鬼と骨がいく!   作:IMOTO

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鬼と骨

「もう終わりだねぇ」

「……はい、もう、終わりですね」

 

 豪奢な円卓の間に、二人の声が寂しく木霊する。

 まるでなんでもないかのようの平然と呟くのは、一人の偉丈夫。艶やかに光る紫紺の髪を逆立てて派手な着物を着崩し、だらんと下げた手には朱漆の光沢を放つ瓢箪を持ち、円卓の上に足を乗せながらボーッと天井を見上げている。人間と呼ぶには額に生えた立派な角が存在を主張し、本性が人間ではない事を示す。

 彼の名前は酒呑童子。鬼の種族の中で最高位に位置する始祖鬼であり、誰が呼んだかのかいつのまにかアインズ・ウール・ゴウンの副リーダーという立ち位置になった男である。

 鬼の本来の姿は皮膚が赤だったり青だったり口から鋭い牙が生えているのだが、牙が邪魔で酒が呑めないという理由から課金して角以外はほとんど人間の姿という、ナザリックでは珍しい亜人種っぽい見た目の異形種である。

 

 その酒呑童子の言葉に答えるのが、全身が骨で構成された異形種。死の超越者(オーバーロード)と呼ばれ、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長を務めているモモンガである。

 

 彼等がプレイしているのはDMMO─RPGユグドラシルと呼ばれ、その圧倒的な自由度から当時では絶大な人気を博したオンラインゲームである。

 しかし、人気というものにはいつか陰りができてしまうもの。

 プレイ人口は縮小の一途を辿り、それによる収入の下落によるサービス維持の困難。これらによってユグドラシルは本日を以ってサービスを終了する事となった。

 

「……なんで、なんで皆、こうも簡単に捨てられるんだ! ここは皆でつくった、ナザリック地下大墳墓なのにっ」

 

 最盛期では41人いたメンバーも今や9人しかおらず、そのほとんどが幽霊部員のようなもの。サービス終了日に来たのも4人だけで、軽い別れの挨拶だけ済まして出て行ってしまった。

 まるで、こんなものは所詮ゲームだと言われているみたいで、モモンガは円卓の上に拳を振り下ろす。

 

「仕方ないよモモンガくん。きっと皆もナザリックが好きで大切だったんだろうけど、それよりほんの少しだけ、現実の方が大事だったのさ。悲しいけど、仕方ない事なんだよ」

 

 声を荒げるモモンガとは対照的に、酒呑童子は落ち着いた口調だった。しかしそこに寂しさがあるのも事実。しかし仕方のない事と割り切ってはいた。

 アインズ・ウール・ゴウンの加入条件の一つ、それは社会人である事。当然、仕事もあれば家庭のある者だっている。どちらを大事にすべきかは本人が決めるべき事であり、他人がとやかく口を出す権利なんてない。

 

「逆に俺たちは、現実よりもナザリックが大事な大バカ者だったわけだ。リーダーも副リーダーも揃って大バカ者とは笑えるじゃないか!」

 

 ハッハッハ! と、愉快に笑い声をあげる酒呑童子。その気楽な姿に落ち込んでいたモモンガの気分も少しは晴れやかになった。

 

(思えば、この人のこういう所助けられてきたんだよな。ありがとう、酒呑童子さん)

 

 心の中で酒呑童子に礼を言い、今までの事を思い返す。

 初めて会ったのは、モモンガが異形種狩りにあっていた頃だ。フラッと現れてPKたちを簡単に倒して、そしてフラッとまた消えてしまった。

 後にたっち・みーに誘われた事でアインズ・ウール・ゴウンというギルドを立ち上げて名を広めていた時に酒呑童子と再会。ギルドを相手に喧嘩するというとんでもない事をしていた時に出会い、勧誘してみたら快く応じてくれた。

 人柄なのか皆からとても慕われており、メンバー同士の喧嘩を仲裁してくれたり、時にド派手な冒険をしてみたり、時にちょっとしたトラブルを引き起こしたりと、楽しい日々ばかりだったのを思い出す。

 その性格から対外交渉を引き受けてくれたりと補佐もしてくれるようになり、いつしかメンバー公認で副リーダーみたいな立ち位置になって、色々と助けてもらった。

 もし酒呑童子がいなかったら、今いるナザリックのメンバーももっと少なかっただろうし、きっと一人でユグドラシルの終わりを見ていた事だろう。

 そう思うと酒呑童子には感謝してもし足りないくらいだった。

 

「そうですね。俺も酒呑童子さんもどうしようもない大バカ者です。本当にありがとうございます、酒呑童子さん。最後まで、付き合ってくれて」

「何を言っているんだいモモンガくん、そんな辛気くさい別れを言うもんじゃない。どうせ別れるのなら笑顔でなくちゃね。それに、ユグドラシルの終わりが俺たちの最後ではないんだよ?」

「え」

 

 なにか含みのある声を出しながら、酒呑童子は一つのアイテムを円卓の上に置いた。

 モモンガもそれは知っている。

 記憶の水晶石(メモリアル・クリスタル)と呼ばれるプレイヤーの行動を録画する、仲間内で使う遊びアイテムのようなものだ。

 しかも一度きりの低位のものではなく、特定の時間まで何度も映像を保管できる上位版。課金アイテムで無駄に高かったと記憶している。

 訳もわからないモモンガに、副リーダーからの素敵なサプライズだよといって酒呑童子はアイテムを砕いた。

 

『……ええっと、その、お久しぶりです。モモンガさん』

「え、あ、たっちさん!?」

 

 空中に浮かび上がる半透明のディスプレイ。そこに映し出された人物を見て、モモンガは驚きの声をあげた。

 画面に映ったのはたっち・みーと呼ばれるキャラであり、モモンガを助けた恩人の一人。彼がいたからこそアインズ・ウール・ゴウンは生まれ、素敵な仲間たちに出会えたのだ。

 

『ユグドラシルが終わるからどうしても最後に会ってくれないかと酒呑童子さんにお願いされたのですが、どうしても仕事の都合で挨拶する事ができず、こうしてメッセージを残す事にしました』

「え、酒呑童子、さん?」

 

 何も理解できないといった感じで、酒呑童子を見つめる。

 ユグドラシルではキャラクターの表情までは再現できないはずなのに、何故か酒呑童子からはイタズラが大成功したような笑みを感じる。

 

「モモンガくんったら、ユグドラシルが終わるのが三ヶ月も前に告知されてたのに、一向に皆にメールを送らないんだから。どうせ仕事が忙しいから迷惑かなって遠慮でもしてたんでしょ? だから少しお節介して、皆の挨拶をこうして記録したんだ」

「え、み、みんなって……」

 

 モモンガがまだ驚きから回復しない中、映像が次々に切り替わる。

 

 ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、ウルベルト、タブラ、弐式炎雷、武人建御雷、やまいこ、ヘロヘロ……これまでの大事な仲間達が次々と出てきて、思い思いの言葉を残す。

 

 『今までお疲れ様でした』『ナザリックを守ってくれてありがとうございます』『またどこかでお会いしましょう』『ゆっくりお休みください』『今まで楽しかったです』

 

 もう会えないと思っていた仲間たちからの、別れの言葉。再会できた嬉しさと、本当にもう会えないんだという気持ちごちゃ混ぜになり、涙が溢れ出ていた。

 

「酒呑、童子さん、ありが、ありがとう、ございますっ。みん、なに会えて、声を、聞けてっ……」

 

 これ程の事をしてくれて、自分はどうやって恩を返せばいいのか。上手く言葉が出せない中で、モモンガは何度も何度もありがとうと酒呑童子に伝えた。

 

「そうかそうか、喜んでもらえて何よりだよ。でもね、実はこれだけじゃないんだよ? 実はアインズ・ウール・ゴウンお疲れ様会って名前のオフ会を計画していてね、そこで本当の皆と集まろうって計画を立てていたんだ」

 

 そのために今日来れない人達が多くてね。と言葉を付け足した。

 ユグドラシルではなく、本当の皆と実際に会える。それがどれだけの喜びか、最早言葉に言い表せない。

 

「本当に、酒呑童子さんには敵いませんね。俺よりもよっぽどギルドマスターに向いてるんじゃないですか?」

「いやいや、モモンガくんがしっかりと責任感を持っていたからこそ、ナザリックは今まで続いていたんだよ。俺たちのためを想ってくれてたからこそ、皆はモモンガくんの信頼に応えようとしていたのさ。何より、俺は責任とかそういうの嫌だから」

「あ、それが本音でしょ酒呑童子さん!」

 

 円卓の間に、楽しげな笑い声が響いた。そこに悲哀の情はなく、ただただ未来への楽しさが詰まっていた。

 

「そろそろ時間ですね。酒呑童子さん、どうせなら玉座の間で最後をむかえませんか?」

「いいねそれ。結局は誰も攻め込まなかったけど、最後は……あ」

「どうしました?」

「いやぁ、この最後の日に向けて上等な酒を買ってしまってね。ちょっとだけ飲みにいくよ」

「えぇ!? 今日だってもうかなり飲んでるじゃないですか! そんな事してるから体壊しちゃうんですよ!」

 

 酒呑童子の中の人はナザリックでも有名な大酒飲みで、プレイ中でもよく酒を飲んでいた。それでいて全く酔った素振りを見せないから、メンバー内ではウワバミとよく呼ばれていた。

 実際過去には飲酒のし過ぎで倒れた事もあったのだが、それでも禁酒するような事はなく、モモンガからプレイ禁止の療養命令が出ても従わなかった。

 曰く、好きなもの飲んで体に悪いのは理に適ってないらしい。

 これには流石にモモンガも呆れて何も言えなかった。

 

「あとちょっとで終わっちゃうんですから、飲んだらはやくきてくださいよ」

「大丈夫だって。俺は最後までリーダーと一緒だから」

 

 調子が良いんだから、と言葉を漏らしてモモンガは先に玉座の間へと向かう。

 一度も使う事がなかったギルド武器を手に取り、従者を引き連れ玉座の間へとついたモモンガは、大事な片腕の到着を待つ。

 

「酒呑童子さん、まだ飲んでるのかな? もう3分切っちゃいましたよ」

 

 そう独言るモモンガは、酒呑童子が来るまでNPCの設定を覗いていたりと時間を潰していたが、ようやく酒呑童子が扉を開けてやってきた。

 

「ごめんねモモンガくん、お待たせしちゃったね」

「あと1分しかないですよ酒呑童子さん、ほら隣に立って」

 

 玉座に腰を下ろす骸骨の王と、隣にいるのは最も信頼する片腕であり最強の暴力を持つ鬼。そして眼前には主人に仕えし忠義ある従者。まるでどこぞのラスボスのような光景にテンションが上がり、モモンガはこれをユグドラシル最後の思い出にしようとスクショした。ちゃっかしVサインしながら。

 

「本当に終わっちゃうんですね、ユグドラシルが」

「けど、俺たちは終わらないよ。まだまだこれから先があるんだから」

「そうですよね。俺たちにはこれから先があるんですものね」

 

 少しずつ、決して違える事のない速さで時が進んでいく。

 全ての数字が0となり、新たな1が刻まれた瞬間にこの世界は終わる。

 酒呑童子を見ると、お互いに通じあっているように頷きあった。

 そして、時間が訪れた。

 

「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」




原作との違い。
主人公のおかげで最後までナザリックに在籍していたメンバーの数が増えている。
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