今は昔の百鬼夜行   作:神の筍

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幻想郷縁起。

 

幻想郷縁起。

幻想郷発祥の折から記録され続けた歴史書。閻魔と契約し、魂を記録として何度も転生させることにより初代からただ一人が書き連ねている。姓を稗田、今代当主名を阿求。巷名を『幻想郷の記憶』。

人里の中でも一番の大屋敷、稗田家に河城にとりの姿はあった。

 

「やぁ阿求。縁起を見せてもらいにきたよ」

 

「河城にとり……河童のあなたが人里とは珍しいですね」

 

「最近は人里用の開発はしてないからね。たまに菓子処に寄るくらいさ」

 

友達、というほど関係はないが知り合いである二人は適当に世間話を済ませる。にとりは阿求に訪問理由を説明したが阿求が浮かべた表情は如何ともしがたいものだった。

 

「あの妖怪ですか……」

 

「む、なにかダメなところがあるのかい?」

 

「いえ……なにを知ろうとしてるのかはわかりませんが、あまり期待しないでくださいよ?」

 

「……?」

 

にとりは縁起が保管されている部屋へと案内され、いろは順に並べられている棚を探す。数多の妖怪が事細かく記されており部屋の全てが資料で埋まっていた。

 

「ーー姓は不明、ただの名を日和。博麗の巫女や、その協力者霧雨魔理沙。ある意味幻想郷は彼女たちを中心に回っていると言って過言はないです」

 

異変解決のスペシャリスト博麗霊夢。その相方とも言える人間、魔法使い霧雨魔理沙。異変、騒動の中心には必ず彼女たちが存在し、書物でいう主人公と準主人公ともいえるだろう。だが、それはあくまでも()の話だ。

 

「言うなれば博麗の巫女が出るまでもない事件。その騒動に彼がいることがあります」

 

「旦那が……?」

 

「はい。ただやっていることは小妖怪と変わりません。付喪神である多々良小傘と人を驚かせたり、人家に隠れ入り酒を拝借して行ったりと微妙な感じですが……最後は慧音さんの頭突きによって成敗されています」

 

「あ、あはは。旦那らしいと言えば旦那らしい」

 

「そんなどこにでもいる妖怪ですが、彼の分類はーー」

 

大妖怪。阿求はそう仕分けされた棚から彼の資料を抜き取った。

 

「これが彼の資料です」

 

「おお、どうもどうも」

 

にとりは渡された資料を読もうとしたが逡巡する。

今思えば自分がやっていることは答えに直結するようなことではないだろうか? しかしある程度危ない橋を渡らなければ正しい考察を出すことはできない。それに男は自分が何者か、と条件を付けていた。つまりそれはやったことは知ってもいい、ということだ。縁起を読むことはグレーゾーンな気もするが、あまりにも答えになりそうなものは条件を付けたときのようになにか言っているだろう。

 

「ふむふむ……

 

『''???''日和』

能力:???

住処:???

人間友好度:中

 

概要:いつ幻想郷に入ってきたのかは不明であり、それまでなにをしていたのかも不明。

管理者八雲紫によると彼女たちの代から生きている長寿であり、大妖怪に属していると思われる。また、交友関係も広く人里で八雲藍と食事を共にしていた、金貸屋の女主二ッ岩マミゾウと歩いているところを見たなど多数に渡る。他には酒店に伊吹萃香と訪れたなどの記録もあり、大妖怪に分類されることへの後押しにもなっている。

 

人間友好度:中、と記載したがおそらく平常的には高だと考えてもよい。人里でよく見られ、祭りにも参加して里の者と戯れているところが多数目撃されている。

中にした理由は、たまに小妖怪と人間に危害を加えることがあるからだ。

 

性格はいたって温厚であり、人里でも悪評は一切聞かなかった。

 

単独を好む(?)大妖怪と属される者たちと違い、小妖怪と行動を共にしていることが多い。

 

…………旦那だね」

 

「ええ。正直彼のことはあまりわかりませんでした。能力もそうですが、何の妖怪なのかも。あなたと同じ河童や天狗のように多数妖怪なのか。それとも八雲紫や風見幽香のように単一妖怪か」

 

「んー、ほんとに旦那のことを知らないなぁ……」

 

にとりはいつも魚を分けてもらっていたにもかかわらず、どうして身の上話をしなかったのかと少し後悔した。

 

「鬼や妖怪の山の主人である天魔などを除き、大妖怪に分類される者は単一妖怪が多いです。おそらく彼もそうなのでしょうが情報が少ないため確定はできません」

 

「なるほど。これを見るに旦那のことを知りたければ大妖怪や小妖怪、極端な連中に聞くしかないのか」

 

「それは、どうですかね……九尾の狐に二ッ岩のマミゾウ。私もそう思い聞き込みに行きましたが語ることはありませんでした」

 

「小妖怪も?」

 

「はい。ただ、小妖怪は大妖怪とは違い本当に知らないようでした。ほとんどが幻想郷の中で生まれた者です、知らないのも仕方ないですが」

 

「うーん、一番のヒントだと思ったんだけどなぁ」

 

「私も知りたいくらいです。今、あの妖怪を調べている人はにとり以外に誰かいるんですか?」

 

「あー、今文と旦那の正体を探る勝負をしててね。旦那の満足のいく答えがあれば願いを一つ叶えてくれるんだ」

 

「射命丸文と。なるほど、でしたら是非情報が集まれば教えてもらえますか? 力になれることがあるかもしれません、それに縁起にも付け足しておきたいので……」

 

「ああ。そんくらいのことなら構わないよ。協力者に阿求がいれば百人力さ」

 

ちゃっかり自分の利になるよう働いた阿求だが、にとりは全く問題ないといった様子で承諾した。今まで妖怪をまとめてきた、言わば専門家に意見がもらえるのだ。これほど心強いものはない。

 

「ありがとうございます」

 

と、阿求は返事を返す。

にとりはもう一度資料を読み返すようで、近くにある椅子へ座った。

その様子を見ながら阿求はふと思う。なぜ大妖怪たちは「日和という妖怪を語ろうとしなかったのか?」。語れない? 単純に知らない? どれも違うだろう。聞き込みをしたとき、大妖怪は誰しもが知っていると答えた。八雲紫も、その式藍も、マミゾウも、天魔も、風見幽香も。最近現れた紅魔館の吸血鬼は別として、鬼すら語らなかった。

 

誰も語らない大妖怪。

 

何者なのか?

ただ、

 

「誰もが口を閉ざし、哀しい目を浮かべたのはどうしてなのでしょう?」

 

そこにはきっと答えがある。

いかな理由とは言えど、縁起に記さなければならない。それが、阿礼である。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

妖怪の山。

多くの種類の妖怪が住み、日夜騒がしい場所。そこは天狗によって支配、管理されており主に白狼天狗がその任を担う。烏天狗はなにをしているのかと言うと、麓を白狼天狗に任せることで自分たちは山頂側に住み、サボっている、というのが実情だ。しかし山の長である烏天狗の天魔には毎日多くの仕事が入ってくる。

 

「ふむ、河童から上流の活動域を広げたい、か。方法はガスを使い発火により一瞬で行う……? そんなことできるわけないだろう。却下」

 

どん、と鈍い音を立てて否を意味する判子が押された。

 

「白狼天狗、哨戒任務を細分化して効率よく見廻りたい。空いた時間は各々休暇に充てたい。受理。烏天狗、新聞の……なんだこれは、却下」

 

一枚、二枚と処理していくが申請書の山に終わりは見えない。河童、天狗、はたまた人間からの入山許可。最近は神も降りてきて上から下にと板挟みが続いている。いい加減疲れたなぁと思いつつも止めることはできない。

 

「はぁ。しんどい、日和でも呼べればいいのだがな」

 

一言漏らした。

 

「ーー呼んだか?」

 

「ぬぉっ?」

 

乙女らしからぬ声をあげた天魔は奇異な物を見るよういきなり現れた男に視線を移した。

 

「なんだその目は、呼ばれたから来たって言うのによ?」

 

「嘘をつくな。最初から(われ)の社畜っぷりを見ていたのだろう?」

 

「かか、違いない。そうやって判を押し続ける仕事は俺には似合わんからな」

 

「吾も想像できん。して、日和から来るとは珍しいな」

 

「ああ。ずっと酒呑みに誘われてたからな。そろそろ行かねえとと思って来てやったんだ」

 

「おー?」

 

天魔は素っ頓狂な声を上げた。

それ見た男はからからと笑っているが、いまいち理解が追いつかなかった。

 

「日和がか?」

 

「そうだぞ」

 

「うむ……熱などあるのではないか?」

 

「熱ぅ? 熱なんかこと方引いたことねえ。天才は病なんかに倒れんよ」

 

「天才じゃなく馬鹿だろうに」

 

「馬鹿と天才は紙一重って人間も言うだろ? 俺は天才の領分よ」

 

はぁ、とまたもや声を上げる天魔に、男は知るもんかと近付いた。

 

「ほら、場所はもう用意してるんだ。仲間も増えてるから来い来い!」

 

「あ、待て! 吾はまだ仕事が……!」

 

「んなもん下の大天狗もできることだろう? たまにゃ天魔とて休まなきゃ倒れるってもんだ。ほら、お一人様ご招待!」

 

「ぬ、ぬわぁー!」

 

天魔は男に手を取られた瞬間、まるで空気に溶けるよう消えていく。またもや乙女とは言えないような声を上げ、やがて残ったのは誰もいない執務室。

天魔がいなくなったのに気付くのはここからおよそ五時間後。無骨な男の字で『飽きた!』と書かれた紙が大天狗によって見つけられる頃だ。

 

 

 

 

 

ところ変わって八雲藍。

彼女は今、複雑な心境であった。

 

「藍ー、今日のお昼ご飯なにー?」

 

その主人、八雲紫の声がかかる。

 

「…………」

 

「藍ー?」

 

「……」

 

「どうしたのよ、藍?」

 

「うぉい!? 紫様どうしました!?」

 

「うぉい、って。変な声を上げてどうしたのよ……」

 

「あ、ああいえ。最近季節の変わり目で抜け毛が増えて来まして。どうしようかと考えて……」

 

「そう。それなら良いけど」

 

そそくさと台所に逃げると藍は思案する。紫はテレビの前を陣取っておかきを齧っている。

もちろん料理をする手は止めておらず、今日の昼ごはんの主役である魚を冷蔵庫より取り出した。慣れた手つきで鱗を取って開いていく。

 

「私が一時的とは言え離れたら紫様がどうなるかわからない」

 

衣を付けて卵に通す。今日は魚のフライに小鉢を少し、食後にマンゴーを出そうと思っている。

 

「外の世界にカップ麺を買いに行った方が良いか……? しかし紫様にそんな見すぼらしい物を食べさせるわけにはいかない」

 

鍋に油を入れて着火する。温度が上がるまでに小鉢用の野菜を切っておこうとほうれん草をざく切りにしていく。

 

「いや、むしろ良い機会なのか……? ここで少しの間お暇をもらい、紫様に自身の生活を見直してもらうチャンスだ」

 

龍脈を用い、幻想郷と外の世界を隔てる結界を張り続けている紫だが張り終わった後と言えば家でダラダラしているだけだ。むろん、それだけでも後世を遊びに惚けていても良いくらいなのだがいかんせん他の者たちに示しがつかない。最近では引きこもり妖怪、なんて不名誉な二つ名が付くほどだ。

 

「これではダメだ……! 寛大な紫様自身はきっと気にしていないだろう。だがやはり、紫様はどこにいても誰が語ろうとも偉大でなければならない!」

 

まずは生活習慣からだ。四時に寝て十一時に起きるような生活なんて以ての外。最近は肌に出て来たのか化粧も濃くなった気がする。

紫の能力は強大で、使う妖力はかなりの量になる。それでも自由に扱い、支障がないのは大妖怪たる所以。しかし最近は霊夢を驚かすためなどよくわからないことに使っている。娯楽に費やすのは妖怪として当然だが、そのせいで眠る時間が多くなるなど馬鹿馬鹿しい!

 

「今宵は紫様のことを思い、少し鬼にならさせていただきます……!」

 

式歴一〇〇〇年八雲藍。彼女は己の主人にバレぬよう、密かに決意を固めるのであった。

 

 

 

 

 

地底と呼ばれる場所が幻想郷には存在する。

人間から排斥された妖怪、さらにその妖怪からも嫌われた者たちが住まう最後の楽園。禁忌とされ、荒くれ者たちを仕切るのは古の強者、古来より妖怪の代名詞と呼ばれるーー鬼。

 

「おーい勇儀ー。どこにいるの?」

 

その首魁、酒呑童子こと伊吹萃香は悠々自適に地底世界を闊歩していた。

萃香の声を聞いて誰だと顔を向ける者もおり、その姿を見た住人は酒呑童子が帰ってきたと騒いでいる。

 

「萃香の姐さん、お久しぶりです!」

 

幾人かの鬼も頭を下げ、萃香に再会の挨拶をしている。気にしなくていい、と伝えつつ勇儀はどこにいるか尋ねると地霊殿に続く道の手前で酒盛りをしていたと聞いた。

 

「ありがとねー、また呑もう」

 

「へいっ、光栄です!」

 

小さな歩幅で歩いて行く。

萃香は以前、鬼が地底から出てこないかと思い異変を起こした。また昔のように呑み、騒ぎ、人間と喧嘩をするのだ。人里にはおもしろい人間が多い。先祖に退治屋でもいたのか能力を持って生まれてくる人間もいる。だからこそ、今なら鬼がいても楽しめるのではないかと?

結果としては霊夢に負け、その計画は頓挫したわけだがそれはそれで良かったと思っている。地底は地底で面白おかしく生きているのだから。

 

「勇儀ー! いるかーい!」

 

路肩に布を敷き、何人かと集まった集団に声を掛ける。その中の女性にしてはひときわ大きい体躯、外の世界でいう体操着に、ロングスカートの女が反応した。

 

「おぉ! 萃香じゃないか……!」

 

かつて呼ばれた鬼の四天王、その一人星熊勇儀。単純な力比べなら一番強く、萃香に負けず劣らずの喧嘩好き。額にある星柄の入った立派な角が目立つ。

 

「この前ぶりだね、勇儀」

 

「ああ、そうだけど。大丈夫なのかい? 勝手にこっちに来て。地上から来たことがバレるとまたスキマ妖怪からドヤされるんじゃないの?」

 

「ん、いーのいーの。この前も異変でこっち来たし。今回も異変ってことでこっちに来たから」

 

「異変?」

 

「そ。ーー宴の誘いさ」

 

 

 

 

 

男は天魔を外に誘い出し、とある場所に連れ置いた。一体何がなんだかわからない様相ではあったが、先に来ていた妖怪たちに引っ張られ大座敷に消えて行った。酒気でいっぱいのそこはたくさんの料理も作られ、思い思いが騒いでいる。

男は濡れ縁と部屋の境界、風が入ってくる場所に脇息を置いた。

 

「天魔は連れて来たからあとは萃香に勇儀。藍ももうすぐ来るだろう。チビどももまだまだ集まるだろうから適当に飯を作ってどんちゃん騒ぎ」

 

煙管から出た煙が風に乗って流れていく。

 

「草の根も集まって、ここで会った知り合いもいるか。妖精なんて大陸の奴らもいるがそれもいい。……しかし茨木がいないのは盲点だったな」

 

お酒を飲んで気が抜けたのか、獣の姿になった二匹の狛犬が取っ付き合いをしている。それを見て回りの妖怪は笑い、後押しするように手を叩く。

 

「ーーさて、八雲や博麗が気付くまでに何日かかるやら……」

 

今日もまた、青空には白い雲が広がっていた。

 

 

 





・主人公
俺 拉致監禁 イェア!
容姿は書いてませんがお任せにします。だいたいの服装は一話にて書いたので、各々の妖怪像を当てはめていただけると……さすがに塗り壁や鼠小僧は……

・阿求たん
書いてるすごく愛おしくなってきた。
学生の頃はおっぱい大きな人が好きだったけど、大人になってロリの良いところがわかりました(犯罪者宣言

・幻想郷縁起
グレーと思ったけど、良かれと思い出す。微妙なところではありますが申し訳ない。

・天魔
女。修験装束に笠、車輪のついた杖とthe天狗のような格好であります。神は黒髪ロング。苦労人。

・バラキー
どこにいるんじゃあ!

・その他
今回はいわゆる説明会に準ずるもの。
なおシリアスは今後も無い。
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