今は昔の百鬼夜行   作:神の筍

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男はふらふらと

 

 

男はふらふらと人里を歩いていた。

街並みを行くのは昔よりも上等な服を着た商人や百姓。建物も木造建築ばかりではなく、壁は石を潰したより丈夫にするなど少しずつ進歩している。

幻想郷の管理者曰く、人間が外のように科学力を持てば取り返しのつかないことになる。故に、人間が持つ技術は見極めて、行き過ぎたものは排斥することになる。均衡を保つ妖怪たちが記憶を曖昧にし、その歴史を無くす。そうやってこの世界は存在している、と。

人間の成長は馬鹿にできないということは外の世界に生きてきた妖怪は痛いほど理解している。

 

「団子五本、二つはみたらしで」

 

「はいよ。残りは三色でいいかい?」

 

「構わんよ。この辺にお邪魔するぞ」

 

長柄の番傘で日陰が作られた椅子へと座る。長椅子になっており、昼間どきで団子屋に座る者はいないのか独占状態になっていた。

炭焼きにされたみたらしが香ばしい匂いを発し、辺り一面に溶けていく。

 

「おお、そう言えば知ってるかい? この辺りに住んでた三郎さん家の息子、結婚するんだって」

 

「なにぃ? あのちっこい坊主が結婚だと?」

 

「ちっこいって、あんたがこの店に来るようになって何年経ってると思ってるのさ。少なくとも私が子供の頃から見てるんだから……」

 

「はははっ、いやさ。俺たちゃ妖怪は人間とは生きてる年月が違うからな。たかが十年や二十年じゃあ余程のことがない限り時間が過ぎたって感じないのさ」

 

「難儀なものだねえ妖怪も」

 

「難儀? 俺たちが?」

 

「ああ。だって短いが故に楽しめる時間(・・)が感じられないんだろう? 私たち人間よりかよっぽど生きて暇さね」

 

「確かに、確かにそうかも知れんな。考えたこともなかった」

 

「ま、妖怪には妖怪の生き方があるだろうから構わないがね」

 

「たりめえよ、こちとらここの団子屋を何代も食べてきてるんだぞ? それだけで十分楽しいってもんよ」

 

「はいはい、それはありがたいことだよ。……はい、三色にみたらし、代金はあとでいいよ」

 

「おおっと、それと適当に包んでくれるか? 三郎ん家の坊主が好きそうなやつを」

 

「わかったよ」

 

団子屋の女将は平皿を男の隣に置くと、暖簾の奥へと消えてゆく。厨房は表から見える場所にあるが、包みは奥にしまってあるのだろう。そんな女将に目をくれず、男は団子を口に放り込んだ。

 

「初代は白団子、二代目は餡子を入れてたな、先代はみたらしを追加して、今は三色にみたらし。どんどん品数が増えていくな」

 

男が団子が好きだった、というよりも人間が作るものが好きだった。食べ物、酒、町。先の女将が言うように、妖怪という種族は長命がゆえに疎い。今やらずに少しずつ後回しにして忘れている、なんてことはざらである。

 

「ーーまたここにいたのだな、日和」

 

「んぁ? その声は九尾の狐か」

 

「今は紫様より藍という名前をもらっている、種族で呼ぶなといつも言ってるだろう?」

 

「すまんすまん。どうにも俺は式としてのお前が想像できなくてな、忘れてしまう」

 

「はぁ。その貧相な頭にわかりやすいよう教育してやろうか?」

 

「誰が貧相だ。今よりも昔を大切にする、人間らしいだろう?」

 

「お前は妖怪だ。人間の思考を持ってどうする」

 

「かかっ、まあいいじゃねえか。一本食うか?」

 

「いただこう」

 

藍は男の隣に座ると団子を一本取る。

顔に出るような人物ではないが、尻尾がひょこひょこと動いているためお気に召したのだろう。かく言う男も、藍がこの団子屋に何度か訪れているのを知っていた。

 

「それで、なんで人里にいたんだ?」

 

「村の様子見と、紫様から守護者に対する定期報告を預かってな」

 

「慧音に? 大変だな、あいつも」

 

「あの半妖には私たちも感謝している。本来、里の守護など人間がやることだがタイミングの良いことに半分妖怪、半分人間がいた。妖怪と人間が暮らす幻想郷の人里にはありがたい存在だ。能力も管理という面では重宝するものだからな」

 

「それを自分から進んでやってるってのが驚きだ。そんな面倒な肩書き、俺にゃごめんだ」

 

「それをお前が言うのか? 今は昔とは言え日和も……いや、違うな。お前はあくまでも遊び友達だった、と言うんだろう?」

 

「おうさ。同じ釜の飯を食って、盃を交わして歌う。そんな仲間が昔はいたのさ」

 

「今も幻想郷にいる奴はたくさんいるだろう? 集まったりしないのか?」

 

「んん、どうだろうな。たまに歩いてりゃ会うような奴もいるが、基本的に挨拶するくらいだな。もっとも、俺が会わないというよりかは向こうが気を遣って(・・・・・)くれてんだろうけどな」

 

「そうか……ま、もう一度集まるようなことがあればさすがに紫様が出向くだろうな。悪さをするような性格じゃないのは知っているが、見逃せるようなものでもない」

 

藍はいつの間にか出ていたお茶を一口飲んだ。

 

「天魔なんか今も酒盛りに誘ってくれるが、他のはなぁ。鬼共は地下に篭っちまったし。萃香とはまだ呑んでるが」

 

「そう言ってやるな。鬼もあれでいて悲しい種族だ。強すぎるが故に、寝首を掻くしか方法がなかったのだからな。認めたくはないが人間のほうが上手だった」

 

「くくく、面白い生き物よな。一が無理なら二を考え、二が無理なら一と二を足して掛けて割って、想像もつかんことをやる。だからこそ見ていて飽きん」

 

「そういうところは紫様と似ているな。あの人は妖怪や人間もすべて愛おしく思っている」

 

「違うとこといえば、俺は没入することがないことだな。生き物はやがて死ぬ。明日死のうが百年後に死のうが変わりはしない。それが今日まで酒を呑んだ仲間としてもな」

 

だが、と男は続けた。

 

「最近は、ここに来てからその気持ちもなんとなくわかる。ここの団子屋の味も、どこにでもいるような小妖怪も、今を生きている人間も、俺からしたらどれもが輝いて見える」

 

「お前……」

 

妖怪を殺すのはなにか? 剣か、矢か、毒か、病か、寿命か、そのどれでも無い。妖怪を殺すのはーー時間である。肉体が朽ちる前に精神が枯れ、木のようになって腐り果てる。だからこそ妖怪は娯楽を見つけ興じ始める。

 

「それを見ているだけで楽しいさ。昔からそうだった。俺は酒を呑んで、濡れ縁から部屋で騒いでいる奴らを見るのが好きだった。でもな、たまには入りたくなることがある。音を奏でる付喪神と歌ったり、鬼と呑み比べを競ったり、来たばかりの妖怪にちょっかいをかけるんだ」

 

「……」

 

「バカな騒ぎを起こして、面を食らって怒った人間が札を持って攻めてくるんだ。てんやわんやに抗って、最後は笑って走って逃げる! 女将には時間の流れが感じられないなんて言われたが、さすがに千年も前のこと懐かしく思う」

 

「戻りたいのか? その時代へ。ここはつまらないか?」

 

「いやまったく、でも刺激が足らん。停滞している。まるで動物園だ! …………だから、刺激(・・)を起こそうと思う」

 

「まさか……!」

 

藍は思わず立ち上がる。

 

「ああ、そうだ。藍が考えてる通りだ。ーー異変を起こす」

 

男は最後の団子を手に取る。子供のような笑みを浮かべ、横薙ぎに団子を一口で食べた。

 

「気ままに生きる大妖怪が起こす

 

ーー百鬼異変さ。

 

借りを返してもらうときが来たぞ、藍?」

 

「な、なんてことだ……」

 

こめかみを抑えるように頭を抱え、音を立てて座った。

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

異変、と呼ばれる事態が幻想郷には八つあった。厳密には九つであるが、最初の一つは現在のルールに基づくものではなかったため割愛される。

 

一、紅霧異変

紅魔館と呼ばれる館に住まう吸血鬼を中心に紅霧を起こした。

 

二、春雪異変

白玉楼、亡霊の主人が春を奪い去った。

 

三、萃夢異変

太古より力の象徴とされた小さな鬼による終わらない日々。

 

四、永夜異変

月の民による策謀。月を隠した永い夜。

 

五、花映異変

外の世界の影響で幻想郷中に花が咲いた。

 

六、風神異変

新たに現れた神々による、妖怪の山を巻き込んだ出来事。

 

七、緋想異変

天に住まう人々により、気質が天候に現れた。

 

八、地霊異変

忌み嫌われ、地上に飽きた者たちが住まう地底より怨霊が解き放たれた。

 

その全ては人間と妖怪の均衡、中核を担う博麗の巫女によって解決された。一人だけではなく、時には仲間とも言える存在があった。

スペルカードと呼ばれる人間が妖怪と、妖怪が人間と、はたまた妖怪が博麗の巫女と戦えるように考案された方法によって決着がつけられた。

男は異変のたびに面白そうだと酒の肴にしていた。しかし、今回はそうではない。起こす側なのだ。

 

「久しぶりだな、マミゾウ」

 

「おお、おおっ、おお! 日和ではないか、久しぶりじゃな!」

 

男はまだ人里にいた。

その辺境、大通りに比べれば人の姿が疎らな場所。『二ッ岩金貸屋』と看板が挙げられた店だ。

声をかけると奥から女が出て来た。垣根色の洋服に赤茶のスカート。お尻には立派な一本の尻尾がある。辿るように頭を見ると獣耳もあった。

 

「元気そうで良かった。今は暇をしてるか?」

 

「全然問題ないぞ。どうせ人なんか来やせんのじゃ、お前が来たところで閉店じゃ!」

 

退いた退いたと端に追いやられ、マミゾウは手慣れた様子で看板を下ろす。座敷に座布団を投げ手招きをした。

 

「邪魔するぞ」

 

「うむ」

 

飛脚足袋に似た靴を脱ぎ座敷へと上がる。日当たりが悪いのか少し湿っとしており、畳に影が差していた。男がそう感じたことに気づいたのか、マミゾウは引き戸式の窓と雨戸を開け放った。

 

「開けるといい風が森から入ってくるのじゃがな、銭が舞うからいつも閉めておる」

 

頬を撫でるように風が吹く、同時に太陽の香りもする。

 

「ほう、陰気臭くなったと思ったがそうでもなさそうだ。元気にしていたか?」

 

「あまり変わりはせん。変化と言えば外から幻想郷に流れ着いたことと、酒を呑む隣人がいなくなったことくらいじゃな」

 

「酒のほうは俺がいるから解決したな。またぞろいつか、上等な酒を呑もう」

 

「うむうむ。お主が持ってくる酒はいつも美味いからな。今からでも楽しみじゃ」

 

「宴会を開くのはいつも俺だったからな、美味い酒を用意するのは当たり前だ」

 

「ははっ、そうじゃな、そうじゃった。それで、今日はこうして世間話をしに来たわけじゃないだろう? 何用じゃ? 金を借りに来たわけでもあるまいし」

 

「ああ、最近平凡な時間が続いてるだろう?」

 

「ーー乗った、面白そうじゃ」

 

「えらく早い返事だな。今日は説明だけして帰ろうと思ったのによ」

 

「いや、儂も暇で仕方なくてな。異変、とやらの解決は博麗の巫女の仕事で儂ら妖怪、ましてや大妖怪は手出しはできぬ。つまらんしな。なにか起ころうかと待っておったがなにも起こらん、そんな最中に愉快な誘い。乗らなんだがつまらんて」

 

「おぉ、根は変わってないようだな佐渡の二ッ岩」

 

「くく、それはお主も同じじゃろう百鬼の主よ」

 

どこか汚くげない表情を浮かべながら二人は話す。

 

「して、どのような異変じゃ?」

 

「おう。それはなーー」

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

男がマミゾウと談義している間、男から自分の正体を探すように言われた射命丸文は人里でにとりを降ろしたあと、そこで聞き込みは行わずに博麗神社へて飛び立った。

 

「霊夢さーん、いらっしゃいますか!」

 

急な速さで砂埃を立てながら着地すると、賽銭箱の横に積まれた落ち葉が舞った。

 

「ーーくぉらぁ! バ烏天狗! 来るときはいつも風立てんなつってんでしょうが! てか来んな!」

 

「ひ、ひぃ。あとで掃きますから今はご勘弁を!」

 

その音を聞き走り出て来たのは博麗神社の主、今代の巫女博麗霊夢。紅白の巫女服(?)を着こなしており、掃除中だったのかその上にエプロンと箒を持っている。

 

「別にいいわよ。で、なに? あんたが来ると碌なことじゃないでしょ? ちなみに取材は有料よ、お金を持って来なさい」

 

「あやや、さすがは強欲巫女。人里で恐れられているだけありますね……」

 

「ーーあぁ?」

 

「あ、いえ、なにも。はい……。んんっ、時間も惜しいので本題に入りましょう」

 

わざとらしく咳払いをするとメモとペンを取り出した。

 

「大したこと、でもないと言えばないんですが少々ご質問が……日和様の正体に繋がるようななにかを持ってらっしゃらないかと思いまして」

 

「日和? 妖怪? そんな奴いたかしら……」

 

「あ、ほら。前回萃香様が起こした異変の際、萃香様と屋根の上で呑んでいた男妖怪の方ですよ」

 

「あー、なんかいたわね。誰かわからなくて紫に聞いた気がする」

 

「スキマ妖怪に!? これは大ヒントな予感! その内容を直接答えにならないくらいに教えてもらえないですか?」

 

「なにそれ面倒くさいわね。てか私も名前を聞いただけでどんな奴か知らないわよ。一応紫や藍たちと同じくらい長生きで……たしか東の生まれと言ってたかしら?」

 

「東、というと豊島郷辺りでしょうか……ぐぬぬ、都から東かどうなのか微妙ですね」

 

「あー、たぶん外の世界の都からだと思うわよ。興味なかったから覚えてないけど、東の生まれっていうのは藍が言ってたことだから」

 

「ほぅほぅ、八雲の式が。つまりそちらとも交友があったと」

 

詳しくはあとでまとめるとして、文は旧所在地として有力な情報を掴んだ。東と西の妖怪は特色が大きくわかれ、東は組織的、西は単独的な者が多い。かく言う妖怪の山はもともと東にあった。ただし、それはあくまでも目安的なものであり『京妖怪』という妖怪の中ではブランド級で最上級の力を持つ妖怪たちが西では集まっていたりしていたため参考程度だ。

 

「や、でも妹紅も会ったことがあるとか言ってたわね」

 

「人里の不死人ですか?」

 

「そ。あいつが昔外の世界で祓い屋紛いのことをしてたら都で会ったって」

 

「東と思えば今度は都。有力な情報を掴んだと思えばますますわかりませんよ〜!」

 

「知らないわよそんなこと。てかなんであんたがその妖怪のこと調べてるのよ」

 

「いや、実はですね……」

 

文は調べることになった経緯と報酬を霊夢に話した。その際霊夢はなんでもだったら私も参加して一生分のご飯代たかろうかしらなんて漏らしていた。勘の鋭い霊夢が参加すればさすがに男も冷や汗を掻きそうである。

 

「ふぅん。ま、普段からのら(・・)りくらりしてるような妖怪みたいだから案外住処なんかないのかもね。もしかしたら人ん家に勝手に入って物色するような妖怪なのかもしれないわよ」

 

「そんなことあるわけないじゃないですか! 私たち妖怪の山の長、天魔様が敬称を使うくらいのお方ですよ! そんな小物妖怪みたいなことして大妖怪になってみてください、今頃私なんて霊獣になってますよ!」

 

「なんであんたが霊獣になれるのよ。八咫烏に怒られるわよ」

 

「霊夢さんが変なこと言うからじゃないですか!」

 

「うるさいわねぇ、耳元で叫ばないでよ」

 

「うっ、すいません……ですが振り出しに戻ったような気が……」

 

「人里のほうがあいつを知ってる人は多そうだけどね。私もよく人里に行ったとき見るし」

 

「えぇ霊夢さん忘れてたんじゃないんですか?」

 

「忘れてたわよ。でもよく思い出せば確かにいろんなところで目に付くなって思っただけよ」

 

「いかんせん交友関係が広い方ですからね……」

 

「紫とはまるっきり逆ね」

 

スキマ妖怪を貶しながら話す霊夢に文は苦笑いを浮かべた。そろそろ別の者に聴き込もうと別れの挨拶を口にしかけたとき、それに気付いた。

 

「霊夢さん」

 

「ん、なに?」

 

「萃香様は?」

 

「あー萃香……そう言われると最近姿を見てないわね。どこほっつき歩いてるのかしら」

 

「どれくらい見てないんですか?」

 

「二、三日ってところかしら。ま、あいつがいなければいないで勝手に食材とられなくて済むんだけどね」

 

「鬼にそんなこと言えるのは霊夢さんだけですよ……」

 

「いちいち気にしてないわよ」

 

話す二人の視線は、いつも萃香が呑んでいる屋根の上に向けられていた。しかしそこには萃香の姿はあらず、ただ青空が広がっているのであった。

 

 






・オリ主
せっかくだし異変を起こそう!

・各異変
ーー異変、という部分は名称がないところは適当につけました。また、「いやこれはーー異変」ってあるぞ!ってある場合は教えていただけるとありがたいです。
地霊までにしてるのは、あまりにもキャラが増えると書ききれないからです。厩戸王とかあんまり知らないからね、しょうがないね……

・マミゾウ
「マミゾウはぬえが呼んだんだろ!おかしいぞ! もう許せねぇなオイ」っていうホモもいらっしゃるかもしれませんが……可愛いので先入させてもらいました。(罪意識無し

・霊夢
だめだ! クッキー☆に引っ張られる! (別枠に)溺れる!溺れる!
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