花鳥風月~百合ニ恋スル姫~   作:凪音

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第拾弐話 意地と誇りと

「えっと、まずはどこから回るんだっけ?」

「最初は剣術部の予定です」

 

私と月姫様、そして鳥姫様の三人で運動部の視察に来ることになり、今は格技場の周辺にいる。

 

「剣術部?剣道とは違うのですか?」

「基本的には一緒だよ。ただ、この倶楽部は実践を想定した活動を行っていて、その精神を重要視してる」

「実践だなんて…今時、刀を使って斬り合いなんて、ありえないと思うのですが…」

「刀に限った話ではありません。今は物騒な時代です故、拳銃を持っていたり、車で突進してきたり、そういった様々な状況も想定しての実践です」

 

ここの倶楽部はスタントマンにでも目指しているのかな?

 

「でも、そんな厳しそうな倶楽部に、部員何ているんですか?」

「それが意外と人気でね。50人はいるよ?我がフェンシング部にも分けてもらいたいものだよ」

「そんなにいるんですか!?」

 

ここ、結構やばいところなのかもしれない。いや、今更か……?

 

「花宮には武門の末裔も多く在籍しております。むしろ体育会系の筆頭、といっても過言ではありません」

 

なるほどね。そういう家の生まれの娘なら、剣の道を進むものなのかな。私は自分を守るために、お母さんから教えてもらったのだけど…。

そういう感じの戦いとかは見た事ないし、それにあの侍がいたらどうしよう…なんか緊張する…。

 

「…………」

「咲音?どうしたの?」

「…はっ、あ、い、いえ。なんでもありません」

「緊張など、なさる必要はございません。むしろ緊張するのは視察を受ける部員たちなのですから」

「それに、ここの部長は私たちの友人だ。すぐに緊張しているのが馬鹿馬鹿しくなってくるよ」

「まあ、それもそうですね」

 

月姫様がにこっ、と微笑む。おお、月姫様が笑っている。このお二人の意見が合致するという事は、信頼度が上がるというもの。大丈夫だろう。

 

「御機嫌よう。花園会より倶楽部活動の視察に参りました―――」

「おお、これはこれは、お務めご苦労―――」

「はい、部長さんはどちら――あっ!で、でたっ!!」

 

なんとなく嫌な予感がした。それがよもや的中。自分の信念のためなら、血で血を洗うことも厭わない、ラストサムライ的な青年将校―――。

 

「こら、道場でそのような声を出すでない。…先日はやはり私の買い被りであったか……」

「あ…えと、すみません……」

「向日葵。そういじめてあげないでくれ。うちの期待の新人なんだから」

「これは鳥姫様。ご機嫌麗しく」

「麒麟寺様、いま彼女が申したように視察ですので、我々にお気になさらず、練習を続けてください」

「月姫様も、ご機嫌麗しく。少々お待ちください、部長を呼んで参ります」

 

麒麟寺さんが深々と頭を下げると、練習中だった女子たちがざわざわと色めき立つ。流石は四天王のお姉さま。二人の視線はどれも、キラキラと輝いている。

 

「すごい人気ですね……お二人とも」

「はは…困った子たちだね」

「修行が足りないようですね……茶道部の者があのような態度を見せたら、即刻折檻ものです」

 

さらっと恐ろしい事を口に出す月姫様の横で、鳥姫様がうなずく。

 

「そうか、向日葵ももうこちらに進学したのか。時が経つのが早いなぁ」

「鳥姫様もあの人をご存じなのですか?」

「ああ、下の学部の頃からね。こことフェンシング部は合同合宿もしたりするから。あの子の事なら何でも知ってるよ」

 

鳥姫様はあの子の後を目で追う。やっぱりこの人、ガチの百合の人なのだろうか。ほっとするような、危機感を覚えるよ様な…。

 

「なーんだ、うちの子たちがギラギラした目で見ていると思ったら、やっぱり菫か」

「失礼だな。濁点は余計だ」

「斑鳩様、花園会より視察に参りました」

「小百合も一緒?珍しいね。姫様と王子様が一緒だなんて」

 

この方が、鳥姫様の言っていたご友人の方だろう。鳥姫様や月姫様よりも結構、背が低い。かなりフレンドリーな感じは一目でわかるかな。

 

「杏子の命令でね。乙女の心を思う私の事が信頼できないんだとさ」

「それは正しい判断だね。普段の行動を思い返したらわかるよ」

「鳥姫、無駄口は慎みなさい。斑鳩様に羽澄様を」

「分かってるよ。今言う」

「部員でも紹介してくれるのかな?」

「違うよ。この子が我が花園会の期待の新人・羽澄咲音くん」

「羽澄咲音と申します。まだ見習いですが、よろしくお願いいたします」

 

すると、道着を来た女性はポン、と手を打って―――。

 

「ああ、あなたが噂の。入学式に、杏さんに骨の髄までしゃぶりつくされたという」

「えっい。いや…それは間違い……いやあながち間違いじゃ…あれ?」

「羽澄様、こちらが剣術部の部長、斑鳩様です」

「おす、斑鳩式部(いかるがしきぶ)っす。今後ともよろしくね~」

「よろしくお願いします」

 

確かにこの砕けた物腰、緊張するのも馬鹿馬鹿しいというか。

 

「式部と私、月姫は同じクラスでね」

「三年三組の美男美女ユニットは私たちの事。名前はまだないよ」

「ふっ…見ての通り、ふざけ切った女だけど、腕は確かだからね。彼女を見てたら、精神の修行が馬鹿馬鹿しく思えるよ」

「ふふっ、そんなに褒められたら照れちゃいますね。いくら薄っぺらーいアレクさんのお言葉でもねー」

 

ほんとに仲がいい。これは誰が見ても言えることだろう。なんというか、風姫様とはまた違ったお調子者というか…。

 

「どれどれ、式部と漫才しに来たわけではないし…そろそろ仕事に戻るかな。……私とマンツーマンで視察を受けたい子いるかな?」

「なっ、鳥姫、貴方なにをいいだすのですか」

「桂木は咲音と一緒に予算の話、進めておいてくれて構わないよ?」

「鳥姫、花姫にまた叱責を受けますよ?」

「ははは、小百合は相変わらず几帳面だね。あとで私が杏さんにチクっておくから、小百合はお茶でも飲んでなさい」

 

鳥姫様が腕を回し始めた。なんなんだ?マンツーマンで視察?

 

「菫はね、たまにこうやってうちの子たちに稽古をつけてくれるんですよ、新人さん」

「稽古って……剣術のですか?」

「そうそう。フェンシングと剣術の異種格闘技戦」

「フェンシングと剣術って…稽古になるんですか?」

「基本的に切られたら負けだから。私もよくフェンシング部の子たちに稽古つけてますし」

「ですが、今は花園会の公務の最中なのですよ?」

「これも視察の一環だよ。実技で確認するなら、剣術部も、願ったりだろ?」

 

何だかめちゃくちゃな気がする。確かに実践第一を謳っているならそれもそうだろう。

 

「怪我でもしたらどうするのです。公務に支障が出るような事を、認めるわけには―――」

「姫様、固いことを言ってはいけません。おーい、誰か月姫様にお茶を。それと山吹色のお菓子も忘れずにね」

 

急に悪徳商売になったぞ。この人。ほんとに砕けた―――いや、ふざけた人だ。けれど、鳥姫様の雄姿が見れるのなら、何だかワクワクする。

 

「部長、鳥姫様--」

「お?向日葵が相手か。これは骨がある戦いになりそうだ。式部、竹刀を―――」

「鳥姫様のご厚意、大変ありがたいものです。ですが、何よりご公務の最中、月姫様の危惧ももっともでございます」

「あらら、向日葵は相変わらず生真面目だな。式部、君の能天気を少し分けたらどうだい?」

「麒麟寺さんは真面目ないい子。そこが彼女の魅力なのに菫さんはまだmだですぇ」

「それ故、本日はこの麒麟児寺向日葵、四天王の皆さまがその実力を認めた、新人の力量を是非拝見したく思います」

 

ほうほう。なるほどなるほど…。

 

「えっ?」

「なっ!?」

「そんな方がいるんですか?」

「何を寝ぼけているんだ、咲音。君のことだぞ?」

「はい?」

 

いや、意味が分かりません。剣術の試合をするんでしょう?別に私は剣の腕を姫様たちに認められたわけではないのに。

 

「おお、新人さんをご指名だ」

「あ、あの…仰る意味が分からないのですが……?」

「そのままの意味だ」

「いや、そのままといわれましても…」

 

突然何を言い出すのかと思えば、馬鹿馬鹿しい。まだこの前の事根に持ってるのか?

 

「気がのらんのなら、無理強いはせん。……ただ、それまでの者だったと思う事にする。お主も……その程度の者を入れあげた、姫様たちもな」

「……は?」

 

私は怒気の含めた低い声で言う。

 

この、あからさまの挑発。そして私を値踏みするような眼差し。

 

全く気に入らない。

 

しかもこいつ、私だけならまだいいものを…花園会までも…。

 

「向日葵…そう噛みつくんじゃないよ。咲音も、そんな挑発に乗るんじゃない。それこそ花姫に何を言われるか―――」

 

その鳥姫様の顔に、月姫様の手が伸ばされる。

 

「鳥姫。ここは羽澄様に任せましょう。そしてそれを見守るのが、私たち四天王の務め」

「む……なるほど…それもそうか」

「あら?小百合、どうしたの?麒麟寺さんにあんな事言われて頭に来た?」

「そのような矮小な理由ではありません。麒麟寺様のお言葉は単なる挑発では済みませんからね」

「…ほう?」

「向日葵の言葉には、花宮の何百もの学生たちの目があるのさ。よそ者で新参者が、なぜ花園会に選ばれたのか」

「よい感情、悪い感情。様々な思いに羽澄様は答える義務がある」

「全く……つくづくこの花宮は厄介だな。式部、このツケは、必ず払ってもらうぞ?」

「ふーーん。難しい事が好きだねえ。私は頑張る女の子は大好きだから、どっちも応援するけどねー。しかし…意地と誇りをかけ、ぶつかり合う乙女。これぞ青春!!」

 

何だかわからないけど、私はここで戦うしかないみたいだ。もとよりそのつもりだけど……。そんな中、麒麟寺は私をまっすぐ見つめる。

 

「どうする?羽澄咲音」

「受けて立ちますよ。鳥姫様の代わりに、私があなたの腕前、視察させていただきます」

「ほう…これは……よかろう。受け取れ」

「っ!!」

 

麒麟寺は私に剣道の防具の面と竹刀を私に投げつけた。ずっしりと少し重い。

 

「我が剣術部は、通常防具は付けぬのだが、如何する?」

「防具など不要。いりません。得物さえあればいいです」

「ふっ……後悔するなよ?」

 

そういうと麒麟寺は竹刀を構える。一方、私は剣道のように縦に構えず、ただ竹刀を右手に持ったまま、足の横辺りに構えている。

 

「貴様…はやく構えぬか」

「これが私の構えです。お気になさらず」

「ほう……よかろう」

 

そして、道場が一気に静まり返る。

 

「それでは、はじめーーっ!!」

 

斑鳩先輩の合図が出た瞬間、麒麟寺は速攻仕掛けてきた。

 

「やああああーーっ!!」

 

速攻の一撃が私の脳天をめがけて振り下ろされる。それを私はすっ、とただ横に避ける。

 

「なっ!?くっ!はあっ!たぁっ!」

「よっ、ほっ…」

 

麒麟寺の後ろに回ると、すぐさま追撃が来る。それを後ろに飛びのき、かがんで回避する。

 

「まさかっ、ぐあっ!?」

 

麒麟寺が、避けられたことに動揺した瞬間、私は麒麟寺の横腹に強烈な一撃を叩きこむ。

 

「ただでやられはしないっ!!」

「くぅっ!!まだまだぁ!!」

 

麒麟寺は立ち上がり、私に二度三度竹刀を振る。その攻撃は先ほどよりも早く、流石に避けきれず、竹刀で受ける。しかし、受け流す暇がなかったので真向に受けてしまった。

 

「っ!!」

「これを受け止めるか!!やるではないか!!」

「無駄口を叩くなっ!!」

 

それを振り払い、今度は私から仕掛ける。

 

「はあっ!やっ!」

「はああっ!!」

 

縦、横、斜め、の三撃を放つ。しかし、一撃目は肩にヒット。しかし二撃目、三撃目は受け止められてしまう。

 

「隙ありっ!!」

「あうっ!!」

「それそれそれっ!!」

「いたいいたいいたい……あっ」

 

頭に一撃もらい、そこからの体全体に連撃をすべてくらい、勢いに負けて尻餅をつく。

 

「しょ、勝者、麒麟寺向日葵っ!!」

 

やはり、そうか。最初から負けることはわかっていたけど。私が決めたのは二回。麒麟寺さんはさっきの連撃で十回以上。体中痛すぎて…何だか宙に浮いているみたい…。

 

「いや…まさかだね」

「そうですな…私もまだまだ修行が足りません」

「まあ、あのまま長引いていたら負けてたよね」

「っ!?部長も…そう思われましたか」

「麒麟寺さんは、赤ん坊相手でも全力で行くから、負ける訳はないんだけど…あの子相当だよ」

「い、いや、流石にそこまでは…しかし、あの者…技術は本物でした」

 

あー…ぼーっとする…。

 

「咲音……咲音、大丈夫かい?私の声が聞こえる?」

「あ……鳥姫様……ごめんなさい、私負けちゃいました……。姫様たちのお顔に泥塗っちゃいました……」

「いや、そんなことないよ。そんな事、あるもんか」

「その通りです。羽澄様はよくやりました」

 

仰向けに倒れている私を、お二人が起こしてくれる。軽くめまいがするくらいかな…。

 

「無茶をする子だよ。でも……かっこよかった。杏子が気に入るのもわかるよ」

「流石は雪花さんの妹御です。斑鳩様、救急箱を早急にお願いいたします」

「あ、いえ、このくらい、大したことありません」

 

すっと立ち上がり、笑顔を見せる。乱れてしまった服を直していると―――。

 

「―――羽澄咲音」

「なんですか?」

 

私の前に来たかと思うと、表情は険しい顔をしていた。この試合に納得がいかなかったのだろうか?

 

「そなた……よもや手を抜いていたのではないだろうな?」

「はい?」

 

何故そうなるのか。確かに反撃は出来たけど、あなたにコテンパンいやられているのに…。

 

「あれだけの竹刀を受け、なぜそのように、平然としているのだ…。この私でも、最後に受けた肩の痛みが残っているというのに…まさか、私に花を持たせたのではあるまいな」

「そんな訳ないでしょう。単に当たり所が良かっただけかと…。それに手を抜いていたわけではありません。強いて言うなら、天祐とでもいいましょうか」

「天祐とな……ふっ。変わったやつだなそなたは」

「それと、先ほどの試合でわかっているとは思いますが、私は剣術を使えます。独学ではありますが……」

「なるほどな……やはりそうであったか…ならば鍛えていたのもあるのだろう…」

 

何とかわだかまりは解けたみたいだ。安心したせいか、体のあちこちが痛み始めた。

 

「気に入った!!気に入りましたよ、お姉さんは!!」

 

突然、斑鳩先輩が私の手を握りしめる。な、なんだなんだ?

 

「は、はいっ!?」

「羽澄さん、貴方は光り輝くダイヤの原石!!花園会なんてもったいない!!我が剣術部で共に汗を流し、その汗を流し合ったり、イチャイチャしたりしませんか?っていうか、しましょう!!今すぐ!!さぁ!!」

「いいっ!?」

「式部、申し訳ないがその願いだけは却下だね」

「羽澄様は花園会の管理下にあります。いわば独占契約中なので、悪しからず」

 

どうやら、私の可能性、というものを見つけたみたいだ。というかダイヤの原石って…。

 

「そんなけちけちしないで。ねっ?私たち、友達じゃない」

「ふふっ、今はクラスメイトじゃなくて、花園会の鳥姫様なんだよね~。悪しからず」

「では、そろそろお暇させていただきます。次の倶楽部に参りましょうか」

「え、えと…斑鳩先輩。たまに手合わせとかでしたら構いませんので…。そ、それでは失礼いたします!!」

「あ、待ってよ!もう、約束だからねー?」

「なるほどな……羽澄咲音……一筋の縄では捉えられん女か」

 

そうして、私たちは剣術部から逃げるように退散したのであった。

 

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