誰かに許してほしい、そんな願い   作:HA.KO3

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続きというか、千冬さん視点です


織斑 千冬という女性

 

 

私の弟であり世界で初めてISの男性操縦者となった“織斑 一夏”が見つかった事で、世界規模での検査の際に見つかったもう一人の男性操縦者。

 

そんな情報を、IS学園で仕事をしていた時に副担任から聞かされた。

 

曰く、“保護”という名目で政府に半ば監禁され毎日のように検査言う名の実験と訓練の繰り返しをさせれているという。

 

家族とも会えず、そんな毎日に、彼は今どんなに苦しんでいるだろうか?

そんなことを考えながら、私は日本の対暗部用暗部だのと言われている“更識 楯無”に情報を集め、彼を解放させられるように手回しできるか頼んでみた。

 

「…霧宮…椿…」

 

楯無から送られて来たその少年の経歴を見ていた。

 

「…妹が…死んだ?」

 

その中で、一年前に妹がストーカーに強姦され殺害されていることが分かった。その事を知って、より一層彼の精神状態が心配となった。

 

私は未だ顔を見たことの無いその少年の事が、何故だかとても心配になったのだ。

 

 

もしかしたら、私も彼のようになっていたかもしれない。

そんな事が、頭をよぎる。

 

2年前、私はISの世界大会“モンド・グロッソ”で二連覇を逃した。何故か?それは観戦に来ていた弟を誘拐されたからだった。

あの日、私は決勝戦を辞退し弟を守るか、弟を見捨て日本が…いや、“世界”が望んだ【世界最強(タイトル)】を守るかの選択を迫られた。

 

そして、あの日私は弟を選んだ。

 

いや、彼は選択の余地などなかった。そして守る事の出来る力も持てなかったのだ。

だが、私は違った。私には力があった。“与えられた”力が。ISという最強の力が。

 

「山田くん…少し外す…」

 

「あ、はい」

 

私は自分の席を立ち、職員室を出て屋上へと向かう。本来ならこの時間は授業中。誰も居ないはずだ。

 

prrrrrr....prrrrrr....

 

端末を耳に当て、私は腐れ縁の馬鹿(天才)に電話を掛ける。

 

 

「もすもす?ひねもす!?どうしたんだい?ちーちゃんの方から掛けてくるなんて!!もう束さんは嬉しくて嬉しくて涙がちょちょぎれそうだよぅ!」

 

耳元の携帯端末から放たれるマシンガントークの威力を下げるため、少しだけ耳から離し、ごちゃごちゃした世間話を聞き流して本題に入ることにした。

 

「霧宮 椿の事だ。貴様も知っているだろう。何か知らないか。どうやら政府の豚どもが彼を監禁してるらしい。何か情報があったら至急くれないか」

 

「その事ならちーちゃん ナイスタイミンッ!!なのだよ!今まさに彼は現代の最高技術の塊を研究する研究所から逃走中なのだ!!」

 

「なに!?どういう事だ!説明しろ!!」

 

「うんうん説明するともさ!詰まる所、彼はどうやら逃走するために元から準備してたみたいなんだよ。それで女性利権団体だとかが彼の家族をさらったらしくって!その情報を聞いた彼は今まで隠してたコマを全て使って脱出したみたい」

 

「なにッ!?」

 

私はすぐ様振り返り職員室に駆ける。

 

「束!状況を教えろ!」

 

「現在“彼”は訓練中に乗ってたISで警備システムを突っ切って“彼”の家に向かってるみたい。犯人達は“彼”の家族を誘拐して近くの廃墟で始末するつもりらしいよ」

 

電話越しに電子音が忙しなく聞こえてくる。おそらく束も何かしら動いているのだろう。

 

 

 

「山田くん緊急事態だ!すぐに動けるIS部隊と機動隊を招集しろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が事の顛末を知ったのは、それから11時間後だった。

その数日後に彼が保護されたという新たな施設に、私は初めて赴いた。

 

「彼が…」

 

マジックミラー越しに、体を縮めてうずくまる少年を見つめる。

 

「ええ、ここ2日は食事も摂ろうとしません。このままでは最悪、衰弱して死んでしまうだろうとの事です…」

 

私の隣で更識が彼の現状を伝える。

 

 

部隊が到着した時には、全て終わっていたらしい。

廃墟に居たのは“彼”と誘拐犯の二人、そして発砲されすでに事切れていた“彼”の家族だったそうだ。

 

 

ドンッ!!

 

私は思わず壁を殴る。少しだけ壁が凹んだが気に止める余裕は今の私にはなかった。

 

「どうしてこうなる前にキチンと警備しておかなかった!!!!」

 

「それが、政府の人間は織斑くん…弟さんの方を重要視していたらしく、彼の家族の警護を怠っていたらしいです」

 

其奴(そいつ)らはどうなった…!」

 

「責任者は辞職させられました。おそらく日本政府はそれで誤魔化すつもりです。辞職した人間の口座に多額の振込がありました。口封じか何かでしょうね」

 

「巫山戯るな!!」そう言いそうになって、言葉を飲みこんだ。日本の法律や体制ではそれ以上を求める事は難しいだろう。どうなっても奴らは金と権力を使って自分達のいいようにでっち上げるに決まっている。

 

「彼に…面会させてくれないか…」

 

「ッ!お言葉ですが織斑先生!彼の精神状態は今それどころではありません!むしろ今の彼に織斑先生を会わせるのは…」

 

「それでもだ!!」

 

言いにくそうに喋る更識の言葉を遮り、私は激昂する。

 

「それでも!…私は彼に…謝らなければならないんだ…!!」

 

「……」

 

更識は私の目を見て、テコでも動かないと悟ったのか少し溜息を吐く。

 

「…。わかりました。ただし、5分だけです。5分だけ、私は何もみなかったことにします。それ以上は私も許容できませんよ?」

 

更識は扇子を口元で開く。扇子には『他言無用』と達筆な字で書かれていた。

 

 

 

小さなドアを潜り、私は彼が押し込められている部屋に入る。中は狭くて、息が詰まりそうな閉塞感が空気を掌握していた。

 

「…」

 

彼が私を一瞥する。まるで生気が感じられなかった。黒く、まるで見るものすべてを呪っているかのように茶色混じりの黒い瞳は濁っていて、一瞥されただけで私の背筋を震わせた。

 

「…初めまして…私の名は『織斑 千冬』という…君と同じ、もう1人(・・)の男性操縦者の姉だ…」

 

きっと私の声は、今にも消えそうなほどに小さいだろう。世界最強と言われたほどの覇気は感じられず、身体は震えているかもしれない。だが、それでも言わなければならない。

 

逃げてはいけないのだ。

 

彼はゆっくりと私を見つめる。

 

「…すまない…謝っても許されるとは思っていない…」

 

私は目を瞑り頭を下げる。

 

 

ガッ!!

 

 

突如衝撃と共に彼が私に飛び掛かってくる。私を押し倒し、力を込めて必死に首を締めようとしているが、力は全然入っておらず、すぐに振りほどけそうなほどか弱かった。

 

(これほどになるまで…)

 

彼の苦しみと悲しみを思うと私はどうしてもこの手を振りほどけなかった。

ほつほつと、私の頬に雫が落ちる。

 

彼の涙だ。

 

溢れんばかりの怒りと悲壮感が私に向けられている。いつの間にか、私の頬は彼の涙と混ざるように流れた私の涙(・・・)で濡れていた。

 

泣き続ける彼の手に、自分の手をそっと添える。慈しむように、今にも溶けてしまいそうな雪をすくうように、私は彼の手に触れた。

 

 

 

 

す ま な い

 

 

 

私は自分でもわからず、そんな言葉を彼に掛けていた。罪悪感が私の心臓を締め付け、彼の怒りが私の心を切り刻んだ。

 

 

私の言葉を聞いて、彼はふっと手の力が緩んだ…気がした。困惑の色が彼の中に見えた。

嗚呼、私はこの表情を知っている。彼は今、きっと自分を責めている。苦しめている。誰かに許して欲しくて仕方がないんだ。だが、私にはその資格はない。いや、そんな資格のある人は…きっともう居ないのだ。

 

 

彼が最も許して欲しい人達はもう居ないのだ。

 

 

どこにも…居ないのだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

あのすぐ後、更識が飛び込んできて彼を拘束した。更識は彼を拘束した時にまるで幽霊にでも触れたかのように驚いていた。それもそうだ。飛び掛かっていった相手は今にも折れそうな身体で私に向かっていっていたのだから。

 

それから、私は彼の元に通うようになった。少しだけ話をした。彼の家族の話を、優しい家族だったと、掛け替えのない家族だったと。

 

「…俺は…どうなりますか?」

 

上を見上げ、まるで思い出すかのように質問してくる。

チャラリとあの日から面会の時に必ずつけられるようになった手錠を鳴らしながら彼は上を見上げた。

 

「…モルモットかなんかですか?」

 

「そんな事させるものかッ!!」

 

私は激昂したが、彼は道に捨てられた子犬を見るかのように私に微笑みながら喋る。

 

「明日…本当は弟の誕生日だったんです…」

 

「………」

 

「あいつ…俺とお揃いのロケットが欲しいって…」

 

そう言いながら、彼は自分の胸元の星型のロケットを握しめた。その手は震えていて、彼の頬を一筋の雫が流れ落ちた。

 

だが、彼が言ったような事は…『弟がロケットを欲しがった』など、あり得ないのだ。

研究施設は彼と家族との面会はおろか、手紙や電話でさえ出来ていないのだ。

 

そんな事実は無いはずなのだ。

 

「俺は…何処か別の施設に移されるんでしょう?食事を持ってきた職員の人に聞きました…」

 

「施設…というよりも、学校だ。君には…IS学園に入学してもらわなければならない。辛いだろうが、君の精神衛生上いつまでもここに居るわけにもいかない」

 

政府の連中は遠回しに言っていたが、彼をさっさとIS学園に入れてデータを取れと言っていた。その場で怒鳴りそうになったが、なんとか抑えてここまで来た。

 

「安心して欲しい。IS学園のセキュリティは現状どこの施設よりも安全だ。君の事は職員全員が守り抜くと誓おう」

 

 

 

私は胸に拳を当てて彼に向かって誓った。

 

 

 

 

 

 

 

彼は誰かに許して欲しいのだ。そして私も、きっと彼に許して欲しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 




今更ですが、主人公の名前は適当に決めました。

短いですが、こんなもんです。

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