今は昔の百鬼夜行   作:神の筍

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あとがきに少しずつ説明をのせまし。


乗り込んできた

 

 

『これはこれは、人外の王と名高い吸血鬼が……』

 

『くふふ、おもしろい』

 

「お嬢様……ああ、おいたわしや」

 

「くっ、くく。レミリア、意外と似合ってるじゃない」

 

「あははー、なんというか白い肌にマッチしてるというか」

 

「くっ、覚えておきなさいよあの野郎。あとそこの小妖怪どもっ、笑うな!」

 

『肉と描いてやろう、あと目の周りに大きな丸もな』

 

『見ろ、こっちの鳥はなかなかだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乗り込んできたレミリアはさすがにあの面子に勝つことはできず、紅魔館の他の面々共々一旦屋敷に駐留することとなった。ただ、レミリアの妹であるフランがまだ紅魔館で妖精といった友達と遊んでいるらしく、食事等の準備があるため従者である咲夜の出入りは自由にしている。そして、門番である美鈴は朝方には帰ると。

今回の異変は変に禍根残す必要はなく、むしろそういったことは避けたい。無理に捕らえる必要もなく出て行ってもらっても構わないのだが乗り込んでやられた手前、のうのうと帰って解決もせず妹に会うのが嫌だとはレミリア談である。

 

「やぁ、そうしておったら見た目通りの童じゃな。大陸の娘っ子は見慣れておらなんだ、なかなかにめんこい」

 

「妖怪に容姿は問わねえと言うが、それでも和風と洋風の差はあるからな。ましてや大陸で名を馳せた吸血鬼」

 

「人形遊びにはちょうど良さそうだ」

 

と、いうのはマミゾウだ。彼女曰く運動、が終わった後萃香は人里に酒をくすねに、勇儀は眠たくなったのか適当なところから布団を引っ張り出して眠っている。藍は紫から離れているとはいえ、幻想郷の準管理者としての仕事もあるため、珍しくこちら側の方角に来たため辺りの様子を見てくると散歩に出た。天魔もさすがに鬼に弄ばれるのは堪えたのか、畳で横になっている。

 

「ねぇ、結局こんなに妖怪を集めてなにが目的なのよ」

 

「目的、か?」

 

家鳴りを起こす逆柱にぐるぐる巻きにされたレミリアが日和に問うた。

 

「ええ。あなたの様子を見てると、別に幻想郷を支配するつもりで手下を集めてるわけじゃないんでしょ? それにもしそうならあの狐が加担するとは思えないし。ましてやここまでの大妖怪の数。妖怪は歳を重ねればそれだけ力も上がり知能も上がる。大妖怪なら大妖怪で幻想郷の必要性は理解しているからことさらそれは無くなる」

 

「おお、そうだな」

 

「で、あの酒呑童子みたいにただ宴会をしたいだけにしては、やけに妖怪しかいない。あなたが人外至上主義者のような性格であれば別だけど、咲夜から聞いた里での様子からそうは思わない」

 

「たまたま俺が妖怪だけを集めたかった、ていうのは駄目なのか?」

 

「それも考えた……。でも、確証は無いけれど、なんて言うんでしょうね。なんとなく、ここにいる妖怪たちは、なにかをーー待っている気がする」

 

日和から目を離し、座敷を抜け庭先で遊ぶ獣妖怪を眺めながらレミリアはそう言った。

 

「かかかっ、なるほど。見た目や先の猪突猛進な言動から持ち上げられた娘っ子かと思ったが俺の勘違いだったか」

 

「む、なによそれ」

 

「まあまあ不貞腐れるなレミリア・スカーレット(・・・・・・・・・・・)

 

そのとき日和は初めてレミリアの名前を呼んだ。

 

「お前さんの予想はあってるよ。ここにいる奴らはみな、来るべきに備えてるのさ。俺は今異変を起こしてる正体だが、厳密に言えば俺はまだ異変を起こしてすらない。その準備をしているだけだ。俺が本当に異変を起こすとき、それは……今日よりも月が綺麗で、雲間に人が恐怖を覚えるときだ」

 

少し欠けた月を手のひらに乗せながら日和は言った。

にやにやと悪戯小僧のように、だが妖怪らしく笑う日和にレミリアはほんの少しだけ畏を感じた。魔の象徴たる己は血も力も他に比肩されぬものを持つ。だが、そんな彼女でも思い起こされてしまう。かつて多勢の怪物を背に欧州を跋扈したあらゆる人外の王であった父の背中を幻視する。

 

「ーーそうか、まさかお前は」

 

 

 

『はぁ、まったく。どこぞの真似かわからないけれど、百鬼を率いようとするなんて片腹痛いわよ。ましてや片手で払うことすら必要のない有象無象、あいつ(・・・)に比べたらまだまだひよっこね』

 

 

 

過去、レミリアと相対した幻想郷管理者ーー八雲紫の言葉を思い出す。

 

「八雲紫が言っていたあいつ(・・・)か……!

 

一〇〇〇年を越える国の、負債を払うが如く現れた妖怪。やがて衰退を辿ることになるが最盛期で名を轟かせた大妖怪ーー。百の妖を従えし姿は雲間に揺れ、陰陽道に付すものすら慄き軒下に隠れたと言われたーー」

 

「かっかっかっ! よもやお前さんにも名前が知られとるとはな。この俺もまだまだ捨てたもんじゃねえな」

 

「いつまで経っても元気じゃな、お主は」

 

「ぬーー」

 

「そうだそうだ。

 

 

 

百鬼夜行の主、またや妖怪の総大将ーーーーぬらりひょん(・・・・・・)とは俺のことさ」

 

レミリアが言うが早く、日和ーーぬらりひょんは愉快そうに笑った。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど。ではにとりさんの情報も直接手掛かりに繋がりそうなものは無し、と」

 

「やっぱり旦那は幻想郷に直接関わるようなことはしていないみたいだね。人里に何度か話を聞いたけど、妖怪らしいことも脅かすことくらいだって」

 

「ぐぬぬ、なんて小物臭」

 

日和から正体について問題を出された文とにとりは人里にて情報交換を行っていた。数日前に沢から出る直前、ライバルなどと言っていた文だがいつのまにか協力関係に変わっておりここ二、三日はこうして川沿いの並木道にて話し合っている。

 

「霊夢さんも見たことはあるけど話したことはないって感じですからねぇ。まったく、さすがの文屋も単一妖怪の正体まではわかりません!」

 

「だよねぇ。八雲紫や風見幽香みたいな未だ種族名がわからない系だったらお手上げかな」

 

「ですね。まあ、さすがにそんな問題は出しませんでしょうし。きっと私たちにもわかるような方なのでしょう」

 

「そこは旦那を信じるしかないね」

 

「ええ」

 

 

 

「ーーあら、私がどうかしたのかしら?」

 

 

 

「ん?」

 

「え?」

 

話し合っていた二人に冷ややかな空気が流れる。声がしたのは文から見て右、にとりから見て左だ。互いに目を合わせたまま沈黙が走った。別に無闇矢鱈と殺戮を繰り返す声主ではないと知っているが、勝手に名前を出してさらにそれを聞かれたという罪悪感からかどちらも向きづらい状況に陥った。

 

「私が話しかけているのに、返事もないの?」

 

「いえ、そんなことはありませんよ幽香(・・)さん!」

 

「わ、わぁ。初めて見るなぁ……」

 

そこにいたのは先ほど会話で出てきたーー風見幽香。赤いチェックの装いが目立つ、鮮やかな緑髪を持つ麗人だ。背丈は並みの男より少し大きいといったところ、線は細いが出ているところは出ている女性らしい体つきだ。

 

「久しぶりね、文。そちらの河童は初めてね」

 

「お、お久しぶりです幽香さん」

 

「は、初めまして沢に住む河童のにとりと言います」

 

「きちんと挨拶ができる子は好きよ。それで、私と八雲紫がどうかしたの?」

 

「む、それはですねぇ……」

 

思わぬ人物と出会ってしまったが、文とにとりは今までの事情を説明した。

立ち位置的には大妖怪に属し、幻想郷のパワーバランスを担う最上級の存在。彼女ならばなにか手がかりとなるものを聞けるのではないかと打算的な部分もある。自分たちが調べたことも含めて話すと、幽香の切れ長の瞳が薄く伸びた。

 

「へぇ、そう。面白そうなことをしているじゃない」

 

二人は虎の尾を踏んだわけではないが、なにかしてしまった気が否めない。

 

「それで、その日和という妖怪はどこにいるのかしら?」

 

(申し訳ありません日和様。どうやら厄介なことになりそうです。でも私は大丈夫だって信じてますからねっ)

 

「いやぁ、それが日和の旦那は午前は沢で釣りをしていたんだけど、最近はまったく来なくて、です……」

 

「そんな妖怪人里で見たことあったかしら。まあいいわ。ちょうど最近は時間を持て余していたし、気を紛らわせる暇つぶしになりそうだわ」

 

「と、いうことは幽香さんも……?」

 

「ええ、私も正体を探ってみるわ」

 

「おお! あの花畑の主人が味方とは百人力だ!」

 

「よーし、ここに日和様の正体を探る会を発足しますよ。おー!」

 

「おー!」

 

「まったく。あまり頼りにしないでちょうだいよ、私もそこまで頭を使う気は無いし」

 

巻雲が広がった秋空の下、本人知らずの謎の会が結成された。文とにとりが思わぬ成果に気をよくする横で、幽香は自身の髪を指先で弄っていた。

 

「……小妖怪と戯れる大妖怪、ねえ」

 

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

妖怪を見なくなった。

 

その事実を知った慧音は博麗神社へとやってきていた。

人里では夜道を歩いても問題なくなった、と笑っているが「妖怪がいない」という事態は守護者たる慧音にとっては大きな懸念がある。人間にとって捕食たるーー知能がない畜生や獣風情ーー行為をしてくる妖怪がいないのは構わないが、今回は自身の力が遠く及ばない大妖怪の姿が見えない。管理者の式神である八雲藍がいない今、相応のことが起こっていると考えても良いだろう。半妖である慧音だからこそ特にわかるのは、妖怪は良くも悪くも人間がいなければ生きることができない。本来人を化かして生きてきた生き物だ、唯一人間がいる人里周辺でその影を見ないのは異常なことだ。

 

「いてくれれば良いのだがな」

 

もし仮に、外部からの干渉によって抑えられているのならばそれは大変危険なことだ。気ままに生きる妖怪にとって拘束されることは本能的に逃避することで、それが解かれたときの反動は考えたくもない。

長く何百段もある階段を飛んでいく。曲がりなりにも神聖なる神社、形式をとって普段は歩いていくのだが今回は事情が事情で端折った。

 

「む、あれは……」

 

小さかった屋根が近付いてくると鳥居付近に二人の影が見えた。どうやら今にも飛び立とうとしているようで寸前で間に合った。

 

「霊夢、と魔理沙か」

 

「あら、慧音じゃない。珍しいわね」

 

「この前ぶりだな」

 

鳥居の側に降り立つと挨拶を交わす。

 

「二人は出かけるとこだったのか?」

 

「ええ。魔理沙がいきなり来て異変だーって言うから博麗の仕事をまっとうするのよ」

 

「そうか、では一通りのことは魔理沙から聞いているのだな?」

 

「人里付近で妖怪を見かけない。藍やマミゾウ、天魔もか。大妖怪の姿が見えないって話は。あと、萃香もいないわよ」

 

「なっ、あの酒呑童子殿もか……。いつもの放蕩癖ならば良いが、異変に加担しているとなれば面倒極まりないか……」

 

「能力が厄介なのよねぇ……」

 

面倒くさいし、と霊夢は吐いた。

 

「目星はあるのか?」

 

「とりあえずそこの辺の妖怪にふっかけて事情を聞くわ。蛇の道は蛇、同じ妖怪のことは妖怪に聞けばいいし。湖の方は特に変わりなかったんでしょ?」

 

「ああ。ルーミアやチルノたちはいたぜ。でもフランを除いた紅魔館組はみんな出払ってるみたいだった。戸締りが固いおかげで図書館には入れなかったし……」

 

「そ、じゃあそこでいいわね」

 

「あまりチルノたちに吹っかけてくれるなよ。最近肌寒くなってきたせいか、ただでさえチルノのテンションが高い」

 

「はいはい、適度にボコボコにしとくわよ」

 

「そういうわけじゃないんだが……」

 

「ほら、早く行こうぜ霊夢。ただでさえレミリアたちより出遅れてるっていうのにこのままじゃあ美味しいとこ持っていかれちまうぜ」

 

「私としてはまとめて持っていってもらいたいところよ」

 

「なんだよぉ。せっかく人が暇そうなところを誘ったのに。慧音も行くか?」

 

「いや、私はいい。妹紅に人里を任せているからな。今の所実害はないといえ、異変の最中だ。私は私の仕事をまっとうするさ」

 

「そっか。じゃあ異変は私と霊夢が解決してくるから、また美味しい茶菓子を頼むぜ!」

 

「む、それはーー」

 

「私はおせんべいがいいわ。お茶も頼むわよ」

 

「霊夢もか……」

 

「じゃ、先行ってるわよ」

 

「あ、おい霊夢。ーー行ってくるぜ慧音!」

 

「ああ。怪我の無いよう気をつけるんだぞ」

 

そう言って飛び立って行く二人に慧音は手を振った。大妖怪が関わっている手前二人だけに任せていいものかと思うが、異変解決のスペシャリストと自負する魔理沙と博麗の巫女である霊夢だ。実力的にも問題ないだろう。

博麗神社から人里に帰る最中、かつて寺子屋に通っていた面影を残しつつも頼もしくなった二人に慧音は少し頬が緩んだ。

 

 

 




・ぬらりひょん(以下日和)
今作の主人公。もう名乗らずともみんなわかっていたであろう正体。このssは短編なので特に伏線とかはないです。

・八雲藍
日和と旧知。八雲紫より古い付き合い。獣時代も考えればおそらく八雲紫よりも年上だと考えられる。月並みに冗談を言ったりする仲。

・マミゾウ
藍と同じく旧知の仲。京の妖怪だった藍よりも付き合いは濃いかもしれない。悪さをして木陰でくすくすと笑い合う仲。

・萃香
日和が京都に行ったときたまたま会った。特に会うつもりはなかったが、月を見てる日和にちょっと蹴落とされたので殺そうと思ったけど殺せなかったから無かったことにして一緒に酒を飲んだ。鬼以外の数少ない盟友なのでちょっとだけ独占欲がある。

・天魔
泣きつく相手。格上だが鬼と違って無茶振りをしてこないため頼れる人といったとこ。暇つぶしによく遊んでいた。
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