「例えば...貴方はどちらを選ぶだろう?」
樹齢二千年を超える最古の桜の木になり、善人も悪人も見境なく人間の血を吸い続ける運命と...。
「私、今日からお嬢様学園で庶民からお嬢様になります!」
なんて言う運命。
桜の木は嫌い--
周りを庶民と見下して私は偉いと言うお嬢様はもっと嫌いだ。空想だらけの世界は漫画とアニメで十分。どれだけでかい夢を描こうと、空想は空想、結局は絵に描いた餅。
由緒ある家系に生まれても、中身はインスタントが好きな庶民派。
どこにでもいる普通の女子。つまりは凡人。
それが羽澄咲音と言う人間だったはず。
「だったはず...私には平凡なんてもう望めないのでございます...」
私は桜の舞い散る校門の前に立つ。ここは外界から隔離された女の園、「花宮学園」と言う超お嬢様学校。何故私のような普通の一般人がこんな辺鄙な学園に通うことになったのは、私の姉が原因である。
そう...私の人生の歯車を無理やり逆回転させた張本人。もしもの事があったら絶対に責任を追わせてあげます。
「まじ...やばい」
次から次へと花弁を散らす、365度どこを見ても、桜に桜、また桜...。嫌という程桜だらけの学園。もう、覚悟を決めたつもりだったのだが、どうやらまだ決めかねていたらしい。
「んんっ...言葉は丁寧に、緊張し過ぎないように...」
気をつける事を呟きながら、頭を整理させる。眼鏡を直してから、門の間を通り抜ける。今この瞬間、下界にいた羽澄咲音は死を迎えました。今日を境に私は2回目の人生を歩む。
片手に鞄を持ち、内股気味に歩く。周りにいる生徒達は皆女子ばかり。常に笑みを絶やさずに挨拶をしている。
「御機嫌よう」
「御機嫌よう」
公には共学とされているが、姉さんの話が本当なら、現在男子は1人も在学していない。つまり、実際は限りなく女子高であり、数多くの生徒達はみんな由緒ある家の血筋を引いている。
あるものは貴族のような家系に属していたり、またあるものは戦前から続く家系であったり。高潔な血筋と財産を両方兼ね揃えた人達が3桁以上在学しているとの事。それに比べた私は、恐竜の中にアリ一匹。
「ちょっと、そこの貴方」
「は、はいっ!」
突然話しかけれて、石像の様に固まってしまう。
「いつまでぼさっとしているつもりかしら?」
振り向くと、そこには美少女がいた。しかしその辺にいるお嬢様とは比べ物にならないくらい威厳に満ちた瞳とオーラをしていた。
「す、すいません...私、羽澄咲音と申します。新入生です」
心の動揺に関わらず、私の言葉使いは丁寧であった。これも姉さんのおかげだ。
「ふぅん...そう。なぜ猫背のままなのなのかしら、せっかく背丈があるのだからシャキッとなさい」
「はっ、はいっ!」
姿勢をただし、額に冷や汗をかきながら美少女は私の体を見渡す。
「それに、身だしなみが全くなっていないわ」
「え?......おかしいでしょうか...?」
自分の制服を見るが、別にこれと言っておかしな所は見当たらない。が、リボンを指を指す。
「リボンがズレています。手鏡を貸してあげるから、早く直しなさい」
威厳のある女子生徒は、スカートのポッケから小さな手鏡を取り出し、私に渡す。
「ありがとうございます」
手鏡を受け取って、胸元を移すと、確かにリボンの輪っかの位置が非対称になっていた。細かい...。
「今日から花宮の一員になるのです。くれぐれも服装を乱さないように気をつけなさい」
「了解致しました!」
早速の注意。私は心の中でため息を着く。
「貴方、顔色が悪いわよ?」
「え?...いえ、大丈夫ですが」
まずい、ちゃんとしていないとまた何か言われちゃう...。
「貴方は栄えある花宮の特待生なのですから、体調管理も含めてちゃんと自覚を持つことよ」
「へ?...ど、どうして私の事を...」
私が特待生だと言うことを知っているのですか?まさか超能力?
「この花宮において、私の知らない事などありません」
「はぁ...」
「全生徒の名前、家柄財産、顔形まですべてきおくしています」
まじすか?全生徒...私新入生なんですが...?
「羽澄咲音さん。貴方は天蕗さんからの推薦があったはず」
「あ、姉さ、じゃなくて!...天蕗さんの事を知っておられるのですか?」
花宮に入るまでの私は、何に1つない普通の凡人だった。なぜ、そのような経歴の持ち主がここに入れたのかと言うと...。それは姉さんのおかげだ。
花宮は家格財産を初めとする、様々な条件をクリアしなければ、受験資格さえ得られない。超がつくほど閉鎖性を護持し続けていた。だが、ある年に特待生制度が設立され、私のような一般人にも通えるようになったのだ。
お世話にも学歴が高い訳ではない私が、よく試験をパス出来たのか、もうコネしかない。
「彼女は二学年のホープの上、官女候補にも認定されています」
官女候補...?頭にハテナが浮かぶ。
「そして、貴方は、天蕗さんの顔に泥を塗らないためにも、人一倍...いえ二倍も三倍も努力家して行かなければならないのです」
「は、はぁ...」
「その気の抜けた返事は何?私の言った事を聞いてないの?」
「め、滅相もございませんです!」
正直、いつ退学になってもいい。こんな所に居るよりはましかな。と考えていました。しかし、姉さんに迷惑をかけるわけには行かない。
甘かった。
「さ、そろそろ行きなさい。集合時間に間に合わなくなりますから」
「はいっ!あの、すいませんでした!」
その場から走って離脱しようとするが。
「こらっ!学院内を走ってはいけません!」
「ええっ!?」
ブレーキをかけて、恐る恐る背後を振り返る。
「先程の身だしなみといい...羽澄咲音さん。貴方は現時点で、はっきり言って花宮に相応しい人間ではありません」
「そ、そこまでいいますか...」
どうやら、入学早々問題児として見られているような...。なんてこった。
「私だから良かったものの...風紀委員ならば処罰を受けていましたよ?」
「処罰!?」
「いくら平民の出とはいえ、最低限は守らなければなりません」
たぶん、花宮に入る前の私なら怒っていたことだろう。
「仕方がない...個人指導を行いますから、入学式が終わり次第、桃園館に来なさい」
「桃園館?」
「以後、くれぐれも身を慎むように」
そういい残すと女子生徒は、颯爽と真横を通り過ぎる。
「.........」
空に目をやると、相変わらず桜が花弁を散らし続けている。見てくれは天国、中身は地獄。
姉さん、早くもピンチですわ。