今は昔の百鬼夜行   作:神の筍

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間違ってすべての一覧と検索から除外にしてました。あるけど、URL知らないと見れないみたいになってました。


男は閉じていた瞼を

 

男は閉じていた瞼を開いた。

青い夜空に大きな三日月が照る、深淵の刻。騒いでいた妖怪たちはいつの間にか突っ伏したようで、虫たちの声が心地良い。

 

「痛てて、寝ちまってたか」

 

幻想郷はすでに秋口へと差しかかっている。夜は肌寒い空気が流れ、さすがに布団の中でないと身震いがする。少し肌蹴た着物を引っ張り適当に正す。酒か水か、なにか飲もうと思ったところで隣に杯が置かれた。

 

「眠るほど呑んでいたんだ、今は水を飲んでおけ」

 

「あー、ありがと。藍」

 

「お前が酔い潰れるなんて珍しいじゃないか。まだ異変を起こし始めて数日、これでは霊夢たちが気付く前に自然瓦解しそうだな」

 

「どうだろうな。俺が酒に呑まれるたぁ落ちぶれたもんよ。昔はそれこそ浴びるように呑んでいたのに今じゃあ鬼と呑んでこのたらく。百鬼の主が落ちぶれたってもんだ」

 

「はっ、なにを言っている。お前が落ちぶれたならここには集まっていないさ。ましてや鬼など一度決めたら己の意思であろうと曲げることはない。だがな、お前の元に来ている」

 

濡れ縁から中を見てみると、酒瓶を抱きしめながら寝ている萃香を勇儀が枕にしている。

 

「ありがたいこった。昔の縁と言えど一〇〇〇年を越えて果たしてくれる。年を取ろうと、時代が変わろうと、鬼のそこだけは変わらねぇ」

 

「鬼のそういう部分は最高位の妖獣と化した私と言え見習いたいものだ」

 

「ほぅ、昔はやんちゃしてた九尾がずいぶんと丸くなったな。杭を打たれてしおらしくなった」

 

「黙れ。私は別に他者からの介入によって今の形に収まったわけではない。私が、私自身がそうでありたかったから今があるんだ」

 

「かかかっ、そうかいそうかい。俺は昔のお前より今のお前さんのほうが好きだぞ? 昔のお前は、見ていて痛々しかった」

 

「…………」

 

二度、裏切られた。

愛し、愛おし、愛いた人間に。

八雲藍になる前の、忘れてはいけない九尾の記憶。人ならざる人であった自身の記録。今では遠い、人間を愛していた時間。

 

「お前は……ーー私に似ていると思っていた」

 

「どこがだ?」

 

「人間を愛しているところだ」

 

間を置くことなく藍は言った。

 

「俺はそう思わなかった」

 

「私も昔は勘違いしていた。だが今は、なんとなくわかる」

 

男と藍の出会いは一〇〇〇年以上に遡る。

未だ日本が日本ではなく、日ノ本であった時代。天皇が真に現人神であり、神妖魔が跋扈していた頃。諸国巡遊と称し、男が全国各地を呑み歩きしてときに二人は出会った。否、藍が一方的に見ていたと言えるだろう。

 

「あのときはまさか、陰陽師がいるにもかかわらず平気で里に入る輩がいるとは思わなかったぞ」

 

「行きたいときに行き、見たいものを見るのが俺だからな」

 

ふとしたきっかけで藍は人間に興味を持ち、人間を盗み見るようになった。捕食対象ではなく、若さ故の好奇心と言うやつだ。妖怪である自身にはない人間だけが持つ道徳。そこに藍は惹かれていった。

 

「私の気持ちにもなってみろ。ふらふらと横を取り抜けた妖怪が、里に入って童に砂糖菓子を配っているんだ。あのときの驚きは、私の果てしない生の中でまだ勝るものはない」

 

「金平糖は今も昔も童にゃらには人気だからな。人里に入るには子供から抑えるのが効果的だ」

 

「はぁ……私が失敗して、お前が受け入れられる理由がわからん。一〇〇〇年前から、な。難題だ」

 

哀愁漂う顔貌で藍は月を眺めた。狐らしい細目は当時のことを思い出しているのか少し恨みがましく感じる。

 

「打算でやってたわけじゃねえけどな。ああいうのはいつの間にか輪に入ってるもんなんだよ」

 

気まぐれに吹いた風が芒にちょっかいをかけたとき、男は口を開いた。

 

「知ろうと思って近付けば、どんなものでも恥ずかしがって縮こまる。この国の人間は小心者だらけだからな。笑わそうと思って歩み寄れば、人は笑いながら受け入れるのさ」

 

「……なんだその論は」

 

「さぁな。適当適当。俺の言葉に意義なんてない。頭に浮かんだ文字をつなげて、それらしいことを発するだけ」

 

「そのいい加減さは直らんものだな。幻想郷に来て紫様は丸くなったと言ったが、最初からお前は丸かった。だがただの丸じゃなく、輪の中に丸がある」

 

「輪の中に丸?めんどくさそうな例えだなぁ」

 

「空洞の球の中にもう一つ球を入れれば揺れるように、日和は予想できない変化球を投げてくるということだ。現に、今だってそうだ」

 

「俺が異変を起こしたのが予想外かい?藍」

 

「ああ。私からすればお前は……なんというか、終わったと思っていた」

 

袖口に両手を入れながら藍は言を繋ぐ。

 

「団子屋で話すまでの日和はまるで寿命を待つ、種子を吐き終わった老木」

 

「かかかっ、子供はいないぞ?それにまだまだ現役だ」

 

「そういうことじゃない」

 

藍は衝撃が通るよう三本の尾で男の頭を叩いた。

 

「痛ぇ」

 

「紫様も私も、お前は消失すると予感した」

 

「……」

 

妖怪の死因は飽き。

件の団子屋で男は藍にそう語った。それは不死に匹敵する長寿を持つ大妖怪二人も理解しておりなにも言い返すことはない。そしてもう一つ、妖怪の圧倒的死の原因がある。それは、

 

忘れられることである。

 

外の世界の人間に、人が死ぬのは肉体的終わりを迎えたとき、または忘れられたときであると残した者がいた。それはあながち間違っていなく、人間ではなく妖怪でも当てはまることだ。

 

「鬼や藍に匹敵するほどの著名人だからな、俺は」

 

「妖怪は種で語られるが、名で語られることはない。私は九尾の狐という種から、紫様から藍という名を拝命した。その時点で妖怪として新たに生まれ直し、九尾の狐であると同時に式としての妖怪に再起した。それは鬼も同じで、鬼は自分に名をつけることで人間に近付こうとした」

 

妖怪の生態は自身もわからない。

天狗や河童、畜生に属するものは認知されている生物と比較的近い。しかし男や八雲紫、他の大妖怪の出生は誰も知らない。本人ですら把握していない。

 

「日和、幻想郷に来てからだろう?名を付けたのは」

 

「……まぁな」

 

「幻想郷の結界は、事実を曖昧に——反転させることで存在を保つ」

 

忘れられたものが集う楽園。

溝に捨てられたボールも、放り投げられた人形も、世間から爪弾きにされた人間も、誰にも覚えられていないものだけが辿り着く。

 

「そも未だ種として信仰されているお前が、名前を持たなかった日和が、ここに来れることはなかった。それこそ、自分を捨てなければ」

 

「そんな難しいこと言われてもわからんが、別に困ったようなことはなかったぞ。一〇〇〇年前なら文句の一つは言ったが、今は百鬼を率いているわけでもねぇ。守る必要のない今は、自衛さえできれば十分」

 

「……聞いていいか?」

 

「ん?なんだ」

 

「どこから取ったんだ、日和っていうのは」

 

「お、それを聞くかい?」

 

男はにやりと笑った。

 

「……む、尾を踏んだか」

 

「単純な話、人間が俺を表した言葉にこんなモンがある——『ぬらり(・・・)とすり抜けひょん(・・・)と浮く』。そこを文字って、意味も加えれば

 

——日和、悪くないだろ?」

 

特徴的な乾いた笑い声をあげた。

 

「ま、そんなもんだとは思ったさ」

 

むすっとした表情を浮かべて藍は息を吐いた。別に怒った感情があるとかではなく、ただただ呆れたのである。

 

「悪いな、日和。難しい話をした」

 

「別に難しくなかったけどな」

 

「自分で難しいって言ったじゃないか」

 

「言ってねぇ」

 

「言った」

 

「絶対言ってない」

 

「絶対言った」

 

「覚えてない」

 

「老害め」

 

「獣時代を考えれば藍のほうが……や、別にあんま変わらないか」

 

藍は緩くなった男の杯を掠め取る。身体を横にしていた男は浮ついた杯が藍の口によって空にされたのを眺めていた。

 

「俺の酒が……」

 

「また入れてやる」

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「休暇届……『おはようございます、紫様。事前に連絡しておらず申し訳なく思いますが、本日より私は休暇を取らせてもらいます。結界等の作業は昨日をもって全て見直しており、紫様が対処すべき点は別用紙にまとめてあります。また、日の食事、雑務は橙に一任しております。ご迷惑を掛けることもあるでしょうが、式として成長できる良い機会だと考えております。

 

追伸、私がいないからと言って自堕落な生活はしないでください』……」

 

午後一時だというにも関わらずパジャマを着た女妖怪——八雲紫は机に置かれた用紙を音読していた。初めは適当に目を通す程度だったのだが、一度黙読し、二度目で見間違えかと思い声に出した。

 

「藍……」

 

寝起きでぼさぼさの髪を手櫛で梳かしながら頭を働かす。半日寝ていた反動か、覚束ない意識だが大妖怪としての秩序がそれを擁する。必要な順次を脳内で箇条書きでまとめていく。

 

「まぁ、この際文句はいいわ。確かに最近は藍に任せきりなところがあったし」

 

季節は秋口。

八雲紫は強大な力ゆえに、その反動として長時間の休息が必要になる。自身が常に結界を張り続けている反動なのだが、それは仕方ないことなのだ。大妖怪の寿命からすれば雨露の如き時間だが冬場は冬眠するのだ。その間、春、夏、秋と藍二人で行っていることを紫がいないため藍一人任せになるのだ。にも関わらず紫は最近自堕落にかまけ藍に頼っていた。

ゆえに、そこを攻められると最悪冬眠ができない事態にもなるかもしれないため考えないことにした。

 

「式といえどそれは外の階級社会と変わらない。藍も休養が必要。でも今までは私が藍に暇を申付けるだけだった……つまり、今回は藍の意思が関係している」

 

だが、

 

「紙に書いて報告するだけ、なんてことはしない。藍は良くも悪くも生真面目、その証拠に結界の見回りと注視すべき点はまとめられている。だから——藍に物言いできるだけの誰かが裏にいる。それも私ほどの存在が」

 

縁側から干してあった座布団を取り、畳において座った。

 

「新しい存在じゃないわね、ここ最近で新顔は入ってきてないし。かといって藍と仲良かった妖怪なんていたかしら? それとも人間? そんなはずないわね……」

 

こつこつこつ、と丁寧に手入れされた爪で卓面を叩く。めんどくさいタイミングで、めんどくさいことが起こったなぁと思案する。ただ博麗の巫女ではないが、なんとなく今回のコレは別段気にしなくても良い気がする。

 

「もしこれが異変なら霊夢に任せれば良いし……」

 

しかし妖怪としてコレを探しに行けば、楽しそうな祭囃子が聞こえてきそうだと頭の中でなにかが訴えてきているのだ。

 

「……一日で結界の点検終わらして、行けば良いか」

 

ふわぁと呑気なあくびをして八雲紫の一日は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里には守護者と呼ばれる妖怪がいる。

その正体は厳密に言えば半妖であり、人間と妖怪を両親に持つワーハクタクである。名を上白沢慧音と持ち、白を基調にした青色のメッシュが目立つ美女だ。そんな彼女は人里の辺境『二ッ岩金貸屋』の前にいた。

 

「なんかおかしいことでもあったのか? 慧音」

 

「いや、杞憂だと思うのだがマミゾウ殿が居なくなってからやけに妖怪たちの姿を見なくてな」

 

慧音の隣にいた彼女——竹林の端に住む藤原妹紅が聞いた。

彼女は慧音と古い知り合いであり、見た目の少女のような姿からは思いもつかず、幻想郷の中でも古株の一人である。また、過去の因縁により不老不死の薬を飲んでおりこの世でも類極まりない正真正銘の不死人である。

 

「人里的に良いことだろ、それ。この時期はよく妖怪が騒がしくなるって言って困ってたんだから」

 

「ああ、その通りなんだが……一年の中で月が一番大きくなるこの季節で妖怪を見ないのはおかしすぎる」

 

「ふーん」

 

「妹紅にはマミゾウ殿が見えなくなった、と言ったが賢者の式の姿も最近はないのだ。里のみんなに尋ねても「そういえば最近は来ていない」と答えるだけ。

団子屋に私は把握していなかったのだが、正体不明の大妖怪が出入りしていたらしい。その者もまた見なくなったと」

 

「佐渡の狸に、九尾の狐。慧音も知らなかった大妖怪……ここまで力関係がはっきりしてるとなにか企んでるとしか思えないな。八雲紫が関わってるんじゃないの?」

 

「ふむ……それもあるかもしれないな。まずは霊夢に話を聞いてみよう。妹紅、すまないが私が神社に行っている間、里を頼めるか?」

 

「別にかまわないよ。これが異変の予兆だって言うのなら早めに行動するに過ぎたるはないし。私もちょうど暇してたからね、まかせて」

 

「ありがとう。じゃあ私は行ってくる、なるべく早く帰ってくる」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

妹紅は紅白のモンペに突っ込んでいた手を抜いてひらひらと飛んでいく慧音に手を振った。慧音が帰ってくるまで時間があるだろう、任されたには大事なく果たすつもりだが適当に時間を潰せる場所を探すべく人里の中心へと歩いて行った。

 

 

 




・主人公

お酒飲み飲み。

・藍

スキスキ藍しゃま。
もふもふ藍しゃま。

・紫

おはよ、ババア(直球勝負

・慧音

けーねたんハァハァ

・妹紅

もこたんハァハァ

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