は見物人と化した日和には分からなかったが、それでも自分より上等な能力を持った八雲紫が勝つのだろうと見ていたが勝敗は自分の予想と反した。人間である霊夢が八雲紫に勝つ姿を直に見たのだ。境界を操るという強力な能力を持つ、八雲紫に。

そのとき日和はようやく弾幕ごっこ、スペルカードを理解したのだ。それは妖怪の戦いとは違い、人と妖が楽しむことができるものであると。

 

「そろそろボスステージに行っても良いかしら?」

 

「かかかっ、まだ折り返し地点だぞ。

 

 

 

ーー百鬼「団三郎狸」

 

 

 

頼んだぞ、マミゾウ」

 

「儂を呼んだからには先の狐よりは仕事をすると約束しよう」

 

 

 

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