花鳥風月~百合ニ恋スル姫~   作:凪音

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こんかいは少し長いので、よろしければ読んでいただけると嬉しい限りでございます。


第参話 四天王との対面

「こ、ここが桃園館…」

 

 朝、あのライオンの様な女生徒に言われた通り私は桃園館と呼ばれる場所に来た。まるで、どこか遠い異国のとてものを思わせる、清潔感たっぷりの豪華な建物だ。花宮には似ている建物は沢山ある。しかし、この桃園館は数ある建物の中で異質なものを感じさせた。あのお嬢様の言葉だと、生活指導をするそうだがこの建物丸々生活指導室ってわけではなさそうなのである。なんなのだろうか、ここは…

 

「誰かいませんかー?」

 

 しかし、返事はなかった。放課後だというのに、この辺りは誰一人として見当たらない、不安ばかりが募っていく。洋館みたいだからと言って…地下室とかないよね…?

 

「おーーーい」

 

 中世のヨーロッパみたいに「鋼鉄の処女」とかあったり…いやまさか…。

 

「おーーーーーい」

 

 ん?今何か…?

 

「キミ、こんなところで何してんの?」

 

 き、聞こえた…今、はっきり…!な、なんだどこから…!?

 慌てて周りを見渡すが、声はしても姿がない。

 

「ここここ。ねえ、こんなところで何してんの?」

「えっ?」

 

 下から袖を引っ張られ、恐る恐る視線を下にやると--

 

「もー、さっきから声かけてるのに…。シカトしないでよー?」

「お……お子様…?」

 

 私の制服の袖を引っ張ったまま、下からくりくりとし目で見つめられる視線と目が合った。……だれ…?この子…?

 なんというか、頭には品のよさそうな被り物をしていて、日本ではとても見られないやわらかめの色をした金髪に、愛くるしい大きな瞳。可愛いのは可愛いが、365度どこから見ても小学生。いや、花宮って小中一貫だったっけ…?

 

「せっかく心配して声かけたのに、そんなことゆーんだ」

「心配…?あなたが…?」

「うん。迷子になったのかなーって」

「ふふっ…お気遣い、ありがとうございます。ですが、私は迷子ではありませんよ?」

「あ、違うんだ。じゃあ、ここに何か用があるの?」

 

 お子様はきょとんとした顔で、桃園館を指さす。

 

「はい。今朝がた、ここに来るようにと申し付けられたのですが、誰もおられないみたいですので、困っていました」

「なるほどねー。じゃあ僕と一緒だね♪」

 

 まさか、あのお嬢様に私と同じことを言われたの?うわー…おっかない。こんなちいさの子供まで…。

 

「それはお気の毒…あなたも入学早々、『鋼鉄の処女』に遭うとは…よほどお行儀が悪かったのですね…」

「『あいあんめーでん』!?桃園館、そんなもの装備しちゃったの!?」

 

 こんな幼女が『鋼鉄の処女』なんて言葉を知っているなんて…世も末ね…。

 

「あなたは…いったい何をしでかして、ここに呼び出されたか、伺ってもよろしいでしょうか?」

「僕?僕はこれからここでお仕事だよ?」

「…おしごと?」

「そうだよ。もしかして『あいあんめーでん』のお披露目会なのかな?漫画やゲームでしか見たことないから、楽しみだなー」

 

 やはり、お子様の頭は中身も見た目相応だった。だけど、お仕事とは…あのお嬢様の一味だとでもいうのだろうか。

 

「まあ、『鋼鉄の処女』は冗談なんですけどね」

「なんだよー、ちぇ、残念」

 

 さっきまで怯えていたのにそう吐き捨てる幼女。あれ?そういえば、この子の来ている服は花宮の制服?てことは、この子は--

 

「んう?どうしたんだい?風姫に花姫。こんなところに立ち止まって…おっと、人違いか、これは失礼した」

 

 お子様をあやしていると、背後から凛としてはっきりと隙き通る様な声--

 

「あっ、鳥ちゃん、ごきげんよーっす」

「はっはっはっ、御機嫌ようだね」

「ご、ご機嫌よう…です」

 

 私の後ろにいる、幼女から「鳥ちゃん」と呼ばれた女性をに振り返ると、私より幾分長身で、まるでモデルの様なスタイルのショートヘアの女学生。

 

「雰囲気が似ていたから、花姫と見間違えたよ。だが、君の方がおとなしそうで、はかなげな印象だね」

 

 そんなキザなセリフを聞く、雲雀と同じタイプの人な感じがするが、雲雀とはまた違った印象。けど、そこら辺にいる男の人よりもかなり男前でまさしく王子様。そんな姿に私は息をのむ。

 

「あー、また新入生をナンパしてー、花ちゃんに怒られても知らないからね?」

「ナンパは男がするものだろう?それに私はそんな不埒なことはしないよ。で、この桃園館に何か御用かな?お嬢さん」

「あ、いえ、御用というか、なんというか…」

 

 真正面に私を見つめられると、不覚にもドキドキしてしまった。なんなんだろう。どうして相手は女の子なのにこうもドキドキしてしまうのだろう…。頬は熱いし、なんか鼓動は速いし…。でもでも、私にその気は無いはず…なのに…。

 

「御用なら、いつでも僕たちが承るよ。どーんと任せなさい!」

「はい?」

 

 お子様が得意げに胸を張ってしゃしゃり出た。どうしてだろう…胸のときめきが一瞬で消え失せて、つい眉が引きつってしまう。

 

「な、なに怖い顔してんの?僕、何か悪いこと言ったかな?」

「い、いえ…ごめんなさい…」

 

 こんな所で揉めたりしたら、あのお嬢様が来てまた怒られちゃう…そうしたら、次こそは退学を命じられるかもしれない。気を付けないと。だけど…この幼女と男前、いったい何者何だろうか。

 

「………………」

「っ!?」

 ぼそぼそと小さなうめき声の様なものが聞こえる。生暖かい感覚と耳元でぼそぼそと囁かれる様な感じ。慌てて後ろを振り返ると--

 目と鼻の先に、女性の顔があった。

 

「………………」

「きゃあぁぁぁっ!!!」

 

 悲鳴が出る。真っ白な肌に鮮やかな長い黒髪。それはどこか存在が薄く、おぼろげな感じ。ついさっきまで、誰もいなかったのに幽霊のように、音もなく私の後ろに現れた。

 

「お月さん、来てたんだ。こんちわーす!」

「御機嫌よう、月姫。あら、どうしたんだいお嬢さん」

「あ、あわわわ……お化け……!」

 

 私は腰を抜かしてしまい、その場に座り込んでしまった。カタカタと震えながら。

 

「あはははは!違うよぉ。もう、お月さんも新入生をびっくりさせちゃだめだよ?」

「………………」

「だからと言って背後を取るのは感心しないよ?大丈夫かい?立てる?」

「あ、ありがとうございます…」

 

 しかし、どういうこと?あの女の人、一言もしゃべってないのに、なぜか二人の会話が成立している…。本当にここはなんなんだろう…。

 

「全く……こんな場所で素っ頓狂な悲鳴が聞こえたかと思ったら……やはり貴方でしたか、羽澄咲音」

「あ、貴方は……!!」

「羽澄咲音。あれほど叱責を受けてなお、逃げずに桃園館に来たことは褒めてあげましょう。ですが、貴方はこの後の行動によっては、それを覆されるかもしれませんが」

「杏子…今日の用というのはこの子の事かい」

「はなちゃんに用事があったの?最初から言ってくれたらよかったのに」

「………………」

 

 私の周りには、一癖も二癖もある四人に目線を向けられ、なんとも言えない気分になる。ただ一つ言えるのが、おっかない、その一言だけだった。

 

「鳥姫、風姫、月姫。あなた達を呼んだのはこれからこの者。羽澄咲音の処分を下す、素問会を行うためよ」

「さ、さささ査問会!?」

「なるほどね、だから『あいあんめーでん』使うとか言ってたんだね」

「『鋼鉄の処女』?一体なにを犯したんだい?お嬢さん」

「………借りてくる………」

 

 相変わらず、あの女の人は声が聞こえないけど…確かに『借りてくる』と聞こえた。ま、まさか本当あるのか?けど、たかが制服を乱しただけでこんなことを受けなくちゃならないの!?

 

「何を馬鹿なことを言っているのですか…。羽澄咲音、いつまでもへたり込んでないでさっさと立ち上がりなさい。栄えある花宮学院の一員ともあろうものが、そんな無様な姿を曝すものではない。淑女はいつでも堂々としていなければ」

「は、はい…」

「手を貸そう。よっ…と」

「あ、ありがとうございます……」

「あーあ、スカート綺麗にしてあげるからじっとして?」

「す、すみません…」

「羽澄咲音様、お怪我はございませんか?」

「だ、大丈夫です」

 男前に助け起こされ、お子様にスカートはたいてもらい、幽霊みたいな人は身を案じてくれる。な、なんだろうか…これは…。

 

「ふふっ、入学初日に花園会の四人からエスコートを受けた学生なんて、貴方が初めてでしょうね、羽澄咲音さん」

 

 今まで険しい顔をしていたお嬢様が顔に笑みを浮かべるが、その笑みの先はいったい何を考えているのかは分からない。この桃園館の仰々しい扉の先は、地獄か天国か……。

 

「お嬢さん、君がどんな罪を犯していおうが、決して私たちに憶さず、言いたいことははっきり言うんだよ?それらを踏まえたうえで、我々が判断するのだからね?」

 

 男前の人からそう告げられる。少なくともこの人は私の味方らしいけど…私の行動次第で敵ともなりうる。最新の注意を払って査問会に臨まなければ…。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ?ほら、これあげるからリラックスして?」

 

 お子様から受け取ったものは、今時見かけることのない白と赤の渦巻きキャンディー。

 

「あ、ありがとうございます…」

「いーって、いーって!後輩を気遣うのは先輩の務めだよ?」

 

 今、信じれない言葉が聞こえた。キャンディーをもらった手前、こんなことを思うのは忍びないが今確かにお子様から『先輩』という単語が聞こえた。何を言ってるんだ?

 

「何をしているの?さっさと入りなさい」

「は、はいっ!!」

 

こうして、査問会が始まりを告げる。

 

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