ようこそ実力至上主義のジオフロントへ   作:Chelia

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第1回円卓会議

翌朝、時刻は午前8時20分

綾小路は校舎の会議室の前に赴いていた。

心なしか、閉ざされたその扉は以前よりも重みを増して見える。

昨日話のあった『円卓会議』という新組織の初めての会議は今日この場所で行われる。

非常に不本意ではあるが、メンバーに選ばれてしまった以上理由を言わずに参加しなければ何を言われるか分かったものではないし、坂柳とあんな約束をしてしまったため出ないわけにもいかない。

はぁ…と軽くため息をつきつつ、扉が開くのを待っていた。

 

「おはよう、綾小路くん。」

 

そう声をかけてきたのは同じDクラスであり、Dの円卓会議リーダーでもある平田洋介だ。

 

平田洋介

勉強、スポーツ万能な上、クラスのまとめ役を買って出たり、誰かが困っていれば嫌な顔一つぜずに親身になって相談に乗るなど、聖人君子のような性格をしており、男子、女子ともにDクラス内で絶大な信頼を誇る男。

前回話したように、軽井沢と付き合っているフリをしているのも彼である。

円卓会議のリーダーに選ばれることについても誰もが納得できるほどの才能を有しており、入学当初はなぜDクラスなのかと疑問を持った生徒も少なくなかっただろう。

彼がDクラスに配属となった理由は過去にあるようだが、今その話は語る必要はないだろう。

 

「おはよう。」

 

普段どおり感情を表に出さず…というかそんな顔しかできないんだが。

平田に挨拶を返すとにこりを笑顔を向けてきた。

 

「昨日はメールありがとう。僕の方はいろんな子から相談が殺到しちゃってね。正直会議に出るための情報収集とか全然できてなかったし、綾小路くんが提案してくれて助かったよ。」

 

「俺もそんなつもりはなかったんだが、たまたまそれについて、とある人物と話す機会があってな。本人に確認を取ってないからプライバシーもあって今は名前は出せないが、今日の会議の内容はおおよそ見当がつく。今日は受け身で問題ない内容になると思うから、そんなに心配しなくていいと思うぞ。」

 

「こんな状況だからこそ、君が味方についてくれて心強いよ。何か困ったこととか、僕の力が必要なときは遠慮せずに言ってね。」

 

「ああ、そのときはよろしく頼む。」

 

そんな話をしていると、昨日の少女が声をかけてきた。

 

「おはようございます。綾小路くん、平田くん。」

 

銀髪の美少女、坂柳有栖である。

その後ろには、Aクラスのサブリーダーである葛城康平もいた。

 

葛城康平

元々Aクラスは内部で2つに分裂しており、坂柳派、葛城派の2つに割れていた。

攻撃的な戦略と取る坂柳派に対し、手堅く堅実な手を打つ保守的な葛城派。

過去の特別試験などで葛城派は大きく失脚しているため、坂柳派が優勢だ、という話までは聞いたことがある。

150年経った今もそうなのかは分からないが、葛城についても優秀な男であることには間違いない。

 

「おはよう坂柳さん。直接話したことはあまりなかったと思うけど、坂柳さんの方から話しかけてくれるなんて嬉しいよ。これからは同じ円卓会議のメンバーとして味方同士になるし、改めてよろしくね。」

 

「こちらこそよろしくお願いします。少しでも皆さんの不安を解消し、元通り…いいえ、もっと良い生活を皆さんができるように頑張りましょう。」

 

昨日自分にした話とは真逆のことを平然と言う坂柳。

本人を目の前にして堂々というその口ぶりからはかなりの大胆さが伺われる。

自分も人のことは言えないが、よくもまあこんなに堂々と嘘をつけるもんだ、と綾小路は思った。

 

「それと、お2人に1つ予言しましょう。今日の会議に上級生は来ませんよ。おそらく、進行役に生徒会メンバーが2人加わり、1年生を含めた10名になるでしょうね。」

 

「どうしてそう思ったの?」

 

素直にそう聞き返す平田。

この会話については、おそらく綾小路へのアピールだろう。

自分は優秀だ、だから組んでほしいというところか。

もちろんこの程度は予想がついている。

最初から全学年を交えて話し合いを行えば、そこには仮初めの平等すら存在しないわけだからな。

 

「円卓会議の総勢は約30名います。まだ私達は目覚めて1日しか経っていないわけですし、そんなメンバーが30人集まっていきなり話し合いを行えば、円滑に進行するとはとても思えません。」

 

1クラスあたりの人数は約40人。

多少人数は違うものの、学校のクラスで話し合いを行うときに、40人の生徒が一斉に喋りだしたらどうなるだろうか?

混沌と化し、とても会議どころではなくなるだろう。

特に今回の場合はクラスも学年もバラバラ。

しかし、1人1人はそれぞれ皆優秀で、しかも様々な性格の生徒が集まる。

数多くの良い案や情報を引き出すには、最初にうちは分割したほうが効率が良い。

 

「他にも理由はありますが、それはこの後の会議を終えれば、理解できると思いますよ。」

 

坂柳の説明が終わったところで会議室の扉が開かれた。

Aクラス、Dクラスの生徒はそれぞれ入室し、少し遅れてBクラス、最後にCクラスの生徒が入室した。

坂柳の予言通り、円形の卓に1年生8名の生徒が座り、その奥には3年生で生徒会長である堀北学と、同じく3年生で生徒会書紀の橘茜が座っていた。

 

「ではこれより、第1回、1年による円卓会議を始める。疑問は多々あるだろうが、それは議論中にぶつけてもらいたい。今回は初回のため、進行は私が、そして橘がアシストに入る。」

 

「はいはーい!早速質問です!この会議は同時進行なんですか?それとも順番が決められているのでしょうか?」

 

椅子から立ち上がり、そう質問をしたのはBクラスのリーダーである一之瀬帆波だ。

 

「会議は順番に行われる。この会議は一番最初、次に2年、3年と行い、午前中には全ての会議が終了する。可能な限り早急に結果をまとめ、円卓会議の生徒に配布、次に全体公開可能な情報については、こちらから既に送っているような方法で、各携帯電話に情報として送信する予定だ。」

 

ありがとうございます、と一言お礼をいい、進行の邪魔をしないように一之瀬はすぐに席に座り黙る。

 

「では早速議題の方だが…」

 

「おいおい、待てよ。」

 

掘北会長が話を進めようとすると、今度はCクラスのリーダーである龍園翔が会話を遮る。

1年生だけでもここまで円滑に進まない。

もし、メンバー全員での会議が初回と考えるとぞっとする。

 

龍園翔

高度育成高等学校の中でもかなり異端な部類に入り、非常に攻撃的な生徒。

過去にCクラスを支配していたと言っても過言ではない。

逆らう者は全て力でねじ伏せ、クラス全体を強制的に自分に従えさせたほどの能力を持つ男だ。

その感覚の鋭さからDクラスを陰で操っている人物の正体が綾小路であると暴いたこともあるが、その際、綾小路に大敗したという過去も持っており、本人は退学しなかったものの、積極的に表に出ることはなくなった。

しかし、協力なんて言葉を嫌う彼にしてみれば、強制的に前に出された上、自分たちに協力しろなんて話をされて納得できるわけもない。

文句が出るのも当然だった。

 

「さも当然のように話を進めるんじゃねえよ。この俺がてめえらに協力するようなギリもなければ、この場に来なきゃいけない義務もない。協力する気なんか一切ないぜ?それとも、従わなければいけない法律でもあんのか?」

 

「逆に言うが、今このジオフロントには『法律』というものがそもそも存在していない。私達以外の全人類が滅んだとするならば、今までの法律を律儀に守る必要はないと考える生徒も少なくないはずだ。だからこそ、この会議内で高度育成高等学校というジオフロントに一定の秩序を作り、それを守らせることも検討しなければならない。」

 

「はん?何様だてめえ。他の人間がいなくなったことで、自分を国家元首か何かと勘違いしてねえか?」

 

「そう言いつつこの場に顔を出したということは、お前もここで手に入る情報を欲しているということだ。無理に協力したり、意見を出せとは言わん。だが、この場に出席しないことは認めない。お前の言うとおり、誰もが我々を認めないというのであればこの組織は成立しない。だからこそ、円卓会議なしではそのジオフロントは存続できないという一定の力を誇示する必要がある。そのためにお前をメンバーに加えた。そうでなければ、わざわざ反対してくるのが分かっている生徒を、この私がメンバーに加えると思うか?」

 

勝手に出しゃばって偉そうにするなと主張する龍園に対し、激変した環境下ではそれをまとめ、導く組織が必要だと主張する掘北会長。

一見すると緊迫する状況下ではあるが、さすが各クラスから選ばれた代表とでも言うべきか、この状況で動揺している生徒は1人もいない。

そして、葛城が口を挟んだ。

 

「いい加減にしないか龍園。その話は平行線だ。私は誰かがまとめる必要があるという生徒会長の意見に賛同する。何か代案を出すのなら話は別だが、現状のお前の主張はただの文句でしかない。他に生徒会長の意見に賛同する生徒は挙手してもらいたい。」

 

他のクラスの代表たちもぞろぞろと手を挙げていく。

対立しているという噂の坂柳もためらいなく挙手し、龍園と同じCクラスのサブリーダーである椎名ひよりも含め、龍園以外の全員が挙手した。

 

「ふはは、そうかっかすんなよ葛城。どのみちこれ以上言うつもりはねえよ。この程度でうろたえるようなら情報をもらいに来る価値すらないって判断材料にするつもりだっただけさ。」

 

龍園は笑いながら着席する。

以前の龍園であれば、この場にそもそも来ないか、退室するくらいの勢いであっただろう。

少なからず、綾小路に敗北したことが響いているのかもしれない。

 

「こちらからは事前に伝えられる情報は昨日体育館で話した内容、それと、各自の携帯電話に送ってあるデータで全てだ。それ以外の情報については今後解明していかなければならない。今後円卓会議のメンバーを中心に生徒がどう動くべきなのか、大まかな方針についてはこちらから指示するので、具体的な内容はこの後話し合ってほしい。」

 

既に決められている内容なのか、書紀の橘が全員にペーパーを渡す。

現状、最もまずいのは生徒が自暴自棄になり、暴走してしまうことだ。

それを防ぐための方策として最も現実的であり、実行可能なことは『やることを作ること』である。

ノルマなどがあればなお良い。

状況を受け入れることができず、法律も存在せず、お金の価値観もバラバラ。

そんな状況で何もやることがないとなれば、問題が生じるのは必然と言える。

円卓会議で行うべきものの第一優先は、このジオフロントに『社会』を構築することである。

ルールを決め、生徒1人1人が仕事や勉学に励み、余暇を過ごす。

そんな今まで行われていた当たり前の生活を取り戻すことが大切だろう。

 

橘が配ったペーパーの記載にあった内容は以下のとおりである。

 

今後円卓会議を進めるにあたり、それぞれの役目を大きく学年ごとに分ける。

 

3年生…過去資料の解読及びジオフロントの詳細解明

2年生…ジオフロント内の環境整備及び経済の活性化

1年生…生徒同士の良好な関係の醸成

 

記載はこのようになっていた。

ではまず、3年生について見ていこう。

ペーパーによると、この学校の図書室には、150年前に国や先生方が残してくれた、このジオフロントや地上などに関する膨大な資料が保管されており、機密文書になることから、今現在図書室は立ち入りを一切禁止している状態にある。

最低限の情報のみ入手し、昨日発表したような状況にあるが、時間も人員も足りておらず、また最低限の食料や日用品の確保などにも追われていたため、ほとんど資料の解明ができていない。

そのため、全校生徒が目覚めた今、その作業に専念し、少しでも多くの情報を得るとともに、真相解明に努めていくという内容のようだ。

 

次に2年生

2年生は、ジオフロント内の施設の再起動が主な仕事になる。

今現在、従業員がいなくなってしまったため、全ての店舗が閉店している状況だ。

これを1つでも多く動かすことができれば、ジオフロント内の環境整備に貢献することができ、生徒たちの生活も豊かになる。

衣食住を確保するためにも、それらの店舗中心に人員を派遣し、店の再開をすること。

また、それにつき従来のSシステムの大幅改善も必要となるため、クラスポイントの完全廃止、プライベートポイントについては、過去のデータをそのまま引き継ぐなどは既に決まっているようだが、今後のプライベートポイントの入手方法、販売品の物価の

調整等も行っていかなければならないようだ。

今までの学校では救済措置として無料のものも置かれていたようだが、現状でそんなものが存在することはありえない。

2年生のトップが彼である以上なおさらの話だが、それについては今は説明不要だろう。

 

最後に1年生

1年生は上級生と違い、そもそも学年内や学年を越えて協力し合うことに慣れていない。

今までの試験や特別試験等は、各クラスが対立して戦うものがほとんどであった。

そんな特殊な学校の性質上、クラス内はともかく、クラス同士となると敵対心を持って接するのが当たり前という状況だった。

今後、全校生徒が1つにまとまらなければならない以上、まずはその環境を改善しなければならない。

 

「ふふっ…」

 

ペーパーを読み終えた後、小さな笑い声が聞こえる。

 

「坂柳か、何かおかしなことでもあったか?」

 

「いいえ、ご不快に思われたのであれば謝罪します。しかし、ここまで私の予想通りだとは思っていなかったもので。皆さんも読み終えたようですし、ここはAクラス代表として、少しお話させていただきましょう。」

 

坂柳が笑った理由。

それは、生徒会長をバカにしたわけではない。

綾小路を自分の手中に収められることを確信した、勝利から来る笑いだった。

 

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