瘴気の底で死に愛でられる   作:箱入蛇猫

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本来のプロットではエピローグに絡める予定だった話。
ストーリーに関わる部分はこれが最後です。
原作キャラの口調が掴めない……。


後日談:瘴気、再びⅠ

 第一期調査団が派遣されて、およそ四十年。再び始まった「古龍渡り」に合わせて、新大陸へと派遣された第五期調査団。

 これを最後にすべく精鋭のハンターを揃えられた過去最強の調査団に、これまで進めてきた研究・調査の全てが噛み合った結果、過去四十年で類を見ないほどに古龍渡りの調査は進展していた。

 

 ゾラ・マグダラオスを永久の眠りに(いざな)ったこと。

 新大陸に現れた亜種モンスターのこと。

 龍結晶の地の開拓。

 そして滅尽龍ネルギガンテとの決戦。

 

 その全てがこれまででは考えられないほどの成果であり、その最前線には常に一人のハンターがいた。

 

 アリア・マグノリア。燃えるような赤髪に黄金の瞳。170を優に超える身長に、背負った太刀が良く映えた。

 彼女は新大陸に来る前からG級の称号を持つハンターであり、「劫火」の二つ名を与えられた人類の切り札の一つ。

 新大陸に来る前に既に古龍を単身で撃破した実績を持ち、古龍渡りを終わらせるために派遣されたと言っても過言ではないほどの人物である。

 

 そんなアリアは、ネルギガンテ討伐の報を届けた矢先に、新たな戦いに身を投じた。

 鋼龍クシャルダオラ、炎王龍テオ・テスカトルといった錚々たる面々と対峙し、それらを退ける事となったのだ。凶暴化していたとはいえ、旧大陸においてもとりわけ有名な彼らに今更遅れを取るわけにも行かなかった。

 

 無事に事を終えたアリアは、息つくまもなく更なる事態に見舞われる。

 

 第三期調査団の団長から呼び出しを受けたのだ。

 陸珊瑚の台地の片隅に拠点を構える第三期団の研究拠点に辿り着いたアリアは、バディである受付嬢と共に、憂鬱な顔を浮かべる三期団長や険しい表情を隠さないフィールドマスターから説明を受けに来ていた。

 

 

 

「いらっしゃい、よく来てくれたわね」

「ええ、ここに来るのも久しぶりです。お元気そう、とは言い難いですが……」

 

 酷く気だるげに椅子に腰掛けながら、三期団長はアリアに歓迎の声を掛ける。そんな彼女の様子を見て、アリアは無難な挨拶を返した。

 

「おば様! お久しぶりです!」

「ああ、元気そうでなによりだよ。相変わらず無茶してるみたいだね?」

「たはは……」

 

 受付嬢もまた、尊敬するフィールドマスターとの久しぶりの出会いを喜んでいた。

 孫ほどに年の離れた受付嬢の元気そうな姿に、老いたフィールドマスターも嬉しそうな言葉をかけた。

 

 

「それで、今回の要件とは? 一応、この研究所にも同期のハンターは常駐していたと記憶してますが」

「ええ、そうね。彼らはよくやってくれているわ。けれど、今回はどうしてもアナタの力が必要な案件だと判断したの」

「それは……古龍の出現、でしょうか?」

「察しが良くて助かるわ。瘴気の谷の主が目覚めたのよ」

 

 三期団長は物憂げな表情を崩さないまま、アリアに今回の要件を伝える。

 それはアリアにとってはある意味で衝撃的な発言であり、同時に一つの納得を得ることの出来る話だった。

 

「やはり、瘴気の谷の主はオドガロンでは無いのですね。いくらなんでも他のフィールドに比べて格が堕ちると思っていたので」

 

 そう。ゾラ・マグダラオスとの決戦より以前に、アリアは瘴気の谷を訪れたことがある。

 陸珊瑚の台地の深層に広がるモンスターの墓場。そこはかつて旧大陸の友人に聞いた「竜の墓場」と呼ばれる古龍の巣を彷彿とさせる死に満ちた空間だった。

 骨の鎧を纏い、上層を支配する獣竜種ラドバルキン。そして、中層以下を支配する、鮮血で染まったかのように赤く禍々しい体表を持った牙竜種オドガロン。

 共に探索の途中で出会った偶発的な戦闘ではあったが、アリアは初見のモンスターを事もなげに下した。

 

 その際にオドガロンに対して抱いた疑問は、ここにきて解消されることとなった。

 リオレウス、ディアブロス、レイギエナ。これらのモンスターに比べて明らかに格の落ちるオドガロンは、果たしてこの生態系の頂点なのか? と。

 

「瘴気の谷を支配するモンスター。存在が確認されたのは、二十年前に一度きり。その名前はヴァルハザク。屍套龍と名付けられた、地底の支配者よ」

「ヴァル、ハザク……?」

「アソコに、装備が飾ってあるのが見える?」

「あの壊れかけの装備ですよね! 前に来た時から気になってたんです!」

 

 三期団長の言葉を受けたのは、アリアではなく受付嬢。

 前回の来訪時に壊れかけ、それも旧式のカガチ装備の存在に気づいていたのは、好奇心旺盛な彼女の方だった。

 

「アレは私の罪。……とあるハンターの形見でね。今でもよく覚えているわ」

「ああ、そうだね。アレは大きなきっかけになった。バディ制度も、あの悲劇を繰り返さないために私が提案したんだよ」

 

 苦しそうに、顔を顰めて語る三期団長に、フィールドマスターもまた同意する。目の前のアリア程ではなくとも、優秀だった少女を思う。

 

「そのハンターの名前はリィンと言ってね。瘴気の谷まで遭難してしまった研究員を救うためにオドガロンの凶爪を受けて、そしてそのまま帰還しなかった。後に私と数人のハンターで捜索に向かったんだけど、見つかったのは大剣とあの装備だけだった」

 

 フィールドマスターもまた、当時を思い返すように語った。新大陸で命を散らした数少ないハンターの一人。死体さえ見つからなかったという。

 アリアと受付嬢は、先達二人の言葉を黙って聞き届けていた。

 

「……リィンの捜索に向かった時、瘴気の谷は上層まで完全に瘴気で覆われている異常事態に見舞われていたの。そして、アナタも見たことはあるでしょうけど、酸の地底湖のある最深部。そこにいたのが、ヴァルハザクよ」

「分かっていることはほとんどない。何せアレ以来一度たりとも姿を現してはいないからねぇ。私も長いこと瘴気の谷を探索し続けているけど、その痕跡すらも見つけられていないんだよ」

 

 それを聞いて違和感を覚えたのは受付嬢だった。

 

「そんなことが有り得るんですか? だって、瘴気の谷は洞穴に近い形をしてるんです。他のフィールドとは違って、移動先は陸珊瑚の台地しかないんですよ」

「不思議なことにね。酸の地底湖のある空間は行き止まりになっていて先が無いし、上から下まで組まなく探しても、あの古龍の姿はどこにもなかった。いっそ幻覚だったんじゃないかと思っていたけど、異常事態は再び起こった。無関係とは思えないんだよ」

 

 フィールドマスターは少し興奮したような口調で語り続けた。アリアも受付嬢と共に瘴気の谷を探索したが、確かにあの地底湖のある清涼な空間は完全なる行き止まりになっていた。

 

 人の足では進めない、酸の湖の更に先を除けば、だが。

 

 そんなことを予想できないフィールドマスターでは無いだろうが、まあなんにせよ人の足で探索できない場所なのだから仕方が無いとも言えるだろう。

 

「とにかく、アナタに依頼したいのは異常事態の原因調査よ。ヴァルハザクに関してはあくまで存在の可能性の話でしかないけど、全くの無知よりはマシなはず。瘴気の範囲も濃度も上がっているから対策は怠らないようにして。今回はフィールドマスターも同行させるから、三人で協力してちょうだいね」

「分かりました。必ず成し遂げてみせます」

「フフ、頼りがいがあるわね。えぇ、あの子そっくりな……」

 

 それだけ言うと、三期団長はそっと目を閉じて寝息を立て始めた。

 憂鬱な顔は気持ちの問題だけではなく、純粋な睡眠不足によるものもあったのだろう。三人はそっと目線を合わせると、調査の準備のために解散した。

 

 

 

ーーーー

 

 

 装備、アイテム、それから食料などを含め、数日分の調査の準備を整えた三人は、瘴気の谷の上層キャンプへと降り立ち、その惨状に困惑していた。

 

「まさか、キャンプまで瘴気が進出してるなんて」

「ガスマスクを持ってきておいてよかったですね!」

 

 アリア以外の二人は、既に瘴気を防ぐためのガスマスクを付けている。アリア自身は三期団から貰ってきた瘴気の環境を克服するという装飾品を身につけ、視界を広く保っていた。

 

「懐かしいね、二十年前もこんな感じだったよ。当時はガスマスクもなかったから、探索が大変でねぇ」

 

 フィールドマスターもまた、懐かしむように周囲を見渡している。

 三人はなるべく瘴気の影響が少なそうな場所にキャンプを建ててから、瘴気の谷へと足を踏み入れた。

 

 全ての場所において視界が遮られているため、なるべく慎重に谷を下っていく三人。

 屍肉に足を取られて転ぶ受付嬢を助けたり、レイギエナの死骸を見て興奮する受付嬢を宥めたりしながら進んでいく中、アリアは覚えのある感覚を口にした。

 

「小型モンスターがほとんどいない。残ってるのは瘴気に侵されて狂った奴だけだ」

「相棒! これってもしかして……」

「ああ、古龍の出現したフィールドによく似てる。強大な存在に恐れをなして逃げ出すせいで、モンスターがいなくなる。瘴気に侵されたモンスターは残っているあたり、生存本能が鈍いのかもしれないな。あるいは別の理由でか……」

 

 瘴気は深く降りれば降りるほど濃くなるばかりだが、時折襲いかかってくるゾンビのような姿のギルオスを除けば、邪魔が入らない分普段よりスムーズに探索出来てさえいた。

 降りて、降りて、深く降りて。遂にはオドガロンの巣がある深さ、地底湖を除けば最深層と言って差支えのない場所まで、ほとんど消耗することなく三人は降りきった。

 

「ああ、そうだ。リィンはね、ここに折れた大剣を遺して逝ったんだよ」

「こんな深くまで、オドガロンに追われながらですか……」

「恐らくね。何せここには、オドガロンの死体もあったから」

 

 凄惨な現場だった。腹をぶち抜かれたオドガロンの死体と、折れた大剣と千切れたポーチ。そして……。

 

 

「待て。あそこに何かいる。瘴気でよく見えないが……人、か?」

 

 感傷に浸ろうとする二人を、アリアが小声ながらも鋭い声掛けで呼び戻す。

 アリアの指さした方向。深層へと繋がる下り坂と、オドガロンの巣である小さな洞窟の間に広がる開けた空間──エリア10の真ん中あたりに、確かに動く影が見えた。

 普段ならば瘴気の影響が薄いこのエリアも、今は息をするのも困難なほどの瘴気に満ちている。

 そのせいで影しか見えない相手を前に、アリアはゆっくりと近づいていく。

 

「何もこんな深い位置まで、よりによってこんな時に降りてくるとはな」

 

 念の為に背中の太刀をいつでも抜けるように警戒しながら、アリアは人影へと距離を詰めていく。

 瘴気の中で手を広げ、虚空を見上げるようにぼんやりと立っているのが、秘部を隠しただけのほとんど全裸のような格好の一人の少女であると気づいた時、アリアは思わずあっけに取られてしまった。

 

 

「……ん、珍しいわね。人間がここまで降りてくるなんて」

 

 鈴を鳴らしたような、可愛らしい声が三人の耳に届く。明らかに不審な少女を警戒するアリアと受付嬢を他所に、フィールドマスターがガスマスクの下で浮かべたのは驚愕だった。

 

「りぃ、ん? リィン、なのかい?」

「えっ?」

「私を知ってるの? 知り合いかしら」

 

 フィールドマスターの言葉に、受付嬢とアリアは共に間抜けな声を上げ、そして目の前の少女は不思議そうに首を傾げる。

 

 リィンとは、今まさに死んだという話をしていた少女の名前ではないのか?

 

 そんな、浮かんで当然の疑問を抱いたアリアだったが、フィールドマスターはガスマスクを外して少女に近寄って行った。

 

「覚えてないかい? だいぶ老けちまったから、忘れてるかもしれないけど……」

「……一期団の、フィールドマスターさん?」

「ああ、そうだよ! 覚えててくれたんだね、リィン!」

 

 絞り出すように呟いた少女の答えを聞いて、フィールドマスターは、感極まったのか涙を流しながら少女へと抱きついた。

 アリアはあまりにも急、かつありえない展開についていけずにいたが、受付嬢は何に感銘を受けたのか身体を震わせてガスマスクの下では涙を流しているようだった。

 

「死んじまったもんだとばかり思ってた。どうやって、どこで、何をして……!」

「落ち着いて。……私は問題ないけど、三人とも瘴気は苦しいでしょう? 地底湖の方に行きましょう、あっちはまだ瘴気が薄いから」

 

 興奮のあまり少女の肩を掴んで揺らすフィールドマスターを、少女は落ち着いて引き剥がすと、ついていけずにぽかんとしていた二人にも声をかけた。

 なかなか始動しない二人のお尻をぽんと叩いて起動させると、オドガロンの巣へと向かう道とは別の横穴へと歩き始める。三人は、少女の後を追うしかなかった。

 

 

 

 少女に連れられて瘴気のない空間──エリア14と呼ばれる瘴気の谷の最深部へとついてきた三人は、適当な段差に腰掛けた少女に促されて座り込んだ。

 

「改めて、お久しぶり。そしてそちらの二人は初めましてね。私はリィン・フォートレイ、かつてそんな名前を名乗っていた者よ」

 

 疲れを隠さない、しかし穏やかな表情で三人に自己紹介をするリィンと名乗った少女に、アリアは警戒を、受付嬢は不思議そうな顔を、フィールドマスターは涙でもって応えた。

 

「アリア・マグノリア。第五期調査団のハンターだ」

「トアです! 編纂者で、相棒の相棒をやってます! よろしくお願いします!」

 

 アリアと受付嬢も名乗りを返す。今のところ敵意はないし、何かを企んでいる様子もないため、アリアは警戒を少し薄めて少女を見つめる。

 

 三期団長やフィールドマスターが言っていた通りならば、リィンが消息を絶ったのは二十年前も前だという。

 それなりに名の通ったハンターならば、当時若くても二十歳前後だったであろうに、目の前の少女はむしろそれよりも若く見えるくらいに若々しい見た目をしていた。

 まるで時が止まっているかのようだとアリアは思った。

 

「五期……そう、二十年も経ったのね。私は三期団のハンターだったのよ」

「話はフィールドマスターから聞いているよ。とても優秀で、未来があって、そして二十年前に死んだってね」

 

 懐かしむ少女に対し、アリアは核心を突く言葉をぶつける。言葉による駆け引きをしていられるほど、今のアリアは冷静なわけではなかった。

 目の前の少女が駆け引きをしようとしていたのかは関係ない。とにかく、全てを白日の元に晒さなければ、アリアは警戒を解くことは出来なかったのだ。

 

 不審な挙動をしたら太刀を抜く。それほどの圧をぶつけてくるアリアを見ても、少女は警戒するアイルーでも見るような視線を変えることはなかった。

 

「ふふ、若い、そしていいハンターね。アリアだったかしら。何が知りたいの?」

「二十年前に何があったのか、どうやって生き延びたのか、なぜ歳をとっていないのか、そしてあそこで何をしていたのか。最低でもこれだけは話してもらう」

「いいわよ。荒唐無稽な話だけれど……信じるかどうかは、貴方達次第ね」

 

 少女はそこまで言うと、一度フィールドマスターに目配せをする。

 それでいいか、という意思の込められた視線を受けて、フィールドマスターは深く頷いた。

 

「私はロートルだからね。方針はリーダーのアリアに任せるさ。もちろん、後で色々聞かせてもらうけどね?」

「貴方らしいわね。じゃあ、二十年前に何があったのかから話しましょうか」

 

 

 

 少女の口から語られたのは、確かに荒唐無稽としか言いようのない、不思議な話だった。

 

 古龍に命を救われたこと。

 その古龍が人の姿を取れること。

 命を繋ぐために、人であることを捨てたこと。

 今の少女には、古龍の力が宿っていること。

 

 その全てがおとぎ話の中の出来事のようで、三人は開いた口を閉じることが出来なかった。

 

 

「人を辞めて龍になって、私は瘴気から生命エネルギーを集められるようになったの。呼吸をするだけで生きていけるようなものね。歳を取らないのも、恐らくそれと関係しているんだと思うわ」

 

 その言葉で話を締めた少女に、いち早く反応したのはアリアだった。

 何とかして自分の中で噛み砕けたのは、彼女が柔軟な思考を持っている故か、この場の三人の中では最も古龍に詳しいからか。

 

「にわかには信じ難い……が。モンスターが人の姿を取る、という話が旧大陸では少なからずあるのも事実だ。特に古龍に関しては、何があってもおかしくはない」

「あら、信じてくれるのね」

「貴方が死体であり、古龍に操られているだけという線もなくはないがね。まあ、何にせよすまない。よもや死人に出会うとは思わなくてな」

「いいのよ。あそこで警戒しないハンターなんて、ハンター失格だもの。初対面ではなかったフィールドマスターは別としてもね」

 

 潔く頭を下げたアリアの頭をぽんと叩いて、少女は微笑みを浮かべる。

 少女もまた、古い記憶ではあるがハンターだったのだと実感し、アリアは警戒を完全に解いた。

 

「リィンさん、でしたか。古龍と人のラブロマンスなんて素敵ですね! あ、でも、その古龍さんはどこにいらっしゃるんでしょう?」

 

 受付嬢もまた、少女の話を自分の中で消化出来たようで、元気な笑顔を浮かべている。

 そんな中、彼女がふと思い立ったように呟いた言葉は、少女の顔を少し曇らせたのを受付嬢以外の二人はは見逃さなかった。

 

「リィン。今、この谷で何が起こってるんだい? 瘴気の谷は今、上層さえも瘴気で覆われる異常事態になってる。実は、二十年前も同じような現象が起こったんだよ」

 

 フィールドマスターの言葉に、少女はそっと目を閉じてから、思い返すように口を開いた。

 

「……今、島中の地脈が異常な程に活性化してるわ。地脈が島中の古龍を呼んでいるの。この谷にはね、酸の湖の更に奥で地脈が露出している場所があって、私と彼女はそこに住んでいるんだけど……彼女は、地脈の影響で力を暴走させかけてる」

 

 アリアはそれを聞いて、ここに来る前に戦った二頭の古龍を思い出す。

 古代樹の森、そして大蟻塚の荒地にいたはずの二頭は、最終的には何故か二頭とも龍結晶の地に赴いていた。

 少女は地脈が古龍を呼んでいると言っていた。

 鋼龍、炎王龍の二頭がそれと無関係だとは、アリアは到底思えなかった。

 

「とても、とても強い彼女だから耐えられているけれど、漏れ出した力が谷中の瘴気を活性化させているのよ。このままだと陸珊瑚の台地を侵食しかねない。私はそれを抑えるためにあの場所にいたの」

 

 瘴気が陸珊瑚の台地まで進出してしまえば、生態系は大いに崩れる。瘴気に耐性のある谷の生物とは違うのだ。

 ただでさえ瘴気は谷の生物さえ凶暴化させる力を持っている。それが台地まで入ってきた時、何が起こるかは想像もつかなかった。

 

「アリア。地脈の行き着く果てを訪れなさい。その深奥部に、古龍を呼び寄せる何かがある。きっと、古龍渡りの原因もそこにあるはずよ。私はこの谷でしか生きられないし、あの子の力を抑えてあげるので手一杯なの。だから、お願い。この異常の原因を、断ってきてちょうだい」

 

 それは、想い人を苦しみから解放したいという、一人の少女の切なる願いだった。

 それを理解できないアリアではない。人を愛した経験はなくとも、目の前の少女がどれほどの想いをその龍に抱いているのかは、彼女の語る物語から嫌という程伝わってきた。

 

 人を辞めてでも共にいたいと思った相手か。

 羨ましいことだと、あまりにも一途なリィンという少女にアリアは憧憬を抱いた。

 

「ああ、任せてくれ。貴方との約束、必ず果たしてみせるよ」

「私も出来る限り情報を集めます!」

「可愛い後輩の頼みだ……聞いてやらないと女が廃るってもんさね!」

 

 背負った太刀をそっと握り、アリアは己自身に契りを結ぶ。彼女は刀に契った約束を、一度たりとも破ったことはない。

 それは彼女が絶対に成し遂げたいと決めた時にのみ行う、自己暗示のようなものだった。

 

 受付嬢もまた元気よく立ち上がり、フィールドマスターは老練な笑みを浮かべている。

 

 少女、リィンは、そんな人々の温もりを確かに感じていた。

 

 

 

「全てが終わったら、もう一度だけ訪ねてちょうだい。ミアスと一緒に歓迎するわ」

 

 リィンは微笑みを浮かべて、三人を地上へと送り出した。

 

 あまりにも突然に起こった地脈の胎動。そしてミアスの暴走。愛しい人の苦しむ姿を見るのは心苦しかった。ただ、今は希望もある。

 アリア、彼女はきっと約束を成し遂げるだろう。リィンなんかよりもとびきり優秀な、そう、恐らくG級の高みに至っているのであろう彼女ならば。

 

 

 全てを一刀両断にして、再びこの地を訪れてくれることだろう。

 

 リィンは久しぶりに心が踊るのを感じながら、疲れ果てた身体を引きずりながら谷中の瘴気を抑える作業へと戻って行った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 奇跡の邂逅があった、その一ヶ月後。

 何かが絶命する気配と共に、地脈の胎動は収まった。

 

 全てを終わらせ、新たな始まりを告げたアリア達が再び瘴気の谷を訪れるのは、そう遠くない未来の話だ。




もう一話、リィン視点があります。

モンハンワールドの主人公って、唯一エリートのハンターなんですよね。初心者ハンターの成長物語ではない所も、面白いポイントだと思います。
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