どの作品も本当に大好きなので頑張っていきたいです!
『高度育成高等学校』
60万平米を越える圧倒的広さ(町1つ分相当)の学校敷地内に娯楽を含めた学生に必要な生活施設を全て取り揃え、Sシステムという点数制度を採用。
それによって手に入れたポイントは通貨の代わりとなり、あらゆるものを自由に購入することができるという通常の高校生では考えられないような自由と引き換えに外部との連絡を一切禁じられ、勝者は全てを手に入れ、敗者は全てを失う。
そんな文字通り『実力主義』の国立学校が存在した。
『国立』ということはそんな現実離れした制度を有した学校を国が認めていたということであり、『存在した』という過去形の言葉は、その学校は現在、なんらかの理由により存在していないことを意味している。
どうして学校が存在しなくなってしまったのか?
それについてはここから語っていくことにしよう。
☆高度育成高等学校・学校敷地内☆
その学校の敷地内では、現在数十名の生徒が忙しそうに広すぎるその学校の中を走り回っていた。
そんな中、1人の男子生徒が学校の廊下で女子生徒に声をかける。
「橘、状況はどうなっている?」
そう声をかけられた女子生徒は若干早足になっていた動きをすぐに止め、持っていた書類を持ち直しながらすぐに返事を返す。
「はい、やはり芳しくありません。何もかもが変わりすぎていて、情報収集、資料の作成、店舗のチェックに運営、Sシステムの完全見直し・・・ どれを取っても私たちAクラスだけでは人手が足りなさすぎます・・・」
「だろうな。こればかりは仕方がない。他の生徒が目覚めるのはいつだ?」
「あと6日と23時間・・・ちょうど一週間を切ったところです。考えただけでもゾッとします。今でこそ3-Aは会長のおかげもあって何とか指揮系統を保てていますが、この学校の生徒全員が目覚めるとなると、どれだけ混沌と化してしまうのか・・・。」
「そう悪い方にばかり考えるな。それだけ恐れているということは、同時にそいつらには恐れるだけの能力があることの裏付けにもなる。残りの一週間、最低限の社会体制、状況を説明できるだけの資料を用意し、その時に備えるんだ。」
「・・・必ず、会長のお役に立ってみせます!」
~6日後~
そんな会話があった日付から6日と23時間後、予定されていた時刻と1分1秒違わぬそのタイミングで、この学校に所属する男子生徒の1人、綾小路清隆は目を覚ました。
場所としては校舎と同じ敷地で、その校舎の地下に該当する位置になる。
通常であれば、学生寮の自分の部屋で目覚めるはずだ。
日常ではない異常だとすぐに気づいた綾小路は、自分の身の回りに目を向けた。
視界は目と鼻の先で閉ざされている・・・と思ったら、プシューという音と白煙が発生し、壁と思われた目の前の障害が消え失せた。
どうやら自分はカプセルの中で眠っていたらしい。
周りは一面真っ白、所々ガラス張りになっているようで、自分以外のカプセルも均等感覚でいくつも並んでいた。
そのどれもが同時に開いていく。
現実離れした映画のような演出だった。
自身の服装は白衣のような白い着物が1枚のみ、そんな状況を見ていると、まるでホワイトルームだと嫌でも思い出しそうになってしまう。
また、寝ていたと思われるカプセルを見ると、真っ白い色に似合わずランプが緑色に点灯しており、その近くに名前が掘ってあった。
KIYOTAKA AYANOKOUJI
恐らく造りはどれも同じで、掘ってある名前が違う、そんなところだろう。
そのカプセルを見ると、綾小路はこんな感想を抱いた。
「・・・まるで冷凍庫だな。」
そんなことを考えていると、他のカプセルからも生徒が次々と出てくる。
その面々は見知った顔ばかりだった。
平田、幸村、池、山内、須藤・・・
共通点は、自分が所属する1-Dクラスの男子生徒というところだろう。
他のクラス、学年、そして女子は別室なのだろうか?
「なーなー、なんだよこれ!なんで俺達こんな変なところで寝てたんだ?」
あちこちで無意味な質問が聞こえる。
みんな同じタイミングで同じ服装、同じ場所で目覚めたということは条件は同じだ。
誰かが都合よく事情を知っているなんてことはありえない。
頭では分かっていても一々そのことを口にしようとは思わなかった。
それぞれがカプセルから出てきて、そして現状に疑問を持ち始めた頃、そのタイミングをまるで図ったかのように放送が聞こえた。
『全校生徒に連絡します。非常に重要なお知らせが生徒会からあります。各自着替えた上で30分以内に体育館に集合してください。
なお、着替えは同室のロッカーの中に制服が入っており、貴方達がいる場所は学校庁舎内の地下3階になります。
移動についてはエレベーターを使用してください。』
なんともご丁寧な説明だった。
起きていること何もかもが現実離れしていて上手く理解が追いついていない。
しかし、そんなことを言っている余裕がないほど、自分たちが追い詰められていることに、この時は誰一人気づくことはなかった。
☆体育館☆
放送指示通りに続々と生徒が体育館に集まり始める。
ここで初めて他のクラス、学年、女子とも顔を合わせた。
綾小路の元に1人の女子生徒が向かってくる。
同じクラスであり、かつて共に学校から繰り出される試験に臨んだメンバーの1人、堀北鈴音だった。
「おはよう・・・でいいのかしら?綾小路くん。」
「堀北か・・・詳しくは分からないが、確認する方法がない以上それでいいんじゃないか?体育館の時計を見れば午前10時、休日ならおはようでも問題ない時間帯だ。」
「今の私たちの現状、通常と違う点が多すぎて何から話をしたらいいのか分かったものではないわね。学校の試験とは何かが違うみたいだけれど。」
「そうだな。まあ、まずは生徒会の話とやらを聞いてからでもいいだろう。最低限の情報すらなければそもそも判断のしようがない。」
それについては堀北も同意なのか、会話はそこで終わる。
しばらくして生徒が揃うと、ステージにはこの学校の生徒会長である堀北学が姿を見せた。
この会長、先程話した鈴音の実兄である。
また、会長の隣には先程校内放送をし、現生徒会の書記を務める生徒橘茜が書類を持って立っていた。
会長は全員に座るよう指示を出すと説明を始めていく。
しかし、その説明の第一声は狂言としかとれないような言葉だった。
「お前たちにはこれから一度絶望してもらう。そして絶望から立ち直り、この学校・・・いや、我々のために力を貸してもらうことになる。」
ぽかーん
あまりに突拍子もない言葉に誰も突っ込むことができない。
だがそんなことは分かっていると、特に気にした様子もなく会長は話を続けた。
「まず始めに、今までの常識は全て捨て、頭をからっぽにして話を聞いてもらいたい。理解できなくてもその都度質問を投げず、各クラスに戻ってからよく話し合って理解しあってもらいたい。そのための時間は用意する。」
「単刀直入に言って、私たちが知っている日常は滅びた。地球でいう地上は滅び、人間は住めない状態になっている。今お前たちがいるこの場所は、建物の施設などはそのままだが、その位置は地下。地上に存在していたこの学園を国が全ての財力を注ぎ、信じられない先端技術を駆使し、学園の敷地ごと地下へと引っ越しさせた。つまり、今ここは外の世界と切り離され、隔離された一つの国のような状態となっている。」
そんな謎の言葉を発した後、生徒会長による1時間を越える講和が続く。
書記の橘は話が始まる前にきちんと資料を配ることを忘れない。
話の要点をまとめると、現在、自分たちの置かれている状況はこうだという。
・今は150年後の世界であること。
・同じ学校の敷地内ではあるが、ここは地上ではなく地下深くに位置していること。
・地上は既に生物が生活できない状態に滅んでおり、地下に移住せざるを得なかったこと。
・地下に移った記憶がなく、つい最近まで地上世界で普通に暮らしていた記憶があるのは、コールドスリープという技術により150年間身体を冷凍保存されていたからであり、目覚めた場所はその冷凍保存に使用されたカプセルであること。
・この地下世界のことをジオフロントと呼ぶこと。
・このジオフロント内にはこの学校に在籍している生徒しかおらず、教員、従業員は一切存在しないため、人口は全校生徒とイコールである480人程度であること。
・現在は備蓄されている電気、水道、ガスを利用して生活を賄っている状況であり、このまま行けば、近いうちに電気と食料がすぐに底を尽きること。
・これらの情報を生徒会が持っているのは、150年前、教員達が自分たちに資料を残してくれていたこと、3-Aクラスだけが混乱を避けるため先に目覚める設定になっており、今日この日まで資料の内容が真実かどうか、裏付け捜査を行っていたこと。
・つまり、この信じられない話全てが真実であること。
・以上の理由から、今までは数々の試験等で敵対しあっていたものの、これからは全校生徒の力を合わせて困難を乗り切って欲しいこと。
この10点であった。
「とはいえ、こんな有り得ない状況を飲み込めというのも、今まで対立してきた生徒達に急に協力体制を結べというのが難しいことは当然我々も分かっている。・・・橘。」
「はい。」
そう呼ばれると橘は他の生徒会メンバーに指示し、1枚のポスターをステージに貼り付けさせた。
「今後は大きな混乱が想定されます。そのため、我々生徒会が中心となり、新たな制度を設けることとしました。」
そのポスターにはデカデカと円卓会議という文字が書かれていた。
「生徒会メンバーの他、生徒会長が各クラスのメンバーを選定し、リーダー、サブリーダーの2名を任命します。そして、任命された各メンバーを含めた総勢30名程度を集め定期的に会議を開きます。その組織の名前が円卓会議です。メンバーについては理由を持って選定されているため、原則としてメンバーの変更は行いません。また、選ばれた人からも、そうでない人からも、メンバーの選定理由については一切質問を受け付けません。」
「やってくれたな・・・」
1年Dクラスの生徒、綾小路清隆はそう小さく呟いた。
円卓会議のメンバーの選定を行ったのは十中八九生徒会長の堀北学だ。
そして、円卓会議に選ばれた1年生のメンバーはこうである。
Aクラス
リーダー 坂柳有栖
サブリーダー 葛城康平
Bクラス
リーダー 一之瀬帆波
サブリーダー 神崎隆二
Cクラス
リーダー 龍園翔
サブリーダー 椎名ひより
Dクラス
リーダー 平田洋介
サブリーダー 綾小路清隆
どのクラスにおいても、リーダー、サブリーダーともに誰もが納得のいく強力なメンバーばかりだ。
綾小路は、ほかのどんな生徒をも圧倒できるほどの学力、運動能力、戦闘能力、そして、それらの能力を使いこなすことのできる頭脳を持ち合わせているが、本人は事なかれ主義を自称しており、自らの能力を表に出すことをせずに隠している。
しかし、この状況下で自分の名前を入れられてしまえば、その事実を知らない大半の生徒から疑念を抱かれるのは明白である。
今のうちに何か言い訳を考えておかなければ、と綾小路は考えた。
どうやら、環境が激変したところで、現状の彼にスタンスを変えるつもりはないようだ。
長時間に渡る全校集会は、新たな組織、円卓会議のメンバー発表とともに終了した。
これから、各クラスに戻り自由時間となる。
自由時間と言っても、特別遊んだりするわけではない。
いきなり150年経ちました、今までは対立していたけどこれからは仲良くしましょうと言われたところで、全校生徒全員が『分かりました。』なんて頷くはずもない。
冷静に考えればもう二度と地上の校外に出ることはできないし、家族や友人も当然死んでいる。
文明だって、学校の敷地内には当時のものが残っているが、ここを出ることがあった時、そこには自分達の知っている食や言語、化学などの文化が存在しているとは限らない。
150年経った、これまでの世界の歴史を振り返ってみてもある地点からある地点まで、150年飛ばしてみると、どの時代でも環境は激変していることが分かる。
そんな未知が急に自分たちに降りかかってきたわけだ。状況を理解することがてできない生徒、信じられない生徒、そして動揺する生徒が大半、いや、程度の大小を含めれば全員がそうだろう。
各クラスのリーダー的な生徒が中心となり、今日1日は現状の把握をすることになるようだ。
Dクラスに戻ると、早速円卓会議の1年Dクラスリーダーに選ばれた平田が教壇の前に立ち、少しでも生徒達の疑問と不安を解消できるように行動を起こしていた。
自分も全く同じ状況だというのに流石だと言わざるを得ない。
「・・・とまあ、改めて生徒会長が体育館でしてくれた話をできるだけ噛み砕いておさらいしたつもりなんだけど、分からなかった人はいる?」
「平田のおかげで何とか意味は理解できたけどよぉ、やっぱここは150年後ですって言われても信じられねぇって。」
「他のクラスと協力しろっ言うのも意味わかんねえよな。」
平田の質問に対し、池、そして山内が愚痴をこぼす。
「正直僕もまだ半信半疑だよ。でもこのままじゃいけないのは上級生も分かってるはずだから、きっと会議を中心に情報が回ってくるはず。そのときは、包み隠さずみんなに伝えるって僕は約束するよ。それと、みんなの携帯に3年Aクラスが事前に調べてくれたデータが送信されているみたいだから、少しでも状況を知りたい人は読んでおくといいかもしれない。」
平田はそう説明し終えると、後は自由にと一言言って教壇を降りた。
不安がる女子達が一斉に平田に群がっていく。
さて、不本意ながらも円卓会議会議に選ばれてしまったため、少し平田と打ち合わせをしたかったが、残念ながらそれは無理そうだな。
そう考えていると、隣人から鋭い視線が突き刺さる。
隣の席の堀北鈴音だ。
「納得行かないんだけど。」
開口一番これである。
自分が円卓会議に選ばれず、俺が選ばれたことに対する不満と言ったところだろう。
こちらとしても、なりたくてなったわけではない。
原則としてメンバーの変更はできないという一言さえなければ今すぐ変わっているくらいだ。
「代われるならすぐにでもお願いしたいところなんだけどな・・・」
「分かっているわ。おそらく円卓会議のメンバーを決めたのは兄さんだもの。私の実力を認めてくれていないのだし、ひいきと取られる可能性を潰したと思えば納得はしているわ。」
なんだ、納得しているじゃないか、と一瞬思うも、堀北はすぐに続ける。
「私が納得していないのは、私が選ばれなかったのは仕方がないと思うけど、どうしてもう1人が貴方なの?ということよ。」
「そんなこと俺が知るはずもない。とにかく、俺は今までと同じようにスタンスを変えるつもりはない、質問された場合は、掘北の言ったとおり、ひいきと取られる可能性を危惧した生徒会長が、堀北の使いっ走りである俺を選んだ、ということにしておくから口裏合わせを頼む。強いて言うなら、堀北の命令を忠実にこなしている部分と、足の速さを買われた、とでも言っておけばいい。」
「どうして私が協力しないといけないのかしら?」
「言っただろ、スタンスを変えるつもりはないと。環境が激変して、将来も分からない、授業やSシステムなど、今までの学校の規則や秩序がほとんど機能しない以上、これから問題は確実に起こる。そういうときに必要があれば裏から手を貸す。それについてのスタンスも変えるつもりはないってことだ。あくまで、お前が協力してくれるなら・・・だけどな。」
そう綾小路は答える。
過去の揉め事や特別試験において、綾小路の本当の実力の片鱗を見せられている掘北。
納得行くかどうかはさておき、損得で考えればここで綾小路を切り離すのは論外である。
「・・・色々と腹が立つ部分があるけれど、まあいいわ。今後も貴方の隠れ蓑になれ、ということね。」
とりあえず、堀北との最低限の約束は取り付けることができた。
円卓会議は明日の朝開催されるらしい。
Dクラスでは、学校が終わる時間帯とほぼ同じ、午後4時頃までの間、クラス内で話し合いや雑談、状況整理、そして携帯に送信されていた3年Aクラスが調べたと思われる現在分かっている状況なんかの確認をすることで1日を終えた。
激変した環境の中、臨機応変に、そして早期に対応できた者だけが圧倒的アドバンテージを稼ぐことができるという現状。
綾小路清隆は果たしてどう動くのか、そして生徒会や円卓会議のメンバーたちはどう動いていくのか。
彼らの新たな・・・いや、第2の人生が今、幕を開ける!!