隣人は小さなプロ雀士   作:タウリン200

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お気に入りや高評価がいきなり増えていて驚きました。
とても嬉しいです。
今後も宜しくお願い致します。


小さな背中

小鍛治さんから麻雀の試合を観に行くと言われたそのすぐ後、俺は彼女が運転する車の助手席に座っていた。

車内には二人だけで、試合に出場するもう一人のお隣さんは乗っていない。

というのも、その彼女は突如現れた真っ白なリムジンに乗って消えてしまったからであった。

 

「まさか三尋木さんが、お金持ちのお嬢様だったとは…」

 

リムジンの運転手が「咏様、お迎えにあがりました。」って言ってきた時には、驚きのあまり呆然と立ち尽くすしかできなかった。

そんな俺をちらりと見て、車を運転する小鍛治さんはくすりと笑う。

 

「彼女、三尋木流っていう華道の家元の娘さんなの。一回お家にお邪魔したことあるけど、スッゴい豪邸だったよ~。なんか旅館みたいだった」

 

結局そこでも麻雀しかしなかったけど…と付け足して、小鍛治さんは三尋木さんがリムジンに乗っていった理由を教えくれる。

着物を着ているのもそういう理由からのようだ。

そんな彼女自身は、割りと庶民的な感覚を持っているのだろう。

家元の実家を「旅館」と表現するあたりに、何となく親近感を覚えた。

 

「それにしても、お二人が麻雀のプロだったとは…」

 

「あははは…まあ、私はもう地元のクラブチームで、ランキング戦とかは全然出てないけどね」

 

「それでもプロってことは結構すごいんじゃないですか?あと、解説だってされてるみたいだし…」

 

ハニカミながら謙遜する小鍛治さんだが、彼女も三尋木さん同様にすごい人なのだろう。

麻雀とかに全く詳しくはないが、今や超がつくほどのメジャー競技の麻雀だ。

その中でプロや解説として仕事しているということは、かなりの実力がないとできないことに違いない。

 

ふと麻雀プロとしての彼女が気になり、調べてみようとスマホを取り出した。

すると何故だが、小鍛治さんが慌てて止めてきた。

 

「す、須賀君、もしかして私のこと調べようとしてる?」

 

「ええ、そうですけど…」

 

「出来ればその、やめてほしいかなーって…」

 

「どうしてです?」

 

「いや、ほら!何て言うか、須賀君にはまだ知られたくないことがあったりなかったり…特に年齢のこととか…」

 

「?まあよくわかんないですけど、それでしたらやめておきます」

 

「ほっ…ありがとう」

 

あまり自分のことを調べて欲しくないらしい彼女は、俺がスマホを戻すのを見ると、ほっと安堵のため息を吐いた。

途中声が小さくて聞き取れなかったが、どうやら知られたくないことがあるらしい。

なら無理に調べる必要もないだろう。

それに、女性が嫌がることをするなんて紳士のすることじゃないしな。

彼女の名前を途中まで入力したときの、「小鍛治健夜 アラフォー」という予測ワードが少し気にはなったが、俺はこれ以上彼女について詮索するのをやめることにした。

 

「それで今日の三尋木さんの試合って、どういうの何ですか?」

 

「タイトル戦の予選だね。彼女2週間くらい謹慎させられてるから、残りの試合全勝しないとなんだ」

 

試合を観に行くことが決まる前の二人の会話にも出てきていたが、三尋木さんはとある事情で2週間の謹慎処分を受けていたようだ。

いったい彼女が何をしてしまったのか…

気になって尋ねてみると、小鍛治さんは苦笑いを浮かべながら答えてくれた。

 

「咏ちゃん、試合会場の照明を全部壊しちゃったんだよね…」

 

「…え⁉どういうことですか?」

 

「その日同卓してた子に、背が低いのを散々馬鹿にされて…試合でもちょっと負けてたから機嫌が悪かったんだろうね。怒りのオーラで会場の照明全部割っちゃったみたい」

 

そう言って彼女はあははと笑うが、何を言ってるのかわけがわからない。

オーラで照明割るってどういうことだよ…

 

「あの二人はもともとあんまり仲良くないしね。見た目も真逆だし。まあ須賀君も、咏ちゃんに身長のこととかあんまり言っちゃだめだよ?」

 

…もう時すでに遅しなんですが…

とにもかくにも、今後一切は三尋木さんに対して身長のことは言わないと心に決めたのだった。

 

「でもそのせいで残りの試合全勝って、結構大変じゃないですか?」

 

「んーどうだろ?組み合わせにもよるけど、咏ちゃんなら多分大丈夫じゃないかな?」

 

「え、三尋木さんってそんなに強いんですか?」

 

「まあまあ強いと思うよ。タイトルも持ってるし、女子日本代表のメンバーだし」

 

何てことないように答える小鍛治さんだが、言ってることは衝撃的すぎた。

タイトル持ちで日本代表⁉

それって相当強いんじゃ…てかそんな彼女を「まあまあ強い」ってこの人はいったい…

 

朝から驚きの連続で未だに頭がついてこない中、俺を乗せた車は試合会場へと到着した。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「はいこれ、スタッフ用の身分証ね。これがあれば会場の大抵のところは入れるから」

 

そう言ってスタッフ証を渡してくる小鍛治さん。

試合を観に来ただけなのに、まさかこんなものまで渡されるとは思ってもみなかった。

 

「まあ試合を観ることが目的なんだけど、その前に須賀君には一つお願いがあります」

 

「お願いですか?」

 

「今から試合前の咏ちゃんの控え室に行ってきてください」

 

小鍛治さんの申し出は驚くべきものだったが、スタッフ証を渡されたときから何となくそんな気はしていた。

 

「…やっぱり何かあったってわかりますよね?」

 

「当たり前です。あんな咏ちゃん見たの私初めてだよ?」

 

ちょっと可笑しそうにする小鍛治さん。

このお願いは彼女なりの気遣いらしい。

 

「二人の間に何があったかは知らないけど、今のうちに仲直りしてた方がいいんじゃないかな。それにいくら咏ちゃんって言っても、今のままだと須賀君のことが気になって試合に集中できないかもだし。負けちゃったら須賀君のせいになるかもよ?」

 

そう言われてしまっては断ることもできない。

解説へと去っていく小鍛治さんを見送りながら、俺は教えてもらった三尋木さんの控え室へとむかうのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□

 

 

 

 

「三尋木咏様」と書かれた部屋の扉を3回ノックする。

しばらくの間の後、中から「はいよー」という声が返ってきた。

俺はドアのぶに手を掛けて数回深呼吸をした後、意を決して彼女の控え室へと入っていった。

 

「失礼します!」

 

「おーう、どちら様…って、す、須賀⁉」

 

本来いるはずのない俺の姿を見た彼女は、驚きに目を見開いていた。

 

「ど、ど、どうして、須賀がここに…⁉」

 

「いえあの、小鍛治さんがスタッフ証くれて…それで三尋木さんの控え室を教えてくれたので」

 

「んなっ⁉あんのアラフォーが…」

 

恨めしそうに呟く三尋木さん。

まあいきなり俺なんかがやって来たのだ。

そう思うのも無理はない。

しかしそれでも、折角小鍛治さんがくれた機会なのだ。何としてでも彼女と仲直りをする必要がある。

そう思って俺は、彼女へと一歩足を踏み出した。

 

「あの三尋木さん、俺…」

 

「わ、私、ちょっとお手洗いに…」

 

「ま、待ってください!」

 

またも逃げようとする彼女を止めるべく、俺は咄嗟に彼女の小さな手を捕まえてしまった。

 

「あっ…」

 

「…はっ⁉す、すみません!」

 

慌てて彼女の手を離して全力で謝る。

二人の間に静寂が訪れ、見ると三尋木さんは固まったまま真っ赤な顔をして自分のを手を見つめていた。

 

またやってしまった。

前回から全く反省できてない自分の行動に嫌気が差す。

折角彼女と仲直りしようと思ってきたのに、またしてもこの様だ。

 

彼女をまた怒らせてしまった…

どうしたものかと頭を悩ませるがいい案が全く思い付かない。

ただ静かな時間だけが少しずつ進んでいくだけだった。

 

しかし、その静寂を破る者がいた。

それは京太郎ではなく、目の前の小さな彼女だった。

さっきまでフリーズしていた三尋木咏はなんと、突如暴れだしたのだった。

 

 

「う、うがあああああ!!」

 

「み、三尋木さん⁉」

 

「全く何なんだいお前って奴は!お前って奴は!!」

 

そう言いながら扇子で俺をビシビシ叩き始める。

彼女はまるで癇癪を起こした子供のようだった。

 

「痛い!痛いです三尋木さん!」

 

「うっせー!お前ってやつはこの前といいこれといい、何だってそういうことするんだよっ!!」

 

身長差のせいで扇子が届くのがギリギリ俺の肩くらいの彼女は、俺のお腹をひたすらに叩き続けるのだった。

 

「すみません、すみません!」

 

「謝ったって許すもんか!お前みたいな変態野郎は、変態野郎は…!」

 

そう言って大きく振りかぶる三尋木さん。

思わず目をつむった俺だったが、彼女の扇子が飛んでくることはなかった。

その代わりに、お腹にポスッと、温かい何かが軽くぶつかってくる。

下を見るとそれは彼女の頭で、顔を伏せたまま俺にもたれ掛かってきたのだった。

 

「み、三尋木さん…⁉」

 

「うっせーばか…お前があんなことするからな…私はあれから大変なんだぞっ…」

 

ポツポツと語り始める彼女。

今のこの体勢にドキドキが収まらない。

しかし、真面目な彼女のトーンに自然と俺も耳を傾けていた。

 

「…ずっと心臓はドキドキ鳴ってるし、手を見るたびにお前のこと思い出すし…それなのにお前と偶然家出るタイミングが同じになったり、それどころはお前は平気な顔して会いに来るし…」

 

ここ1週間のことを、彼女はゆっくりと言葉にする。

頭と接触しているお腹のあたりが、彼女の体温とで少しずつ、温かくなっていくのを感じた。

 

「何か意識してるの私ばっかで悔しいし、でも恥ずかしいし…」

 

そういう彼女は、さらに頭を押し付けてきた。

今までの思いを俺にぶつけるようなその行為に、彼女のことがどんどん愛しくなってくるのだった。

 

「あの…本当にすみません…」

 

「別に怒ってないけど…」

 

「いえ、改めてちゃんと謝らせて下さい。あのときは本当にすみませんでした」

 

体勢は変わらないまま、彼女に謝罪の言葉を伝える。

言葉だけのその謝罪だが、今までの中で一番彼女にちゃんと伝わったような気がした。

 

「…ん。わかった」

 

二人の間の空気が、ゆっくりと温かいものへと変わっていく。

1週間ぶりに、ちゃんと彼女と向き合っていると実感することができた気がした。

 

「…あ、そろそろ試合じゃないですか?」

 

ふと時計を見てみると、事前に聞いていた試合時間まであとわずかであった。

この温かい時間が終わってしまうのは物寂しいが仕方がない。

そっと離れようとすると、ふと洋服の袖が引っ張られる。

引っ張ったのはもちろん目の前の彼女で、それに少しだけびっくりしてしまった。

 

「あ、あの…三尋木さん?」

 

「なあ須賀…これから試合観ていくんだろ?」

 

いまだにうつ向いたままの彼女の表情はよく見えない。

だが、その声はしっかりとした意思を持っていて、今の彼女が最初に会った頃の彼女に戻っているのだとそう感じさせた。

 

「ええ、もちろんです」

 

「…にゅふふ、そうかいそうかい」

 

俺の返事に満足そうに頷く。

そして彼女は、パッと顔をあげて俺を見据えると、俺の家を尋ねてきた時のような、自信満々の勝ち気な様子で宣言するのだった。

 

「見とけよ須賀。お姉さんの本気…見せてやるぜ!」

 

試合会場へと背を向けて歩く彼女。

その後ろ姿はとても小さく、可愛らしいく、そしてとても頼もしく感じるのだった。

 

 

 




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