ラスト・ラン 作:高山カナデ
人の命は重いんだなぁと思いながら見てました。
やはり医師はすごい。
では、本文を。
(side 竜也)
市総体が終わると、いよいよ夏本番の気候の中での練習となる。
とにかく暑い。ひたすらに暑い。
朝の涼しい時間帯に自転車を漕いでも、学校に着く頃にはぐっしょりと汗をかいて、練習前に着替える羽目になってしまう。
とにかく、持っているTシャツの回転が恐ろしいほど早い。
市総体の3000m決勝。
俺は駆流の次で2着だった。
タイムもそこそこ。しっかりと走れている印象はある。
あとは、1週間後に迫った県総体で、全国大会の切符を掴むのみ。
全中標準を切って、全中出場が認められる大会は、たったの2つしかない。1つは先の通信陸上競技大会。そして、もう1つは、この後の県の中学校総合体育大会陸上競技大会だ。
俺は通信陸上のチャンスを逃してしまった身だから、残されたチャンスは言わずもがな、県総体しかない。
気候的には通信陸上の方がタイムも、やる気も起きやすい大会なのは十分にわかっている。
けれども、それでも。
俺は全国大会に行きたいんだ。
大西中陸上部は市内では名の知れた強豪だ。
毎年多くの数の生徒が府の総体には進む。
ただ、ここ数年の世代はそのうちでもとりわけ強い部員が揃った。いわば黄金世代。
俺と駆流と正人。3人で切磋琢磨し合って、全国の舞台で堂々と戦えるような実力をつけた。
もちろん、陸上競技では良きチームメイトであり、ライバルだ。お互いでお互いをトラックの上で潰し合うわけだ。県総体のリザルトでもそれは明らか。
誰かしらの調子がいいと、そいつの頭が1つ抜け出る。今は駆流だ。
ただ、それは陸上競技の話。私生活となると、話は別になってくる。
3人とも全員同じクラスだから、他愛もない会話で休み時間は盛り上がる。
普通に仲はいい。
だが、3人とも競技柄、全員が負けず嫌いなのが玉に瑕だ。例えばテストなんかが近づくとピリピリしたムードが生まれる。大体テストで勝つのは正人だが。
と、日常生活まで踏み込んだわけだが、とにかく今の大西中陸上部は、主観的に見ても客観的に見ても強い。
だから、それだけ練習メニューも普段からハードにはなってくる。が、この時期は県総体も迫っている。
いつもよりも練習はずっとハードになってくるのだ。
だけれども…。真夏なのに15キロのペーランってどーなのよ、桜井のおっちゃんせんせー。
一周3キロの周回コースを5周。
給水は3キロに一度、つまり一周に一回。
ペースはグループ分けされ、俺と駆流と正人と晴矢の、タイム上位者4名と、渡辺、森田、脇下、田盛、鷹見の3000で10分を切るタイムで走る5人と、そしてそれよりも遅い組プラスアルファとなる。
「1番速い組は一周10分30秒で5周目を周れるように。タイムはお前らで決めておけ。2組目は12分30秒から始めてラストは10分台を目標に、20秒ずつ上げられたらベストだ。ラストは各自。1番遅い組はあれな。ペーラン。13分フラットで5周。それじゃ、始めるぞー。部長号令よろしくっ。」
部長の掛け声で今日もまた部活が始まっていく。さぁ、タイムはどうしようか。
「お前らタイムはどうすんの?」
「せんせーの設定よりも早く行きたいでーす」
「さんせー」
「あるかりせー」
駆流、晴矢、正人、そして俺が口々に発言する。
4人で一緒のペースで走る時が多いからこそ成り立っている会話だ。
外から見たら全く成り立っていないのだろうけど。
とはいえ、タイム設定についての話なのにも関わらず、どんどんネタ路線に突っ込んでいくのは今は流石にまずい。
「まぁとりあえず話を戻して、俺はキロあたり3分半で始めて一周ごとに8秒ずつくらいあげれば良くないか?」
「んじゃ、それで。」
「はいよ。」
引っ張るのは俺ら3年の役目。
まだ晴矢には引っ張らせないつもりだ。
俺にだって少しは先輩の意地なるものがある。
まぁ、こんなところで発揮してもしょうがないものかもしれないのだが、そこには触れないでおこう。
初めはゆっくりでだんだん速く。
初めのゆっくりを引っ張るのが1番難しい。
ベストのペースから考えるイーブンよりもずっと遅い。
そう、だから…。
その間は、俺の走りに集中させてもらうとしよう。
一番大切な大会が、すぐ近くに迫っているんだから…。
1周3kmのクロカンコースというものは、走ってみると分かるのだがなかなか辛い。
もちろん起伏の関係もあるが、何よりも辛いのはその距離だ。
1周3キロのコースは、地道に、そして確実に体力を奪い取る。
大会で走るトラックは400mの平坦。
それを考えても、十分に長く、そしてキツいことは明白だ。
さて、今日の練習を始めるとしよう。
――――――――
練習が終わるや否や、俺らはすぐにいつも通りの関係に戻る。
ただ、俺らも中学3年生。受験も間近に控えている訳で、そうそう遊んだり、バカしたりも出来ない時期になってきつつある。
だけど俺らも年相応な会話もするわけで…。
「そーいやお前ら最近情事はどうなの?」
ほら出たよ、正人さんの尋問タイム。
「情事とか言うなし。誤解を招く。」
「あはは…」
青桐兄弟はなんとも言えない反応を見せる。
兄はまるで興味なし、という素振りで、そして弟はどうしていいか困ったそぶりで、だ。
確かに先輩の色恋沙汰など知ったところでどうにもならない。気まずさの方が勝つだろう。
「ほーら、照れちゃって。この正人くんが相談に乗ってしんぜよーう!」
「お前、自分で名前呼びって結構痛いぞ。しかも男子なのに…。」
「女子ならいいのか?」
「いや、女子はもっとダメだろ。ビッチ臭が漂…って、痛って。なんだ?」
「お兄ちゃん、彼女、いるくせに…。」
「ちょ、おまっ、バカ。いや、これは誤解だ誤解!正人、竜也、な?な?落ち着いて…。」
「よし、晴矢、でかした!」
「駆流くん、彼女なんていただけませんなぁ…。」
俺と正人が口々に、それぞれ駆流を責め立てるように駆流を追い詰める。
「しかも、家に連れ込んで…。なまえ…。」
「ちょ、ほんとに待て、お願いしますやめてください。なんでもするんで。」
「やったぁ!んじゃ、お先ね、お兄ちゃん。
先輩方、お疲れ様でした!」
「いや、せめて助けよ?ね?ね?」
「お疲れ様ー!」
戸惑いと焦りでパニックになっている駆流を残して、晴矢は我関せずとも言いたげに背を向けて帰っていった。
――――
「さて、かわいい弟くんも帰ったところで。かーけるくん?」
「ひっ!?」
「俺らが自主練に励んでいる中、彼女と淫行に励んでいるのか。感心だな、駆流よ。」
…竜也の方は笑ってるけど、目があかん。
(やられるわ、これ。晴矢、お兄ちゃん、まさかお前のせいで、最期を迎えるとは思っても見なかったよ。元気でな。そして、後でシバくから、待ってろよ。)
彼らの口から告げられたことは。
「「もう一周、3キロ、9分半以内に帰ってこい?」」
「仰せのとおりに…。」
もちろん、逆らえるわけがない。手を出されなかっただけ感謝するか。
ラストの直線。タイムは9分フラット。間に合う・・・・・・!!
「っしゃごらぁ!!!」
「「やっぱ強えなお前」」
そりゃ一応全中決めてますから。強くないとまずいでしょう?
「じゃあ帰るか~」
「「せやな~」」
二人が帰るというので俺も帰ろうと自転車にまたがると・・・・・・
(・・・・・・あ、これはだめなやつだ)
筋疲労によりふくらはぎが痙攣している中、死に物狂いで自宅まで帰ろうとする。
「あ、そうだ。これから映画見に行こうとたった今思ったんだけど、お前ら来る??」
「俺は行く~」
「え、アホちゃう?」
結局映画に三人全員で行くことになり、映画館の中で両足が攣った上に帰りに20kmも自転車を漕ぐ羽目になった。控えめに言ってもめちゃくちゃきつい。
――――
(side 晴矢)
今日は府の選手権。府の選手権の出場者は先日の市の総体の上位入賞者に限るので、今回は出場者決めのTT(タイムトライアル)は行われなかったけれども、事前の調整と評して2日前にTTをした。1年長距離で府の選手権に駒を進めたのは僕と同じ1500mを走った渡辺だけだった。3000mは上級生も混じってくるので、1年生で府の選手権に駒を進めるのは難しいというのもある。
1年生が二人だけ。一方、上級生は全員がどんな形であれひとつ上のステージに駒を進めた。
市の総体で引退が決まってしまう他校の生徒も多い中、上級生全員が府の選手権に進んだことは純粋にすごいことだと思う。
2日前のTTは本当にとにかくきつかった。いくらアンツーカーといえど、実際に走る競技場とは異なる土のグラウンドでレース並みのペース配分をするという鬼の所業を難なくこなす先輩たちは怪物・・・・・・。末恐ろしくなる。
僕も調整、もとい全力ダッシュに参加した訳だ。はっきり言って調整に成ったかどうかなんてわからない。疲労がたまりすぎて調整になってないような気もする。
泣いても笑っても今日は大会当日。大会自体は2日間にわたって行われるが、1年の1500m予選が一日目の競技だから、僕ら1年生の出番は今日でおしまいになってしまう可能性がある。僕はその先のステージに道がつながっているから、今日は調整の大会と位置づけることもできるのだが、それでは地方ブロック大会にコマを進めることができなくなってしまうかもしれない。それでは全国選手の名が廃る。結局僕は疲労が残っていようと全力で走ることを心に決めた。きっと大丈夫。どこか自分に言い聞かせるように、僕はグラウンドに向かった。
1500m。1年の部。1500mも3000mも予選、決勝に別れており、しかも2日間。両方決勝まで進出するのであれば、2日間両方ともにセンゴと3000の両方を走らなければならない。
(暑い中1日4500かぁ、うーん、ハード)
今年は地区予選の3000m決勝で悔いしか残らないレースをしてしまったため、センゴだけの出場。一年生だし、疲れていただろうしとか、周りの人たちは僕をフォローしてくれようとするけど、それでも僕の悔しいという気持ちにはなんら変わりが無くて。
キャップをかぶり、暑い中ではあるがきちんとアップをする。
たとえ気温が暑くても、筋肉は暖まっているとは限らない。冬の寒い時よりも確実に暖まってはいるだろうけども・・・・・・。レースに臨む上ではやはり心配だ。
キャップは熱中症対策。直射日光はさすがに倒れる。
さて、まずは1500mだ。直近に迫ったレースにまずは集中しよう。
どこまで行けるかな?とにかくまずは予選を通過すること。僕の得意種目は、やっぱりセンゴだから。
僕は1年生だけど、それでも堀内先輩や蓮川先輩、そしてお兄ちゃんは十分に戦える力があるといってくれる。
そして 顧問の桜井先生も期待をしてくれている。
その人たちの期待を裏切ることはできない。
戦々恐々としながら、招集を通過し、そして僕はスタートラインに立つ。
大きな入道雲が遙か彼方にそびえ立つ夏の昼空に、乾いたピストル音が鳴り響いて、僕の府の選手権の初陣が始まった。
――――
結果としては予選は通過できた。力を残しての通過だったので、明日の決勝の十分に戦えるだろう。にしてもめちゃくちゃ暑い。とにかく暑かった。ユニフォーム汗びっしょになっちゃった・・・・・・。3000ならオールシーズン汗びっしょになるとお兄ちゃんからは聴いている。センゴでここまで汗をかくのは夏だからかな?と思いながら、水道から流れる冷水に足をつける。アイシングをしないと明日に疲れが残ってしまうから、きちんとしておくようにと桜井先生に言われた。レース結果の報告はそれからでいいと大会前に言われた。
(レース結果の報告を忘れてしまいそうだなあ)
水道の蛇口をひねりながら考える。
流れ出る水道水は、夏だからそこまでつめたくは無いような気がするのだけれど、しないのよりはマシだろう。
「あの、すみません。大西中の青桐くんですか?」
「あ、はい。そうですけど・・・・・・。あなたは?」
突然声をかけてきたのは同じ学校の生徒ではない。誰だろうか。
僕が考えを巡らせている間に、相手が答えを教えてくれた。
「ごめんなさい、飯島北中の西島 晃っていいます。イチネンセンゴの・・・・・・」
「1年生なんですね。せっかく同級生なんだから、敬語なしで話そう?」
「そうしよう。晴矢君、相変わらず速いね。俺なんかスタートから離されっぱなしだった。勝てたこと、市総体の3000決勝しかないや」
「いやいや、そんな。市総体3000の決勝走ってたの!?あのレースは・・・・・・、うん。僕が全然ダメだった」
僕の中で一番課題として残ったレースをあげられてちょっと内心ドキッとした。
あのレースはなんとか10分を切ったけれども、最高に崩れた。桜井先生には足を壊したかと心配されるレベルで崩れた。ちょっと苦笑いを浮かべながら会話に応える。
「明日のセンゴ決勝、勝負だね。」
「西島君は何位通過だったの?」
「3位通過。それと俺のことは“あきら”でいい。名字呼びってなんか距離あるしね。」
「そっか、じゃあ、真剣勝負だ。お互い近畿にいこうね」
「もちろん。・・・・・・そろそろ3000の予選だけど、晴矢君は兄さんの応援に行かなくていいのかい?」
「もうそんな時間?さすがに応援はしないと。ありがとう。また明日。今度はトラックの上で!!!」
陸上関係で初めて他校の選手に話しかけられた。びっくりしたけれども、今はそれどころではない。お兄ちゃんと、蓮川先輩。そして、堀内先輩。三人はどのようにレースを組み立てて行くのだろうか。堀内先輩は全中標準を切れるのだろうか。切って欲しい。切ってくれ。
アイシングの片付けを終わらせ、できる限り急いで観客席に向かう。
僕が観客席についた時には、ちょうど男子3000m予選の号砲が競技場中に鳴り響いたところだった。
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