日和ーーぬらりひょんとマミゾウが出会ったのは今より八〇〇年ほど前。九尾の狐が八雲藍になる少し前だ。
見知った妖怪は人間に淘汰されるか、長命を利用してこの国を見廻ると言って自分の前から消えた。生まれたときから自らの力を知ったマミゾウは、聡明な頭から必ずいつか現世に飽きて消えるだろうと自覚した。なればやれることはやろうと、好いも嫌いも両方楽しんでやると人にまで化け輪に入った。
『お前さん、人に化けるんだろう。面白いことをしてるじゃねえか』
そんな折、山奥の岩肌になぞるように建てた自分の家に帰ると知らない
『何ぞ、お主。ここが佐渡ノ団三郎、マミゾウの敷居と理解して越えておるのか』
『かかか、そう硬いことは言うな。同じ妖怪、仲良く行こうじゃないか。聞けばここ佐渡は酒が美味いと聞いた。なにか無いのか?』
『ずいぶんと肝の太いもんが来たの。その妖力から儂を喰いに来た奇特な奴かと思うたが……』
『共喰いはせん。同じ種で争うなんてくだらん』
『呑気な奴じゃ。今の世、増えすぎた妖は我が世我が世と血気盛んにもかかわらずそんな考え方ができるなんての』
『どうでも良いさ、そんなもん。ほら、上等な壺酒があるんだろう? 出すが良い』
『しょうがないーー』
不思議な奴だった。変な奴だった。よもやマミゾウは、そんな奴が一〇〇〇年を越える付き合いをするとは思いもしなかった。
一、
「なるほど、儂にかかった制限はこれか」
ーー壱番勝負「霊長化弾幕変化」
持っていたスペルカードが太鼓を叩いたような音とともに虚空に消える。明るい青が十六現れると、人型を模した弾幕に変化した。童遊びであるかごめかごめのようにマミゾウのあたりを旋回し霊夢に向かって弾幕を展開し始めた。
「正直あんたの相手が一番したくないのよーーね!」
ーー夢符「退魔符乱舞」
空に舞った赤い札が可視化できるほどの霊力を纏う。無造作に投げた札は一直線にマミゾウのところに向かうと人型を模した弾幕を相殺していく。
ーー霊符「陰陽印」
さらに霊夢は急降下し、今いた場所に向かって掌を出す。光の輪が起こり、二色にわかれた光線が日和に向かって放たれた。それに対し日和も妖力だけを無造作に込めた弾幕で迎え撃つ。
「やるなぁ、それならこれどうだーーマミゾウ!」
「おうさ!」
迫り来る札を捌いたマミゾウは声に合わせて日和の元に行く。やられる前に落とすと霊夢は弾幕を打つが避けられてそれを許してしまう。
「いつも驚きを提供する化け狸の真骨頂じゃ!」
木の葉を抑えながら腕相撲の要領で二人は手を握る。にやりと笑った二人はくるくると周り、空気に溶けていった。
「……」
数秒、誰もいない間が続く。
霊夢は自らに警鐘を鳴らし警戒するが、視界から二人は完全に消えていた。制限はあると言え、大妖怪を退ける霊夢を見ていた魔理沙は、いつもの直感は無いのかと眺めるが霊夢も動くことはない。今は動くべきではない、と計算された道よりも信ずる自身の感は囁いていた。
「ーーかか、背後が空きだぞ」
瞳のみが背後を向く。声に反応すべく腰を捻るが突き出された腕に艶のある黒髪が触れた。
「ーーな、めんなっ!」
寸での所で頭を動かし避け、腕を掴んで一本背負いで地面へと叩きつけた。修行中の身であった幼い頃は人外相手にする技術ではないと文句を垂れていたが、まさか今役に立つとはさすが私と自身を褒める。
「だから、
「……ーーマミゾウっ」
下に敷いた日和の声が女へと変わる。口角を描いたいやらしい笑みは里で見た化け狸のそれだ。
化かされたと文句を出す暇なく弾幕が迫る音が耳を撫でた。
「終わりだな、博麗の巫女」
天性の才を持った博麗霊夢だからこそ、であろう。八雲紫が大陸を含め周り、楽園の調停者に相応しい人間を探した。小さな島国の、ある地域で生まれたある一族の赤子。攫われたことに今更文句はない。巫女として奉仕することに文句はない。彼女が愚痴のように吐くのはいつも賽銭箱が空であるとその一言のみ。
直感に頼るまでもなく霊夢はスペルカードを切った。
ーー夢符「二重大結界」
霊夢を中心に二重の結界が展開された。日和に変化したマミゾウごと呑み込み、上から日和が放った弾幕は全て弾かれた。さらに霊夢は結界を都合よく通り抜ける弾幕を繰り出す。
「うおっ」
「ぬっ」
今までより量の多い弾幕に対処して行く。しかし結界内で動きを制限されたマミゾウは紙一重に避けつつも角に追い詰められた。
「やるな、博麗の巫女」
「あんたの戯言には付き合わないわよ。ただでさえ後が控えてるのに、そんな暇無いわ」
ーー神技「八方鬼縛陣」
神の技、冠した名に相応しい霊力が込められたスペルカードを掲げる。円を描き、さらに間を縫うように四角い弾幕が敷き詰められている。
「こりゃ、まずいな……」
ーー弐番勝負「肉食化弾幕変化」
目の前のマミゾウーーーーーーではなく、結界外の日和から声がした。彼(?)の周りには紺碧の獣が列を成し、霊夢の弾幕に当たっていく。
「どうせ、そんなことだろうと思ってたわ!」
ーー神霊「夢想封印ー瞬」
そのスペルカードは霊夢にとって奥義に入る一枚。
今まで使ったスペルカードとは一線を画した、本来の弾幕ごっこでは一枚のみと条件付けられているものでもあった。
ーー逢魔「妖怪の総大将」
対し、日和はようやく攻撃用スペルカードを使用した。
一〇〇に及ぶ、彩り豊かな弾幕を出し、霊夢の弾幕を撃墜していく。日和の弾幕はさらに霊夢の弾幕に当たると数を増やし結界内で霊夢を追い立てる。
これによって本腰を入れ始めたのか、結界を足場に全方向から霊夢を無力化せんがため肉薄する。
「ーー邪魔!」
自ら結界を解いた霊夢はすぐさま上空に飛び、化けを解いたマミゾウをも超える。
ーー神技「八方龍殺陣」
鬼を縛る陣があれば、霊夢は妖ではなく神と同格の龍すら落とす。地に陽光が注ぐように、視界を埋め尽くさんばかりの弾幕が現れた。
「儂に任せよ」
ーー参番勝負「延羽化弾幕変化」
「繋ぎーー」
ーー四番勝負「両生羽化弾幕変化」
赤い鳥と青い蛙が入り乱れる。花吹雪のような光景に視界が奪われ、外野の妖怪たちは騒めいた。
「うわ、霊夢すげー」
「はははっ、さすが博麗の巫女だねぇ」
陽は落ち夜が来た。逢魔は彼方へと去り、夜空は弾幕が星と化す。
「終わりよーーマミゾウ」
もはや数えきれぬ弾幕がマミゾウを襲った。一発当たるとなし崩しに防いでいた弾幕が崩れ、二発三発と煙を上げて落ちて行く。そのまま行けば地面にあたるかと思われたが、萃香や勇儀、藍たちと同様いつのまにか石畳みの上に立っていた。
「……はぁ、疲れたの」
「いやぁ良かったよ二ッ岩の、なかなか面白かった」
「酒呑童子にそう言わるとは光栄じゃ……日和、礼にお主の煙管を寄越せ!」
「ん……ほらよ」
懐から煙管を取り出した日和は、勢いよくマミゾウに向かって投げた。回転したそれを器用に指にかけて受け取ると、火口を叩いて妖術で煙を出す。二度三度空気を入れると口から煙を吐いた。
「
「……うるさい」
二、
月が輝いている。欠けることなく朧げに、それでいて確かに己を主張する姿に吸い込まれそうだ。
幻想郷では人気のない西の森。そこでは今、異変解決のために博麗の巫女が妖怪たちを相手に弾幕を星の数ほど煌めかせる。
「かっかっか、ここまでとは思わなんだ、博麗の巫女。霊夢と言ったか」
「私もここまでとは思わなかったわ。本来ならお月見と洒落こんでるのに、今ならやめても半殺しで許してあげるわ」
「そうはいかんさ。初めも言ったが俺もそれなりに大義があって生きている。吐いた唾を飲み込めるほど、俺は下品じゃない」
「ふん、その言葉忘れるんじゃないわよ」
「もちろん」
「そーー」
霊夢の背後に再び眩く弾幕が展開された。少し前と同じように石畳みに穴を開けると、お祓い棒を背後に振るった。
「認識をずらす、かしら」
「まぁ、八雲の風に言えば''認識をずらす程度''の能力だな」
お祓い棒を受けた右手と、逆である左手を振り下ろす動作をする。それに霊夢は日和に目を合わせたまま右にずれると弾幕を避けた。
「もう慣れたわ」
一言、右足の先に向かって弾幕を放つ。空間が揺れたと思うと少し驚いた顔をした日和が現れた。
「博麗の巫女……いや、霊夢。俺は後二枚スペルカードを切る。それまでにお前さんを討つことができなければ俺の負けだ」
「このまま行けばジリ貧だろうし構わないわ」
「かかっ、遊興のわかる女で良かったぞ」
戦いは終盤を迎える。芸術のような弾幕はやがて終わりが起き、祭りの終わりに似た雰囲気が纏う。
日和は霊夢よりも高い位置に来ると一枚目を掲げた。
ーー宵口「大妖怪と陰陽師の密会」
五行に倣った、手を広げても抱えきれない大きさの妖力が浮かぶ。今すぐに弾けそうなそれは未だ膨張を続け圧迫している。
「そらっ、どうする!」
ごう、と突風を鳴らし霊夢に迫る。視界一杯に来る五色の妖力玉を迎え撃つべく霊夢は久しく感じる霊力の枯渇に鞭を打ち唱えた。
ーー神霊「夢想封印」
五つに対し繰り出したのは七つの虹色の霊力弾。大きさは叶わぬが拮抗するだけに足りる霊力が込められていた。雷が落ちたような音ともに計十三の弾幕がぶつかり合う。
辺りに霊力と妖力が漏れ、あわや外野に当たるというところで紫色の結界が大きく二人を包んだ。
「ーーまったく。藍、加担するのは良いけどここを取り締まることができるのはあなただけなんだから考えなさい」
「ゆ、紫様。申し訳ありません」
スキマから八雲紫が現れた。
藍に軽く叱責すると、扇を張った結界に向けさらに妖力を込め広げた。
「くっーー」
「やりおる」
陣羽織が激しく揺れている。霊夢は目頭に置いた腕から日和を見るが、相手は当たり前かのように未だ浮いていた。しかし、どうやら少しは当たったのか服が少し焦げているような気がした。
「これが最後を飾るには相応しいーー」
日和は紺色のスペルカードを懐から出した。霊夢は先ほど聞いた最後のーー''ラストワード''であると理解し、自身も最高のスペルカードを取り出した。
「
ーー*百鬼夜行*
「これで終わりよ、妖怪!」
ーー*夢想天生*
景色が白黒に見えた。それはおそらく、濃密な霊力と妖力がぶつかったことによる空間障害。強力な情報量に耐えられなくなった生を司る根幹がエラーを起こしたのだろう。
妖どもは満月を背に立った。
百に並ぶ妖は博麗の巫女へ牙を立て、寄る辺に勝利をもたらさんと迫り来る。
星の重力すら、神々の威風すら、如何なものすら彼女を捉えることはできない。万物から浮いた彼女はただ一人、宙を漂う。
結末を見ていたのは二人。
人と妖怪が共存する楽園の管理者、八雲紫。博麗の巫女に唯一寄り添う白黒の魔法使い。前者は既にそれがわかっていたのだろう。慈愛に満ちた顔ですべてを見届けると、口元に当てていた扇を鮮やかに閉じた。
後者は歯痒い思いでその光景を眺めていた。ああ、私はなにもしなかったと慟哭しながらも、これが正しい終わりなのだと感じていた。彼女は何も言わずに風に煽られ落ちそうになった帽子に手を当て、いつものように好奇心旺盛な顔でにやっと笑った。
光に包まれる中、一匹の大妖怪が垣間見たのはいつの日かの暖かい思い出。
相容れぬ存在と暮らした、忘れじの記憶である。
やっと終わったよ戦闘。このssは日常系鈍感主人公ハーレムSF二次小説だから(大嘘)戦闘なんてなくて良いんだ(解脱)
以下、解説。
・百鬼「『伊吹童子』と『星熊童子』」
萃香と勇儀を召喚するスペルカード。時間制限は特に無く、一定のダメージを与えられ次第消える。萃香は酒呑童子として召喚されているわけではないため、少し弱体化している可能性がある。
スペルカードは使えず、肉弾戦のみと制限がかかっている。ほとんど今回のような弾幕退治ごっことかいう霊夢にしか使えないものである。
百鬼「『金毛白面九尾の狐』」
実は、式神として格を落とされた藍を本来の神獣として出す予定でしたが私の力量がなく断念しました。
スペルカードは三枚と制限があり、藍が十二神将、式神を呼ぶスペルカードは使えない。
百鬼「『団三郎狸』」
マミゾウを召喚するスペルカード。原作か小説かで、マミゾウめっちゃ強いって読んだ気がする。団三郎狸の記述を見てみると愉しく生きる化け狸、というのが本当に似合うお方。個人的に私が結婚したい人一位。
制限は「壱番勝負から四番勝負」までのスペルカードしか使用不可。肉弾戦は可能である。
百鬼「『第六天魔王波旬』」
今回使わなかったスペルカード。
仏道を阻む、外道のものとして天魔ちゃんを超強化して出そうとしたが断念。単純に私の力量不足により、語彙と文章力が枯渇してしまう。また、彼女出しちゃうとあらゆる仏道の人が弾幕出しながら飛んできそうなのでやめました。
宵口「大妖怪と陰陽師の密会」
五行に倣った色の大きな弾幕五つを出す。弾幕に当たったこれは、弾け一つにつき百の小さな弾幕に弾ける。主人公の必殺カードの一つ。
宵口「妖怪の総大将」
百の弾幕を出す。すべて誘導性で、弾幕を潰す弾幕であり相手の弾幕を巻きこんで相手を狙うもの。
*百鬼夜行*
ラストワード。最後にしか出せず、これを出して防がれたらデュエルに敗北する。