花鳥風月~百合ニ恋スル姫~   作:凪音

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第伍話 査問会

 16時--。

 約束された時間10分前に桃園館の前に着く。先ほど同じように相変わらずこの扉は重苦しい雰囲気を醸し出していた。しかし、特待生だからと言って、そんなに大きな罰を犯しているわけでは……と思いたい。

 

「咲ちゃん、行くよ」

 

私の隣にいた彼女。姉の雪花は扉をノックする。まだ心の準備もしていないのに…。

 

「姉さん……そんなに慌てなくても……」

「もう10分前よ?花姫様は規則にかなり厳しい方だから……こういうところもきっちりしておかないと」

 

 取りあえず姉さんにも食事がてらに話そうと、軽く思っていて『花園会に呼び出されて、花鳥風月のお姫様から査問をされることになった』と言ったら、顔を真っ青にしてこてんと倒れてしまった。ベンチでご飯を食べていたから、騒ぎになることはなかったけど、姉さんが倒れるほどの威力がある上に重大なことだと認識した。

 

「特待生の事は、咲ちゃんが花宮に慣れてから話そうと思っていたんだけど……まさか、入学式の日に花姫様に見初められるとは…」

「いや、査問会だし見初めてるわけでは……特待生だからか目の敵にされているみたいだったし……」

「花姫様は他人にも自分にも厳しい方だからね。でも、大丈夫。お姉ちゃんがいるからね」

「そ、それは有り難いけど…」

 

 正気に戻ってからは、心配だから行くの1点張り。

 

「もし、不安だったら咲ちゃんはしゃべらなくて大丈夫。私が全部答えてあげる」

「いや、基本的に私がほとんど答えるつもりだよ。私の印象を悪くしたくはないし、何より姉さんに迷惑をかけたくない」

「咲ちゃん……」

 

 すると、ガチャ…と扉が開き風姫様の登場。

 

「はーい、お待たせ……あ、せっさんだ。こんちわ!」

「あ……ご無沙汰しております、風姫様」

「あの、どうしてもついてくるって…すみません」

「別に構わないはずだよ?咲音くんを弁護してくれるだけでポイントアップだからね」

 

 ま、数少ない…というか弁護してくれる人なんて姉さんくらいだしね。そうして、私たちは足並みをそろえて、応接室に入る。

 

「流石に時間通りね。あら、貴方は……」

「御機嫌よう、花姫様。羽澄咲音の姉、天蕗雪花です」

「いえ、それは存じていますが…あなたが来る事は予想していなかったわ」

「御機嫌よう、天蕗くん」

「ご機嫌よう、鳥姫様」

「私は絶対来ると思っていたよ。花姫様、お疲れのご様子で」

「む……来てしまったものは仕方ないわ。羽澄さんの後見人ですし丁度いいです」

 

 確かに、何だか花姫様はお疲れのご様子。やっぱり姫様も大変なんだな。

 

「その事なんですが、咲音は何も悪いことはないのです!か、彼女は何も知らなかったのです。私がちゃんと教えていなかったから……!!もし、咲音に罰をお与えになるというのなら、咲音の代わりにすべてお受けいたします!!鞭打ちでも『鋼鉄の処女』でも……!!」

「ね、姉さん……」

 

 姉さんは真面目な顔をして花姫様にそう告げる。有り難いの有り難いけど……。

 

「参ったなあ…咲音くん、彼女に説明はしていないの?」

「ほら、こんなことになるでしょう?私ってそんな独裁者みたいなのかしら……」

「せっさん落ち着いて…大丈夫だよ。多分、拷問とかないから」

 

 そこは自信を持ってもらいたい。

 

「兎に角、羽澄さんはそこにお掛けなさい。天蕗さんはこちらに」

「は、はい……」

 

 花姫様にいわれるがまま、席に着く。いよいよ始まる。私の今後の生活を決める、重要な砦。正直、入学式当日からこんな調子では、いつか命を落としてしまいそう。

 

「…………」

「月姫様、ご機嫌麗しゅう……ご挨拶が遅れ、申し訳ありません」

「…………………」

 

 月姫様が満面の笑みで、姉さんとじっと見つめている。さっきまで人形のように表情を変えぬままだったのに……随分と仲がいいよう何がする。

 

「羽澄さん、何をぼーっとしているの?」

「あ、その……すみません!!」

 

いけない。ここは査問会で、その対象は私…。何かの見物に来たんじゃないんだ。それはちゃんとしておかないと!!

 

「天蕗さん、羽澄さんは今朝もこのような調子で。偶然私の目に止まったゆえに、注意した次第です」

「申し訳ありません……この後、きつく言い聞かせます……」

「本日ここに至るまでも、何度も注意はしているのです。それと、彼女は剣術を習っているのだとか……深夜に木刀を振り回していたとの事。念には念をと思いまして、言ったほどです」

「申し訳ありません……咲音は幼い頃、母に剣術を習っていまして…ちゃんと説明しておくべきでした……」

 

 一応、その件は姉さんに説明済み。正直、特待生だから警戒されているのだと思うけどね。

 

「そうですね……ただ、彼女自身も承知しているとは思いますが……その力は人を傷つけてしまう恐れもありうる…」

「確かにそうかもしれません……ですが咲音はそんな野蛮な子ではありません。それは私が保証いたします」

「ふふっ…本当に仲が良くていいことですね。この件に関しては天蕗さんの謝罪もありましたし、不問に処します」

「ありがとうございます……すみませんでした」

 

 誠心誠意、思いを込めて謝罪する。結果的には迷惑をかけていたことに変わりはない。

 

「こら、不問なんだから謝らないの。そうじゃないと、私たちの立場がないよ

?」

「そうなんでしょうか……」

「うん、そうだよー。せっさんも来てるし、これでお開きでもいいんじゃない?」

「そうね、特待生の事は私達より、天蕗さんの説明してもらった方が、理解できるところもあるでしょうし……」

「お月さんも特に意見もないよね?」

「…………」

「お月さん?」

 

 どうしたのだろうか、何か言いたそうな感じ……でも私には聞こえないだろうしなあ…。

 

「あ、あの!申し訳ありません!!」

 

 ……き、聞こえた!!何だか顔を真っ赤に染めて、頭を下げている。もしかすると、今のがめちゃくちゃ大声なのかしら………。

 

「小百合…あなたまでぼーっとしてどうするの?らしくもない…」

「…………………………」

 

 月姫様は顔を茹蛸のように真っ赤にして、俯いてしまった。けど、その姿は可愛らしい…。

 

「杏子、天蕗くんや咲音くんの前でいじめるものじゃないよ?たぶんそういうところが怖がられる原因じゃないのかなと、私は思うよ?」

「っ…………私はただ、注意しただけです

「だって、天蕗くんは月姫の官女候補だろう?それは、冷静沈着な月姫とて、彼女に注目しちゃうさ。それに、査問会は終わったようなものじゃないか」

 

 ここは、本当にわからない事ばかり…。かんじょこうほ…姉さんは月姫様に何かを選ばれたのかな?

 

「官女っていうのはね、僕らのお仕事を手伝ったりするパートナーの事なんだよ。せっさんはお月さんに誘われたんだよね?」

「え、ええ……、まだお返事はしておりませんけど……」

 

 はあ…ま、今日が初日だし、またおいおい覚えていけばいいか。

 

「そして、官女はゆくゆくはその次の姫様になる。もしかしたら、来年の月姫様は天蕗くんになるかもね?」

「流石姉さんだね……すごいよ」

「もう咲ちゃん……私はそんな柄ではないですから…たいしたことはありません」

 

 ま、特待生の私には全く関係のない話だけどね。

 

「花園会の下で働いてくれる人々は官女のほかにも数多くいますが、姫の座は何かと忙しいし、責任も重い。なのでそう簡単には務まらない」

 

花姫様も…要はその制度のおかげで、学院の最高権力者になっているのでしょう?それは文句も言えないよね。けど、この人はお高く止まっているだけのお嬢様ではなさそう。

 

「けどねえ…一人しか選べないのが玉に瑕かな……」

「あはは、鳥ちゃんはモテモテだからねー」

「何を言ってるんだ、風姫にはかなわないよ」

 

 この二人は確かに迷うだろう。でも、姉さんが月姫様と……。まずい、いけない妄想をしてしまいそうだ……私、いよいよその世界に染まりそう……。でもたしかに、百合っぽい展開とか、連想させるなあ…。取りあえず、姉さんがもし月姫様になれば、ここでの生活も少しは楽になるのかも…。

 

「あ、あの…発言してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 

 姉さんが険しい顔つきになる。どうしたのだろうか…。

 

「あの、月姫様…此度の官女へのお誘いなのですが……」

「「「「「…………」」」」」

 

 全員が黙ってその姿を見守る。月姫様は何か言ったようだけど………

 

「申し訳ございません!あれから何日も考えてみましたが、やはり、私には恐れ多い事です!!」

「…………」

 

 姉さんが頭を下げた瞬間、この部屋の空気が一気に落ち、今にも凍り付きそうである。それはそうだ、あの全力な『ごめんなさい』

 

「…………」

 

「申し訳ありません………!」

 

 月姫様の存在感が、みるみるうちに薄くなっていくこの感じ。つらい。

 

「お月さん?泣いちゃだめだよ?えーと、ほら!アイマスク貸してあげるから」

「桂木…こういうこともあるさ。この苦い経験を今後の糧にすれば大丈夫さ」

 

鳥姫様と風姫様が、懸命に励ます中、花姫様が口を開いた。

 

「天蕗さん……何か不満があるのですか?小百合とは、入学した時からの仲でしょう?」

 

 花姫様の圧迫面接、いや脅迫が始まった。正直見てられないな……女子校って難しい。しかも、自分もその一員なのが困る。

 

「不満があるわけではありません。先ほど申し上げた通り、私は……皆様の様な器ではございません。理由はそれだけです」

「……本心で言っているのであれば、あまりにも過小評価、卑下が過ぎます。かくいう私も、貴方を指名しようと思っていましたの。でも小百合に先を越されたから遠慮していたのに--」

「その言葉、大変ありがたく思います。ですが、私よりも皆様の官女にふさわしい人物を、私はしっています!」

「えっ?」

「ぜひ、その人を皆様方に紹介したいと思っています」

 

 ここの姫様たちには気の毒だとは思うけど、確かに姉さんはこんな、権力でどうこうって人ではない。

 

「誰なのですか?その天蕗さんが官女に相応しいというほどの方は」

「はい、それは……私の自慢の妹………羽澄咲音です!!」

 

 姉さんがそう言った瞬間。まるで時でも止まったかのように静寂が訪れた。みんな当然のごとく固まったまま。それは当然、この私も固まっているのだから。

 

「何を言い出すのっ、姉さん!!??」

 

 私はまっさに怒号。怒りと驚きを隠せない。

 

「姉さん、貴方ねえ!!いったい何を考えているの!?いや、花宮に来た事を怒っているわけじゃないけどさ!!いくらんでも!!」

 

 しかし、当の本人。雪花というと涼しげな顔をしている。

 

「大丈夫だよ、咲ちゃんならできるよ♪」

「いやいやいやいや!!無理無理無理無理!!無理だって!!?」

 

 姉さんの肩をつかんで揺さぶる。さすがに手まではあげないけど、これくらいは許してほしい。

 

「姉妹といえど、この部屋での喧嘩は許しませんよ!!咲音さん!手を放しなさい!!」 

 

 血相を変えて、間に割り込んできた花姫様と目が合う、その瞬間。

 

「!?」

「えっ!?」

 

 目の前に一瞬、巫女服を着た花姫様が見えた。そして私はペタンとその場に膝をつき、倒れかけてしまう。

 

 な、なんだ今の……頭に血が昇り過ぎたかな……。

 

「さ、咲ちゃん!しっかりして!!」

「あ………ご、ごめん……大丈夫…」

 

 姉さんに助け起こされ、何とか我に帰る。

 

「と、とにかく落ち着きなさい。あなたも驚いているでしょうが、おそらく私たちも同じくらいに驚いていますから」

「そんなに驚くべきことでしょうか……?」

「い、いえ…貴方の妹さんを悪く言うつもりではありませんが、彼女は特待生ですよ?身柄を花園会に置いた方がいいかもしれないという意見まであった者を……官女だなんて……」

 

 深呼吸をしながら一息をつき、椅子に座るとぽつりと、声が聞こえた。

 

「よろしいですわ……雪花さん」

「「えっ!?」」

 

 私と花姫様は、ほぼ同時に声が重なる。

 

「私の見込んだ雪花さんの推薦のする方……私の目が確かならば、咲音さんにはキラリと光る何かがある」

「わ、私にその様な事は…買いかぶりすぎですよ」

 

 慌てて、私は否定をする。が

 

「果たしてそうかな?私もキミを見たとき、花姫と間違えたくらいだ。天蕗くんと月姫のいうこともうなずける」

「いえいえ、そんな…。それに、姉さんだって拒否できたんだから、私にも拒否権が--」

「どーかな?咲音くんが官女見習いになってくれれば、僕たちも助かるし、花園会がわざわざ監視しなくてもいいし、いっせきにちょーだよ?」

「そ、そんな……」

 

 屈指の優等生と、初日からも問題行動の特待生…そりゃ、発言権にも雲泥の差があるか…

 

「貴方たち、その口ぶりだと、全員咲音さんが気に入ったと?」

「そうだね…強いて言うなら、守るべきお嬢様を見つけたかんじかな?」

「ねえねえ、やろーよ、僕たちと一緒に」

「………………」

 

 花姫様は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「し、仕方ないですね………それほどあなた達が気に入ったのなら、咲音さんを当分の間、官女候補として花園会の監視下に置くことに異論はありません」

「は、はあああ!?ありますっ!!異論、大ありです!!」

「咲音さん、もともと貴方の査問会だという事、もう忘れてしまったのかしら?」

「くっ………こ、こんなの横暴じゃないですか!処分にしてもあまりにもひどい!!」

「ええ、寛大にもほどがある処分だわ」

「四人の官女候補なんて………。お姉ちゃん応援してるからね♪」

「姉さあああん!!貴方という人は!!」

「兎に角…これは花園会としての決定事項。命令です。それに逆らうなどありえないわ」

 

 私はだらんとうなだれる。こんなの…こんなのってないよ…。

 

「羽澄咲音、本日より貴方は官女見習いとして、この花園会に所属してもらいます。この四人の中から合意の上で結ばれるか、それとも、愛想をつかされるか…覚悟して臨みなさい」

「こんなの………絶対におかしい……」

「ふふ、ふふふっ♪」

「我らが花宮学院、花園会にようこそ!羽澄咲音くん。歓迎するよ」

「われら、生まれた日はたがえど、死すときは同年同月同日を願わん!!」

 

 なんか、かってに義姉妹の契りまで………。

 

「さてと、これから、花園会の業務や心構えをたっぷりとその体に刻み込まなければね。もう身内なのだから、一切甘い顔はしませんよ?羽澄咲音」

 

 仕方がない……ここは諦めよう……このおっかない人のもとで、どれだけやっていけるのか…。

 

「咲ちゃんなら大丈夫だよ♪」

「もう…あきれて言葉も出ない…」

「私、嬉しすぎて涙が出ちゃいそうよ」

「奇遇ね、私も涙が出ちゃった……」

 

 そして、私の波乱な花宮での生活は、もう本当に静かに過ごせなくなってしまいましたとさ。

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