隣人は小さなプロ雀士   作:タウリン200

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アラフォージャナイヨマダアラサーダヨ!!!


もう一人のお隣さん

よく晴れた平日の朝。

目覚まし時計の鳴る音で目を覚ました俺は、カーテンの隙間から差す日を浴びながら、まだハッキリと覚めない頭でボーッと宙を眺めていた。

 

ここに引っ越してきてから早1週間。

荷物が詰められた段ボールも全て開け、荷ほどきは完全に済んでいた。

近くに商店街があることもわかってきて、買い物なども楽になり、だいぶここでの暮らしに慣れてきた気がする。

それでもしかし、1週間が経った今でも、あれ以来隣の彼女にちゃんと謝ることができていないのであった。

 

「てか露骨に避けられてるしな…」

 

彼女と顔を合わせることは何度かあった。

買い物に出掛けようと家を出ると偶然同じタイミングで彼女が出てきたり、何なら一度勇気を振り絞って彼女の部屋を訪ねたりもしたのだ。

しかしその度に、

 

「あ、何か忘れ物したわー、し、知らんけど…」

 

とか、

 

「い、いま、ちょっと忙しいから、また今度な!し、知らんけど…」

 

といった具合で、ろくに挨拶もできないまま彼女は姿を隠してしまうのだった。

これには流石の俺もかなり堪えていた。

 

「完全に嫌われてるよな…ああー!何であんなことしたんだよ俺は!!」

 

怪我した彼女の指を突然くわえる。

それは家族ならまだギリギリわからないでもない行動だが、まだ会ったばかりの、しかも男女二人きりの空間でやってしまったあの行為は、今考えただけでも恥ずかしさと後悔で死にたくなった。

 

「…でも三尋木さんの指…ちっちゃくて可愛かったな…」

 

後悔はしてると言っても思春期真っ盛りの男の子。

うっかりくわえてしまった彼女の綺麗で小さな指を思い出す度に、何度もドキドキしてしまうのだった。

 

「ってこれじゃ変態じゃんかよ!」

 

一人呟いた言葉に盛大なツッコミを入れて冷静さを取り戻す。

いくら可愛いとはいえ、人の指をくわえて喜んでるような変態にはなりたくない。

戒めの意味も込めつつ、自分の両頬をバシバシと叩いた。

 

「とりあえず、朝飯用意しよう」

 

そう言って布団から出て着替えをする。

着替え終わって何を食べようか考えていると、突然家のチャイムが鳴り出した。

ピンポーン…ピンポーン…

 

こんな朝早くに誰だろうか。

少し不思議に思い、インターホンの画面を覗くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。

隣の和装ロリ美少女(24歳)が訪ねてきたあの日以来、初めての女性の訪問。

ちなみに三尋木咏がモニターに映らなかったのは、高さが足りなかったからのようだ。

このマンションは若干カメラが高い位置にあるので、背の低い彼女ではギリギリ映らないらしい。

それ完全に設計ミスだろうけどな…

 

そんなことを考えながら、インターホン越しに見覚えのない女性に声を掛ける。

 

「はい?」

 

「あ、おはようございます。私、隣に住んでるものなんですけど、朝早くにすみません。202号室に新しい方が来たと聞いたものでご挨拶に来ました。」

 

「お隣…あ!201号室の!すみませんこちらから挨拶に行かないで!今出ます!」

 

慌ててインターホンの受話器を下ろし、玄関へと向かう。

何と、訪ねてきたのはもう一人のお隣さんだった。

初日以来何度か訪ねたのだが、一度もいなかったお隣さんがわざわざ向こうから訪ねて来てくれたのだった。

 

ガチャリとドアを開けて外を見ると、そこには少し地味だがかなり美人なセミロングの女性が立っていた。

見た感じまだ若そうで、年齢的にはもう一人のお隣さん(合法ロリ)と同じかそれより若い気がした。

 

どこかで見たことがあるような気もしたが、多分気のせいだろう。

俺はドアを後ろ手に閉めて、彼女の前に出る。

 

「初めまして。私、隣の201号室に住んでる、小鍛治です。朝早くにごめんなさいね。」

 

「いえいえ、本来こっちが挨拶に行かなきゃなのに本当すみません。須賀です、宜しくお願いします。」

 

丁寧に挨拶をしてくれる小鍛治さんに、俺もちゃんとした挨拶を返す。

そんな俺を見て、彼女は微笑みながら話してくれた。

 

「いえいえ。実は私、さっき出張から帰ってきたんですよ。そしたらお掃除してる大家さんと会って、新しいお隣さんが何回か挨拶しに来てたと教えてくれたので。それでそのままこちら伺っちゃいました。」

 

「あー、そうなんですか。わざわざすみません。」

 

朝早くに向こうから訪ねてきたのはそういう理由があったらしい。

こちらから向かう手間が省けてありがたい限りだ。

 

っとそこでふと、引っ越しそばのことを思い出した。

そう言えばまだ渡してない。

 

「ちょっと待っててください」

 

そう断りを入れた俺は、部屋から引っ越しそばを持って戻り彼女に渡す。

 

「これ、よかったら貰って下さい」

 

「わぁ、引っ越しそばですか!嬉しい!ありがとう」

 

「いえいえこれくらい当たり前ですよ」

 

「ふふふ。若いのに感心だね」

 

先ほどよりも幾分か砕けた雰囲気で話しかけてくれる彼女。

ほんわかとした彼女の雰囲気と笑顔は、最近ちょっと疲れぎみだった俺の心を癒してくれたのだった。

 

お姉さんって感じだなー…。

そうしみじみ思っていると、彼女がまた話しかけてくれた。

 

「見たところ学生さんっぽいけど、高校生?」

 

「はい!今年から高校に通います!」

 

「高校生で一人暮らしってすごいね」

 

「両親が海外に出張に行くことになって。俺もせっかくなんで一人暮らしをさせてもらうことにしました。高校も、実家からだと少し遠かったので」

 

お隣さんとの世間話。

しかもかなりの美人さんである。

俺は今この時間がとても幸せだった。

 

「小鍛治さんは出張、どこに行ってたんですか?」

 

「ちょっと地元の高校にね。1週間くらいずっと指導に行ってて、実家があるからそこに泊まってたんだ」

 

「指導…って、小鍛治さん、何かの先生なんですか?」

 

そう尋ねると、彼女は少しだけ考えてから、ちょっと予想外の質問を俺に投げ掛けてきた。

 

「…須賀君は、麻雀とかやったりするのかな?」

 

「…へ?」

 

急に出てきた「麻雀」という言葉に、俺は気の抜けた返事をしてしまう。

目の前の大人しそうな女性からはあまりイメージできないワードに、少しだけ驚いてしまったのだ。

 

「…いえ、全然ないです。学校で友達とかがやってるのは見たことあるんですけど…」

 

彼女から麻雀はイメージできないと言ったが、別に今時麻雀をやっていても珍しいことはない。

昔こそマイナーな競技であった麻雀だが、今や競技人口は数億にも登るほどのメジャー競技である。

美人で大人しそうな女性とはいえ、やっていても別段おかしなことはなかった。

 

それにしても、それを聞いてくるということはもしかして…

 

「小鍛治さんって、そこの麻雀部のOGなんですか?」

 

「ん?まあ、そうだけど…」

 

「すごいですね!OGとはいえ指導を頼まれるほど強いなんて!もしかして、麻雀教室の先生とか何ですか?」

 

「え?…いや…当たらずも遠からずというか…」

 

俺の言葉に何とも言えない微妙な顔をする彼女。

あれ、俺もしかして見当外れなこと言ったか?

麻雀やってるか質問してきて地元の高校の指導に行ってきたというから、てっきりそういう感じなのかと思ったのだが…

 

考えこんでいる俺に対して、彼女は何かを言おうか言わまいか悩んでいる様子だった。

 

そんな微妙な空気が流れる中、ふと、ガチャリとドアが開く音がする。

 

「あ、咏ちゃん!おはよー」

 

「おろっ、すこやん帰ってきてたんだー…って、す、す、須賀⁉」

 

振り向くと、ドアの隙間からもう一人のお隣さん、和装ロリ美少女こと三尋木咏がこちらを覗いていたのだった。

三尋木さんは俺の顔を見るやいなや、ゆっくりと扉を閉じ始めた。

 

「あー、な、何か知らんけど、ちょ、ちょっと用事が…」

 

「あ、咏ちゃんちょっと待って」

 

逃げようとする三尋木さんだが、小鍛治さんの呼び掛けにより止められてしまう。

 

「な、なんですかいね?」

 

「なにそのいつも以上に変な喋り方…」

 

もともと独特な喋り方の彼女がいつも以上に変な喋り方なことにツッコミを入れる小鍛治さん。

どうやら、見たところ二人は旧知の仲らしい。

それも結構仲がいいのだろう。

呼び方も友達同士のそれらしかった。

 

「咏ちゃん、須賀君とはもう会ってお話しした?」

 

「ひゃうっ⁉え、ま、まあ、は、はなひたけど?」

 

唐突な質問にびくりとする三尋木さん。

相当動揺しているのか、微妙に噛んでしまっている。

 

そして、ちらりとこちらに視線を向ける三尋木さん。

俺と目が合うと、顔を赤らめて目線を反らされてしまった。

さらに、袖元からバサりと扇子を取りだし、口元を隠してしまう。

 

…やっぱり俺、相当嫌われてるな…

彼女に避けられていることを改めて実感した俺は、かなりショックを受けていた。

しかもあの時のことを思い出してまた恥ずかしくもなってくるし、穴があったら入りたいと正に今のことだ。

 

「…二人とも、何かあったの?」

 

俺らの様子を見て、怪訝そうな顔をするもう一人のお隣さん。

俺らはそろってばつの悪そうな顔をするしかできなかった。

 

「ふーん…まあいいけど。それで咏ちゃん、須賀君に私達の仕事のこととか話した?」

 

「…へ?し、してないけど…」

 

予想外の質問だったのか。

三尋木さんは少し間抜けな顔をして返事をした。

 

間抜けな顔も可愛いな…って、だから俺ってやつは…!

 

自分の思考回路に嫌気が差しながらも、小鍛治さんの言った、「私たち」という部分が気になった。

 

「もしかして、お二人とも麻雀教室の先生をしているんですか?」

 

「…は?麻雀教室の先生?…なんで?」

 

「須賀君に麻雀やったことあるか聞いたんだけど、やったことないみたいで。出張の話をしたら、何かそう思ったみたい」

 

「あー…なるほどねぃ」

 

またしても微妙な空気が流れてしまう。

どうやら俺は見当違いなことを言っているようだ。

少なくとも、麻雀教室の先生ではない。

しかしそうなると仕事とはいったい…

 

ますます謎が深まる二人に頭を悩ませていると、ふと小鍛治さんが何かを閃いたようだ。

 

「そうだ咏ちゃん!咏ちゃんって、今日で謹慎とけるよね?」

 

「え⁉…そ、そうだけど?」

 

「それで今日この後、謹慎開け最初の試合でしょ?」

 

「な、何ですこやんがそんなこと知ってんのさ!」

 

「だって私、それの解説だし」

 

「くっ…ぐぬぬ…」

 

「それでさ、私思ったんだけど、その試合を須賀君に観に来てもらうのはどうかなって」

 

「……は、はあああああああ⁉⁉」

 

小鍛治さんの提案に絶叫する三尋木さん。

提案者である小鍛治さんは、ニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「じょ、冗談じゃないよ!何で須賀が私の試合観に来るのさ!」

 

「いいじゃん別に。私達の仕事を知ってもらうにはこれが手っ取り早いし」

 

「だ、だからって、いきなり試合を観に来るだなんて!」

 

「何か問題あるの?」

 

「べ、別に問題はないけど…い、今須賀が来たら私、試合に集中できるかどうか…」

 

「んん?何で?」

 

「し、知らんけど…知らんけど!!」

 

「プロなんだから、試合になれば集中できるでしょ?」

 

「う…そうだけど…」

 

「じゃ、決まりだね!」

 

「ううぅ…わっかんねー…わっかんねー…」

 

全く着いていけない二人の話。

終始小鍛治さんが余裕の笑みを浮かべ、三尋木さんは怒ったりモニョモニョ声が小さくなったり、只でさえ小さな彼女がより小さくなってしまっていた。

 

てか試合って何?プロって何?

 

「よし!そうと決まれば須賀君、一緒に行こっか」

 

「いやあの…」

 

「もしかして今日空いてなかったりする?」

 

「いえ、空いてますけど…」

 

「うん!じゃあ決まりだね!」

 

ほんわかしたイメージの彼女は、意外にもどんどん強引に話を進めていった。

そんな彼女は何だかとても楽しそうである。

 

「くぅ…すこやん、ぜってー許さねえからな…!」

 

対照的に三尋木さんは、目に涙を溜めながら恨めしそうに彼女を睨み付ける。

 

「須賀!お前もぜってー許さねえからな…!」

 

そして俺までも睨み付けてくる三尋木さん。

何で俺もなんだ…

 

あまりにも急な展開すぎてわけがわからない。

何が何だか、全く話が見えないのだが…

 

「あ、あのー…」

 

「ん?」

 

「それで、行くってどこに…?そもそも試合とかプロとかっていったい…」

 

恐る恐る聞いた俺を見て、小鍛治さんは今日一番の素敵な笑みを浮かべてこう答えた。

 

 

 

 

「麻雀の試合だよ。しかも、プロのね!」

 

 

 

 

そして俺はこの後、お隣さんの…小さなプロ雀士の試合を観に行くこととなるのだった…。

 




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